[第9話:ウソ]
「・・・私は貴様の兄・・・佐野千里の兄だ・・・」
まさか。
証拠なんてないし。
兄なんて聞いたコトもない。
なに言ってんだ?コイツ・・・
レニアの目は真剣に千里を見つめている。
冷たい風が千里の頬に触れる。
”ありえない”
「証拠は・・・どこだ・・・?」
レニアは手を前に出し、何か呪文のようなもの唱えた。
すると地面が光る。
「さぁ・・・見てみろ・・・」
レニアがそう言ったとたん、地面の光ったところが
映像のように動き出し、音が聞こえてくる。
<千里?いるの?>
「母さん・・・?」
千里の目は地面に映っているものに釘付けになる。
その地面には、千里の母が映っていた。
「なんでだよ・・・??」
レニアはその地面の映像をみながら、
「いいから黙って見ていろ・・・」
そう静かに言った。
その目はさっきと違ってなぜか、ひどく悲しそうだった。
「・・・・・・?」
千里は不思議に思いながらも、その地面の映像をじっと見つめる。
<・・・いないのかしら・・・?>
千里の母はタンスの引き出しを開ける。
洋服の間から何かを取り出す。
透き通ったガラスの写真たてだ。
何で写真たてなんか取り出すんだ・・・?
その中に入っている写真。
子供・・・?誰だろう。
オレの写真じゃないな・・・
千里の母はしばらくその中の写真を見つめる。
すると千里の母の肩が震えだす。
<・・・れいと・・・零斗・・・!>
写真たてに涙が落ちる。
「母さん・・・??」
千里の母は写真を見て泣いていた。
れいと・・・零斗?誰だよ??
なんでその写真を見て泣いてるんだ?
「・・・もう少し写真が見えるようにしてやろう・・・」
レニアが手を前に出す。
写真がアップで見れるようになる。
そこには4〜5才くらいの男の子が写っていた。
相変わらず千里の母は肩を震わせて泣いている。
「誰だよコイツ・・・?」
千里はそう言った。
その言葉に対し、レニアは
「私だ。零斗・・・生きていたころの私の名前だ。」
レニアは映像から視線を逸らさず・・・懐かしそうに、そして寂しそうに目を細めて言った。
確かにレニアには、写真の男の子の面影がある。
「・・・分かんねェだろ・・・聞いてみなきゃ・・・」
千里が呟くように言う。
「オレ・・・聞いてくる・・・母さんに確かめてくるッ!!!」
そう言うと、ものすごい速さで走っていってしまった。
「千里・・・」
心配そうに言う歩李。
「急に連れてきて悪かったな。」
レニアは歩李に言った。
そして、歩李はレニアに向かって言った。
「・・・あなたが千里のお兄ちゃんってホントなんですか・・・?
死んじゃったってどういうコトなんですか・・・??」
その質問に対し、レニアは少し黙り込む。
少しして、
「私は千里の兄・・・佐野 零斗だ。私は5歳ほどで死んだ。」
その答えに歩李はすぐに、
「なんで・・・死んじゃったんですか??」
とまた質問する。
レニアは答えようと口を開く。
「それは・・・」
千里はそのころ、家までの道をずっと走っていた。
兄。兄。兄。・・・零斗・・・
そのことをずっと思いながら走る。
家の近くの曲がり角を勢いよく曲がる。
家が見えてきて、スピードがあがる。
家のドアの前に立つ。
インターホンを押し続ける。
出て来ない。なんでだ・・・?
「はーい」
! 母さんの声がした。
ガチャッ・・・
家に帰ってくるとき、いつも聞くドアの開く音。
「!! あ・・・千里・・・おかえりなさい」
少し様子がおかしい。
よく見ると涙のあとが微かに残っている。
・・・ちがう。
母さんがオレにウソなんてつくワケない。
兄がいたコト・・・黙ってるハズがない。
千里は一度、家に入りドアを閉めた。
ガチャン・・・
この音がした瞬間、家の中がシーンとする。
千里の母もずっと黙っている。
母は無理に笑顔をつくって、
「せ・・・洗濯物!早く出してね!!」
そう元気に言った。
我慢できずに千里は、
「母さん・・・オレにウソついてない?今までの間、ずっと・・・」
直球に聞いてみた。
母さんはオレにそんなウソつかない。
そう自信があったからだ。
だが。
千里の母の手が少し震える。
「ウソ・・・?なんのコト・・・?」
明らかに怪しい・・・?!
ウソだ。絶対。
もう一度聞く。
「兄弟がいた・・・とかはない?」
その言葉をきいた瞬間、千里の母の目が見開かれた。
「・・・!!何で・・・その事を・・・?」
え?どーゆー事だ?おい!
「母さん・・・!!おい!ウソだろ?!」
千里の母はうつむいたままだった。
ウソだ!
「千里・・・」
お願いだから言わないでくれ!
母さん!!
「ごめんね・・・千里・・・」
「ウソ・・・だろ?」
お疲れ様でした。