~95話 再び公爵邸へ2~
「グ、ゴホッ、ゴボーー
磔台の悪魔の口から血が滴り落ちる。
ーーあ、あなたは、ベリウス様。
な、なぜ、こんな、ゴホッ、ところに。
それに他のお二人は……」
あまりに余りな光景なので
何とかしてあげたいと思っているタケルだが、
例の装置に繋がっているので不用意には動けない。
タケルが迷っているうちに
傍らでジッと見ていたベリウスが話し掛ける。
「フム、キミの質問は後だ。
とりあえず私のことは知っているようですな。
話を聞きたいのだが回復が先かね?」
少し苦しそうに呻き声を上げながらも
懸命に答える悪魔。
「あ、ありがとう、ございます。
しかしそこの装置は異物が入るとエネルギーが逆流して
この屋敷くらいは
吹き飛ばす爆発が起きますので、ゴホッ」
変わらずジッと見詰めながら尋ねるベリウス。
「フム、しかし持つのかね?
体力も魔力も枯渇、状態も瀕死となっているが?」
その言葉で気が付いたタケル。
どうもベリウスの眼は魔眼のようで
相手の状態を見抜く能力があるようだ。
だからいつもジッと見ていたんだな、と合点がいく。
他にも能力が有りそうだがここでは突っ込まない。
「わ、わたしのことは、構わない。
は、派閥も何も関係なく、あ、悪魔族に、
このわたしの、あ、有様を伝えて欲しい。
そ、そして奴ら、聖光国の召喚には応じるな、と」
息も絶え絶えに涙を流しながら訴える
名前も分からない悪魔。
聞いたベリウスは頷くと、
セイラの方を向いて話すよう促す。
「ウム、辛いじゃろうがお主の決意は無駄にはせん。
今少し踏ん張ってくれーー
セイラは出来るだけ簡潔に質問を投げる。
まず誰にこういう状況に追い込まれたのか?
また他にもこういった施設があるのか?
最後にこの施設で行われていることについて
知っていることを聞かせて欲しいと伝える。
ーーゴッホ、ゴホ、グッ、
ハァハァ、し、施設が他に有るかは知らない。
そしてわたしをこんな風にしたのは
聖光国の第四聖守護と第五聖守護だ。
召喚されてこちらに顕現するなり
見たことも無い拘束術を使われた……
我ら悪魔族に特化した術式のように思うが
詳しくは分からない。
後この施設だが魂から記憶、恐らくスキルだろうが、
それを抜き取った後のエネルギーを
わたしの身体を媒体にして魔力と同じように
運用している」
フゥフゥ、と怒りと疲れとが入り混じった表情で
今にも気絶どころか逝ってしまいそうになるのを堪え
同胞のために必死で伝えたようだ。
それを聞いたセイラは整理しながら話し始める。
「なるほど。
悪魔族の身体は単なる魔力体ではないからの。
魂を取り込むのに適しておるからな。
イヤな言い方で申し訳ないんじゃが、
効率で言うと無駄なく魂のエネルギーを取り込める。
無駄なく循環させておるんじゃろう。
今そんな魔道具はどこにも無いからの。
魂をエネルギーとして使うなど、の……」
思い雰囲気が流れる中、ブツブツと呟くセイラ。
「しかしサクラも言っておったが、
狙いはスキルとして、
他にも国を挙げてこんなことをしておるなら
魂のエネルギーはこれだけのはずがない。
一体何に使ってーー
その呟きを聞いた悪魔が答える。
ーーせ、聖光神だ。
き、強者の魂のエネルギーは莫大だからな。
その者等のエネルギーは全て聖光神に捧げると
第4守護の魔導士が言っていた」
聞いたセイラはまたも熟考しているが、
時間も無いためタケルが口を挟む。
「セイラさん、時間も無いしその辺で。
それからベリウスさん、ありがとう。
この人、ベリウスさんが居なかったら
こんなに話してくれなかったと思う。
悪魔族以外は信用できないだろうしね」
それを聞いたセイラがベリウスに礼を言う。
「ウム、そうじゃの。
ベリウス、礼を言う。
それにそこの、名前が分からんので申し訳ないが、
礼を言う」
ベリウスはコクリと頷くだけ。
磔台の悪魔は苦し気な顔を無理矢理ながら笑みに変え、
「フッ、確かにそこの小僧の言う通りだ。
だが、もう思い残すことも無い。
逆に礼を言いたいのはこちらのほうだ」
口から鼻から血が滴っている。
もう長くは無いのだろうが
顔は憑き物が落ちたようにスッキリとしている。
それを聞いたタケルが、
「ハッハッハッ!!
そんな最後みたいなことは言わないでよ。
え~と、呼びにくいからさ、名前教えてよ?」
場にそぐわない物言いにキョトンとする悪魔。
セイラとベリウスは怪訝な表情をしている。
「ゴホッ、フッ、変なことを言う小僧だな。
わたしはバルバスと言う」
ニコリと微笑み、さも当然の様に話すタケル。
「わかった、バルバスさんね。
オレはタケル、よろしく。
んでもって、助けるよ。
セイラさん、ベリウスさん」
目を見開く3人。
そんな中セイラはタケルを諭すように応える。
「タケルよ、貴様聞いておったのか?
