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奇妙な少年

 老人の様に白い髪に、血を連想する様な赤い瞳。髪が白いから老人かと思えば、その顔には皺やシミは無く、その顔だちから少年だという事がわかる。その容姿も奇妙なのだが、彼の着ている服も奇妙だった。全身を包み込む様な変わったデザインの青いマント。マントの中は黒の上下で統一している。服装だけ見ると、マントを纏っている事から騎士か貴族だと考えるのが普通なのだが、背負っているカゴを見るにそうではない事がわかる。

「ぼうず、何者だ?」

 アルガと呼ばれている男が少年に問いかける。アルガの疑問は、今此処にいる少年を除く者達全員の気持ちを表した物だった。

「そこの町の普通の住人だよ。」

 少年が当然の事の様に答える。確かに少年の答えた事は本当なのかもしれない。見た所旅人ではなさそうなので、本当に宿場町の住人なのだろう。だがアルガの発した問いはそういう答えを期待して、発せられた事ではない事は明らかだった。

「ぼうず、ふざけているのか?」

「ふざけてなどいない。俺は問われた問いに答えただけだ。俺はそこの町の普通の住人だからな。」

 そこ、と言いながら少年は宿場町を指さす。

「俺が訊きたいのはお前の素性だ。何故こんな所に武器も持たずにこの様な場所にいる。人里に近いとはいえ、この山には僅かだが魔物も出る。そんな所に丸腰でいるという時点で普通じゃない。」

 アルガの言う通り、少年は武器を持っている様には見えなかった。この状況を見て、武器も持たずに堂々と出てくるような少年が、普通の町民である筈が無い。

「そんな事よりもさ。俺は薬草が欲しいだけなんだよ。薬草を採ったら俺立ち去るからさ。そこ除けてくれ。」

 少年は面倒臭くなったのか、少女と少女を組み敷いているエンスの方を指さしながら、一方的に都合を告げる。

 一瞬アルガがハインの方を見て目で合図を送る。

「ぼうず、本は読むか?王道の冒険物の小説だ。」

突然アルガが少年に対し謎の質問をする。

「まあ、嗜む程度には。」

少年が答える。

「そういう本には、今の俺達の様な状況が出てくるらしい。」

「成程ね。刺客が要人を殺そうとしている場面を目撃した者がいた場合、刺客は目撃者を殺すのが当たり前。そんでもって、今の俺の立場はその目撃者というわけか。」

少年がアルガの言葉に含まれた事を理解する。

「そういう事だぼうず。お前が何者かは知らんが、見られた以上死んでもらう。」

アルガが言葉を言い終えた時、アルガが右手を上げハインに合図をだす。その合図とほぼ同時にハインが懐から投擲用ナイフを取り出し、少年に向かって投げつける。アイコンタクトだけで意思を疎通する彼等の技量は、訓練された暗殺者のそれだった。高速で投げつけられたナイフが、少年の喉に向かって吸い込まれる様に飛んでいく。そして少年は、それを左手の人指(・・)し(・)()と(・)中指(・・)で挟んで受け止めた。

「良い腕してるね。」

少年は慌てた様子も無く、平然とそんな事を言ってのける。

「くそっ!」

 ハインは悪態を吐きながら、やや慌てた様子で二本目の投げナイフを投擲する。しかし少年は、同じ方法で右手で投擲されたナイフを受け止める。

「このっ!」

三本目のナイフを投擲しようと、ハインが懐に左手を入れた時、少年は受け止めたナイフの一本を、己の懐に向かって手を突っ込んでいるハインに向かって投擲。ハインの左手に少年の投擲したナイフが突き刺さる。

「まじかよ…」

少女の事を組み敷いているエンスが、思わず呟く。そしてその呟きを聞いた少女も同じ気持ちだった。

「ハイン!下がっていろ。エンスはそのままで待機。ライバー二人掛かりだ!一気にたたみ掛けるぞ。」

やや慌てた様子のアルガが、部下たちに指示をだす。その指示に従いハインは後ろに下がり、ライバーと呼ばれた男とアルガが、腰に差してある鞘から短剣を抜きながら、少年に向かって肉薄する。

アルガは少年を短剣の間合いに捉えると、喉元に向かって短剣を一閃する。しかし少年は、僅かばかり後ろに下がってそれを避けると同時に、空振るアルガの右手を、短剣を振りぬく方向に向かって軽く押しだす。予想外の力が加わった事により、アルガは一瞬だが体勢を崩されてしまう。そして少年はその一瞬でアルガを、後続のライバーに向かって蹴り飛ばす。ライバーは蹴り飛ばされたアルガを受け止めるか、それとも飛んでくるアルガを避け少年を殺すのを優先するか、一瞬判断に迷うが少年を殺すのを優先し、飛んでくるアルガを避けると少年に向かって肉薄する。アルガが木に叩きつけられた音を聞きながら、ライバーは短剣を、少年の顔に向かって突き出す。ライバーは少年が後ろに下がって避けるか、頭を左右どちらかに傾けて避けると予想していた。故に少年が体を傾けながら前進して避けるという行動に対処できなかった。カウンターの要領で少年が繰り出した掌底がライバーの顔面にパーンという小気味良い音ともにクリーンヒットする。少年の一撃を受け、ライバーが少年の足元にドサッと崩れ落ちた。

「で、あんたらはどうするの?」

 少年はハインとエンスの二人に告げる。その言葉を聞いたハインは立ちあがると自由に動かせる右手で腰に差してある短剣を鞘から引き抜く。エンスは短剣を引き抜くと組み敷いている少女の喉元に短剣を突き付ける。

「動けばコイツを殺す。」

どうやら少女を人質にして、少年の行動を封じようという魂胆のようだ。少年が少女の事を見る。その瞬間少年に向かって、ハインが短剣を腰だめにして突っ込んでいく。

「待て!」

 突如ハインを制止する叫び声が場に響く。声がした方を見ると、木に叩きつけられたアルガがよろめきながら立ち上がっている所だった。

「ハイン武器を降ろせ。」

アルガの突然の指示に戸惑いながらも、ハインは指示に従い武器を鞘に収める。

「おいアルガ、なんでハインを止めたんだよ?この娘を人質だとわからせてやれば、このガキを殺れるかもしれないだろ。」

 アルガの指示に疑問を持ったエンスが、アルガに食ってかかる。

「エンスこのガキが、小娘を助けたいと思うはずがないとわかるだろう。その小娘の耳と髪を見れば。」

 その少女の耳の先は尖っていた。その少女の髪は金色だった。尖った耳に金色の髪はこの世界では迫害されているエルフという種族の象徴だった。


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