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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

n親等の双子

作者: HORA

僕は双子の弟として生を受けた。そして間もなく…その人生の幕を閉じようとしている。

僕が袋小路(ふくろこうじ)に迷い込み出られなくなる話を最期に聞いて欲しい。



双子の兄とは着る服、遊ぶおもちゃ、寝るベッドがいつも一緒。仲良く育ったのだが2人は容姿がまるで似ていなかった。

母いわく「双子と言っても二卵性だからね。二卵性の双子だと兄弟と同じでそこまで顔は似ないのよ。男女になることもあるしね。」

兄弟が一緒の保育器の中にいる赤ん坊の頃の写真。そのそばで嬉しそうにピースしている父と母の写真も残っているので双子であることには疑いが無い。

成長するにつれて兄は父に似ていくが、僕は逆に父と似ている部分を探す方が難しい程。ただそれが幸いとなったのか双子というよりは仲の良い友人のような感覚で幼少期・青年期を兄と過ごすことができていた。


高校3年生の時に契機(けいき)が訪れる。高校からの帰り道はいつも兄と一緒に帰っていた。その日、横断歩道の手前で僕はうっかり財布を落としてしまう。兄は横断歩道を渡りきったところで振り返り、僕が遅れていることに気づき声を掛けてきた。

「あれ?どしたー?」

「財布落としちゃって…ごめーん!拾ってたら青信号渡れなかったー」

「そっかー」

と道路ごしにやり取りをしていた。

すると突然、暴走したトラックが兄のいる歩道へ乗り上げ、あっという間に目の前で兄がトラックにはねられたのだ。

「うわ”あぁぁぁぁぁぁ!!!!」

僕は大音声(だいおんじょう)で叫びながら兄に駆け寄る。兄は地面に強く打ち付けられピクリとも動かない。血溜(ちだ)まりが出来ている。僕はすぐに救急車を呼び、兄は病院に緊急搬送される。僕は病院で医者にすがりつく。

「兄を助けて下さい!!僕の血はいくら抜いてもらっても構いません!!」「ダメッ!!!!」

母が後ろから大きな声で僕を制止した。両親も病院に駆けつけてきた。そして母が言う。

「輸血が必要なら私とお父さんの血をお願いします!」

「はい。お母さん、お父さん。現在О型の血液が不足していますので献血をお願いします。」

僕達の家族はО型家族であり、両親、兄、僕は全員О型である。

「だったらなおさら僕の血液も必要になってくるよね!?お医者さん!お願いします!」



  …兄は夜半に息を引き取った。



僕は輸血としての血液を提供することができなかった。母が止めるのを振り切り、献血をしてもらったのだが僕の血液型はB型であったのだ。О型である兄に輸血することは不可能であった。

僕が母の子であることは間違いないのだろう。しかし、父がО型であるのでB型の僕は産まれないはず…。


…母は、、、父に隠れて浮気をしていたのだ。

浮気相手は血液にB型抗体を持つどこの野郎かも分からない男…。


ここまでどん底まで精神が落ちるのかという程に体内にドス黒い感情と吐き気が暴れ回り続けていた。


…子宮から続く兄とのこれまでの絆が偽りであったと突きつけられた

…双子なのに兄を助けられる血液ですらなかった

…僕は実の父がどこの誰とも分からない家の中の異物だった

…母は何も知らない父に他人との子である僕を育てさせていたのか

…他人の子である赤ん坊の僕と写真の中で父は満面の笑みだった

…僕以外が噂し周知の事実をまさか僕だけが知らなかったのか

…財布を落とし兄をあの惨劇に巻き込んだのは…ぼ…僕、、僕だ!

…兄に相談したいが死んでもうこの世にいないのだ、、一生会えない!!

 

ぐるぐるぐるぐるぐる… 何百周、何千周、何万周と考えが(めぐ)った。


学校に行かず部屋から一度も出る事無く2年が経ち、(めぐ)った考えは行き止まりに辿り着いた。


夜中に寝ていた父と母を包丁で刺し失血死させた。

兄と同様にО型の血液を吐き出させて死に至らしめた。

家の中での異物である一人B型の僕が…、僕だけが3人の生を吸って生き残るという選択をする。両親の死体が発見される前に遠くまで逃げよう。箪笥(たんす)やクローゼット、財布などを物色して金目のものを探す。父の書斎を漁っている際に病院の封筒を見つける。父が何かしらの病に(かか)っていたのかと思ったが、中身の用紙には想定外となる父の診断書が記載されていた。

 

父はキメラであった。


父も産まれた時に二卵性の双子であった。しかし僕と兄のように2つの生を得る事無く、子宮の中で父は弟を吸収し2つの血液型、О型とB型を持つキメラとなった。父の体内を流れる血液の型はО型であったが、吸収した弟のB型抗体を生殖細胞に持つ特殊な事例であったようなのだ。


そう…


父、母、兄、僕の4人は紛れもなく血の繋がりのある家族であったのだ。


「そうか…」


そう判った時。


それでもやはり歯車を狂わせた僕は家族の中の異物であったのだとより強く深く認識したのである。


こんなものが間もなく自ら幕を閉じる僕の20年の人生なのであった。

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