爆発を起こすと言っておったではないか?
それにこ奴はもうーー
遮って言葉を投げる。
ーーそんなの関係ない!!
大声でも関係ないとばかりに続けるタケル。
ここはブッ潰す!!
んでもってバルバスさんも助ける!!」
そう言うと口を挟ませず続けて、
「一旦、ユッコの神域で治療しよう。
ジイさんも居るし何とかなると思う。
学園行ってサクラからアンクレット借りてくるから
ちょっと待っててよ。
学園の障壁とここの障壁解除と元に戻すを
やりながらだけど、そんな時間掛からないからさ」
途端にダッシュで階段を駆け上がっていくタケル。
アンクレットは途中念話でサクラに連絡する。
二つ返事で学園の屋根でアンクレットを受け取り
取って帰すタケルが戻って来たのは約5分後。
その間のセイラ、ベリウス、バルバスの会話。
「……あ奴、また怒っておったのか。
分かり難い奴め」
ベリウスが答える。
「フム、流石わたしの魔眼が通らないだけはありますな。
行動も予想が付かない」
我に返ったバルバスも会話に交じる。
「し、しかし、この管を抜くと爆発が起きる。
巻き込まれるぞ」
それに答えるのはセイラ。
「フン、どれくらいの規模か知らんが
何とかなるじゃろう。
それに、あ奴がどうするか見てみたいじゃろ?」
ククク、と悪い顔のセイラ。
呆れているバルバス。
その顔を見て反応するのはベリウス。
「フム、セイラ様の悪い癖が出ておりますな。
ただ私も彼が何をするか興味がありますな」
珍しく口の端を上げるベリウス。
バルバスはそんな呑気なことを言っている二人を
止めようとするが、
そこにタケルが帰って来る。
「ウッシ、お待たせ」
すぐさまアンクレットから雷神剣を取り出し、
「ユッコ!!」
顕現する雷神ユウコ。
「ユッコ、この人助ける。
神域でジイさんに診せてくれ。
まずはセイラさんと、そちらのベリウスさんを」
真剣な表情のタケルを見て頷くユウコ。
「分かった」
神域への扉を開き二人を招き入れる。
「主殿は?」
「そのままちょっと待っててくれ」
精霊神かどうかは分かっていないが、
バルバスは尋常ならざる気配に瀕死なことも忘れ
その光景に見入っている。
そんな中タケルがセイラに確認することがあるようで、
「最後に聞くけど、そこの魂はもう助からないのかな?」
神域への扉の前で振り向いたセイラは
沈痛な面持ちで答える。
「残念じゃが、
既にエネルギーだけになっておるからな……」
唇を噛み締めるタケル。
だが行動は止めない。
「分かった、じゃあ二人は中入って。
ユッコ、こっち来てくれ」
そう言うとタケルとユウコはバルバスに近付き、
「ちょっと痛いだろうけど、我慢してね」
タケルが背中の管を引っこ抜く。
「グッ!!」
途端に管から漏れ出す濃密なエネルギー。
管から外に出ると澄み切った白い色になっていき、
段々と部屋の中を満たしていくのが分かる。
「ユッコ、バルバスさん頼む」
「ん」
フワフワとバルバスを宙に浮かび上がらせ
一緒に扉に向かうユウコを確認するタケル。
「ウシッ、オロチ1本だ!!」
途端に顕現する1本首の蒼白い身体を持つ竜。
サイズは部屋に合わせて3m程度。
「アレ食べてくれ!! んでもって――
見えない速さでそこら中に拳を繰り出すタケル。
ドッドドドドドドドドーーーー
ゴスッドゴゴゴゴゴゴーーーー
崩れ始める部屋と周囲の壁を見ながら、
「もちょっとだな」
オロチは既に魂のエネルギーを食べ尽くし
ゲップまでしている。
「おま、呑気だな。
まぁいいけど、戻れ!!」
空間へ溶け込むように居なくなるオロチを見て、
「ヨシッ、最後だ。
オッラァァァァ!!」
地面から天井へと拳を振り上げるタケル。
その一発だけではなく何発も天井に放り込んだことで、
ドッゴゴゴゴゴゴゴゴォォォオオオオーーーー
祠の扉部分が空へ打ち上がっているのが見える。
ガラ、ガラガラガラガラガガガガガガーーーー
既に警報が鳴り響いていたが、
関係ないとばかりに拳を連打していたタケル。
そろそろ天井も崩れ
タケルの方へ瓦礫が落ちてきているが、
それを避けながら部屋の装置が壊れているのを確認し、
「もういいだろ、ユッコ行くぞ」
「ん」
崩れる部屋を振り返って見ながら、
神域への扉を潜ったタケルであった。




