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魔王は弱くありません

「なぜ魔王がいる!?」


 ミロが戸惑っている。精神力を鍛えたとはいえ、魔王を前にして平常心を保つことはできないようだ。


 一方、これまで様々な魔王を見てきたノワールは平常心を保てていた。


 そんなノワールを見て、《赤き帝王レッド・ロード》を名乗る魔王は愉快そうに嗤う。


『クックック! あの忌々しい小娘に似た魂の波動を見つけ、こうして遥々来てみれば――やはり貴様であったか、《氷の帝王アイス・ロード》よ!』


「私は《氷の帝王》じゃないわ」


『クックック。とぼけるつもりか。よかろう! ならばヴァルハラへと連行し、貴様を拷問にかけてくれるわッ!』


「連行なんて嫌だわ」


『貴様に選択肢などないわッ! なぜなら貴様は《赤き帝王》と対峙しておるのだからなァ! 我と対峙した以上、貴様はヴァルハラへと連行される運命さだめにあるのだ!』


「運命は覆せるわ。だって、真っ白な魔王は同じことを言って真っ二つになったもの」


『魂の波動を感じぬとは思っておったが、葬られてしまったか。しょせんは過去に戻るしか能のない魔王ッ! 奇異なる力に溺れ、我のように戦闘力を磨かぬから葬られてしまうのだ!』


「次は貴方が真っ二つになる番よ」


『クックック! 貴様、まさか我があやつより弱いと思っておるのか? あやつの序列は《時間遡行タイムアタック》があってこそ! 純粋な戦闘力は我のほうが遙かに上だ!』



 ドンッ!!



 と、土塊が魔王を押し潰した。



「弱い奴ほどよく吠える! ノワール、安心するといい! 魔王、ミロが倒した! ぺちゃんこにして……」



 じゅわっ!!



 蒸発するような音を立て、土塊が跡形もなく消滅した。


 無傷の魔王を見て、ミロはあとずさる。


「ノワール!? 魔王、どれくらい強い!? ミロでも倒せる!?」


「わからないわ。だから応援を呼ぶわ。それまで時間を稼いでほしいわ」


「ミロ、頑張る!」


 ミロがルーンを描くと、100体以上のマンティコアが生み出された。


 魔王に突進をしかけるも、その鎧に触れることなく消えていく。きっと魔王は透明なシールドを纏っているのだ。


「お願い、出て……!」


 消されていくマンティコアを横目に、ノワールはアッシュに電話をかけた。


 だが、アッシュは電話に出ない。


 瞑想中なのだ!


 そこでノワールは次なる人物に電話をかけることにした。


 数回のコール音のあと、懐かしい声が聞こえてくる。



『もしもし? ノワールさんから電話なんて珍しいっすね! どうしたんすか?』



 アッシュの一番弟子にしてノワールの友達――エファだ。


「魔王に襲われたわ。瞬間移動で助けに来てほしいわ」


『えっ? 魔王っすか!? でも魔王は師匠が倒したっすよね?』


「魔王はいっぱいいるわ」


『いっぱいいるんすか!? あっ、でも師匠が一緒なら安心じゃないっすか?』


「アッシュはレッドドラゴンに食べられたわ」


『えっ? 師匠、食べられちゃったんすか……?』


「いまはエファしか頼れるひとがいないわ」


 フェルミナも友達だが、ノワールの携帯電話に登録されている人物のなかで、瞬間移動が使えるのはエファしかいないのだ。


『いまどこにいるんすか!? 瞬間移動は一度訪れたことのある場所にしか行けないんすよ!?』


「初耳だわ。私はグラーフの森にいるわ」


『行ったことがないっす! で、でも急いで向かうっす! ノワールさんはなんとかして生き延びてほしいっす!』


 わかったわ、とノワールがうなずいたところ、ミロの悲鳴が聞こえる。



「ノワール、まだ!? ミロの魔力、あとわずか! 魔物、全滅した! 新たに生み出せない!」



 ノワールは魔法杖ウィザーズロッドを構える。


「あとは私がやるわ。貴女はアッシュを連れ戻してほしいわ」


「できたらやってる! ミロ、それができないから戦ってる!」


「……なぜできないのかしら?」


「レッドドラゴン、遙か上空にいる! しばらく戻ってこない! 新たな命令、近くにいないとできない!」


「それなら自力で生き延びてみせるわ!」


 ノワールは特大の氷槍アイスランスを次々と放つが、そのすべてが魔王に届く前に消滅してしまった。


『無駄だ! 我はこれまでのあらゆる戦において、ただの一度も傷を負ったことがないのだ! 無傷ゆえの無敗! 無敗ゆえの最強! 最強ゆえの魔王! 貴様ごときの攻撃が、真の魔王たるこの我に通じるわけがなかろうがッ!』



 ドンッ!!



