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the Artist of Broken Arrow

ブレイクアーツの二次創作です。ご容赦ください


また、サイトの利用方法について日が浅いため、文字列の乱れや記号の乱れなどがある場合にはお知らせください。

Twitter……Nosuna_Iori


 「で?どうするつもりかね」

史乃さんがバリスタマシンを操作しながら問う。

「私はお前さんの選択にいちいち口を挟むほど暇じゃないんでな。ただ、鬼嶋の嬢ちゃんが言ってることは間違っちゃいない、それはわかっとるんだろう?」

僕は小さく頷いた。

ここは今日のテストレース用に用意された個人休憩室だ。

6畳ほどの広さで、小さなテーブルと折りたたみ式の椅子が幾つか、あとは軽食と飲み物がある。

壁にはレースの様子を見ることができるモニターがあった。

「鬼嶋の嬢ちゃんからはどの辺りまで聞いた」

僕の前に黒い液体の入ったマグカップを置くと、対面に座りながら史乃さんが言う。

「どこまで……、って言うのは」

怪訝に僕が問い返すと、彼女は、ふん、と不満気に息を吐き、

「その様子じゃ何も聞いとらんか。まぁわざわざ言うことでもないしねぇ」

まるで旧知の友人のような口ぶりでサクラの事を話す史乃さんに聞いてみる。

「どういう関係なんですか、サクラと」

「鬼嶋の家とは家族ぐるみで長い付き合いがあってな、あの嬢ちゃんのことは嬢ちゃんに物ごごろが付く前から知っとる」

そして彼女は自分のコーヒーにスティックシュガーを何袋か開けながら続ける。

「鬼嶋の家はいわゆるスポーツエリートでな、特に射撃競技の名門なのさ。嬢ちゃんもそうなるはずだった」

なるほど、あのボーイッシュさにもどことなく納得がいく。しかし、

「だった……、ってことは」

「此処から先は嬢ちゃんから直接聞くんだね。私の言うことじゃぁない」

 史乃さんがそう言い切ったちょうどその時、

「あ……、始まりましたね」

モニターが起動し、たった今からレールが開始される事を告げるアナウンスが流れる。

「どうする、今からでもレースに向かうかね?まぁ、3回もあるんだから一度や二度くらいの棄権は構わんと思うが。」

考える。

今の僕が果たしてレースに出てどうなるだろうか。

「とりあえず、彼女のレースを見てみようと思います」

僕がそう答えると、史乃さんは、そうか、と呟き。

「飲みな、冷めたら不味いだろう。それとも猫舌か?」

「い、いただきます」

「砂糖とミルクは?」

「あ、一つずつお願いします」

史乃さんから渡されたスティックシュガーとミルクを少し温くなったコーヒーに落とし込みゆっくりとかき混ぜる。

「サクラのレースはいつですか?」

「この2つ後だ。今年は稀に見る豊作だからな、あいつでも少しくらい厳しいシーンはあるかもしれんなぁ」

ちらりとモニタに目をやる。

アーキテクチャはレギュレーション上ノーマライザーシリーズばかりだが、適性に優れたアーティストはその分を特にレギュレーションの設定されていない兵装に回しているようだ。

目立つ兵装は長射程ライフルや威力に優れたグレネード系列、アシスト兵装ではロック不要のホーミングミサイルやトラップがある。

どれもこれも、僕には扱えないような重量兵装ばかりだ。

ただ、見ていて思う。

「適性はあるのに、もったいない動きが多いですね。僕に人並みの適性があれば、もっと……」

「自分なら、もっとうまく扱える。か?」

頷く。

「捕らぬ狸のなんとやら、だな。己にないものをうまく扱えると豪語したところでなんの自慢にもならん」

「ごもっとも……です」

思わず項垂れる。

「だがしかし、お前さんの言うとおり、適性に甘えた走りをしとる奴はまぁちらほら目につくな。倫ノ助、お前さんが勝てるとしたらああいう油断や慢心に付け入るくらいしか無いだろう、逆を返せば、お前さんでも勝てる目はちょーっとくらいはあるかもやしれん」「どうでしょうか。それでもやっぱり普通の人より何周も周回遅れだという事実は変わらないですよ」

