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魔王の最終形態です

 レッドドラゴンの体内で瞑想を始めてどれほどの時間が過ぎただろうか。


 突然土の匂いが消えたと思ったら、内臓が浮くような感覚に襲われた。


 まるで空から落ちてるみたいだ。


 きっと本当に落ちてるんだろう。


 目を閉じていてもそれくらいのことはわかる。


 それでも俺は平静を保ち続けた。


 ミロさんと約束したからな。


 なにがあっても瞑想をやめないってさ。



 ズンッ!!!!



 土の匂いが復活した。


 なんか空気が薄くなった気がするな。湿っぽいし、まるで土に刺さってるみたいだ。


 とはいえ瞑想できないわけじゃない。


 これも妨害工作だろうし、はりきって瞑想を続けるとするか!



「アッシュ、アッシュ!」



 ん? この声、ノワールさんか? いつも淡々としかしゃべらないのに、声を張り上げるなんて珍しいな。


 これも妨害か? だとすると、かなり演技力が上がってるけど……



「無事なら返事をしてほしいわ! 返事ができないなら、足をバタバタさせてほしいわ!」



 ……どうも様子が変だ。


 なんていうか、演技にしては必死さがある。



「これは妨害じゃないわ! 信じてほしいわ……!」



 信じるもなにも、こんなに必死なノワールさんははじめてだ。


 それなりに長い付き合いだし、声を聞いただけでただごとじゃないことがわかる。



「どうしたんだ? ……ああ、なるほど」



 ふぅっと息を吹いてロケットみたいに地上へ飛び出した俺は……だいたいのことを理解した。


 10本腕の赤騎士が、目の前に佇んでいたのだ。



「ミロたち、《赤き帝王レッド・ロード》とかいう魔王に襲われた! 死にかけた!」



 ミロさんが四つん這いの姿勢で言う。


 きっと魔力を使い果たして立っていることすらできなくなったのだろう。レッドドラゴンが消滅したのも、魔力を使い切ってしまったからだ。


 グラーフの森もほとんど焦土になってるし、本当に魔王が襲ってきたというわけか。


 まったく、こいつら何体いるんだ? 倒しても倒してもきりがないぞ。


 移動中に襲ってくるならまだしも、修行の邪魔だけはやめてほしい。



『グハハハハッ! そうか、貴様が《黒き帝王ブラック・ロード》と《白き帝王ホワイト・ロード》を葬ったニンゲンかッ!』



 ゆっさゆっさと腕を揺らしつつ、魔王が嗤う。


「そうだ。あいつらを倒したのは俺だ。今度はお前の番だ。まあ、その前にいろいろと話をさせてもらうがな」


 魔王があと何体いるか把握しておきたかったのだ。大勢いるなら、まとめてかかってきてほしい。じゃないとまた修行の妨害をされそうだ。


 邪魔をされるくらいなら俺のほうから倒しに行きたいけど、魔王の住まいはこことは違う世界だしな。どれだけ身体を鍛えても、異世界への道を切り開くことはできないのだ。


 いまの俺には目の前の魔王を倒すことしかできないのである。



「話すのだめ! 急いで倒したほうがいい! そいつ変身する!」



 変身?


「って、魔王がですか?」


 合体する魔王には心当たりがあるけど、変身するのははじめてだ。


 俺が興味を示すと、ミロさんはこくこくうなずいた。


「魔王、あと3回変身できる! 見た目、変わる! 力、強くなる! 世界、滅ぶ!」


 見た目が変わるのを知ってるってことは、魔王は変身済みってことだよな。


 てことは、いまの魔王は第二形態ってわけだ。


 第三形態、第四形態、最終形態がどんな姿になるか、まったく想像がつかない。


 禍々しい姿になるのだろうか、気味の悪い姿になるのだろうか、シンプルな姿になるのだろうか、大きくなったりするのだろうか――



 最終形態の魔王を見て、俺は驚いてしまうだろうか?



 精神力を鍛え抜いたミロさんが取り乱すくらいだし、俺が驚いてもおかしくない。


 つまり最終形態になった魔王を目にすることで、俺は精神力を鍛えることができるのだ!


