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the Day of zero hour -2nd-

ブレイクアーツの二次創作です。ご容赦ください


また、サイトの利用方法について日が浅いため、文字列の乱れや記号の乱れなどがある場合にはお知らせください。

Twitter……Nosuna_Iori


今後しばらくは、キリの良い所でなるべく早く更新するように心がけていこうと思います。これに関してのご意見もございましたら、ぜひお教え下さい


 自動ドアをくぐると、そこはいかにも企業ビル然とした雰囲気だった。

三階ほどまでの吹き抜けになっている広いチェック模様のリノリウム。

エントランスに受付があり、そのそばには奥へと続いているであろう通路が見えた。

僕は少しぎこちない動きで受付へと足を運ぶ。

「すみません、今日レースの予定がある部坂です」

僕が名前を告げると、受付に座る泣きぼくろが特徴的な女性はちらりと僕を一瞥し、営業用だろうとひと目で分かるスキとソツのない笑顔で

「身分証と招待状をお持ちでしょうか」

と告げた。

僕が肩から下げていたメッセンジャーバックを漁りながら書類を探していると、ふと、後ろから人の気配を感じる。

 スポーツブランドのマウンテンパーカーとバックパックにカーゴパンツ、足元はお洒落というよりもたくましさを感じさせるブーツに身を包んだ少女。

女の子にしては短すぎるような気もするが、男にからすればちょっと長いんじゃないかというくらいの髪を白いヘアピンで留めている彼女も今日のレースに来たルーキーなのだろう。

僕よりも才能がある、アーティストなのだろう。

「ん、君も?」

口を開いたのは彼女からだった。

ボーイッシュな外見にしては少女らしい声だと思ったが、馬鹿正直に口に出して喧嘩を売る必要はあるまい。

「あぁ、そうだよ」

短い言葉で返事をすると、彼女は、ふーん、と品定めをするようにまじまじと僕を見る。

初対面の相手にここまであけすけな態度を取る人は珍しいが、意外と不快感はそこまで、と言うか殆ど感じなかった。

「なんだかあれだね。君なんだか自信あるんだか無いんだかよくわからない顔してるね」

彼女はそう言うとパーカーのポケットから小さな板みたいなものを取り出し僕に差し出して、

「はいこれガム、お近づきの証」

そう言って僕の胸ポケットに滑り込ませた。

 彼女は手際よく受付を済ませると飄々とした足取りで奥へと向かう。

そして建物の奥へと消える寸前、ふと足を止めると首だけこちらを振り返り、にやりと笑った。

「そうそう、レースうまくいくといいな」

ついでに、と彼女は付け足し、

「あたしと当たらないといいね。滅茶苦茶強いぞ、あたしは」

ひらひらと手を振って去っていった。

「自信家なのはいいけど、名前くらい名乗れよ……」

取り残されたような気分になりながら呟き、僕もそそくさと手続きを済ませる。

ネームプレートと形ばかりの見送りの言葉を受け取って通路を進むと、いくつかの案内板が吊り下がっているのが見えた。

交流目的であろう大きな待合室や、個人用の小さなブース、更衣室、軽食などの自販機がある休憩所があるが、僕の目的地はここではない。

 しばらく案内板を頼りにウロウロしていると、とうとう見つけた。

ビルの一番奥にある電子ロック式の重厚なドア。

コクーントレーニングルーム、というプレートがドアの上にはめ込まれている。

コクーンとは、ブレイクアーツ用の生体-電脳リンクモジュールの名前だ。

ドアの脇に設置されているコンソールにネームタグをかざすと、軽い電子音とともにロックが解除され、重厚なドアはその重さを感じさせないような挙動で静かにスライドし僕を招き迎える。

入ってすぐパッと目につくのは、病院にあるロッカー室のような光景。

白を基調とした部屋の両壁に合計二十ほどのたてに細長いロッカーがあり、ちょうど入り口と反対側の壁にもう一つドアがあった。

ふとそのドアが向こう側から開けられ、

「デビューレースの人かい」

足を踏み入れた僕に声がかけられる。

背の高い、百八十……いやもう少しあるだろうか。それくらいの女性だった。

くすみがかった長い白髪と目尻に刻まれたシワは年を感じさせるが、立ち居振る舞いや声のハリは僕よりもよほど健康的で若々しい。白衣の前をきっちりと閉めている彼女は僕を、正確には僕が首から下げているプレートを見て、

