幕間/幕間
「おおい、そこのやけにゆっくり歩くお嬢さん」
呼び止められた。
職務質問じゃないかと思い、かなり焦ったけど、帰宅途中の僕を呼びとめたのは、お巡りさんじゃなかった。
足首まである凄く長いパーカーを前を開けた状態で羽織った男の人が、道路脇のガードレールの上に片足で胡坐をかいている。幾何学的な模様がびっしり敷き詰められているパーカーの下には、真っ黒なタートルネックと裾のかなり広い長ズボン。線の細い左門くんとは違って骨格ががっしりしていて、多分左門くんよりも背が高い。ハリネズミのように放射線状に伸びた短髪と手入れしていなさそうな無精髭から、容姿への無頓着さが窺い知れた。しかしその、イケメンというよりは男前な顔からは半端じゃない苦労人感がにじみ出ている。
歳は、僕や左門くんよりも少しだけ上かな。
「? なんですか?」
「いや、尋ねたいことがあってな。それよりもかなり変わった格好をしてるな。こんな片田舎でもコスプレイヤーがいるとは」
ゴスロリ? と男の人はいぶかしげにこちらを見る。
「最近の小学生はませてるな」
「僕は高校一年生だ!」
僕は激高した。
なんて失礼な人なんだ! 僕からにじみ出る大人のオーラが分からないというのか!
「なんだ俺と同い年か」
え、このひと高一なの?
「それで、聞きたいことってなんですか? えっちなことだったらお巡りさん呼びますよ」
「急に刺々しくなったな……」
似合ってるぞそのゴスロリ。
そんなことを言うパーカーの人。
違う、僕が怒ったのはそこじゃない。
「というか、お前、よく見たら同業者じゃねえか。なんだ、だからそんな恰好をしてたのか。つーこたあそのゴスロリが霊器ってことか。ははあ、お前もやっかいなもんを選んだな」
「?」
同業者?
なんかこの人も、左門くんと同じこと言ってる。
流行ってるのかな。
ん?
あれ?
でも左門くん、さっきは寝ぼけてたって……
「……はっ!」
まさか! ゴスロリを着ている僕を同業者と間違えるということは、この男の人は有名なコスプレイヤー!? しかも左門くんの夢に出てくるような、超有名人!?
「サインください!」
「は? なぜだ?」
きょとんとするパーカーの人。
「変わった奴だな……まあいいか。お嬢さん。こいつを知らねえか?」
パーカーの人はパーカーのポケットから一枚の写真を取り出すと、僕に見せてきた。
「俺と組んでる調停人なんだが、同業のお前さんがいるとは心強い。霊器は『外郎』ってもんで、本名は」
僕はわななく、だって、写真に写ってたのは……
「左門溺俗って奴だ」