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創作の悩み

作者: 雉白書屋
掲載日:2025/10/22

 神は死んだ。

 そう言わざるを得ない。おれは宗教家でも哲学者でもなく、ただのアマチュア作家に過ぎない。だが、そう断言していいだろう。少なくとも、創造主はこの世界にいないのだから。


 作家という職業が絶滅危惧種になって久しい。理由は単純だ。もう新しい物語を生み出せなくなったからだ。科学が進歩し、不老不死や異星人との交流が現実のものとなった現代において、もはやそれらは、目新しくも驚きでもないのである。人類が長らく夢見てきた『空想』は、現実の手によってことごとく回収され、創作の種は根こそぎ奪われてしまった。

 それどころか、今の世の中は何を書いてもクレームが飛んでくる。

 たとえば、異星人を侵略者として描けば「異星文化に対する無理解と偏見だ」とSNSで一斉に叩かれる。最悪の場合、異星人庁(異星人文化交流庁)から直接、警告文が届く。

 不老不死を悲劇――愛する人と共に老いて死ねないという使い古された――として描けば「長寿者への差別的偏見だ」と糾弾される。


 ああ、昔の人間なら笑いながらこう言っただろう。「じゃあ、透明人間や狼男、吸血鬼でも書けばいいじゃないか」と。

 だが、それも不可能だ。狼男も吸血鬼も、半魚人まで実在するのだから。正確には、それらに酷似した特徴を持つ異星人だ。

 透明人間もいる。化学薬品工場の爆発事故で誕生した『被害者』たちだ。一つの街の住人全員が透明化し、今も政府を相手に訴訟を続けている。もし透明人間を悪役に描こうものなら、透明人間団体から「我々の姿が見えないことを犯罪に結びつける偏見を助長している」とすぐさま抗議されるのは目に見えている。

 では、幽霊ならどうか。死んでいるのだから自由に描いても許されるだろう――いいや、その考えも甘い。ある時期から「死者の人権を無視するのはおかしい」という声が高まり始めたのだ。それまで散々、マスコミが生前のSNSや卒業アルバムを好き勝手に使ってきたことへの反動だろう。ただ、そのマスコミが今では「死者の尊厳を傷つけることは、たとえ創作であっても許されるべきではない」と声高に批判する側へ回っているのは、さすがと言うべきか。


 こうして創作は萎縮し、今や書店の棚に並ぶのは自己啓発本や事実を淡々と並べただけのドキュメントばかり。物語という幻想は息絶えかけている。

 “人間が想像できるものはすべて実現可能である”――そんな言葉がある。だが裏を返せば、我々の想像力は“現実に可能なもの”という檻に閉じ込められているということではないか。

 タイムトラベルに至っては実現の兆しを見せた途端に各国が協議を重ね、「時空改変のリスクが高すぎる」として即座に禁止された。物語にタイムマシンを登場させるだけで、危険思想の持ち主として逮捕されかねない。

 アンドロイドには人権が与えられ、ドラゴンは他惑星の絶滅危惧種。エルフ、ゴブリン、ドワーフ、悪魔、天使――それらはすべて似た姿を持つ異星人として現実に存在している。もう打つ手なしだ。


 ならば、普通の人間を悪役にするのはどうか。不老不死手術も改造手術もまったく受けていない、生身のままの人間を。いや、むしろ連中が最も厄介だ。自然主義団体のロビー活動は凄まじく、実におぞましい。連中に睨まれたら、まさに一巻の終わりである。


 ああ……考えるだけで憂鬱になる。だが、こんな嘆きはネタにもならない。

 おれはベッドに身を投げ、惰性のままテレビをつけた。案の定、流れてくるのは退屈なニュースばかり。“事実”ばかりを並べ立てた、血の通わぬ報道だ。


 ……おっ?


 おれは身を起こし、画面に目を凝らした。どうやら、新たに知的生命体が存在する惑星が発見されたらしい。とはいえ、どうせまたどこかで見かけたような種族に違いあるまい……ほうほう、へえ……『チキュウ』というのか。そこの住人たちは異星人を差別的に描いたり、倫理も気にせずやりたい放題創作しているという。未熟で野蛮、そして極めて危険な文化であるらしい。

 これはいい……。これなら、宇宙連盟への加盟はまだまだ先の話に違いない。

 おお、なんだかアイデアが降りてきたぞ。はははははは!

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