黒白礼装/酷薄冷相
遅れてしまって本当にすみません
そんなこんなで、僕はゴスロリ姿で授業を受けていた。
ゴシック・アンド・ロリータ。
世間一般に知れ渡っているようなもの、そのまんまの、
ゴスロリ。
黒を基調にしたモノクロのドレスにはレースやフリルやリボンがてんこ盛り。スカートはパニエでふっくら。なぜだか家を出た時の数倍は艶やかな僕の黒髪にはヘッドドレスがぴたりと装着されている。そしてなにより、
「ぼ、僕のぱんつ返してよぉ……!」
僕の慟哭交じりの懇願にも、冷酷なクラスメイトたちは無慈悲に無反応だ。特にハモ狩りの女子達は忙しく鼻に詰めたティッシュを詰替えている。
そう、
そうなのだ。
先ほどの授業五分前の襲撃で、僕はいつの間にか全裸にされいつの間にか全身に美容マッサージを施されいつの間にかガーターベルトを穿かされいつの間にかゴスロリ姿にされていたのだ。
恐怖!
なにが怖いって僕のぱんつがハモ狩りの手に渡ったことが最悪だ。きっと今日中には争奪戦になって学校中が紛争にまみれるだろう。
「は、恥ずかしいよぉ……これ、大人の人がはくものでしょ? なんで僕がこんな格好して……!」
無言で僕に背を向けてサムズアップをするクラスメイト一同。よく見たら先生までもが黒板に文字を書きながらこちらに親指を立てている。
「せ、先生まで! もうダメだ……僕に安息の地は無いんだ……」
いや、違う。一人だけ、僕にとっての救いの天使がいた。
僕から見て右斜め前。窓際の席に、背筋をぴんと立てて座る、さらりとした黒髪の男子。彼だけは黒板から目を離さず、一心不乱にノートを取っていた。
左門溺俗。
それが彼の名前だ。
成績優秀、眉目淡麗、品行方正。
そんな彼がこの学校に転校してきたのはつい最近だ。今が十一月なので、つまるところ二か月前、九月の下旬に突然入学し、依頼このクラスのメンバーである。ここでいう『突然入学した』は、そのまんまの意味で、彼は知らぬ間に忽然とこのクラスに姿を現し、そしてまるで誰にも気付かれていないかのように二か月間、教室に存在し続けている。故に異常までの人間として高すぎるスペックを持つ彼の周囲には、一人として女子が群がらない。しかし、誰として一人、それを疑問に思う人間はいないようだ。
僕以外。
いや、でもそんなことは関係ないのだ。
彼は僕を甘やかさない。ちやほやしない。うわべだけを評価しない。それはとてもいいことだ。僕にとって最高のことだ。だから、僕は左門くんのことが……
…………
………
……
…
べ、別に……好きとか、そういうんじゃあないけど。うん。
お昼休み。
他クラスからも押し寄せる人を押しのけ押しのけ、僕は左門くんの席へ向かう。
今日こそ、話しかけるんだ!
ここ二か月ほど何度も声を掛けようとしたけど、そのたびにハモ狩りに襲われたり、勇気が出なかったりで、一度も自分からは喋っていないのだ。
こんなんじゃだめだだめだ!
というわけで。
「………………」
ぅぅぅうううあぁぁああああ!!!! やっぱり恥ずかしいいいよおおお!
「? どうなされたのですか否裏目さん? おや、今日は思い切ったイメージチェンジではありませんか」
「え、え、え、ぇあううぁ……!」
きらり、
微笑む左門くん。
「とてもお似合いですよ」
!
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「うわぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああんっ!!!!」
僕は失神した。