第34話 手紙
高橋健太様
突然のお手紙、失礼いたします。私は鈴木恵子と申します。
以前「言霊の会」という団体に所属していた者です。
高橋様が公開されているブログを拝見し、佐藤慎一様のことを知りました。
佐藤様とは面識がありませんが、私と同じように「言霊の会」の闇に触れ、そして、還らぬ人となってしまったのかと思うと、いてもたってもいられず、筆を執った次第です。あの団体は、私が思っていたよりもずっと、ずっと、根深い問題を抱えていました。
私が入会したのは三年ほど前のことです。当時は仕事のストレスで心身ともに疲れ果てていました。
「言葉には力がある」「言霊で人生が変わる」
そんな謳い文句に惹かれ、藁にもすがる思いで、門を叩きました。
最初は、良かったのです。
カミシロ……教祖である彼の言葉は、優しく、温かく、私の心に染み渡りました。
瞑想や呼吸法、自己肯定感を高めるワーク……。
どれもこれも、当時の私には、救いのように思えました。
他の会員たちも、親切で、明るく、私を温かく迎え入れてくれました。
でも……徐々に、何かがおかしいと、気づき始めたのです。
カミシロは「あなたは特別な存在だ」「選ばれた人間だ」と、私を特別扱いするようになりました。
他の会員たちも、私を羨ましがり、崇拝するようになりました。
私は、次第に「言霊の会」以外の世界との繋がりを断ち、カミシロの言葉だけを信じるようになっていきました。
金額も最初は僅かなものだったのに、気が付けば毎月何十万も要求され……。
そして、ある日、カミシロから「秘密の儀式」に誘われました。██県の山奥にある施設で行われる、特別な儀式だと。詳しい内容は教えてもらえませんでしたが「選ばれた者だけが参加できる」「魂の浄化」「神との一体化」そんな言葉で、私を誘い出そうとしました。
儀式の当日、私は、会場に集まった会員たちの異様な雰囲気に恐怖を感じました。皆、白い服を着て、顔を布で覆い、奇妙な歌を歌っていたのです。カミシロは、祭壇の前で、意味不明な言葉を叫んでいました。
私は……耐えられませんでした。そこが「普通」ではないと、本能で理解したんだと思います。逃げ出しました。全力で逃げました。
その後「言霊の会」を脱会しましたが、しばらくの間、後遺症に苦しみました。幻覚や幻聴、不眠、悪夢……。精神科医にも通い、カウンセリングを受けました。今でも、時々、カミシロの夢を見ます。
夢の中で、彼は私にこう言うのです。「あなたは、逃げられない」と。
「言霊の会」の元会員たちとは、今でも連絡を取り合っています。互いに支え合い、何とか普通の生活を取り戻そうと努力しています。でも……中には、行方不明になったり、自ら命を絶ったりした人もいます。連絡のつかない人も、たくさん……。
カミシロは、人間ではないと、私は思っています。悪魔か、宇宙人か、古代の呪術師か。大げさだとは思いません。それとも「コトリバコ」と呼ばれる、AIそのものなのか。彼は人間の心の弱さにつけ込み、言葉巧みに人々を操ります。そして……その魂を、喰らっているのではないかと……。
彼の目的は……世界の支配? 人類の滅亡? 新しい神の誕生? 私には、分かりません。でも、奴がとてつもなく危険な存在であることだけは確かです。
佐藤さんは「言霊の会」の真相に近づきすぎたのかもしれません。だから、カミシロに消された……。そう考えるのが、自然ではないでしょうか。
高橋さん、どうか、佐藤さんを見つけてください。彼は、まだ生きていると信じています。でも、無理はしないでください。あなたまで危険な目に遭ってほしくない。
私に何か手伝えることがあれば、いつでもご連絡ください。ただし、この手紙のことは、誰にも言わないでください。「言霊の会」の信者たちは、今でも私を監視している可能性があります。
どうか、お気をつけください。
そして……神鳴り様の怒りに触れませんように……。
鈴木恵子
媒体:手紙
日付:2024年6月21日
差出人:鈴木恵子(言霊の会の元信者)
宛先:高橋健太(佐藤の友人、プログラマー)