「すみません、ミロさん。俺、こいつが変身した姿を見てみたいです!」


「な、なに言ってる!? いま倒さないでいつ倒す!?」


「最終形態になってから倒します!」


「魔王、第二形態で超強い! 最終形態、もっと強くなる! アッシュ、勝てるかどうかわからない!」


 ミロさんがいまのうちに倒すよう勧めてくる。


 ミロさんは、俺を弟子にしてくれた――俺のためにオリジナルの訓練メニューを考えてくれたのだ。


 ミロさんのお願いなら、なんでも聞きたいと思っている。


 だけど――



「勝てるかどうかわからないからこそ、俺は最終形態の魔王と戦いたいんです!」



 だけど、これだけは譲れない。


 俺は強敵との戦いを望んでいるのだ。過去登場した魔王はワンパンで、あるいはワンパンに至る前に粉々になってしまったけど、今回は違う。


 今回の魔王は、たった1回変身しただけで格段に強くなるのだ。


 そんな変身を、あと3回も残している。


 最終形態になった魔王は、想像を絶する強さになるだろう。


 いまだかつてないほどの強敵になるのは目に見えている。


 世界の平和を守るなら、ミロさんの言う通りいまのうちに倒したほうがいい。



 でも、いま倒したんじゃ俺の望みは果たされない。



 なぜなら真の強者と戦うことで――苦戦の果てに勝利を掴み取ることで、俺の精神力は飛躍的な成長を遂げるのだから!


 ピンチはチャンス! 


 逆境は成功への糧! 


 危機的状況を乗り越えてこそ、心は強くなるのである!



「俺、魔王を倒します! 必ず倒してみせます! そして大魔法使いになってみせます!」



 世界の平和と俺の夢――。


 俺はその二つを同時に手に入れようとしているのだ。


 自分勝手かもしれない。


 わがままかもしれない。


 だけど、これだけは譲れないのである!



「……わかった。ミロ、アッシュを信じる!」



 俺の熱意が伝わったのか、ミロさんは凜とした顔でうなずいた。



「私は、なにがあっても貴方のそばにいるわ。逃げも隠れもしないわ。ここで戦いを見届けるわ」



 ミロさんとノワールさんは、俺と心中する覚悟のようだ。


 俺の手に、ふたりの命がかかっている。


 いや、ふたりだけじゃない。


 この戦いには大勢の命が――世界の命運がかかっているのだ!



「さあ――変身してみせろ!!」



 みんなのためにも、夢のためにも――俺は世界最強になった魔王を倒してみせる!



『ニンゲン風情がいい気になりおって! 魔王を葬って自分が強いと思いこんでおるようだが、我とあやつらとでは格が違うのだ! ゆえに我と貴様とでは強さの次元が違うのだ! 愚かなるニンゲンよ、それでも我の最終形態を望むか!』



「そうだ! 俺に最終形態を見せてみろ! いままでの魔王とは違うってことを俺に思い知らせてみろ!」



『貴様ごときを葬るのに最終形態を見せるまでもない! 我がその気になれば勝負は一瞬で決するのだからなァ! だが、一瞬で終わらせてしまっては貴様に褒美をくれてやることができぬ!』



「褒美だと?」



『いかにも! 我は貴様に褒美をくれてやりたいと思っておったのだ! 魔王の面汚しを葬った貴様に、絶望という名の褒美をなァ!! グハハハハ! 我の最終形態を前にして絶望する貴様の顔が目に浮かぶわ! 変身した我を目にしたとき、貴様は自身の非力さを思い知るであろう! 変身した我を目にしたとき、貴様は自身の愚かさを思い知るであろう! さあ、刮目するがよい! これが森羅万象を統べる世界最強の魔王――《赤き帝王》の第三形態であるッ!!』




 ニョキッ!!




『グハハハハッ! 力が! 力が漲ってくるわッ! 貴様も感じるであろう、我が力を! 存分に思い知ったであろう、力量の差を! だが、後悔したとてもう遅い! どうあがこうと貴様は死ぬ運命さだめにあるのだ! なぜなら貴様はこの我を敵にまわしてしまったのだからなァ! さあ、絶望の果てに散るがよい! 刮目せよ! これが万物の頂点に君臨する世界最強の魔王――《赤き帝王》の第四形態であるッ!!』




 ニョキッ!!




『ギャハハハハッ! この力ッ! 圧倒的なこの力ッ! 第四形態の我に敵う者なしッ! 我が殺意、ありとあらゆる生命体を滅ぼすまで消えはせぬ! ゆえに命乞いは無意味と知れッ! 今日この日、世界は赤く染まるのだ! 祝うがよい、真の魔王の誕生を! 呪うがよい、我を侮った愚かさを! 刮目せよ! これが魔王の頂点に君臨する魔王――《赤き帝王》の真の姿! 最終形態であるッ!!』




 ニョキッ!!





「全部腕じゃねえか!!」





 パァァァァァァン!!!!!!





 正拳突きすると、大量の腕とともに魔王が弾け飛んだ。



 なんで腕しか生やさねえんだよ!


 使い道がわかんねえよ!


 せめてパワーアップしろよ!



 そう叫びたくなったが……これも修行の成果だろう。俺はすぐに落ち着きを取り戻したのであった。



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