自分でも卑屈でネガティブな考えだというのはわかっている。

こんなハートでは戦えない。

しかし今の僕の頭はダウナーで曇った思考ばかりを生み出してしまうループに嵌ってしまっていた。

「始まるぞ、嬢ちゃんのレースだ」

 史乃さんの声でモニターに目をやる。

「紫色のライトのアーキテクチャだ」

サクラのアーキテクチャに目をやって、思わず声が出た。

「な……なんだあのアセンブル……、正気か?」

アーキテクチャはノーマライザーライト。ここまではいい。

 問題は兵装だ。

左腕には機体の耐久性をサポートする、攻撃力を持たないシールド兵装、そして右腕には、

「スナイパーカノン……?なんであんなものを……」

確かに一撃の威力でいえば並みの兵装とは桁が違う。だが、スナイパーカノンは他の兵装と違い、ロック機能がない。

全てを自分で調節して狙わなければ当たるものではない。

そしてさらに、スナイパーカノンは射撃体勢に入るとスナイパー用の光学サイトに切り替わるため著しく視界が狭まる上に、ブーストも使用できない。

はっきり言ってレースに向いた性能とは思えない、彼女の適性ならばもっと良いチョイスがあったはずだ。

「アシスト兵装は何なのか、聞いてますか」

史乃さんに問う。

「私も嬢ちゃんのアセンは今はじめて見た。何を考えているのだろうな」

何を考えているのか僕も知りたい。せめてスナイパーカノンを使うなら左腕はシールド兵装ではなく近距離用の兵装にするべきなんじゃないだろうか。

「あれで勝てるんでしょうか。適性を考えると余剰データ容量による補正でエネルギー回復速度や平均速度はある程度以上まで向上するとは思いますけれど……」

「脚の速さだけでも勝負ができないレベルではない、嬢ちゃんの適性はそのレベルまである。しかしあのアセンを見るに、ブレイク勝負に持ち込むつもりなのだろうな、正気とは思えん」

