[第11話:歩李の幽霊日記]
走る、走る・・・千里はただひたすら走る。
零斗。・・・兄。思い出したよ。
歩李を置いてきてしまった・・・確かこの辺りの暗くて細い、家が一軒もない道だった。
・・・あった。
その角を曲がると・・・
「どうして??なんで千里は記憶喪失になったの??」
歩李がレニアに質問を繰り返しているところだった。
息切れした千里。膝に手を置き、少し前かがみになる。
「・・・千里・・・どうしたの?」
千里に気づいて、歩李がかけよってきた。
だが千里には、歩李は見えていなかった。
「ホントに・・・零斗、なんだよな?・・・オレの兄、なんだよな・・・?」
レニアは千里を見つめて、
「母さんに聞いてきたのだな?やはりそうだっただろう?」
という。無表情のまま。つぎの瞬間。
レニアは、驚く。
「思い出したんだ!!ありがとう・・・!!レニア・・・いや、兄貴・・・!!」
ありがとう。ありがとう?
レニアは、そう言われてどうしていいのか分からなかった。
「あ・・・兄貴は、オレのことをかばってくれたんだよな?
オレ・・・そんな兄貴のこと忘れてたなんて・・・ゴメン、兄貴・・・
ありがとう・・・ホントにありがとう・・・!!」
レニアだけでなく、歩李も驚いていた。
イキナリありがとうを連発して。こんな千里は見たことなかった。
「どういうことなの?千里・・・?」
そう聞くと千里は、なんだかうれしそうに言った。
「母さんに聞いて、完全に思い出した!!レニアは・・・零斗はおれの兄貴だったんだ!
それで、小さいころボールで遊んでたら・・・ボールが道路にころがってっちゃって・・・
まだ何も知らないオレは、道路に飛び出しちゃったんだ・・・で、トラックがきて・・・
ひかれそうになったとき、兄貴は身代わりになってくれて・・・
オレを助けてくれたんだ!!なあ、そうだろ?兄貴!!ありがとう!」
レニアに向かって何度もお礼を言った。だが、少しすると千里の表情がいきなり曇った。
「ゴメンな・・・兄貴。オレのせいで死んじまったんだよな・・・ごめん・・・」
この言葉にも、レニアは驚く。そして、千里は・・・
「でも・・・どうして、歩李を連れていこうとしたんだ?」
千里は、目を細めていった。
その言葉を聴いたレニアは動かない。答えない。沈黙が続く・・・
「それ、は・・・」
レニアは困ったようにいった。千里はレニアをじっと見つめる。
「それは・・・そうすれば・・・貴様・・・千里が来ると思ったからだ・・・」
「え?」
千里は思いもしなかった言葉に驚いた。
「私の・・・存在を知らなかったのだろう?だから・・・伝えたかったのだ・・・だから・・・それだけだ。」
レニアはそう言った後、歩李を見た。
「歩李、と言ったな?・・・すまない。こんなことに利用してしまって・・・」
レニアはそう、歩李に言った。
「え?そんなこと・・・もう、いいですよ!ビックリしたけど、なにもなかったし。
だから・・・もう、いいんです。」
歩李の言葉に、レニアはとまどった。千里の言葉にも、とまどった。
そのとき。
「ッきゃ・・・?!」
雪が、歩李の制服のえりをつかんだ。千里とレニアはすぐに2人を見た。
「雪ちゃ・・・なにするの・・・?」
歩李が雪の手をどけようとする。が。雪はものすごい力で歩李の制服のえりをつかんだままだった。
「雪!やめろ!なにしてんだよ?」
千里も雪の腕を歩李から離そうとするが、だめだった。
「許さない・・・許さない・・・歩李・・・!!
よくも・・・私を殺したな・・・!!よくも・・・!!!」
雪の言葉に、千里と歩李は一瞬動きを止めた。
「・・・え?」
なんのことか分からなかった。だって・・・殺した?雪ちゃんを?いつ??あたしが??
「なに言って・・・るの?雪ちゃん・・・??」
「とぼけるな!」
雪は叫んだ。歩李は黙った。
「お前が・・・私を階段から突き落とし・・・殺したんだろう!そうだろう!!」
雪はそう言った瞬間、レニアの方を向く。
「そうなんですよね?レニア様・・・!」
歩李と千里はその言葉を聞き、レニアを見た。
「そ・・・それは・・・」
「言ったじゃないですか!レニア様!
私を殺したのは、歩李という者だ。仕返ししたいのだろう?なら、連れて来い。
と、言いましたよね?レニア様!!」
レニアは、うつむいてしまった。千里は
「なんでだよ!なんでそんなこと言ったんだよ?!歩李はなにもしてねェだろ???」
と言った。
「ウソ・・・なのですか?レニア様・・・」
悲しそうに雪はレニアに言った。そんな雪に対し、レニアは顔をあげゆっくりといった。
「すまない・・・雪。ウソ・・・だ。雪が自分をころしたヤツを探しているのを知り・・・
私は・・・千里を連れ出すのに使える、と思って・・・」
「利用・・・したんですね、私を。」
レニアは雪を見た。
雪は手を放した。歩李はドサッと地面に座り込んだ。
「すまない・・・雪・・・でも、会いたかったのだ。千里に。命を捨ててまで守った、弟に。
だから・・・許してはくれないか??」
レニアは雪に頭をさげた。しばらくの間、ずっと。
「分かりました・・・。もういいです。」
苦しそうにそう言うと雪は地面を強く蹴って、宙に浮かんだあと・・・空へ消えた。
「レニア・・・零斗さん・・・そこまでして千里に会いたかったんですね・・・」
「ああ。そうだよ・・・迷惑かけたな、2人とも・・・
千里・・・あえてよかったよ。それじゃあ・・・私は・・・」
と少し宙に浮かぶ。
「兄貴・・・じゃあな。」
千里はレニア・・・零斗にそう言った。
「雪ちゃんのこと・・・もう、ウソはつかないであげてください。」
歩李が言った。レニアは目を細めて、
「ああ。そうするよ・・・。」
と言って、空へ消えていった。
「よかったね・・・千里。お兄ちゃんに会えて。」
「ああ。でも、もっとフツーに会いたかったなぁ・・・」
そう言った千里に、
「もう、これで、終わったのかな?」
と歩李が聞いた。
「分かんねぇけど・・・終わったのかもな。」
_しばらくして_
雪の記憶は、みんなから消えていた。
雪のことをおぼえているのは、千里と歩李だけだった。
その日、歩李と千里のクラスの担任が転校生をつれてきた。
「山里 雪です。よろしくお願いします。」
え?千里と歩李は顔を見合わせた。
雪は、歩李のとなりにあいている席に、座った。
「おかえり・・・雪ちゃん。」
帰り道。3人で帰る。
校門のちかくにいる何人もが同じことを話していた。
「3年にカッコイイセンパイが転校してきたんだって!!」
「知ってるー!!零斗って人でしょ??」
「あたし見たことあるよ!・・・あ、ホラ!こっちに向かってくる人!!」
千里、歩李、雪の3人はそのセンパイを見た。そして3人は笑顔で言った。
「おかえり!零斗センパイ・・・!」
7月23日(金)
ということで、レニア・・・じゃなくて零斗センパイは、
人間になって戻ってくることができました。
千里のお母さんはビックリして倒れちゃったらしいけど、なんとか慣れたようです。
いろいろタイヘンだったケド・・・今思うと楽しかった気がします。
これからもあたし、千里、雪ちゃん、零斗センパイで仲良くしていきたいと思ってまーす!
〜END〜
イキナリですが、最終話です。
今まで見ていただいて、ありがとうございました!