演劇部長と生意気部員
「『なぁ、奈々子。俺、生きてる意味ないのかな?』」
「っ……」
「……ねぇ!君は劇をしに来たんだよね!?」
「先輩、うるさいですよ」
「君のせいだよ!?さっきからずっとこの調子!何なんだよ!」
俺は奏多。
この演劇部の部長の三年生だ。
三年生の部員は他にもいるが、全員幽霊部員だ。
このメガネをかけて、髪を一つまとめにしてるクソ生意気な奴は世奈。
新一年生だ。
演劇部は比較的に人気がなくて、俺と世奈の他にはマジの幽霊部員しかいない。
入ってくれたのは嬉しいけど、ちゃんと立ち稽古をしてくれない。
とにかくセリフを言わないことが多い。
「セリフを言わないなんて以ての外だ!」
「ぎゃあぎゃあうるさいですよ先輩。私、うるさい人嫌いです」
俺のこめかみ辺りで血管が鳴った。
俺は荷物の中からとある紙を取り出した。
不思議そうな顔で俺を見ている世奈に、その紙を渡した。
「退部届……?」
「やる気がないやつにこの部活にいて欲しくない」
「それは他の人も同じじゃ……」
「お前は……!お前はちゃんと出席してくれている。それだけで嬉しかった。でも……。少しは真面目にやってくれよ……」
「……」
世奈は俯いて、退部届を見つめた。
そして退部届を破いた。
そりゃもうビリビリに。
「やめませんよ?夏にある地域発表で賞を取りたいんでしょう?一人じゃできませんよ?」
「……」
なんなんだよ。
真面目に劇もやらないくせに、賞を取るのを手伝うなんて。
「勝手にしろ」
俺はそれだけ言い、荷物を持って部室を出た。
劇に真剣なのは俺だけなのかな。
幽霊部員も来ない、世奈はちゃんとやらない。
俺が無能なだけか?
俺は歩道橋の上で大きなため息をついた。
◇◆◇
それから俺と世奈は何度も立ち稽古をした。
世奈も俺がブチ切れたことを察したのか、次の日からは演技以外なら一応ちゃんとやるようになった。
「ここはこっち側にいた方がいいかもな。それで、この道具は……」
「こっちですか?」
「そう」
指示もちゃんと聞くようになった。
ちょっと嫌そうな顔をしてくるけど。
「『もう疲れたんだよ。生きることに』」
「『疲れても生きてよ。私はそれを望んでる』」
「『エゴはいいんだよ』」
「『エゴじゃない』」
世奈は棒読みだった。
演技ができないわけじゃないこと知っている。
なんなら上手い。
なのに、世奈は真面目にやらない。
どうして何だろうか。
地域発表の日までにはちゃんとやってくれるようになるといいけど……。
◇◆◇
迎えた地域発表の日。
世奈は会場に来なかった。
結局、俺は棄権した。
他の学校の劇を見て、他の学校が表彰されているのを見て終わった。
最初で最後の地域発表は、地獄のような気分だった。
泣いたよ。
そりゃあ盛大に。
悔しくて悔しくて。
当日にドタキャンなんてあるか?
男が泣くな。
そう言われるかもしれない。
でも、それだけ悲しかった。
せめて、最後の晴れ舞台は明るいものであって欲しかった。
結局それから世奈には会わないまま俺は引退。
部長の座を世奈に明け渡した。
◇◆◇
「次は、演劇部の発表です」
トイレに逃げ込もうと思った。
今は文化祭。
発表ではそりゃあ演劇部も出る。
どうせ世奈しかやる人がいないんだし、やれるはずないのに。
「『こーんにっちわ!私の名前は〜!ダンゴ・ムッシオ!よろしくね!ちなみにダンゴ・ムシオっていうのは偽名だよ?そんな名前の人がいたらやばいよ?』」
「……え?」
世奈の声が聞こえた。
一人でやれるとでも言うのか?
