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輪廻-リンネ-

作者: 結城陸空




 太古の昔より伝わる悪き者。人は災いや病を目に見えぬ者の所為とした。それを人はあやかしと呼び恐れた。妖は人が創り出し、そして全ての罪を被せる者。やがてそれは現実となり、いつしか妖は己が使命に刻を費やし、それが存在理由となった。


 数多の妖の中には人に災いをもたらす者もいれば、人に幸をもたらすものもいる。


 ――この妖は人の罪を裁き続ける妖。その妖の名はリンネ。万死にも値するほどの大罪を犯した者を永遠に裁き続ける妖。






『先日○○県で起きた、連続殺人事件の犯人は今だ捕まっておりません。犯人は以前逃亡中であり、新たな事件も起きています。至上稀に見る連続殺人に警戒してください』

 テレビでは連日に渡り殺人事件の放送が成されている。至上稀に見る数の人間がわずか十日の間に無残に殺され、証拠も残さない手口から警察の捜査は難航。今だ犯人の特定には至っていない。今世紀最大の事件だの精神異常者の犯行だのテレビでは言ってはいるが、結局の所誰も本当のことを分かっていない。犯人の性別も、今どこで潜伏しているのかも。だから僕ら一般の人間は日々そういうことに怯えながら生活をするしかない。

『僅か七日の間にこれだけの数の人間が殺された訳ですが、先生はこの犯人の特徴をどう見ますか?』

『そうですね。一種の猟奇的犯行。しかもこれだけの数の人間を平然と殺すことが出来るという観点から見て犯人は、純粋に己の感情に従っていると思います』

『純粋な感情……ですか?』

『そうです。普通人は人を殺すとき、心に迷いが生じる者です。だから、殺された人の身体になにかしらそういった証拠が残るものなんですが、今回の場合はそれがまったくない。つまり犯人は自分の欲求に素直に従っている訳です。恐らく我々が睡眠や食事を摂るのと何ら変わらない状況でしょう』

『つまり異常性癖ということですか?』

『一言で言えばそういうことですね』

 最近のテレビは恐ろしいことを言うようになった。異常性癖だのなんだの。世の中には僕たちが想像もつかない人間がいるものだ。人はほんとに自分勝手だと思う。自分の欲を満たす為にはどんな犠牲だって厭わない。それが例え相手の人生を終わらせることになろうとも。だってそれが一番の楽しみなんだから。自分の放ったたった一突きであるいは一切で他人の人生を終わらせることが出来るんだから。これほど支配欲を掻き立てられることはない。

「今日はどんな獲物がいるかな。今日は小さな女の子がいいかな」

 僕は夜の町に繰り出した。

 

 夜の街はどれだけ法治国家でも無法に近い。ちょっと暗い路地に入れば誰にも目撃されることもなく、獲物が断末魔を上げることなく殺すことが出来る。目的の女の子がなかなか見つからないのは残念だけど。仕方ないな今日は大人の女で我慢するか。

 僕は薄暗い路地で待機する。すると今日も一人の女性が歩いてきた。会社の帰りだろうか少し疲れ目で歩いている。僕は女性の背後に回り込むと後ろから頚動脈を切り裂いた。女性の首からは真っ赤な鮮血が吹き出し、力なく地面に倒れこんだ。これだ。これが堪らない。恐らくこの女性は帰ったら彼氏と電話しようとか、録画していたドラマを見ようとか、おいしいワインを飲もうとか、休日にはどこどこに出かけようとか考えていたはずだ。将来はどんな老後を過ごすんだろうとか考えていたはずだ。でもそれが全て無駄になった。今、僕はこの女性の人生を完全に支配した。これほどの快感が、この世にあるだろうか。これだから止められない。これだから殺したくなる。湧き上がる熱いものを抑え、証拠が残らぬようにすぐさまその場を去る。


 急いで帰宅。だが、心の内は笑いが止まらない。嬉し過ぎて最高だ。だからなのか周りが見えていなかった。僕は道路に飛び出した瞬間に車に跳ねられた。一瞬にして意識が消え、真っ暗となった。




『先日○○県で起きた、連続殺人事件の犯人は今だ捕まっておりません。犯人は以前逃亡中であり、新たな事件も起きています。至上稀に見る連続殺人に警戒してください』

 目覚めた時、僕は自分の部屋にいた。部屋と言っても仮住まいだが今さっきの光景は夢だったのか。轢かれた瞬間に味わった強烈な激痛が消えている。ということは女性を殺したのも夢だったのか。そう思うと無性に人を殺したくなってきた。僕は夜の街へと繰り出した。今日の獲物は小さな女の子がいいんだが、見つからない気がしたので大人の女性で我慢することにした。僕は薄暗い路地に身を潜める。すると女性が一人歩いてきた。会社の帰りだろうか疲れ目で歩いている。僕は女性の背後に回り込むと後ろから頚動脈を切り裂いた。女性の首からは真っ赤な鮮血が吹き出し、力なく地面に倒れこんだ。これだ。これが堪らない。恐らくこの女性は帰ったら彼氏とメールしようとか、録画していたバラエティー番組を見ようとか、おいしいお酒を飲もうとか、休日にはどこどこに出かけようとか考えていたはずだ。将来はどんな老後を過ごすんだろうとか考えていたはずだ。でもそれが全て無駄になった。今、僕はこの女性の人生を完全に支配した。これほどの快感が、この世にあるだろうか。これだから止められない。これだから殺したくなる。湧き上がる熱いものを抑え、証拠が残らぬようにすぐさまその場を去る。


