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Pain  作者: 廣瀬 るな
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第十八話 障害

 結局あれからもう一度俺の部屋で愛し合った。

 ソファで寄り添いながら幸せを噛みしめ。そのくせまだ足りないと欲望に目覚めた俺の躯が反応していた。それでも無理をさせたくなくないとベッドに彼女を寝かせ、見つめているだけの俺を彼女が誘った。

 

 避妊無しのセックスなんて、俺も今回が初めてだった。その感触は、勇利と瞳を交わし合う事のようだった。快感だけが全てじゃない。分かり合う事。

 でも、こんなに気持ちのいい事で子供ができるなんて、と驚き、同時にこの素晴らしさが命を育むっていう事の不思議さと言うか、神秘のようなものを感じ、生きているって事は上手くできている、そう思った。


 俺は4月に25になる。実質7年の歳の差だ。下手すると淫行条例すれすれだった。

 仮にもモラルを守らなければいけない仕事につきながら、何をやっているんだろうと思わない訳じゃない。

 しかし、愛しているって事はこういう事なんだと心の中でピースがはまるような気がした。


 彼女とつき合う為に越えなければいけない幾つかの障害があった。それは基の事だけじゃない。多分勇利は気づいていないが、俺には思う所が有った。それは絵里子さんの事だ。あの母親は勇利の幸せを望んでいない、そんな気がしていた。そうでなければ何故年ごろの娘が着飾りもせず、髪も短く、男の子の様に過ごすだろうか。それは勇利のセンス以外の何かが有ったはずだ。勇利は母親を大切にしている。それに疑う事を知らない。でも、彼女を守りたいと思う俺には確信に近い何かが有った。

 あの親は子供を愛してはいない。

 何となく俺は勇利の母親には嫌われている気がしていた。それはお互い様で、俺自身彼女を嫌悪していた部分が有る。だからそう思ってしまうのかもしれない。

 近い将来、勇利は彼女から離れる。それを予期した母親の態度が心配だった。あの親は娘が幸せになる事を許さない、そんな気がしたんだ。 

 勇利と基の別れ話しには干渉しないと心に決めた。半年、一年経とうがそれが二人の為だと思う。

 その代わり、俺は母親に対する盾になりたいと思う。

「絵里子さんに挨拶に行く。」

そう提案したときの勇利は少し照れた様に頷いた。


 同時に、今基にこの関係がバレる訳にはいかなかった。俺は彼女に服を着る様に促し、まだ俺の香りの残るリビングの空気を入れ替えた。それからシーツをはぎ、他の洗濯物と一緒に洗濯機を回す。

 俺との新しい展開に彼女は気持ちを囚われていて、そんな俺の姑息な振る舞いには気づかす、ただ素直に言う事を聞いてくれた。


 匂いを誤摩化す為にコーヒーを入れていると、彼女は背中にすり寄って来て、

「兄貴。」

って小さな声で俺を呼んだ。

 抱き合っている時には何度も俺の事を

“ 肇 ” 

って呼んでいたくせに、こういう時には

“ 兄貴 ”

に戻っている。なかなか変な気分だった。

でもその

“ 兄貴 ”

の響きも、以前とは違っていて聞こえる。

「甘えん坊。」

少しすねた様に俺の背中に爪を立てる、子猫の様な彼女。

「うん、そう。」

なんて。

「俺、放っとかれると寂しくて死んじゃうかもしれないよ。」

それは冗談でも聞きたくない言葉だった。

「だから、ねぇ、独りにしないでね。」

「馬鹿なことを言うんじゃない。」

哀しい事を言わないで欲しかった。

「君がいなくなってしまったら、僕がどうなるか考えて言っているのかい?」

死にそうなのは俺の方だ。

「勇利は僕がどうなっても平気って事なのかな?」

その気持ちを分かって欲しくて、少し彼女を責めた。するとその事に気づいた勇利は視線を落とし、

「兄貴、ご免。」

ってうなだれた。

 自分が彼女に影響力を持っている事を、俺は嬉しいと素直に喜んだ。

 だからつい調子に乗って、彼女をソファに誘い、腕に抱き込んだ。基が帰って来ると言っていた5時過ぎにはあと45分はある事を確認し、もう10分したら俺はこの部屋を出ようと心に決めて。その時、

「ねぇ。」

彼女が身じろぎ、俺を見上げながら上目使いで笑いかけた。アーモンドみたいな目が輝いていて

「キスして。」

そう言われなくても俺の体は勝手に動き、唇を絡めていた。

 二人とも何度もキスを繰り返し、心持ち唇が腫れている気がした。それでも止められず。

 全身で彼女を抱きしめ、舌を差し入れ、甘い吐息を貪り、背中に彼女の掌を感じ。目を閉じて、全ての神経を彼女に集中し、この時を心に刻んだ。


 これからしばらく、二人で会う事も出来なくなるかもしれない。

 もし基との別れがこじれたら、彼女が落ち込むのも目に見えていた。それでも弟に納得してもらえるまで彼女は話し合うんだろう。

 ベッドの中でお互いをあたため合いながら、俺が基に話そうかとさりげなく話しを振ってみた事を思い出す。もしかしたら俺の子を宿したかもしれない彼女を側から離す事が辛かったからだ。それでも彼女は

「駄目。」

と俺を制した。

「必ず戻って来るから。」

だから。俺は

“ お帰り ”

の言葉を心に用意し、必要な離別期間の心づもりをした。


 俺たちの息づかいと小さなキスの音が融けていた。


 だから気配にはまるで気がつかなかった。

「お前ら、何やってんだ。」

思いもかけず聞こえた声には、感情が無かった。



         Pain      つづく


これから色々あります。まぁ、修羅場です。

ダークホースも登場しております。

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