 と、土塊が再び魔王を押し潰した。


「ノワール、いまのうちに逃げるといい! ミロ、魔力使い果たした! 一歩も動けない!」


「貴女をおいていけないわ。だって、貴女はアッシュに協力してくれたもの。アッシュの恩人は、私の恩人でもあるわ」


 ノワールはミロの腕を引っ張り、森のなかに逃げようとする。


 だが、3歳児の身体では大人のミロを引っ張ることなどできなかった。


『貴様ら、この我と対峙して逃げきれるとでも思っておるのか?』


「できるわ! だって、貴方の防御魔法シールドは近づかなければ怖くないもの!」


『笑止! 貴様が防御魔法と思っておるのは魔法などではない! ただの体温だ!!』


「!? た、体温……」「ミロの魔物、体温に負けた……!?」


 ミロとノワールの全力は、魔王の体温に負けていた――全身全霊の攻撃は、鎧の内側から漏れる熱気に消し去られていた。


 つまるところ魔王は――なにもしないをしていたのである!


 絶望的な顔をするノワールたちを見て、魔王は嗤う。


『クックック! ニンゲンの絶望する顔は何度見ても愉快ではないか! 特に《氷の帝王》よ! 貴様の絶望は格別だ! 久方ぶりに面白いものを見させてもらった! 我を愉しませた褒美だ。特別に面白いものを見せてやろうではないかッ! 我の――第二形態をなァ!!』



 ニョキッ!!



 突如として魔王の身体から8本の腕が飛び出してきた。


 肩に2本、脇腹に2本、胸に2本、背中に2本の腕――その指先は大砲のような筒状になっている。あそこから熱風が噴射されるのだとすると、魔王は圧倒的な破壊力と推進力を同時に手にしたことになる。


 考えるまでもない。


 この勝負、ノワールの負けだ。



『グハハハハッ! こうなった以上貴様らの勝ちは万に一つもなくなった! なぜなら我は変身魔法トランスフォームを使ったのだからなァ! 我の体温は通常時の倍以上に高まっておる! 戦闘力は変身前とは比べものにならぬのだ!!』



 ズッドォォォォォォン!!!!



 脅しのつもりだろうか。紅き閃光とともに放たれた熱風が周辺の木々を消し飛ばしてしまった。


 一瞬にして、グラーフの森のほとんどが焦土と化してしまったのだ!



『グハハハハッ! 我としたことが力んでしまったわ! 久方ぶりの変身なのでな! 気分が高揚しておるのだ! ヴァルハラへ連行せねばならぬが、勢いあまって殺してしまうかもしれぬなッ!』



 変身したことで気性が荒くなるばかりか、遠距離かつ大規模な攻撃が可能になった。


 ノワールたちに逃げ場はなくなったのだ。


「……終わりだわ」


 ノワールは心の底から絶望する。



 アッシュが次々と倒すため、心のどこかで『魔王って弱いんじゃ?』と思うようになっていた。



 だが、違ったのだ。



 魔王が弱いのではない。



 アッシュが、あまりにも強すぎたのだ。



「私は、貴方には勝てないわ。だけど、貴方はアッシュには勝てないわ。真っ白な魔王みたいに、真っ二つにされるのがオチよ」



『グハハハハ! なにを言うかと思えば愚かなことを! 我がニンゲン風情に負けるわけがなかろうが! 否! ニンゲンだけではない! 誰が相手だろうと我の負けは万に一つもありえぬのだ! 我こそが世界最強の魔王なのだ!』



 なぜなら、と魔王は嗤う。




『なぜなら我は――あと3回も変身を残しておるのだからなァ!!』




 ズンッ!!!!




 と、家の近くに『なにか』が落ちてきた。



 その『なにか』を見て、ノワールは思わず笑みを浮かべる。



 頭から大地に叩きつけられたのだろう――




 アッシュの下半身が、地面から生えていたのだ。


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