 急いで帰宅。だが、心の内は笑いが止まらない。嬉し過ぎて最高だ。だからなのか周りが見えていなかった。他の人の静止が耳に入らなかったんだ。気がつくと工事用の資材が僕の身体を押しつぶしていた。一瞬にして意識が消え、真っ暗となった。





『先日○○県で起きた、連続殺人事件の犯人は今だ捕まっておりません。犯人は以前逃亡中であり、新たな事件も起きています。至上稀に見る連続殺人に警戒してください』

 目覚めた時、僕は仮住まいにいた。轢かれて潰された僕は再び部屋に。やはり先ほどの激痛も消えている。人を殺したい衝動も残っている。何が起きているのか分からない。けど何かが起きている。僕は何度も繰り返しているんだ。この瞬間を。そう思えた。そう思った瞬間部屋に気配を感じた。僕は部屋を見渡す。すると部屋の壁に黒い影を見た。それは、人の形をしていた。存在に気がつくと影は徐々に露となる。


 それは着物を着た女性だった。髪は黒く長く肌は白く。まるで、人形のような風貌。ただとても人間には見えなかった。それはなんの感情もなさそうな目で僕をジッと見つめている。僕は恐怖を感じていたが、勇気を出して問うた。

「誰だ。アンタは?」

「……私はリンネ」

「リンネ? 名前なんてどうでもいい。なんで俺の部屋にいるんだ?」

「私はただあなたを見ているだけ。それが私に出来る唯一のこと」

「見てる? 何を言っているんだ。気持ちが悪い。すぐに出て行け出て行かないと殺すぞ」

「やればいい。無駄だから。もう何度試したことか」

「どういうことだ?」

「あなたは忘れてしまうんだね。もうあなたは九十八億五千六十四回死んでいるのに」

 僕が死んでいる。その女がいう意味の分からないことに僕は困惑した。僕はここに確かにいるし、しっかりとテレビでも連日僕のことを報道している。これは現実だ。そう思い僕はテレビを見た。

『先日○○県で起きた、連続殺人事件の犯人は今だ捕まっておりません。犯人は以前逃亡中であり、新たな事件も起きています。至上稀に見る連続殺人に警戒してください』

『先日○○県で起きた、連続殺人事件の犯人は今だ捕まっておりません。犯人は以前逃亡中であり、新たな事件も起きています。至上稀に見る連続殺人に警戒してください』

『先日○○県で起きた、連続殺人事件の犯人は今だ捕まっておりません。犯人は以前逃亡中であり、新たな事件も起きています。至上稀に見る連続殺人に警戒してください』

『先日○○県で起きた、連続殺人事件の犯人は今だ捕まっておりません。犯人は以前逃亡中であり、新たな事件も起きています。至上稀に見る連続殺人に警戒してください』

『先日○○県で起きた、連続殺人事件の犯人は今だ捕まっておりません。犯人は以前逃亡中であり、新たな事件も起きています。至上稀に見る連続殺人に警戒してください』



 意味もなく繰り返されるテレビを見て僕は恐怖に慄いた。僕は再び女性のほうを見た。女性は無言でただ見つめている。止めろ。僕はもう死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。


「無駄よ。あなたの罪は万死に値する」


 男は戦慄する。そして、男は何度も何度も何度も同じ感情を繰り返していた。死にたくない。この感情ももう何度思っているのだろうか。もう何度忘れて、何度気がついて、何度恐怖を味わって、何度死にたくないと思ったのだろう。永遠に繰り返される刻。だが男は忘れる。何度も忘れる。何度も何度も何度も何度も忘れる。男が永遠に縛られ続けている間。永遠に刻は終わらない。終わらないから永遠であり、永遠に終わりはない。



 そして、ただ見つめるしかない妖。リンネ。彼女は忘れない。永遠に永遠の時を過ごさなければならない。ただ男の死の繰り返しを永遠にただ見ているだけ。それがリンネの役割。永遠に縛り付けられた妖。彼女は人が消えても、恨みが消えても、何が起きても永遠に永遠であり、永遠の命と共に永遠に縛り続けられる。永遠に永遠は終わらない。


 彼女は数多の妖の中でも、最も悲しき妖である。



 彼女自身も人の恨みや恐怖から生み出された最も罪深き妖。


 そして、いつかの人が付けた名前。彼女からの名前を取ってこう呼ばれる。人が生まれ変わり永遠の時を過ごすことを輪廻転生りんねてんせいと。

読んで頂きありがとうございます。

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