男女禅問答/談序前門道
会話文が随分と多いですね・・・
申し訳ないです
「ししししししししししししし知りまままままませんよっ! だだだだだ誰ですかその素敵な方は! 見たことも喋ったことも看病されたこともありません!」
「……」
不思議な生き物を見るような目でパーカーの人が僕を見ている。
「……知っているのなら教えてほしいんだが…」
「だから知りませんよ! なななに言ってるんですか変な人だなあまったくもう!」
危なかった! この人は有名コスプレイヤーなんかじゃない! そうか、きっと左門くんはすごく悪い組織に追われていて、僕の学校に隠れているんだ! そしてこの怪しそうな男の人は組織の追手だ! そうに違いない! ナイスだ僕、ここでむざむざ左門くんを引き渡すわけにはいかない。何としても僕が隠しきらなきゃ!
「……」
相変わらずとぼけた顔のパーカーの人。左門くんの写真(すごく欲しい)をポケットにしまうと、ついでに違う写真を見せてきた。ものすごくごつい見た目のおじさんの写真だ。何故か昔の中国人のような服を着ていてこちらにウィンクしている。
凄く不気味だ!
「……あ、こっちはほんとに知らない」
「じゃあ左門の方は知ってるんだな」
「嵌められた!」
なんという知能犯! 僕がやすやすと騙されるなんて!
「……心配な同僚だな……」
呆れ顔のパーカーさん。
ぐぬぬ…!
「本当に知らないもん!」
「『もんっ』って……おいおい、頼むぜ、今は大事な時期なんだ。『グリズリー』の方は引き籠っちまってるしよ、これで『サーモン』のほうもオジャンとなれば商売あがったりだぜ。閻魔様に怒られちまう。なあ嬢さん、どうにか居場所を教えてくれないか、本当に俺とサー…じゃあなくて左門とは仲間なんだ」
「だ、騙されません。だって左門くん清潔感のない人とは友達にはならないって言ってたもん!」
「俺には清潔感がないのか……」
本気で傷ついているパーカーさん。ちょっと悪い気がする。
「あ、いや、別に汚いわけじゃないよ? そこまで落ち込まなくてもいいよ……?」
「いや、いいんだ。野郎ども容姿だけは一丁前だからな、俺の肩身は狭くなるばかりだぜ……てかよ、やっぱり知ってるじゃねえか左門のこと」
「しーりーまーせーんー!」
困り果てた顔のパーカーさんはポケットに手を突っ込むと、再び左門くんの写真を取り出した。
「ほら、こいつをやるから教えてくれよ、頼むから」
「わあい! ありがとう!」
僕は写真に飛びついた、ぎゅうっと胸に抱く。絶対離すもんか。
「って、違う! ダメだよ言わないよ!」
「……ちっ」
やっぱり僕を騙す気なんだ! ふふん、僕だって知能派なんだ。
「言わねえなら写真は返せ」
「それは……いやだ」
がりがりと焦ったように後頭部を掻くパーカーさん。
「ああくそう。せめて最後に会ったときに奴が何を言ってたかぐらいは教えてくれ。自力で探すから。いいだろ、それくらい。それで見つかったってお前さんのせいにはならねえからよ」
「むう…………それくらいなら……ほんとにちょこっとだけだよ」
「ああ、それでいい。助かるよ」
はぁあ、とため息を吐くパーカーさん。
うーん。
僕は回想する。左門くんとの会話を。
「えーっと……」
『夕日!? 今何時?』
『さて? 五時くらいだとは思いますが』
『え!? 僕四時間以上も気を失ってたの!?』
『ええ、可愛いお顔ですやすやと』
!?
『かわいい』!?
ボフンッと僕は顔から煙を吹きだした。おいおい、今度は何だ? とパーカーさんが呆れているがそんなことはどうでもいい。
あのときは混乱しててスルーしてしまったけどよく考えたらすごいことを言われているじゃないか!
あわわわわわ。どうしようどうしようどうしよう! かわいいなんて言われちゃった! ああ僕、僕いきなりそんなこと言われたら…!
「おかしくなっちゃうよお!」
「もう十分おかしいと思うが……」
あまりの衝撃に三度気絶しそうになる僕。
「おや、よかった、否裏目さん、まだここにいたのですね。一緒に帰りましょう」
「!? 左門くん!」
一気に意識が戻った。左門くんが通学鞄を片手にこちらに歩いてきたのだ。学校での用事はもう済ませたのだろう。
「だ、だだだだだめだよこっちに来ちゃあ! 悪い人が左門くんを狙って……!」
「悪い人? はて、私は狙われるようなことをした覚えは……おや?」
そこで左門くんがパーカーさんに気が付いた。
両者の目が合う。辺りが急に静かになった気がした。
ぐっ。
あまりの二人の覇気に、僕は何もできない。
「よお。『サーモン』。探したぞ。似合ってんじゃねえかそのブレザー」
にやりと笑うパーカーさん。
「お久しぶりです。お仕事の方はどうですか? 『ワラビー』」
こちらもにっこりと笑う左門くん。
あれ? なんかこの雰囲気、僕の思ってたのと違う。
「やはりスリーマンセルじゃねえと本調子が出ねえな」
「ちょうどいいですね、私も合流するつもりだったので。『グリズリー』の方はどうしたのですか?」
「そいつがちと厄介でな。お前に手伝ってもらわなねえとどうにも」
「そうですか……」
「ち、ちょっとまって!」
「「?」」
きょとんとする二人。左門くんがはっと気が付いたように僕に笑いかける。
「貴女が彼を連れてきてくれたのですか? ありがとうございます」
僕の頭を優しく撫でる左門くん。
「はぅ…んふぅ……じゃないそうじゃない!」
凄く惜しいけど頭を振って左門くんの手を振り払う。ちょっと残念そうな左門くんの表情にものすごくときめいたけど、それより言いたいことがあった。
「もしかして、二人って本当に知り合い?」
「ええ、そうですよ。紹介が遅れてしまってすみません」
やさしく笑う左門くん。
「彼は私の友人の『ワラビー』。もとい蕨粉花紅。女性のような名前があまり好きではないらしいので、気楽にワラビーとお呼びください」