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土人形はしゃべりません

 ライン王国の首都ラーミナをあとにして1週間が過ぎたこの日、俺たちはジャングルを歩いていた。


 グラーフの森である。


 この森に来て3時間くらい経つけど、ノワールさんに疲れは見えない。武者修行の旅を通してたくましくなったようだ。


 ノワールさんが体力を手に入れたように、俺は魔力を手に入れる。そのためにも、まずはミロさんに会わないとな!


「こっちであってるんだよね?」 


「近いわ。あとちょっとよ」


 ノワールさんのナビゲート通りに進んでいると、視界が開けた。


 うっそうと茂る木々のなか、煉瓦造りの家がぽつんと佇んでいる。


「赤点はあそこにあるわ」


「いよいよか……」


 魔物が家を建てるとは思えないし、あそこに住んでる強者はミロさんと見ていいだろう。


「ノワールさんがノックしてくれない?」


 ドアに背を向け、ノワールさんにお願いする。目の前で師匠の家が吹き飛ぶ光景が、頭のなかでフラッシュバックしたのだ。


 深呼吸で半壊するってことは、ノックだと全壊してもおかしくないしな。もちろん力加減には気をつけるけど、万が一ということもあるのだ。


「頼りにされて嬉しいわ。だって、頼りっぱなしは嫌だもの。もっと私を頼りにしてもいいと思うわ」


 ノワールさんはきりっとした顔で言う。


 今日のノワールさん、3歳児なのに大人びて見えるな。武者修行で精神力が鍛えられたのは俺だけじゃないってことか。


「じゃ、頼むよ」


 ノワールさんは自信満々にうなずき、凜とした顔でドアをノックする。



「何者だ!」



 うしろから怒声が響いた。


 振り向くと、ワイルドな格好をした女性がいた。コウモリのような翼を持つ、ライオンのような魔物――マンティコアに跨がり、こっちを睨みつけている。


「もうノックしたくないわ。だって、怒られるもの」


 ノワールさんが悲しそうにしがみついてきた。自分のノックが下手すぎて怒鳴られたと勘違いしたらしい。


「お手本みたいなノックだったよ」


 なだめつつ、女性にたずねる。


「あなたがミロさんですか?」


「そうだ! ミロはミロだ! お前は……ん?」


 マンティコアから降りたミロさんは俺に顔を近づけ、まじまじと見つめてくる。


 近眼なのかな? そんなふうに思っていると、ミロさんはぱあっと顔を明るくさせた。



「おおっ! ミロ、お前知ってる! アッシュだ! 違うか?」



 初対面だけど、ミロさんは俺のことを知っていた。きっと『魔王放送』を見たのだろう。


「はい。俺はアッシュです」


「やっぱりアッシュだ! アッシュがなぜここにいる?」


 不思議そうに首を傾げるミロさんに、俺は事情を説明した。



「――というわけで、修行をつけてほしいんです。だめでしょうか?」



 俺の力が武闘家由来であること、俺の夢が大魔法使いになることであること、そのためにミロさんのもとで修行をしたいこと――


 それらを伝えると、ミロさんはにこりと笑う。



「だめじゃない。ミロ、頼られるの大好き! アッシュに修行、つげてあげる!」



 おお!



「しかもミロ、魔力を高める方法知ってる! アッシュを強くする自信ある!」



 おおっ! 



「大船に乗ったつもりでいるといい!」



 おおおっ!


 この強気な発言……! これは期待せずにはいられないな!


「だけど修行はご飯のあと。ミロ、お腹ぺこぺこ。アッシュも一緒に食べる?」


「食べるわ」


「お前、アッシュと違う」


「私はノワールだわ」


「ミロ、ノワール知らない。だけどミロ、子ども大好き! 食べてもいいよ」


「食べるわ」


 嬉しそうなノワールさんに、ミロさんはほっこりとした顔をする。ほんとに子どもが好きなんだろう。


 出会ったばかりの俺たちにここまで親切にしてくれるなんて……友好的な性格っていうのは本当のことらしい。


 とにかくトントン拍子に話がまとまり、俺は安堵する。そうしてホッとしたところ、ひとつ疑問が浮上した。



「ところで、そのマンティコアはペットですか?」



 魔物をペットにするなんて聞いたことがない。なにせ魔物は人間に懐かないからな。


「これ、魔物と違う。ミロが創った乗り物」


「ミロさんが……創った?」


 って、どういう意味だ? そのままの意味で捉えていいのか?



「ミロ、田舎で生まれた。そこに同い年の友達いなかった。だから友達創ることにした。だけどミロの友達、土っぽかった」



 土っぽくない友達を創るため、ミロさんは修行に励んだらしい。


 その結果として、どこからどう見ても人間な土人形を生み出せるようになったのだとか。


「でも人間は見当たりませんよね?」


「ミロ、友達と楽しくおしゃべりするのが夢だった。だけど土人形、しゃべらない。ミロ、むなしくなった」


 だから最初からしゃべらない魔物を創ることにしたってわけか。


「町に行けば、友達を作ることもできたんじゃないですか?」


「ミロ、友達の作り方知らない。距離感がわからない。昔、この森に同い年の女が来た。ミロ、仲良くなろうと思ってもてなした。その女、次の日いなくなった」


 それってティコさんのことだよな。


 ティコさんは他人に干渉されるのが苦手らしいし、きっとミロさんの距離感が悪い意味で働いたんだろう。



 と、マンティコアが森のなかに駆けこんでいった。



「あれって、逃げたんじゃないですよね?」


 ミロさんの魔物は本物か偽物か見分けがつかないほど精巧なのだ。本物ではないため結界のなかに入ることもできるし、そうなれば町はパニックだ。


「ミロの魔物、森の外に出られない。人間も襲わない。魔物しか襲わない。ミロがそう命令してる。だけど昔、命令を忘れて逃げられたことがある。ミロ、すぐに追いかけて土に戻した」


 それってプリミラさんが言ってたレッドドラゴンのことか? だとすると《土の帝王アース・ロード》のように独自の魔法を編み出したわけじゃないってことか。


 まあ、だとしてもミロさんが大魔法使いであることに変わりはないけどな。


 なにせミロさんのレッドドラゴンは、魔法騎士団の総攻撃をものともしなかったのだ。


 そんな魔物を創れるなんて、ミロさんの魔力は尋常じゃない。


 どういう修行をしたのか気になるし、ぜひとも同じ修行をしたい!


 ティコさんのもとで魔力を高めてカマイタチをマスターしたように、ミロさんのもとで修行をして新たな風魔法をマスターするのだ!


「ミロ、お腹ぺこぺこ。ご飯にする。おしゃべりしながら食べるの、すごく楽しみ! いっぱい話しかけてくれると嬉しい」


「俺もミロさんといろいろ話してみたいです!」


 ためになる話とか、いっぱい聞けそうだしな!


「そんなこと言ってくれたの、アッシュがはじめて! ミロ、アッシュ好き! 今日は人生最高の日!」


 そうして会話と修行にわくわくしつつ、俺たちは家に入るのだった。



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