そう言う史乃さんの表情は曇っていた。

「そうですよね……スナイパーカノンなんて……」

「問題はそこではないんだよ、嬢ちゃんならスナイパーカノンでも当てるだけの技術がないわけではない。しかしなんでよりもよって……」

 それ以上僕達が何かを言うより早く、レースが遂に始まってしまった。

公式のレースなら実況や観客の反応でうるさいくらいなのに、今回のレースはアーキテクチャの音しかしない静かなものだ。

しかし、その均衡もすぐに破られる。

レースは5人一組。開幕で先行を取ろうとしたのか一気に前に出る黄色いライトのアーキテクチャがあった。

「開幕逃げ切りか……、周りの兵装からすると、難しいんじゃないのかな」

僕がそうつぶやくと同時、先行のアーキテクチャに向かって複数のミサイルやライフルが光の帯を引いて襲いかかる。

シールドを両手に抱えたノーマライザーライトとはいえ、あの数の弾幕を張られては為す術はないだろう。

案の定、一瞬にして機体耐久値を削られたアーキテクチャは砕け散る。

機体の再構成までの時間と、あの貧弱な武装を考えるとこのロスを取り返すのは難しいだろう。

そんな中、サクラは一発も打つことなく群れの最後尾をピッタリと貼り付くように走っている。

いい選択だ。ミサイルや高速ライフルを積んでいる機体がある以上、最初は出方を伺うのは悪くない選択肢だ。

今回のコースはレース用コース、「for Racer」

スタートライン直線を過ぎ、クランクの後に来る大きなドーナッツ状のカーブが一番の特徴だろう。

その他にもM字カーブなどがあり、レースに必要な基礎的挙動が求められるコースだ。

群れは開幕直後のブレイクからは特に大きな動きを持たずクランクを抜ける。

勝負を仕掛けるなら、

「このでかいカーブでの立ち回り、だろうな」

文乃さんの言うとおり、ドーナッツカーブに入ってから群れが動いた。

群れの中でも最前線にあったアーキテクチャに牽制のように数発の攻撃が走る。

このカーブは僅かなバンクがかかっていて、ここで攻撃でノックバックをもらったりしてステアリングを失うと厄介なことになるだろう。

またカーブの都合上否応なしにスピードが落ちる。先頭は、攻撃の的になりやすい。

今回も先頭のノーマライザーヘヴィに数発のライフルが命中するが、

「巧いな。あの先頭の奴、ノックバックを受けてもすぐに立て直しができてる」

史乃さんが珍しく関心したようにつぶやいた。

確かに、戦闘のアーキテクチャの挙動には安心感がある。

下手な攻撃でステアリングを失うようなことはないだろう。

「サクラが動いた」

 彼女はちょうどバンクカーブの中腹辺りで動いた。

一見すると何もしていないように見えるが、彼女のアシスト兵装ユニットがたしかに動いたのが見える。

「あれは……不可視型の設置トラップ……?」

さらにサクラはバンクカーブを抜けた先にも幾つか不可視トラップを置いたようだが、

「トラップか……」

少しサクラの考えたことが分かるかもしれない。

「でもなんでわざわざスナイパーカノンに拘るんだ……射撃選手だった頃の名残なのか?」

「嬢ちゃんにとってスナイパーカノンってのは、自分が敗れた目標の形見みたいなもんなのさ」

やはり、サクラは射撃競技を、何らかの理由でやめてしまったんだろう。

その形見として、彼女はスナイパーカノンを使うと決めたのだろう。

しかしこれはデビューレースだ。スナイパーカノンを使った経験などないに等しいはず。仮に射撃競技での経験があったとはいえ、ブレイクアーツでのスナイパーカノンの挙動は全くと言っていいほど別物なんじゃないのか。

「倫ノ助、嬢ちゃんがスナイパーカノン使うみたいだぞ」

モニターでは、ドーナッツカーブを抜けた直線でサクラのアーキテクチャが先頭集団と距離を取り、狙撃体勢を取ろうとしていた。




「サイトが見づらい……機体が慣性で流される……後ろからさっきの奴も追ってきてるな」

あたしが思っているよりもずっとブレイクアーツのスナイパーカノンはじゃじゃ馬だ。

あたしの腕のせいもあるんだろう。さすがに良い所を見せようと意地を張りすぎたかもしれない。

トラップを撒いてはおいたが後続は引っからなかったようだ。まぁいい、後続の足止めのためのトラップじゃぁない。

「この直線でまずは一人落としておきたいんだけどな」

ウォームアップでの命中率は6割と少しといったところ。しかし的は規則的に動くドローンだ。

「ちょろちょろ動きやがって……ったく」

どうも前で小競り合いでも起きているのか先頭集団のアーキテクチャの動きが不規則だ。

弾着までの時間差と、アーキテクチャの傾きや動きによる慣性を考えると、

「どうも難しいなぁこれは……もっとまともな腕がありゃ当ててやれるんだろうけれどな」

一瞬頭を染めそうになるネガティブな考えを振り払う。

「当たる。当たるんだ。あたしの弾が外れることなんてありえない。絶対に当たる。当ててみせる」

イメージするのは最高のワンショット。

それ以外はいらない。

狙う的と、自分以外は今ここに必要ない。

ゆっくりと息を吸って、ほんの一瞬止めて、

当てる。

ゆっくりと息を吐き出しながら引き金を落とした。




 僕の視界に写ったのは、一条の紫光に貫かれて四散するアーキテクチャ。

「当てた……のか」

当てられたアーティストは何が起こったのかもすぐにはわからないだろう。

スナイパーカノンはそういう武器だ。

射程の外にいると高を括った相手から致命の一撃を一方的に撃ち込まれる恐怖。

自らがブレイクさせたアーキテクチャの破片を吹き飛ばすようにサクラのアーキテクチャが走り抜ける。

現役のトップアーティストにもスナイパーカノンを愛用している人はいるが、彼女の今の狙撃は、そのレベルへと確かに届くであろうと確信させる一撃だった。

「何か、感じたかね」

コーヒーを啜りながら史乃さんが問う。

感じた。感じないわけがない。

しかし、僕が得た感想は、サクラの望んでいたものとは違うだろう。

「絶望的な、天賦の才、なんでしょうかね。トドメを刺された気分です。適性もあって、アーキテクチャを意のままに操るセンスもあって。僕にはないものをことごとく披露された気分です。あぁ、あれが本物なんだろうなぁ、って」