「部坂倫ノ助か、穂浦から話は聞いてるよ。ちょっとまってな、ウェアを持ってきてやる」

そう言ってドアを閉め、奥へと引っ込んでいった。

そしてすぐに戻ってきた彼女は部屋に入ってくると、白い服を僕に手渡す。

肌触りは軽いシルクのような感触。形は上下にセパレートするウェットスーツのような感じだが、足の方はつま先までをしっかりと覆うデザインになっているし、上半身も手の先まで生地がある。

何より一番の特徴はウェアの表面を縦横無尽に走る青いプリント回路だろう。

これは、服の形をしている基板なのだ。

人とブレイクアーツをつなぐデバイスとしてのウェア。

「着替えたらこっちへ来な。ロッカーは適当に開いてるのを使うといい」

彼女はそう言ってまた奥へと引っ込んでしまった。

ドアが閉まったのを見て、慣れないウェアに四苦八苦しながら着替える。

ウェアというものの、本質が基板なので着心地はとてもじゃないが良いものではない。ウェアの表面からはいくつか端子のようなものもぶら下がっているし、こういってはアレだがまるで囚人のための拘束服である。

 ロッカーに荷物を仕舞い、奥のドアを開けるとそこには十数機のコクーンがズラリと整列していた。

コクーンという名の通り、形状は大きな蛹のようである。蛹というよりかは横たえられ、上部を切り開かれた繭のようでもあるが。

見る限り既にいくつかのコクーンは稼働しているようだ。僕と同じくウォームアップに来たアーティストだろう。

「来たか。さっきも言ったが穂浦からひと通り聞いとる。才能がないとな」

白衣の彼女は口角を歪めるように笑いながら、一台のコクーンの近くへと僕を手招きする。

「私は遠江、遠江(トオエ) 史乃(フミノ)と言う。史乃さんと呼んでくれ。JBAで技術者としてアーキテクチャの開発と運用をしとる」

史乃さんは握手を求めてきた。

「部坂です。今日のレースがダメだったら、もしかすると僕も技術者になるかもしれませんので、その時はよろしくおねがいしますね」

僕がそう言って握手を返すと、史乃さんはいっそう口角を歪めて笑い、

「にしちゃぁ、えらく勝ちたそうな目をしているじゃないか」

ぐっ、と握手に込める力を強くしてきた。

「倫ノ助。才能ってのはひとつのファクターのみによって決定され切ってしまうほど生易しいものじゃないぞ、適正ってのはあくまで才能を形成する一つの要素であり、それ以上でも以下でもない。アーティストに必要なものが適正一つだけだなんてそんな甘えた話があっちゃぁ面白く無いだろう?ん?」

「と、言うと?」

僕が聞き返すと、彼女は握手を離し、コクーンのそばに置かれていた作業デスクから一枚の資料を拾い上げて言う。

「お前の試験結果だ。実技適性はひどいな、見れたものじゃない」

だがしかし、と続け、

「筆記は悪くないじゃないか。知識面じゃそこらの新米アーティスト、いや、半端な技術屋よりかはあるんじゃないのか?それこそ私らの業界に来るって選択肢もなくはないくらいだ、これは武器だぞ。それも一朝一夕で身に付くものじゃない武器だ。使わない手はないな」

そう言うとコクーンに手を伸ばし、起動準備を始めた。

「まぁ口であれこれと御託を並べていても、な。今日のレースは三回あるんだろう?どれか一つで誰かの目につくような成績を残せばいい、最初のレースまでも時間はある。気楽に走れ」

 史乃さんがコンソールパネルを操作すると、羽虫の音のような微かな起動音とともにコクーンが動き出した。

空っぽだったコクーンの中に、チューブから青白い透明な液体が注がれる。

液体ではあるが、コレも微細な電子パーツによって構成された流体としての形状をもつ電子回路だ。その証拠にコクーンの中程までを満たした流体の表面が数度瞬くと、表面にホロモニタが浮かび上がる。

