~97 魔界まで絡んでいましたか~
少し遡ってお昼時が過ぎ、
学生も講義室へと戻り始め
空き時間の教職員が少し遅い昼食を取り始めた頃。
「ゴンちゃん、休憩取っといでよ。
夜の仕込みまでゆっくりしといで」
食器の片付けも終わったところで
声を掛けられるゴン。
「あざ~っす!! んじゃ寮に戻ってますね~」
そう言って従業員寮へと戻ろうとしたところで、
賄を摂りに来たおばちゃん方に
呼び止められる。
「あらぁ、ゴンちゃん。
いつもアンタの賄楽しみなんだよ。
ありがとね」
「い~え~お安い御用ですぜ~マダム方」
アハハハーー
マダムだってさーー
ワイワイーー
マダムよりガ〇ダムーー
ガヤガヤーー
だれがガ〇ダムーー
ギャアギャアーー
最後の方は口喧嘩に発展しており、
また誰か異世界人が混じってそいうな会話だが、
気にせず寮へ向かうゴン。
「今日も食堂地帯は平和だな」
厨房や食堂で働くおばちゃん方やシェフからは
割と人気のあるゴン。
有り合わせの材料で賄を作らせれば
少し変わっているが美味いものを出す。
アホみたいに忙しい昼時も調理が終われば
大勢の並んでいる学生相手に受付配膳もする、
愛想も良く、しかも疲れを見せない。
つい先日やって来たばかりの異国の若者ではあるが
快く受け入れない従業員は居なかった。
結構居心地の良い働き口であり、
ヴァッケンでのベックスのところも良かったが、
こっちも良いなぁ、
このままここでゆっくりまったりしたいなぁ、
などと思っているタケルであるが、
「ま、聖光神を何とかしてからだな」
そう呟く。
寮へ戻って来たタケルは、
気持ちを切り替えアンクレットから呼び出した
ユウコと共に神域へと向かうのであった。
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「シして屍ーー
ーー拾う者なし」
「帰った、ジイ」
「どう? ジイさん」
神域へやって来たタケルは
早速ヴァジュラのところへ。
すっかりここの挨拶にも慣れ、
何か合言葉みたいになっているが、
気にせず話を進めるヴァジュラ。
「お帰りなさいませ、ユウコ様、タケル様。
そうですな、あれから目を覚ましておりませんが
夜には目を覚ますでしょう。
肌の色が赤黒いので分かりにくいのですが
血色も良くなったように感じます。
ベリウス様もそう仰っておられましたから
問題ないでしょう、ホッホッ」
お見舞いではないが
バルバスの眠る部屋へ向かうタケル。
ヴァジュラの案内でユウコも一緒に向かう。
コンコン
「フム、どうぞ」
あれからベリウスも付いてくれていたようだ。
「ベリウスさん、バルバスさんどう? 大丈夫?」
相変わらず落ち着き払った様子で
足を組んで座っている
前にある小さなテーブルの上に
お茶を置きながらその質問に答える。
「フム、命についてのことなら心配は要らない。
しかしまだ全快には程遠いと言ったところですな。
夜には話すくらいは出来るでしょうな」
それを聞いて安心したタケルは
気になっていたことをベリウスに聞いてみる。
「ところでベリウスさんは呼び出されたとき
なんで裸だったの?」
バルバスとは全く関係の無い質問であるが
変わらず平静のベリウスは答える。
「フム、わたしは眠るときはいつも素っ裸であるな。
あの時は眠る前のいつもの一服を
楽しんでいたところでしたな」
素っ裸で寝る人もいるから
それはそれで可笑しなことでもないか、と思いつつ
もうひとつ質問するタケル。
「そうですか、あとベリウスさんが居なくなって
ちょっと経つけど国のほうは大丈夫なんですか?」
この質問にも落ち着き払った様子で答える。
「フム、国なら私が抜けても問題ないですな。
イブリス、ダイダロス、
ティリトもおりますからなーー
ただ、と続けるベリウス。
ーー毎日毎日、魔王様がセイラ様の映像を
長時間楽しむものですから
仕事が滞っておりますな。
従ってイブリスが最も大変ですな」
近くで見ているとこの上なくウザいのだが、
魔王が相変わらずシスコン全開なことに
妙な安堵感を覚えるタケル。
そんな可笑しな安堵感を振り払うかのように
一度首を横に振って、
「いや、その説明も分かるんだけど。
ベリウスさんが急に居なくなって
大丈夫なのかな、と」
そういうことか、と頷くベリウス。
「フム、私は決まった書類仕事以外は自由でな。
周りの者は私が居なくなって数日なら
探しもしないですな」
納得出来るような出来ないような説明だが、
本人と国がそれで良いなら良いんだろう、
と納得するタケル。
そんな会話をしているとヴァジュラが
今からヌフとディースの訓練に付き合うようで
挨拶をして出て行った。
タケルもそろそろ夜の仕込みの時間があるので
ユウコと共にバルバスのことは
ベリウスに任せ部屋を出ようとしたところ
珍しくベリウスから話し掛けられる。
「フム、タケル殿。
この度は同胞を救って頂き感謝する。
あの時わたしでは
あの判断は出来なかったですからな。
フム、それとーー
一拍置いて続けるベリウス。
ーー私たち悪魔族は魂を喰らうことも
ありましてな。
それ故、身体がそれに適応しているとも
言えますな。
その身体は魔界にしかない物質である
ダークエレメントというものが
魔力体と共に身体を構成しておりましてな
魂のエネルギーを吸収しやすくなっていると
言われていますな。
その身体をあんなことに使った
聖光神に与する者達に
一撃加えてやれたことは行幸でありましたな。
改めて聖光神を倒さねばと思い直しましたな」
落ち着き払った様子ではあったが、
やはり同胞に酷い仕打ちをされ、
まだ他にもこういったことに使われている
同胞のことを考え怒りを覚えていたベリウス。
怒りの表現はそれぞれであるが
分かり辛いなぁ、と思うタケルは
自身が怒った時のことを周りに聞いてみると良い、
とサクラかセイラが居れば言われたであろう。
話も終わり、後はサクラとセイラと合流できる夜に
改めて集まろうということになった。
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学園の講義も終わり夕食を食べ過ぎて
部屋で唸っていたらしいエレーナも含め
サクラにアンクレットを手渡し、
学園の屋根から神域へとやって来たタケル達。
ユウコの神域 神殿内の一室
「どうじゃ? 少しは楽になったか?
