闇の剣、折れて
夜の公園を、僕はフラフラと歩いていた。
町はずれにある上に電燈の一つもない公園だから、あたり一面は闇の霧に包まれ、ぼんやりとした存在たちが無言で立ち並ぶ。
古びた靴は雨上がりの土を噛みしめてギチッと言う気持ちの悪い音を鳴らした。僕はそれを聞いくと胸にこみ上げるカリカリとした熱と痛みを感じた。それは、まるで癇癪を起したようだった。将棋倒しで負けて罵倒され、将棋の駒をひっちらけたあの時のような、それ以上のような感情の高まりだ。
抑えきれない。
そんな僕の足に何かが当たる。
手を触れてみると、何かの棒が、地面に刺さっていた。
僕は、力いっぱいその棒を引き抜く。
いとも簡単に木のような感触を持つ棒は大地を離れた。
うぉぉぉおぉ!
棒を持った瞬間、その手に、憎しみの感情が集積していくのがわかる。
体は、40度の高熱でも纏ったかのように熱い。満月を見た狼男のように血が、滾るかんじだ。
世の中のすべてが憎くて、忌まわしい。壊してしまいたい。その気持ちのすべてを今どこかの何かにぶつけてしまいたかった。
うぉぉぉぉぉぉ!
僕は力いっぱい棒を地面に叩き付ける。
何度も何度も、先端がはじけ飛ぶまで叩き付けた。
うぉぉぉぉぉ!
死ね!
死ねぇっ!
闇でその姿の見えぬ棒が元の半分程の長さになったと悟っても、僕の中に煮えたぎるものは収まらなかった。最後は全力でその棒を投げ飛ばし、その場を何もなかったようにポケットに手を突っ込んで再びよろよろと歩き出した。
公園を出たころになって、急に亡くなった祖父の「物を大切にするように」という言葉が脳裏をよぎる。しかし、その言葉はまるで他人事のようで、麻酔のかかったような僕の脳をただ通り過ぎていくだけだった。