「よし、入っていいぞ。ちょっとばかり冷たいが我慢しろよ。電子機器なんで熱には弱いからな」

促され、僕はコクーンの中へと滑りこむ。

浴槽に半身浴で入るような気分だが、流体の感触はサラサラとした普通の液体ではなく、ダイラタンシー流体に近い感じだ。押せば反発を感じる程度の粘度がある。

僕が身じろぎするとそれに合わせて表面が波打ち、ホロモニタにノイズが走るのが見てとれた。

「お前体温高いな。心拍数も高いがまぁ緊張してるってことだし許容範囲内か。血圧も高いぞ、ちゃんと栄養あるもの食ってる?アーティストは電脳スポーツとはいえ体が丈夫じゃないとやっていけないからな、体のケアはきちんとしろよ」

流体回路はウェア表面のプリント回路から僕の生体データの受信を行い、また電脳網からの情報を送受信するシステムになっている。

普通に一般家庭で使用されている生体-電脳リンク機構であればここまで大掛かりなモジュールは必要ではない。頸部に薄い回路を貼り付けるだけで事足りるが、ブレイクアーツはそれだけ膨大なデータの受送信を必要とするということだ。だからこそ電脳リンク機構に対する高い適応性はアーティストにとって重要な才能の一つなのだが。

「それじゃ端子をつないでから全部入れるぞ、マウスピース付けな」

「あっ、はい」

史乃さんから差し出されたシリコンのマウスピースを咥える。当然のようにコレにも複数のコードが繋がっていて、端子としての機能も果たすようだ。

「満たすぞ、ビビるなよ」

マウスピースを付けたのを確認すると、史乃さんはさらにコンソールを幾つか操作する。

 合わせて、コクーン内の水位が上昇を始めた。

胸ほどまでだった水位は瞬く間に肩を越え、口元を通って鼻を覆う。目を閉じて、そうして頭の先までとっぷりと浸った感覚が一瞬僕を包んだあと、

「テストコクーンからのアクセスを確認、アドレスを検証、パスを検証、認証完了。アーティスト、部坂倫ノ助様のアクセスを許可します」

機械的なアナウンスが聞こえる。

体の輪郭が形を忘れる。

そして不意に六角形の黒いハニカム構造が視界を埋め尽くしたかと思うと、ボロボロと欠落していくかのようにして視界がひらけた。

 視界に映るのは、円形のゲージ、いくつかの数値、そしてまっすぐ伸びるレースコース。

『聞こえるか。こっちでもモニタリングしているが大丈夫そうだな』

史乃さんの声が聞こえた。

「はい、良好です。すこし重い感じもしますけれど、僕の適正ではいつものことですので」

重い、そう。重いのだ。

今の僕の体はブレイクアーツを走るためだけに作られた機体、アーキテクチャそのものとなっているはずなのに、濡れた服を着せられているような重みをじっとりと感じる。

今僕が使用しているアーキテクチャは、一般的に流通しているパーツの中でも最も軽量な部類にあるノーマライザーライト。

今回のレースレギュレーションで使用できるアーキテクチャであるブロックヘッド、ノーマライザーシリーズの中では間違いなく軽量だ。それでも重い。

武装は両腕にサブマシンガン、アシスト兵装は最軽量ロケット。それでこのざまである。

『行けるか?』

史乃さんの確認に、

「もちろんです。行きます」

心中の不安や懸念を悟らせない声でそう答える。

カウントダウンが始まった。

一つずつ落ちていく数字が、押し殺したはずの弱さや脆さの殻を無理矢理に剥いでいくような錯覚を感じさせるが、今はもうそれどころではない。

『スタートだ』

史乃さんの声と同時、アーキテクチャが滑りだした。

『コースはテスト用の一番シンプルなトラックコースだ。そっちのタイミングでドローンを出せるようにしてある』

「了解です」


 速度は並足で180前後、直線なら190はいくだろうか。

カーブを曲がりながら第二直線に入ったところでブーストを入れる。くん、とアーキテクチャが加速し、合わせて速度計も一気に200を越え、250を超え、300手前まで上昇する。