俺は顔を上げた。
そこには世奈がいた。
「……っ!」
世奈はセリフをちゃんと感情を込めて言い、人を笑わせた。
そして、劇が終わった。
周りの人達は、ツボっていたり、涙が出るほど笑った人もいた。
劇が終わった後に、毎年やるインタビューと自分語りの時間がやって来た。
「この劇はお一人でやられていましたね。他に部員はいないんですか?」
「いますけど、全員幽霊部員です。ちゃんと部活に出て欲しいんですけど、来ないんですよね。名前読み上げたりしていいですか?」
「あはははは……」
ボケなのか本気なのか分からないことを言った世奈に、司会者は乾いた笑いをした。
世奈は半年前と変わっていなかった。
安心したような気がするのは気のせいだ。
色々インタビューが終わって、自分語りの時間が来た。
ちょっと心配だ。
「半年前、演劇部には真面目に演劇をやろうとしている先輩がいました。私、正直その人と話す時間が好きでした。最初は二人でしっかり劇をやって、たくさん打ち合わせもしました。でも、地域発表が近づくにつれ、私は根を詰めすぎて喉を壊しました。先輩に心配かけまいと無理をしたら、感情演技ができない程になってしまいました。何とか地域発表までには直りましたが、病院でインフルエンザをもらって来て、結局地域発表には出られませんでした。先輩は私を恨んでいるかもしれません。この話も嘘だと思うかもしれません。しかし、私はそれで構いません。嫌われていてもいいです。ただ、これだけ覚えてください。私は演劇に本気です。以上です。貴重なお時間をありがとうございました」
大きな拍手が起こった。
そう……。
だったんだ。
俺は立ち上がった。
「奏多?」
そして、クラスメイトの前を通って通路に出た。
そこからは全力で舞台の出入り口に行った。
世奈に会いたかった。
誤解したことを謝りたかった。
俺のために頑張ってた世奈に俺は……。
俺は退部届を渡して辞めろと言ってしまった。
謝りたい。
謝りたい。
舞台の出入り口のドアを乱暴に開けた。
そして、この奥で先生と話す世奈の手を掴んだ。
世奈は目を大きく見開いて俺を見ていた。
「せ……世奈……」
「先輩?どうしたんですか?」
「ごめん!誤解して……!退部届……を……渡して……」
言葉が途切れる途切れになりつつ、謝罪を述べた。
世奈は俺の背中を優しく叩いた。
「落ち着いてください先輩。私は気にしてませんよ。そもそも、私が悪いんですから」
「でも……!俺があんなこと言ったから……!」
「『この発表会で賞を取るのが夢だ』と言ったことですか?私はそれに加担したくて入部したんです。結果的に先輩の邪魔になっていましたけどね」
世奈はどう言う感情で言っているんだろうか。
いや、どうでもいい。
とにかく俺は世奈にお礼を言いたい。
「世奈」
「はい」
「ありがとう、俺のために頑張ってくれて」
世奈は照れたように笑った。
これが、長くすれ違い、誤解をし続けた俺と世奈の仲直りのようなものだった。
◇◆◇
「今日は新入生が来るんだってさ」
「へー、今年はどんな一年生が来るのかな〜」
「楽しみだな〜」
俺はあの後、受験で合格して演劇部のある高校に進学した。
そして、今は三年生になり、幽霊部員のいない演劇部の部長をしている。
台本を受け取るたび、世奈が今どうしているかが気になる。
部長としてちゃんとやれたんだろうか。
「よう!奏多!」
「いった……」
クラスメイトの加那太が俺の肩を思いっきり叩いて来た。
加那太は俺と名前が同じことから仲良くなった。
「聞いたか!?一年生に絶世の美女と言われてもいいくらい美人な女子がいるらしいぞ!」
「興味ねぇわ」
加那太は案外しょうもない情報を持って来た。
俺は美女とかには興味がない。
「ハンド部にこねぇかな〜」
「ないな。入ったとしても女ハンだろ?お前と接点ねぇよ」
「え〜。あ、一限と二限で、部長や副部長は一年と部活紹介と顔合わせだってよ。一緒に行こうぜ」
そういえばそんなこと言ってたな。
まぁ、一緒に行く人いないしいいか。
「そうだな。もうすぐだし、体育館行くか」
「やだぁ〜。今日なんだかノリいいじゃな〜い」
加那太は俺に抱きついて来た。
こいつ平気でこう言うことしてくるよな。
「キモい。離れろ」
結局離すことかできなかった俺は、そのまま体育館に行くことになった。
一年からの視線が痛い。
「あ、あの」
ん?
俺は話しかけて来た女子を見た。
知り合い……。
ではなさそうだな。
しかしこの顔……。
どっかで見たような……。
「ん?あぁぁぁぁああ!」
「加那太うるさい」
「奏多!この子!噂の子だよ!!何!?ハンド部に興味あるの!?」
「いえ、ないです」
バッサリ切り捨てられた加那太はひどく落ち込んでいる。
まぁ、ないでしょうね。
「迷子?」
「いいえ。挨拶をと思いまして」
挨拶?
先輩一人一人に挨拶しているのか?
律儀だな。
「お久しぶりですね、奏多先輩」
「俺?」
「はい」
こんな子知り合いにいたかな。
思い出せない。
こんな美形、知ってたら絶対覚えてるのに。
「うーん、こうすれば分かります?」
新入生はポケットから見覚えのあるメガネを取り出してかけた。
そして、おろしていた髪を掴んでひとまとめにした。
その顔には見覚えがあった。
「世奈?」
「はい、世奈です。また先輩の後輩になります。よろしくお願いします」
世奈は微笑んだ。
それに、俺は心の底からの喜びを笑顔という方法で世奈に表した。
これから、またクソ生意気な後輩との一年がはじまる。
いや、一年どころじゃない付き合いが始まる。
俺が世奈に告ったのは、また別の話。
みなさんこんにちは春咲菜花です!初めての短編を書いてみました!うまく投稿できているのか心配ですが、これは短編です!この短編に込めた思い……。ですか?それは、愛……。ですかね……?はい、嘘です!そんなことはありません(笑)!この作品では頑張りすぎるのは良くないという思いを込めています。この作品がいいなって思ってくれたらリアクション、ブクマ、グッド、レビュー、感想をよろしくお願いします。それではみなさん、ご閲覧いただきありがとございました!!