今は量産アーキテクチャに市販の兵装だ。

しかし彼女はいつか、彼女のための専用機を手に入れることになるだろう。

そうなった時、おそらくだが彼女はアーティストとしての頂に近しいところまで手が掛かるだろう。

僕では見ることのかなわない景色を手に入れるのだろう。

彼女の言葉は、持つ者から見える景色に則って吐かれた言葉だ。

僕のような持たざる者にとっては、絶望を突きつける宣告と変わらない。

彼女は言った、限界を己で決めるなと。

間違っちゃいない。

彼女のような、限界すら自力でこじ開けるような才覚ある者にとっては、間違っちゃいない。

でも、僕みたいな有象無象にすれば、あまりにも遠すぎる。

レースは、終盤に差し掛かっていた。




 最終ラップ、あたしの前には一人だけ。

「あいつはデキる奴だ。あたしがスナイパーカノンを当てるって気づいてから不用意に真っ直ぐ走らなくなりやがった」

序盤でも安定した走りを見せていたノーマライザーヘヴィは、今、あたしの射線をかいくぐるように機体を微かにダッキングさせて走っている。

コース取りでロスは出るものの、今の彼我の距離を考えればどこかで攻撃を当ててブレイクさせない限り逆転は望めない。

「仕掛けにはまだかからねーのかよ……」

吐き捨てるようにつぶやいたその時、視界の端にヒットマークが出た。

「掛かった!ったくヒヤヒヤさせやがって」

1週目でドーナッツカーブに仕掛けた不可視トラップに、目の前のアーキテクチャが触れる。

「……さすがに、ブレイクはしてくれないか」

しかも不可視トラップの不意打ちを受けても、すぐに立て直しスムーズに走りだす。

「これでビビって少しでも足を止めりゃぁいい的だったのによ」

だがいい、あたしも目の前のやつがそこまで間抜けだとは思っていない。むしろそんな間抜けがここまであたしの前を走っていたら拍子抜けというかここまでお膳立てしたあたしがアホみたいだ。