ワシも少し楽になってきたワイ」
突っ込むサクラ。
「セイラさんのお腹の感想まで交えないで下さい。
ややこしくなりますから」
神域に到着すると、
ヴァジュラから少し前に
バルバスが目を覚ましたと聞き
皆でバルバスの居る部屋に集まっているところだ。
ヌフとディースは昼間の修行で疲れて眠っており、
ここには居ないが情報共有は後でシゴイた張本人の
ヴァジュラからしてもらえるようで、
これから質問タイムに突入することになる。
「ああ、大分楽になった。
その前に改めて礼を言う、助かった。
シぬことは怖くないが、
この件が誰にも知られることなくシぬことが
最も恐れることだったからな」
その言葉を皮切りに真剣味を増した
サクラとセイラからの質問に答えるバルバス。
まずセイラが聞いたのが、
バルバスが召喚された時に拘束に使われた
悪魔族に特化した術式のことであったが、
これについては拘束後魔力を抜かれ
気絶させられた後、
例の場所に連れて来られたため
殆ど何も分からなかった。
気が付いたら装置に繋がれ
拘束具の役割を持つ鎖を全身に巻かれ
磔台に居たそうだ。
ただ、
サクラの質問に答えることにもなったのだが、
その拘束術式を使ったのは第四聖守護である
魔導師団団長の女、召喚術式を使ったのが
第五聖守護である召喚士団団長の男だそうだ。
また最後に、とセイラが尋ねる。
「ウム、まだまだ疲れているじゃろうから
この質問で最後じゃーー
今日の会話の中で
一番緊張した面持ちで尋ねるセイラ。
ーーお主等の身体を構成する魔力以外の部分が
ダークエレメントという物質だということは
ベリウスから聞いた。
そのダークエレメントを
お主等の身体から抜き出せる者に心当たりは?」
顎に指を当て頭の中を隅から隅まで探る様に
考え込むバルバス。
暫くして顎から指を放し神妙な面持ちで答える。
「……そんなことが出来るのは魔界の王であらせられる
セイタン様か…… バルル様」
そこでサクラがセイラに聞きたいことがあるようで
「セイラさん、
ヌフさんやディースさんはじめ
暗部の肉体のことを?」
サクラの頭の中では既に何かしら
これまでの情報と繋がっているようだ。
頷くセイラ。
「そうじゃ、暗部の肉体の半分は液体魔法銀、
もう半分が分からんかったが
魂を入れ込む器に魂が馴染みやすいモノを
混ぜるのは筋が通るじゃろう?」
同じく頷くサクラ。
「その通りだと思います。
そうなると聖光神はそんな肉体をたくさん作って
何をしようとしているのか?
また、そのダークエレメントを扱うに長けた人物は
誰なのか?」
それに答えるのはセイラでなく
ベリウスが考えを述べるようだ。
セイラに確認を取り話し始めるベリウス。
「フム、前者については
まだ情報が不足していますな。
ただ後者については答えが出ているーー
苦虫を嚙み潰したような表情で
珍しく感情を露わにしたベリウスが続ける
ーーこの世界も魔界も合わせて、
そんなことが出来るのはバルル様しかいない」
魔界までも巻き込んでいることが分かったことで、
聞いている者達は皆一様に口を閉ざす。
そんな中、こちらも珍しくユウコが口を開く。
「バルル探して聞く。
それで全部わかる」
一斉にフワフワと浮かぶユウコを見る一同。
ベリウスの言を聞いて
信じられないといった様子で困惑していた
バルバスだが、ユウコの言葉を聞いて、
「そう、そうだな。
まずは聞いてみないと分からんし、
何か事情があるかも知れんしな。
フッ、流石は精霊神様であらせられるな。
ヴァジュラ殿から大層聡明だと。
聞いていた通りだな」
フワフワと緊張感無く浮かぶユウコを見上げながら
緊張を解き誰ともなく話す。
ただ、それを聞いたタケルがユウコに尋ねる。
「エ? ユッコってそんなキャラだっけ?」
それを聞いたユウコは
頬っぺたをプクゥと膨らませ、
「主殿キライ」
そう言ってピューっと部屋を出て行った。
慌てて追い掛けるタケル。
タケルの居なくなった部屋の一同は、
重い事実が影を落とすものの、
そんな一幕を見て緊張が解けたのか
誰ともなく吹き出すのであった。




