~8 セ、セイラさんがちょっと……~
オッチャンの申し出を有難く受けて、
オレたちは早速食堂の奥にある扉を開いて
中に入った。
「いらっしゃいよ!!」
受付は恰幅の良い元気なおばさんだ。
そこは宿屋のロビーといった感じで、
それなりに広いスペースにテーブルが3つ、
椅子が6脚ある、ソファも1脚置いてある。
ズイっと威圧感たっぷりに、
見るからに大きい体をオレたちに近づけてくると、
「ん? 新顔だね」
と、マジマジと顔を見られる。
「えっと、
ガトーさんの紹介で来ましたタケルと言います」
ホッ、と少し驚いた後、
威圧感のあるその顔がみるみる柔和な好々爺ならぬ
好々母に代わり、その顔に満面の笑みを浮かべて、
「おやおやそうかい、あんたがタケルだったかい!!
ウチの亭主から聞いてたけど、
もっと年いってんのかと思ってたわさ!!」
この肝っ玉母ちゃんはショコラさんと言う。
ガトーさんの奥さんらしく豪快な感じだ。
しっかし、ガトーさんどんな話したんだろ?
助けたとかって話にはなってないはずなんだけど。
「ウチの亭主の危ないところを弱っちいのに
引き返して助けようとしてくれた
らしいじゃないか!!
何泊すんのか知らないけどサービスしとくよ!!
ありがとよ!!」
夫婦揃って良い人達である。
直球な表現もご愛嬌だ。
しかし一方だけがおかしな夫婦って
あんま居ないのかもしんないな。
両方とも良いか、両方とも……か。
なんにしても助かるので、
有り金が294デルフィであることを伝えると、
3泊と今日の夕食、明日の朝、昼、夜の食事×2、
4日目の朝食全て込みで150デルフィにしてくれた。
サクラが言うには、
1泊50デルフィ、朝食5デルフィ、
昼食7~8デルフィ、夕食10デルフィが
相場だということだ。
そう考えると食事分の50デルフィ以上は安い。
「いやぁ、かなり安いと思うんだけど
甘えちゃって良いんですか?」
「若いのに遠慮なんかしてんじゃないよ!!
さっさと代金置いて晩ご飯食べておいで。
ウチの亭主は料理だけはウマいからね。
じっくり味わっておいで~さ!!」
遠慮し過すぎるのも失礼だと思いお礼を言って、
もちろん忘れずに150デルフィをお支払いし
席に戻ることにした。
ペコっと頭を下げつつ戻るオレを
受付の机に肘を尽きながらニッコリ笑って
手を振ってくれた。
席に戻るとオッチャンが待ちかねていたようで、
すぐに料理を持ってきてくれた。
「アツアツを食べてもらいてぇからな!!」
「ありがとう、オッチャン!!」
『うわぁ、いかにもな冒険者料理って感じで
すごく美味しそうですね』
サクラが美味しそうということは
成分分析とかもやってるだろうし
オレの経験も踏まえて言ってるだろうから
間違いないと思う。
恐らくだけど、
10デルフィで食べられる量をはるかに
超えているように見えるのだが……
献立はというと
・フィーネオオトサカの腿串焼き 3本
・フィーネブルのステーキ
・ポモドのスープ
・カバロとフィーネ湖産サバのサラダ
・パン 5切れ(一斤はあるね……)
・飲み物(果実汁)
ってことをオッチャンが説明してくれたので
フンフンと頷く。
あんま分かんないけど量が多いのは分かる。
「オッチャン、
10デルフィで頼める量を
かなり超えてると思うけど……
もう遠慮せずに食べるよ!!」
「おう!! 食え食え!!」
「いただきます!!」
ちなみに、オオトサカは多分でっかいニワトリ。
前の世界で人型魔物食うのにも慣れたので
問題なしだけど、
明らか人型魔物っぽいのはいないか。
ん~と、フィーネブル……
(なんだろう? 牛っぽいけど)
『成分から、
恐らくイノシシに近いかと推測されます』
あ、なるほど。
早速手を付けてみる。
「オワッ、ウマイ!! このタレがなんとも……」
「だろだろ? ウチの特製ダレなんだよ。
パンに付けてもウマいんだぜ」
確かにウマいし、
オッチャンが美味しい食べ方を伝授してくれるのは
嬉しいのだが食べ切れんのかな、これ。
『折角のご厚意を無駄にしてはいけませんよタケル。
絶対食べ切ってください。
そもそも次はいつ食べられるかわからない
生活なんですから』
サクラが後半切ない忠告をしてくれるが
前半は賛成だ。
確かにご厚意を無駄にしてはいけない。
オッチャンには朝から世話になりっぱなしだ。
本当にどこかでお礼しないとな。
と思いつつ、
パンに手を伸ばしスープを手に取ったところで
入口の方が騒がしくなった。
結構な勢いで扉が開いたのも原因だが
騒がしくなったのは入って来た人物を見て
周りが騒ぐからだ。
また、その人物が歩くルートに沿って近づくと
静かになり、通り過ぎると騒がしくなり、
を繰り返している。
(あれ? 来たかな?……)
『来ま、したね……』
彼女はギルドで会った時から、
かなりの魔力量があるのは判っていた。
あれだけの魔力を持って
若干怒ってらっしゃる感じ?
魔力も膨れ上がるし、
言わなくても店に入る前から誰かは判るーー
ーーセイラさんだ。
(さっき宿が決まったとこだし、
べ、別に約束破ってないよな?)
『なぜ言い訳を考えるんですか?
気持ちは分かりますが……』
いや、怖いんだもんあのヒト……
(ただ、オレたちの現在位置は
クマさんの横で店の最奥で
宿屋の扉側から来ない限り死角になっている
はずだ!!)
