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それです

 プリミラさんに招待されて城を訪れたあと。


「まあっ、では魔王は大勢いたのですね!?」

「次から次に現れましたよ」


 国王様から歓迎の挨拶を受けた俺は応接間に通され、プリミラさんから質問攻めにあっていた。


「魔王って、みんなガイコツみたいな見た目ですの?」


「なかにはトリみたいなのもいましたよ」


「まあっ、トリですの!? その魔王は、どのような魔法を使いますの……?」


「魔法っていうか、それぞれ特技を持ってましたね。世界一硬いとか、世界一速いとか。それこそトリは世界一熱い魔王を自称してましたし」


「世界一熱いですの!? そんな魔王を、アッシュ様はどうやって倒しましたの?」


「くしゃみです」


「くしゃみで倒したんですの!? 魔王を倒すくらいですし、強いとは思っておりましたが、予想以上ですわ……」


「でも、俺が思い描いてる強さとは違いますからね。だから修行してるんです。いまもミロさんっていう魔法使いに弟子入りしようと思ってるところですし」


「まあっ、ミロ様にお会いするんですのっ?」


「知ってるんですか?」


「もちろんですわっ。アッシュ様が世界の英雄なら、ミロ様は我が国の英雄ですもの!」


 話によると5年前、この町の近くにレッドドラゴンが現れたらしい。そいつは通常のそれ以上に強かったらしく、騎士団の攻撃は通じなかったのだとか。


 そんなとき颯爽と現れたのが、ミロさんだ。瞬時にレッドドラゴンを土にすると、見返りも求めずに立ち去ってしまったのだとか。


「レッドドラゴンを土に……」


 俺の脳裏に《土の帝王アース・ロード》がよぎる。


 あいつも触れたものを土にする魔法を使ってたけど、そんな魔法は魔法書には載ってないのだ。


 つまりミロさんは独自にルーンを編み出したということになる。


 そんな歴史に名を残してもおかしくない魔法使いに修行をつけてもらうことができれば、俺は間違いなく強くなれる!


 新たな魔法をマスターできるかもしれないのだ!


「その話を聞いて、ますますミロさんに会ってみたくなりま……って、こぼしてるこぼしてる!」


 ノワールさんがぼろぼろと食べかすをこぼしていた。ほっぺたも汚れてるし……ほんと、俺以上に3歳児になりきってるな。


「ふふっ」


 と、プリミラさんが笑みをこぼした。


「どうしたんですか?」


「アッシュ様が思っていた通りの方で、なんだかおかしかったのですわ。ほんとうに優しい声をしてますし、ノワール様にも慕われているようですし……もう一度アッシュ様のお顔を、今度はこの目で見てみたいですわ」


『魔王放送』は直接頭のなかに映像を送る魔法なので、目が見えなくても《虹の帝王レインボー・ロード》との戦いを観戦することはできたのだ。


「その目は生まれつきなんですか?」


「いえ、目が見えなくなったのは3年ほど前……わたくしが14になったばかりの頃ですわ。アッシュ様は、ウォーキングモスという魔物をご存じですの?」


「はい、知ってますよ」


 ウォーキングモスは全長30㎝くらいの歩く毒蛾だ。


 その鱗粉を目に浴びると、最悪の場合は視力を失ってしまうのだ。


 プリミラさんは護衛と一緒に町の外へ出かけた際、ウォーキングモスの鱗粉を目に浴びてしまったらしい。


 その日を境に視力が落ちていき、ついに見えなくなってしまったのだとか。



「でもそれって、特効薬がありますよね?」



 視力を回復させる薬はいくつかある。そのなかにウォーキングモスの毒専用の目薬があったはずだ。


「アッシュ様は物知りですのね。確かに特効薬はありますが……残念ながら、その薬はもう手に入りませんの。なにせ素材がありませんもの」


 特効薬に必要な素材って……確か『ベビーマンドラの根』『フラワースライムの葉』『ホリネスフラワーの花びら』だったっけ?


「ひとつも手に入らなかったんですか?」


「ベビーマンドラの根とフラワースライムの葉は手に入ったのですが……お父様が世界中のお知り合いにかけあっても、ホリネスフラワーだけは手に入らなかったのですわ」


 つまり、ホリネスフラワーは絶滅してるってことか。


「その花って、どういう見た目なんですか?」


 コロンさんは一流の薬師だ。それに長生きだし、ホリネスフラワーを持っていてもおかしくない。あるいは、特効薬そのものを持ってるかもしれない。


「ドロシー。あの本を持ってきてくださいな」


「かしこまりました」


 侍女のドロシーさんは廊下に出る。


 しばらくして、古びた植物図鑑を持って戻ってきた。


 図鑑を開き、とある花を指さす。


「こちらがホリネスフラワーです」


 そこには真っ白な花が描かれていた。それはまるで雪の結晶のように美しく……って。


「……ん?」


 これ、どこかで見たことがあるぞ?


