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第1話 裏切りの超能力者 その一

 昼休みの時間つぶしの手段が確保できたことに安堵しながら、最初に彼の素性を知らないことには話にならないことに気づく。


 なら、まずはこちらから名乗るべきだろう。


「私は早乙女知里。入学早々に事故に遭ったせいで一週間休んでて。だから、まだ全然クラスメイトのこと知らないのよ」


 うむ、上出来。簡潔で明瞭、お手本のような自己紹介だ。


 そいて、彼の自己紹介だが……。





「俺の名前は堤大雅(つつみたいが)。さっきのはただの一人言だ。気にしないでくれ」


 またまた~。ホントは気にして欲しいくせに。


 しかし、なんとまあ、そっけない対応だろうか。これでは昼休みの時間を潰せない。教室にも戻り辛い。


 ここは何としても話を続けねば!



 幸い、こういう輩の扱いは心得ている。なんせ過去には自分自身が――いや、何でもないです。



 

 試しに、彼――堤へ揺さぶりを掛けてみよう。




「しかし、あの、"王神"の庇護下に置かれているなんて……。あなた、中々の大物ね」


 私の台詞を聞いた瞬間、彼の双眸は、まるで神でも見たかのように大きく見開かれた。


「王神の権力を知っている……? 君は何者なんだ!?」



 喰いついた!! 自分の領域テリトリーに合わせてもらえれば、こういう奴は好んで話し出すのだ。



「何者って言われても……。まあ、あなたの理解の範疇を超えた存在だと定義してもらっても構わないわよ」


 

 余裕ぶって、私は両手の平を上に向け、せせら笑っているようにも見える笑顔で答えた。


 私の飄々とした態度に警戒を抱いたのか、堤は、更に険しい顔になって問いかけた。


「……君の分類(カテゴリー)はなんだ?」


 何やら、またわワケの分からない単語を口から発した。


「分類?」

 

「王神の存在を知っておいて、知らない筈が無い。君は種別的に、どのような存在として分類されるのかと聞いている」


 う~ん。何て答えるのが理想的か、まだ情報不足かな。ここは、更に相手から情報を引き出さなければ。



「人に尋ねるなら、まず自分から話すのが筋じゃない? あなた自身がどんな分類か話すことくらい、それ程大きなデメリットにはならない筈よ」


 堤はかなり悩んだような顔を見せる。これで自分の妄想に浸った演技なのだから関心だ。



「俺の分類は"カテゴリー05"に位置される……」


 

 かなり切羽詰まった表情で述べてくれた。


 でも、正直、カテゴリーの五番目に分類されるのが、どれだけ凄いことなのか、さっぱり分からない。



 ところで、こういう場合の理想的な受け答えとは何だろう。たとえ、昼休みの時間潰しでも、出来るなら相手より優位な立場に立って会話の主導権を握ってみたいものである。


 相手が数字を言ったのなら、ここはインド人が産み出した、究極の概念を持ちだすしか無いだろう。


「ふ~ん。私の"分類"はカテゴリー00よ」


 ゼロ。それは少年の永遠の憧れである数字。如何にも強そうなイメージである。だが……。



「馬鹿な。王神の権力を知っている君が、一般人である筈が無い」



 あれ? どうやら、「カテゴリー00」なるモノは、無能力者の証らしい。これでは優位には立てない。


 ならば……!



「ふっ。少しだけからかってみただけよ。まあ、傍目からはそう映るように努力しているんだけれどね」


 などと、さも一般人へ憧憬を抱いているかのような口ぶりで話してみる。


 0が駄目。相手は5となれば私が答えるべきは6などでは無く……。


「カテゴリーXX(ダブルエックス)。"分類不能"に位置される、ヒトの領分を遥かに越えた"外域"の存在よ」



 おお、かなりそれっぽい。私の中には、まだ奇才なセンスが眠っていたらしい。


 と、自身の秘められた才能に関心していると……。




「……」



 堤大雅は呆然として立ちつくしていた。




XX(ダブルエックス)……。噂さえも殆ど聞かない、絶秘の事象が、何故こんな所に……?」


 私が引き当てたカードは、思いのほか、強力だったらしい。




 



 時計を見る。昼休みの時間は、まだ三十分はある。話を引き伸ばさなければ、教室の机に頭を突っ伏して残り時間をやり過ごす羽目になるだろう。それだけは避けたい。



 フリーズ状態に陥っている彼に再び話し掛ける。


「まあ私は言った通り、人類社会とは隔絶された、範疇外の者だから。あなたの悩みぐらいなら聞いてあげられると思うわ」


 ぶっちゃけ、男子高校生の妄想なんて、毛ほども聞きたいと思わないが。机突っ伏しの刑よりは数段マシだと思うしかない。


「ちなみに、私の力を確認する方法なんて無いわよ。なにせ、XXに判別される存在が何か事を起こすだけでも、日本列島が消し炭になる可能性があるもの」


 ただの妄想劇に確認もクソも無いとは思うが。若干ウソっぽくみえる気もするけれど、こう言っておいた方が面倒が無くて良い。

 

