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時をかける魔王です

 深い森のなかにある、ひらけた場所――。


 その上空に、真っ白な鎧武者こと《白き帝王ホワイト・ロード》が浮かんでいた。


 正しくは思念体ドッペルゲンガーだが、違いらしい違いはない。


『フォッフォッフォ。まさかニンゲン風情を葬るのに《時間遡行タイムアタック》を使うことになるとはのぅ』


 最後にこの魔法を使ったのはいつだったか。少なくとも遙か昔に《黒き帝王ブラック・ロード》の自信を喪失させ、同胞に迎え入れた際は使わなかった。なぜなら使うまでもなかったからだ。


 逆に言うと《時間遡行》を使わざるを得ないほど、あのニンゲンは――《氷の帝王アイス・ロード》いわく『アッシュ』とかいう魔法使いは危険人物だったわけだが……


 しかし、この時代ではその限りではない。


 一度の使用に途方もない魔力を消耗し、さらにコントロールが難しいため細かい時間設定ができないのが玉に瑕だが――



 だとしても、この魔法が無敵であることに変わりはない。



 魔力の消耗が激しいとはいえ、ニンゲンの一生分を遡ったところでたかが知れている。


 なにより過去に戻れば標的は弱者になっているのだ。


 失うものより得るもののほうが遙かに多い魔法――それが《時間遡行》なのである。


 まさに無敵! まさに最強! ゆえに魔王!


 世界で唯一あらゆる時代に君臨できる《白き帝王》こそが世界最強の魔王なのである!!



「じゃあ修行してくるね、師匠!」



 勝利を確信していたところ、幼い声が響き渡った。


 ひらけた場所に佇んでいる木造の小屋から、子どもが飛び出してきたのだ。 


 魂の波動からして、あの子どもがアッシュで間違いない。



「気をつけるのじゃぞ! なにかあったら、すぐに戻ってくるのじゃからな!」



 アッシュの師匠だろうか。いかにも魔法使いといった格好の老人が小屋から出てきた。


「だいじょうぶだよ! どんな魔物が現れても、師匠直伝の《風刀カマイタチ》で一撃さ!」


「じゃがアッシュよ、油断してはならんのじゃ。この森には、それはそれは怖ろしい魔物がうろついておるのじゃからなぁ!」


 怖がらせるような口調だったが、アッシュは喜んでいる様子だ。


「そんな魔物がいるの!? じゃあ、そいつを倒したら魔法杖ウィザーズロッドを買ってくれる!?」


「い、いや、その魔物は真の強者の前にしか姿を現さぬからのぅ。アッシュの前にはまだ現れぬと思うのじゃ」


「そっか……それってどんな魔物なの? 俺、図鑑で調べてみるよ!」


「い、いや、図鑑には載ってないのじゃ!」


「そんな魔物がいるの!?」


「うむ! この世界には未知の魔物が数多く棲息しておるのじゃよ! そやつらといつ出くわしてもいいように、いまはとにかく身体を鍛えて鍛えて鍛えまくるのじゃ! 魔法杖を買うのはそのあとじゃ!」


「わかったよ、師匠! 俺、身体を鍛える! そしてなるんだ、師匠みたいな立派な魔法使いに!」


 その言葉に、なぜか老人が苦しそうに胸を押さえた。


「ど、どうしたの師匠!? 胸なんか押さえて……身体が悪いの?」


 慌てて駆け寄るアッシュに、老人は首を振る。


「な、なんでもないのじゃ。……じゃが、わしは元気じゃが、アッシュは違うじゃろ? なにせ昨日までの3週間、飲まず食わずで修行をしておったのじゃからな。身体中ぼろぼろじゃったし、疲れておるじゃろ?」


「寝たら全快したよ!」


「そ、そうか、寝たら全快したか。ほんと、なんていうか……すごいのぅ」


「師匠のおかげさ!」


「う、うむ。じゃが……ちょうど薪が減ってきたし、今日のところはウォーキングウッドを倒すくらいにしておくのじゃ」


「わかった! じゃあ行ってくるね!」


「うむ! 気をつけるのじゃぞ!」


 手を振る老人に別れを告げ、アッシュはうっそうと茂る木々のなかへ駆けこんでいく。



『さあ――お主の歴史を、いまわしの手で空白に染めてやるのじゃ』



 嗤いつつ、森のなかへ着地する。探知魔法サーチを使うと、どうやらアッシュは500メートルほど離れたところにいるようだ。


『フォッフォッフォ。さて、どう戯れてくれようか。せっかく《時間遡行》を使ったのじゃ。ただ葬るだけではつまらぬし、まずはじっくり恐怖に歪む顔を堪能するとしようかのぅ』


 ふいに身体が切り裂かれれば、アッシュはパニック状態に陥るだろう。そう考えた《白き帝王》は透明魔法インビジブルで姿を消した。


 再び探知魔法を使うと、アッシュは場所を変えていなかった。


 先ほどは全快したと言っていたが、強がっていただけだろう。動きまわることができないくらい疲れているのだ。


 だからといってニンゲンにくれてやる慈悲などない。むしろ動けないのは好都合だ。おかげでじっくりといたぶることができる。


『お主が動けぬのであれば、わしのほうから会いに行ってやるのじゃ。感謝するがよいぞ』


 四肢が裂け、臓物が飛び散り、恐怖と激痛に泣きじゃくるアッシュの顔を想像しながら歩みを進め――


 大樹の向こうにアッシュを見つけたその瞬間。



 ふいに土が盛り上がり、目の前の大樹がうぞうぞと動き――




「俺はここだ!」『愉快な愉快な殺戮遊戯の幕開けじゃ!』




 スパァァァァン!!!!




 風切り音とともに思念体は真っ二つになり、煙のように消えたのだった。


魔王視点の3話(大魔法使いに拾われました)でした。

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