間に合いました
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日が暮れる前に家をあとにしたこともあり、日が昇る頃にはエルシュタット王国に到着した。
試験開始までまだ時間があるため、どこかで飯でも食おうかと思ったが、俺は空腹状態のほうが集中できる体質だ。
それに飯を食うと試験中に眠くなるかもしれないため、そのままの足取りで試験会場に向かうことにした。
試験場はエルシュタット王国の首都、エルシュタニアにある王立エルシュタット魔法学院の広場にて開催される――と師匠に聞かされていた。
エルシュタット魔法学院は、魔法使いなら誰もが憧れる場所。いわば聖地だ。
エルシュタニアを訪れたのははじめてだが、魔法使いに憧れている俺は当然のように学院の場所を知っていた。
そうして迷うことなく試験会場にやってきたところ……すでに大勢のひとで賑わっていた。
まあ、受験者は多くて当然だよな。
なにせここは世界最高峰の教育機関――エルシュタット魔法学院なんだからさ。
……にしても、暇だな。
ちょっと急ぎすぎたかもしれない。
試験開始までまだ時間があるし、そのへんを散歩してこようかな。
広場の向こうにそびえる城のような校舎を眺め、そんなことを考えていると――
「このなかに、アッシュ・アークヴァルドはいるか!」
と、俺の名を呼ぶ声がした。
いったい誰が呼んだんだろう?
あたりを見まわしてみるが、ひとが多すぎて誰が呼んだのかわからない。
「ここにいますー!」
俺は手を上げて存在をアピールした。
近くにいた受験者たちがじろじろと俺を見てくるが、先ほど俺の名前を呼んだひとには気づいてもらえなかったようだ。
まあ、こんだけひとがいたんじゃ無理ないか。
そう思い、俺は跳躍することにした。
もちろん軽くジャンプするだけだ。
思いきりやってしまうと、雲を突き抜けてしまうからな。
「俺がアッシュ・アークヴァルドです!!」
五〇メートルほどジャンプして叫び、着地する。
普通なら骨折じゃすまないだろうが、俺にとってはこのくらいの衝撃なんてことないのだった。
「えっ、いまルーン描いてた……?」
「魔法杖を使ったようには見えなかったけど……」
「もしかして、頭のなかでルーンを描いたとか……?」
「理論上はできないことはないかもしれないけど……前例はないよね?」
受験者たちがひそひそとささやいている。
みんなにとってはすごいことをしたのかもしれないが、俺にとってはみんなのほうがすごいと思う。
だって、魔法を使えるんだからな。
ともあれ、さっきのジャンプで存在に気づいてもらえたようだ。
試験監督と思しき男が、俺のもとへやってきた。
「きみがアッシュくんだね。きみを別室に案内するように、フィリップ学院長に言われてるんだ。向こうにある建物で待っててくれるかい? 『第二試験会場』って看板が立ってるから、行けばわかるよ」
試験監督は落ち着いた様子で、広場の向こうを指さした。
「わかりました」
俺はさっそく広場の向こうにあるドーム状の建物へと向かう。
「えっ。さっきのジャンプ、魔法杖を使わずにやったのかい!?」
うしろからそんな声が聞こえたが、誰が言ったのかはわからなかった。
◆
ドーム状の建物に入ると、なかは円形闘技場のようになっていた。
すり鉢状の構造になっており、広場のまわりを客席が取り囲んでいる。
客席にはひとっこひとりいなかったが、闘技場の中央にはひとりの老人が佇んでいた。
見るからに武闘家っぽい見た目をした、筋骨隆々の老人だ。
長い髪は白く染まっているものの、老人とは思えないほどの若々しい体つきをしていた。
上半身は裸で、鍛え上げられた筋肉を惜しげもなく晒している。
世が世なら、ボディビルダーとして活躍していたかもしれないな。
そんなことを思っていると、
「おおーい、こっちこっち!」
と、老人が手招きしてきた。
言われるがままに階段を下り、老人のもとへ向かう。
「きみがアッシュくんかね?」
「そうですけど……あなたは?」
「私はこの学院の学院長――フィリップ・ヴァルミリオンだよ」
「見た目逆じゃねえか!!」
思わずつっこんでしまった。
師匠と見た目が逆なのだ。
仮に師匠がフィリップ学院長のような見た目だったら、俺は初見で武闘家だと見抜いていただろう。
「ほっほっほ。初対面の人間に『見た目逆じゃねえか』と言われたのははじめてじゃよ」
フィリップ学院長は朗らかに笑う。
失礼なことを言ってしまったというのに、なんて心の広いひとなんだ。
こんなひとのもとで学べるなら、きっと……いや、必ず立派な魔法使いになれるはずだ!
そんなふうに考えていると、フィリップ学院長が俺に頭を下げてきた。
「きみのことはモーリスから聞いているよ。私たち勇者一行がしとめそこねた《闇の帝王》を倒してくれたそうじゃないか。なんてお礼を言ったらいいやら……」
「あ、頭を上げてください! たいしたことはしていませんよ! ザコでしたから!」
まさか国王様に頭を下げられるとは思わなかった。
俺が慌ててそう言うと、フィリップ学院長は気まずそうな顔をした。
「まあ我々人類は、そのザコに滅ぼされかけたんだけどね……」
「で、でも滅ぼされなかったじゃないですか! それもこれも、学院長や師匠が命懸けで魔王と戦ってくれたおかげですよ! 学院長たちがいなかったら、俺の親だって殺されてたかもしれないし、そうしたら俺は生まれていませんでした! そういう意味では、学院長は俺の命の恩人だし、世界を救ったと言っても過言ではないんですよ!」
「モーリスが育てたとは思えないくらい良くできた子だね……」
「ありがとうございます! 俺、フィリップ学院長のもとで魔法の勉強をしたいんです!」
俺はここぞとばかりに自己アピールをする。
「しかし、きみには魔力がないのだろう?」
「魔力は気合いで手に入れます!」
学院長はあっけにとられたように目をぱちくりさせたあと、朗らかに笑う。
「性格は全然違うが、そういう熱血なところはモーリスそっくりだね。きみなら、本当に不可能を可能にしてしまうかもしれないな」
「はい! 全力で頑張ります!」
「うむうむ。――しかし、魔法使いへの道は険しいよ? 魔力測定は合格ということにしておいたが、実技試験を突破できるかはきみの実力しだいだ」
「それも気合いでなんとかします!」
「うむうむ。……まあぶっちゃけ、魔王をワンパンで倒したきみなら余裕で合格できるだろうけどね。とはいえ、きみの場合、大変なのはそのあとだよ。なにせ、魔力がないんだからね。……まあ、なにか困ったことがあれば遠慮なく言いなさい。私にできることなら、力になってあげるからね。とにかく、きみの活躍を期待しているよ」
「は、はいっ。ありがとうございます!」
あの大魔法使いフィリップ・ヴァルミリオンにここまで評価されて、嬉しくないわけがない。
俺は感涙しそうになるのを我慢しつつ、実技試験が始まるのを待つのであった。
次話は明日の18時頃更新予定です!