「まーでも、これで否応なしにトラップがコワイよなぁ?」

見えるトラップならばいくらでも避けようがある。しかし、このトラップは触れる直前まで見えない不可視型。

まぁあいつの腕ならギリギリで回避することがあるかもしれない。

「が、それはどうでもいい。どうせこっから先にトラップなんて撒いちゃいねーんだしよ」

大事なのは、

「序盤での数発と今のトラップで耐久値はギリギリなんじゃねーの?トラップに当たればブレイク必至だろうなぁ」

相手は耐久値が限界に近い、はず。

そんな状況でトラップに当たるのは絶対に避けたい、はず。

そうなれば、自然と、

「さっきまでみたいなダッキング動作はあまりしたくないよなぁ?コース取りも甘くなる」

案の定だ。

今までは揺れるように動いていたアーキテクチャだが、今の動きには精細が欠けている。

一応あたしと一直線上にとどまらないように緩やかに斜めに走ってはいるようだが。

「そんな動きであたしから逃げられるとは、思ってくれるなよ?」

最終直線。

普通のライフルやミサイルでは、もう間に合わない距離。

だけど、スナイパーカノンは、こういう場面でこそ輝く。

ゆっくりと射撃体勢を取り、視界の狭く、遠くなったサイトを覗く。

アーキテクチャの慣性に流されてサイトが揺れるが、それでも視界の中には手を伸ばせば触れられそうなくらいの距離感で、的があった。

「出来損ないの腕で撃つのは申し訳ないけど、かっこいいとこ見せるためだ。許してくれよ」

轟音が響き、ほんの一瞬を挟んで、視界の中でアーキテクチャが弾ける。

この瞬間、全身をしびれるような快感が走る瞬間が、あたしは好きだ。

心銃一体というか、言い様のない快感。

ゴールラインを滑り抜け、1位で終了したというアナウンスを見ながら、そっとブレイクアーツからログアウトする。




「さすが、というべきなのだろうな」

ちょうどコーヒーを飲み終わった史乃さんがマグカップを置いて呟く。

「あれなら、大手のクランからも問題なく招待されるでしょうね」

僕が言うと、文乃さんは、ふ、と笑い、

「アレはそういうタマじゃないさ。大手で埋もれる位なら一人でやっていくだろうね」

そんなことを言った。

そうか、圧倒的実力を自負するなら一人でフリーランスとして活動することだってできるのか。

僕では考えることもなかった選択肢だ。

「じき嬢ちゃんが来るだろう、何を話すか考えておくといい。私は仕事に戻る、が、何かあったら4階の私の部屋まで来ることだ」

ではな、と言い残し、文乃さんは颯爽とその場を後にする。

何を話すか、か。

「とりあえず謝って……って、卑屈だな、僕は」

とりあえず、謝る、か。

とことん卑屈だ。

彼女の気質からすれば謝罪を述べた相手に強く強いることはできないと見越しての卑怯で臆病な一手だ。

どこまでも逃げることに関しては容赦がない。

しかし、僕はここまでそうして生きてきてしまった。未熟でどうしようもない阿呆だ。

逃げて、逃げて、逃げ続けて。

「どこまで逃げれば安住の地にたどり着けるんだろうな」

果たして、最初からそんな場所などないのだと、僕は薄々察してはいるのだけれど。

逃げているつもりで、自分から茨の道へと脚を深く埋めて。

「いい加減にしなくちゃ、いけないんだけれどね」

椅子に深くもたれかかる。

「さすがに、この道は、厳しすぎるよ……」

たった今見せつけられた、本物と、自分自身の差は歴然としたものがある。

これ以上ここでどう戦えというのだ。

そうして一体どれだけ天井を眺めていただろうか、不意に部屋がノックされる。

「どうぞ」

居住まいを正して僕は言う。

誰かを確かめる必要はない。

やはり、ドアを開けて部屋に入ってきたのはサクラだった。

「お疲れ様、流石というかなんというか、良いレースだったよ」

「ふふ、お世辞はいらない」

彼女はそう言ってゆっくりと対面に座る。

「どうだ?あたしのレースを見て、なにか感じたか?」

単刀直入だが、覚悟はしていた。

「正直に言うよ、絶望した。ハートでは負けていなくとも、その他の技術や才覚で押しつぶされる現実を見せつけられた気分だ」

「あたしに適性があるからか?」

僕は頷く。

「そうだ、適正があるからこそ、ああいう重いスナイパーカノンを扱って、なおかつアーキテクチャの操作もこなして、他の兵装を扱う余裕がある。僕にはないものだ。僕とは遠すぎる」

僕の言葉に、サクラの顔が少し引きつったのが見えた。表情にもろに出るタイプなのだろう。

「まーだそういう御託を並べるのか……ったく。あたしも完璧じゃないよ。欠点のほうが重いくらいだ」

欠点の、方が、重い?

少しだけ、心臓が痛くなる。

「何を、言ってるんだ君は。君には適正があって、センスがあって、それ以上に何が足りないって言うんだ。実際に結果も残しているじゃないかっ……」

一息入れて、僕は吐き捨てる。

「持っている者が、持たざる者に掛ける慰めや同情の言葉は……慰めや同情じゃない……、憐憫なんだよ……これ以上は」

やめてくれ。

そう、吐き捨てる。

怒るだろうか、ひょっとするとひどく傷つけてしまったかもしれない。

しかし、僕のような出来損ないに構っている暇など、彼女には無いはずなのだ。

持つ者が、持たざる者に手を差し伸べるなんてこと、あってはならない。せめてもの、持たざる者の矜持として。

見捨てて行ってくれ、そう願う。

だが、

「まぁ、そう思われても仕方ねぇよな」

彼女の反応はさっぱりとしたものだった。

「あたしの言葉も足りないし、な」

そして、彼女はそっと右手を差し出す。

「手、貸してみ」

「ど、どういう」

「いいから、ほら、握手だ握手。まだやってなかっただろ」

意図がわからないが、真剣な目で見つめられては無碍に断ることなどできない。

そっと、彼女の手に、己の手を重ねる。

やはりひんやりと冷たい手だった。

「あんたはさっき、あたしが持つ者だって言ってたな」

彼女は僕の手を握りしめたまま言う。

「でも、実のところでもそうでもない。アーティストとしちゃ、あたしだってあんたに負けず劣らず、欠陥品なのさ」

「なぜ?」

彼女は応えず、空いた左手を自身の右肩に持っていく。

「こういうことだ」

そうして、彼女が左手で右肩に触れ、なにかもぞもぞと動かした時、

ごとり、と重苦しい音と共に、

彼女の右腕、肩から先がごっそりと、僕の手を握ったまま、テーブルに転がり落ちる。

中身を失ったパーカーの腕が、だらりと垂れた。

「え、ええ?は?」

間の抜けた声が出る。

「見ての通りだ。あたしには、右腕がない」


どうでしたでしょうか。

近いうちに更新を行いたいと思います。

意見や感想がございましたら、励みとなりますのでこちらまで

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