「あのさ、ノワールさん。これって氷の洞窟で採った花に似てない?」


「この花のことかしら?」


 ノワールさんはお出かけ用のポーチから花を取り出した。


「そう、それ」


 見れば見るほど図鑑の花とそっくりだ。


 ドロシーさんも同じことを思ったようで、



「確かに似てますね。まるでホリネスフラワー…………って、それです!! それがホリネスフラワーですよ!? ええ!? なんで持ってるんですか!?」



 と、盛大に戸惑っている。


 そりゃそうだ。なにせ絶滅したはずのホリネスフラワーが、ノワールさんのポーチから出てきたわけだしな。


「えっ? ホリネスフラワーが見つかったんですの!?」


「はい! なぜかアッシュ様が持っていたのですよ! よかったですね、プリミラ様! これで特効薬ができますよ!」


 自分のことのように喜ぶドロシーさんに、プリミラさんは不安げな顔を向ける。


「で、ですが、ホリネスフラワーはアッシュ様のものではありませんの?」


 採ったのは俺だけど、この花はノワールさんのものだ。


「これ、あげてもいい?」


「あげてもいいわ。だって、美味しいお菓子をもらったもの」


 いろんなものに興味を持つようになったけど、なんだかんだ甘いもののほうが好きらしい。


「というわけで、この花はプリミラさんに譲ります」


「ほ、ほんとうによろしいんですの!?」


「もちろんです。俺たちが持ってても、使い道がありませんからね」


「あ、あのっ! 私、国王様にお知らせしてきますね!」


 ドロシーさんが慌ただしく部屋をあとにする。


 ややあって、勢いよくドアが開かれた。



「ホリネスフラワーが見つかったというのは本当かね!?」



 国王様だ。


「ええっ、お父様! アッシュ様とノワール様が譲ってくださいましたの!」


「おぉっ! 確かにこれはホリネスフラワーだ……! ほ、本当にいただいてもよろしいのですか?」


「ぜひ使ってください」


「あ、ありがとうございます! まさか娘の目が治る日が来るとは……本当に、なんとお礼を言えばよいか……」


「いえ、ほんとに気にしないでください。たまたま氷の洞窟で見つけただけですから」


 ただの偶然でここまで感謝されると、ちょっと申し訳なくなってくる。


「なんと、氷の洞窟を通ったのですか!? あそこにはホワイトウルフの群れが棲息していると聞いていたのですが……」


「ホワイトウルフならアッシュが息を吹いて倒したわ」


「呼吸で撃退したのですか!? ……我々はここにいても平気なのでしょうか?」


 ため息で家を吹き飛ばした俺が言うのもなんだけど、さすがにそれくらいのコントロールはできる。


「それより、早く調合したほうがいいんじゃないですか?」


 先日まではカチカチに凍っていたけど、すでに枯れつつあるのだ。


 特効薬に必要なのは絞り汁だし、干からびる前に調合したほうがいい。


「そ、そうですね! では私はこれで! アッシュ様とノワール様はごゆっくりおくつろぎください! 娘の治療が終わりましたら、あらためてお礼をさせていただきますので!」


 国王様は慌ただしく応接間をあとにした。


「たくさん食べたら眠くなってしまったわ」


 ノワールさんはマイペースだ。俺はなにもご馳走になってないけど、どう考えても食事をする雰囲気じゃないよな、これ。


 これからさらに慌ただしくなるだろうし、プリミラさんには治療が待っている。朝食はそのへんで食べるとするか。


「じゃ、俺はそろそろ失礼しますね」

 

 ノワールさんを抱えて言うと、プリミラさんが名残惜しそうな顔をする。


「アッシュ様は、いつまでこの町に滞在されるのですか?」


「祭りが終わるまでですね」


 祭りは明日の昼から夜にかけて催されるっぽいし、出発するのは明後日の朝になりそうだ。


「明後日ですか……。でしたら間に合いませんわね。アッシュ様とノワール様のお顔を、この目で見たかったのですが……」


 視力が元通りになるには、1週間ほどかかるのだ。


「二度と来ないわけじゃありませんし、なんだったら来年の祭りにも参加しますよ」


 俺の言葉で、プリミラさんは笑顔を取り戻す。


「でしたら、アッシュ様さえよろしければ、来年はわたくしと一緒にお祭りを見てほしいですわっ」 


「いいですよ。まあ、そのときはノワールさんを見て驚くことになると思いますけどね」


 来年の今頃は4歳児とは思えない見た目になってるわけだしな。


 そうしてプリミラさんに別れを告げた俺たちは城をあとにした。



 グラーフの森に向けて出発したのは、その翌々日のことだった。



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