 堤の方を見る。



「君の言うとおりだ。XXに力を行使させるなど、それこそ地球の危機だ。確認など出来る筈も無いし、"こちらの世界"の住人で、自分のことを『XXにカテゴライズされる』などと吹聴する馬鹿が居る筈も無い。――それがどれだけ恐ろしいことか、知っているからだ」


 彼の言葉から推測されるに、つまり私の実態は「馬鹿」の二文字に形容される間抜けのようだが、彼の目には(妄想上とは言え)私のことを超常的存在として映っているようだった。


 そして、私の言葉を聞いた堤は、観念したかのように自分の身の上話を始めた。





「俺は、この世界を牛耳る"人類管理機構"直属の企業、リヴァート・インダストリーから脱走したARS(超能力者)だ。この世界を破滅に導く因果導体の如き能力を持った俺は、"奴ら"に利用されそうだったところを間一髪で抜け出し、現在は日本政府の庇護下に置かれている」


 



 ……。

 

 初っ端から大分トばしているなぁ……。


 RVT社と言えば、軍需産業のトップに君臨する、世界的に有名な重科学企業である。妄想に現実を混ぜ合わせることで、よりリアリティが増しているとでも思っているのだろうか。

 

 私の知る限り、RVTは、"ネジから戦闘機まで"を標榜する、北米資本の大企業だが、超能力者を研究しているなんて、都市伝説ですら聞いたことがない。


 だが、もしかしたらこのことを知っているのは、裏の世界の住人にとっては当然の話なのかもしれない。


「先程、君は"機構"について俺に尋ねてきたが……」 



 そういえば、そうやって話を切り出したんだった。


 私はさも、「知ってますよ~」みたいな態度で話を続行させることとする。



「も、もちろん知ってたわよ。ただ俗世の話を聞きだすために訊いた、ただの取っ掛かりに過ぎないわ」


 おお、上手く誤魔化せた。我ながら及第点の返答だったと思う。



「とにかく、あなたはそっち方面の人間なのね」


「その通りだ。奴らの計画に、俺の能力が組み込まれていたから脱走を企てた」


「計画?」


「この世界を滅ぼしかねない最大最悪のプロジェクトだ。アレが実行に移されれば、地球人類の総人口の半分が滅ぶ」


 また何とまあ……。結構壮大な陰謀論をぶちまけてくださった。




「だから、あなたは脱走したのね。そして、王神の庇護に入った……。そういうことね」


「そうだ。王神は政府内でも多くの権力を握る高級官僚だ。彼の元に下り、機構や企業の計画を明かした。昔から各国の政府は彼らと対立関係にあるから、奴はすぐに俺の境遇を理解した」


 ふむふむ。


「そして俺は政府と結びつきの強いこの学園に通うこととなったのだが……」


 だが?


「俺のことを未だに信用していない勢力が居る。古来より政府に所属する保守派層――魔術師だ」


 堤は話を続ける。


「彼らはこの学園にも存在する。人数も実態も、殆どが俺にとっては不明瞭だ。だが、その中でも一際厄介そうな者に目を付けられている」


 どうやら、俺は全く信用されていないらしい、と少しだけ目を伏せて、寂しそうな表情をした。


 その顔は、ただの厨二病的な演技として見るには、あまりに真に迫っていたように見える。




 しかし……。 


 超能力者だけじゃなく、魔術師も出てきた。彼の世界観には節操というものが無いのか。


 だが、ここで怖気づいては面白くない。私は彼の話に追従する。


「ふん。確かに、魔術師達はいつの世も頭が固い連中ばかりなのよね。私も昔は苦労させられたわ」


「君は、奴らとやり合ったことがあるのか!?」


 堤は身を乗り出す。近い近い。


「頼む。教えてくれ! 俺は一体どうしたら良い!?」


 切羽詰った声を出しながら、私の目を真っ直ぐに見つめる。いやぁ~照れるなあ。


 ま、妄想上の組織間内部抗争について考察するのはやぶさかではない。昼休みの間にそういう事を考えるのも、頭の体操になって良いかも。


 もう少しだけ付き合ってみますか。



「じゃあ、あなたを狙う魔術師について教えなさい。それが何者かで状況は変わってくる」


 さて、彼の設定では、一体どんな人間に狙われているのだろう?


「俺を狙う魔術師。それは……」




零神(りょうがみ)家第9分家一派出身、九重鈴(ここのえりん)。こちらの世界では、"爆撃の魔法使い"と呼ばれている」



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