非情な通告
壁を拳で叩き続けた。
手は内出血を起こし、腫れた。
叩くのにも疲れ、目を瞑った。
溢れ出るような感覚のうねりは、少しおさまった。
灰色の瞼の裏で僕は、またあの夢のような、夢であってほしいあの時の様子を思い出した。
思い出したくもない、それはまさに悪夢だった。
あの日。
病院で、人の心を持たぬような眼鏡の奥に機械の目を持つ男に告げられた病名は、「視神経急速劣化症候群」というものだった。目の神経が急速に壊死していき、最後には視力を完全に失うという。最近発見された珍しい病だから治療法は、まだないらしい。恐ろしく淡々と、恐ろしく業務的に、その白衣の男は僕に言った。数か月と言う、僕の視力が失われるまでの期限まで、まるで他人事のようにアイツは言ったのだ。
両親は、あの男に礼を言ったが、よく言えたものだと思う。普通だったら、アイツの首に縋り付いても治療方法を聞くべきだろうに? 所詮、あの両親にとって、俺はただのお荷物でしかないのだろう。ずっと、家に閉じこもり、勉強もろくにせず、大学にも行けなかった僕なのだ。
とにかく、あの日から、僕の世界は大きく影を落とした。
世の中にあるもののすべてが、人間のすべてが以前の何百倍も憎らしくなった。
なぜ僕だけが。
なぜ僕だけが視力を奪われる?
悪い人間ならいくらでもいるのに。
そういう人間を僕は知っているんだ。
それなのに、なぜ?
神様は、僕だけを苦しめるんだ!?
憎しみが再びこみ上げる。
眠りの世界の掛け橋の上で飛沫を上げるように。