『確かに左方向通路側からはポーさんに隠れる形で
かなり近くまで来ない限りは死角ですね。
気配察知や魔力探知といったスキルが無ければ
の話ですが……』
うぅ、そうなんだよ。
探知系のスキルがあれば一度ならず二度までも
会ってるし見つかっちゃうんだよな……
いや!!
しかし今は当然気配も抑えてるし
魔力なんかも0にしてるから気配察知や魔力探知で
こっちを見付けるのは相当困難なはず!!
タケルは恐怖を紛らわせるため色々と考えるが、
そもそも、なぜか見つかってはいけない、
どっかのゾンビ系の映画もしくは
年末のいけないシリーズのような状況に
なっていることに疑問を持たないのは、
やはり焦っているから。
食べる手を止めて、
クマさんの陰にスッポリ隠れるよう身を潜める。
周囲がざわついているにもかかわらず、
徐々に踵の高い靴独特のカツンカツンという音が
近付いて来るのが聞こえる。
不意にその音が止まった……
オレたちの席から左手側のちょうどカウンターが
見える通路に出たところだ。
(確かめてるな)
『タケル、気配も魔力等も抑えてますね』
(というか、いつも通り消してるよ)
なぜ隠れないといけないのか?
正々堂々としてれば問題ないのだが、
一度隠れてしまうと
なぜか見つかってはいけない気になってしまう……
もうその波に乗ってしまっているので
手遅れなのだ!!
あとは見つからないことを祈るのみ。
後で尋ねるから見付けないでぇぇぇ(瞑目合掌)
カッ、カッ、カッツ、カッツ、カッツ、カッッ……
右手側の宿に続く扉の方を向いて、
セイラさんが居る方向には背中を向けている。
ちょうどクマさんの手前辺りで止まっている。
もう限界だ、これ以上来たら見つかってしまう!!
……あれ?
見つかっても問題ないんだけど、
なんで見つからないようにするんだろう?
また思考がループに入りかけた時、
「退け」
いきなり席移動を強要されたクマのポーさんは
セイラに向けた呆けたような顔を一瞬で強張らせ
その左隣に座っていた同じく気の良さそうな
狼の友人と共に、シュバッ!!
と音がしそうな勢いでクマさん用椅子と共に移動、
オレとの間に空間を空けた。
そうしてできた空間はポーの巨体もあって
かなり開けたように見える。
その空間を開けることでタケルの背中は
細めた目をこちらに向けるセイラと相対することに
なった。
おそるおそる振り返ると……
目が合った。
「貴様……」
なぜかお怒りのご様子に見つかってしまって
悪いわけではないにもかかわらず、
見つかってしまったという妙な罪悪感が加わった上
「貴様」が直後の一言であったことで固まり、
目を剥いたままのオレにセイラさんは
更に言葉を継ぐ。
「……貴様、なぜ待っておらんのじゃ」
(???)
『???』
「なぜ待っておらなんだのじゃ、と聞いておる」
(……???)
『……???』
「なんか喋らんかぁ!!!!」
「ヒィィィィィィィィィィッ!!!!」
『イヤァァァァァァァァァ!!!!!』
頭を抱えるオレたちの頭の上に
威圧感たっぷりの顔と、また顎をこちらに向け、
顔を少し傾けながら寄せてくる。
いわゆるチンピラスタイルの脅し方だ。
しかも超の付く美人がそれをやっているので
周りから見るとなんともシュールな雰囲気を
醸し出している。
変な趣味の奴がいれば嬉しい限りの状況ではあるが
残念ながらオレは変態ではない。
奥で料理をしていたオッチャンが、
その状況に気付いたらしく声を掛けてくれた。
「おうセイラじゃねえか!!
あ~ん、なにやってんだオメェら?」
チラッとセイラがガトーの方に目を遣り
「フンッ」と一息吐き、
腰に手をやり胸を反ったポーズを取った所で
我に返ったサクラが、
『そうですよ。
変な雰囲気に呑まれてしまいましたが、
私たちは何も悪いことをした訳ではないんですから
堂々としていましょう!!』
どうしてこうなったのかは別として、
オッチャンの一言で救われたオレたちは、
やっとの思いでセイラさんの質問に答えることが
できた。
「え、えーと、待つっていうのは
ギルドで待ってろってことでしょうか?」
質問を質問で返したので
実際は答えになってないのだが
そんなことはどうでも良い。
「それ以外に何があるのじゃ!? バカタレが!!
ちょっと待っとりゃすぐに仕事終わりの時間
じゃったろうが!!
レディを置いてけぼりにするとは何事じゃ!!
……まさか貴様、
ワシから逃げるつもりで
こんな奥に席を取ったのではなかろうなぁ。
んん??」
オレもサクラも、
『(エ~~~ッ!!)』
決して外に出せない無言の非難を
心の中で浴びせていた。
仕事終わりって何時だよ、知らんし。
「前半部分は無知が招いた結果としても、
後半は濡れ衣です」
エプロンの巻いてある腰に手を当てて
見守っていたオッチャンが、
「ハァ、相変わらず自己中は治らんなセイラ。
ギルドお初のタケルが
オメェの仕事終わりの時間なんて
知る訳ねぇだろうが」
オッチャンの言葉に渋々納得したのか、
「フンッ、まぁ良いわ。
こうやって会えたことじゃし……の!!」
ビクッ!!
「の」で、店員さんが持ってきたイスに
勢いよく座ったことでビクビクしていたが
整ったセイラの横顔を見て
一瞬癒しの感覚を覚える。
が、次の瞬間には途轍もなく嫌な予感を覚えた
タケルとサクラは、
この世界の1日が28時間もあることに気付き
長丁場を覚悟して
コッソリと溜息を吐いたのだった。
本日2話目の投稿ですm(_ _)m




