執行者のメモ
朝はいつも通りだった。
しかし、僕の心には大きな変化があった。
死神が、ノートを持ってきてくれるなんて漫画の様な都合のいい事は起こらない。結局死神の役も、僕は自分でやらなければならないのだ。
昔、近所の誰かにもらった薄っぺらいノート。
これに、これからの犯行の段取りを記す。くれた人間も、まさかこんな事に使われようとは予想もしていなかっただろう。当たり前だ、ノートに書かれる内容など、未来など誰も先に知る事は出来ないのだ。
ノートの最初のぺージを開き、僕はシャーペンを握りしめる。
まずは、憎むべき、殺すべき人間を記すのだ。
その忘れられぬほど憎らしい奴らの名前を思い出しては、ガリガリとノートに刻みつけた。
思い出したくも無い名前達が、ノートを無駄に使わせ、縦に連なった。
8人。
確実に始末すべき人間は僕の頭の中には8人いた。
神谷 義男
竹中 聡
大村 一郎
本庄 隆氏
中川 十一
熊刈 雄三
実倉 今日子
そして、最後にあの医者だ。
あの医者の名前は、後で聞きだしてやる。
こいつらを殺すため、僕はあらゆる手を尽くす事にする。
まずは、そのための凶器、道具を探す事になるだろう。
こうやって、殺害計画を思案するのは、今はまるで、ゲームの様に気楽で楽しいものだった。人を苦しめようと考えるのは意外と負荷が無いものだ。この気楽さが、続くかどうかはわからない。しかし、僕はそれを止める事は無いだろう。死神は確実に対象を死に導くし、閻魔大王は確実に罪人の舌を抜く。それらの仕事と同じだと考えるのならば、止めてはいけない。施行して然るべき事は施行しなくてはならないのだ。
躊躇えば、僕はただ、漫然と光を失うだけなのだから。