性能としては問題ないのだ。この速度帯ならばレースでも十分通用する。しかし、

「重い……」

思わず口から悪態が出る。

僕の適性では、高速巡航中のアーキテクチャを機敏に操作するためのステアリングができない。

速度に処理容量を割くと、ステアリングに使える容量がなくなってしまう。結果、目の前に接近するコース壁を僕は回避できない。

ブレーキを掛け、速度を落とすも間に合うわけもなく。

クラッシュアラートを聞いた瞬間。

一気に機体耐久値のゲージが持っていかれる。

クラッシュの反動で機体制御は失われ、前後を失ったアーキテクチャは無様にその場でスリップする。

かろうじてステアリングアシストによってコースに復帰するが、これがレースであれば敵機による追撃は必至、ブレイクは免れないだろう。そして僕の腕では一度ブレイクしアドバンテージを奪われれば、それをひっくり返すことは難しい、いや、不可能だ。

一人で誰の邪魔も入らないこの環境ですらろくに走れないのだ、攻撃飛び交うレースで果たして僕はどうなるのだろうか。

そんな懸念を振り払うように僕は再び走り始めた。

今度は速度帯を中速に維持し、なるべくステアリングとの両立を図る。

速度帯は200-220で安定させ、カーブでも直線でも速度を急激に上下させないことで処理容量を稼ぐ。

まとわりつく重さはあるが、それでもまだアーキテクチャを操作するだけの余力があるだけマシだ。

しかしこれでは、

『どうした倫ノ助。まるでドライブだな』

史乃さんの指摘が突き刺さる。その通りだ、軽量アーキテクチャの走りとは思えない。

しかし僕には重量重兵装を扱えるスペックがない。

改めて感じる、高い壁。

「重い」

推力を生み出すブースターですら重く感じる。兵装もいらない、僕には扱えないものなんて持っていても足枷にしかならない。

どうしてここまで重いのだろうか。

ただ走りたいという真っ直ぐなハートを、走るためのアーキテクチャが重く重く縛り付けてくるという現状。

「重い」

視界にノイズがちらつく。コースは把握しているのに、体が、アーキテクチャがそれに応えないもどかしさは更に僕を焦らせる。

攻撃を食らえば負けてしまうような僕に、はたしてこんな装甲は必要なのだろうか。

「重い」

マップなんて見なくてもわかっている。速度もわざわざ表示されなくとも別に体感で把握できる。耐久値なんて食らえば終わり、それでいいのだから表示なんていらないんじゃないのか。

「重い」

まるで僕を縛り付けるものばかりがここにあるような気さえしてくる。

何もいらない、何も余計なものなどいらないから、せめてこの、走りたいというハート一つあればいいから、それだけでいいから、それひとつで走らせてはくれないのか。

『倫ノ助!何を呆けている!前を見ろ!』

 史乃さんの声で我に返る。

目の前には壁。

考えるあまり操作がおぼつかなくなるなんて、体たらくもいいところだ。笑ってしまう。

「ブレイクしました。アーキテクチャの再構成を行いますか」

機械的なアナウンスを聞きながら、視界には、花火のように砕け散った青い燐光を放つ残骸が蛍のように瞬いていた。

『倫ノ助、上がれ。バイタルが規定値を超えた』

「了解です……、史乃さん、質問いいですか?」

再構成を促すアナウンス文を無視して、アーキテクチャの残骸を眺めながら僕は尋ねる。

「ハート一つじゃ、走れないんですかね。ハートが大事なのはわかります。でも、そのハートすら、僕じゃ持て余してしまうんです」

気持ちが先に行ってしまうのとは違う。

気持ちが、心が、しがらみを抜け出せないこの焦りと怒りにも似た感覚が、僕のハートをくすませていた。

どうでしたでしょうか。

近いうちに更新を行いたいと思います。

意見や感想がございましたら、励みとなりますのでこちらまで

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