~87 尋問2~
珍しく真面な気遣いを見せたタケルは
雲海の中へ沈んでしまった……
ユウコは開いた扉を出てフヨフヨと浮かびながら
神殿と塔を繋ぐ回廊からタケルの落ちて行った方向を
後ろ手を組んで興味深そうに覗き込んでいる。
「お、おい、いいのか?」
焦るヌフを尻目に何事もなかったように
話を進めるサクラ。
「では、そろそろディースさんに目覚めてもらいますが、
良いですね?」
なぜか何も気にしていないサクラとセイラを見て、
自分が心配するのも可笑しな話だと思い直し
その問い掛けに返事をするヌフ。
「ああ、頼む」
では、とサクラがディースに向かって手を翳す。
……
「ムッ……ん……
なんだ? なっ!! お前等!? ーー
ソファから一気に起き上がり戦闘態勢を取るが
傍らのヌフに気が付いたようで、
ーーヌ、ヌフお姉さまも?」
まだ現状を把握していないディースにヌフが
遠征試験からこちらのことを説明する。
……
「そうですか……
私はそこのサクラに、
お姉さまは精霊、ユウコとやらに」
「そうだ、我ら暗部、いやもう暗部ではないな。
聖光国暗部の他の奴等についても話をした。
何をやってきたかもな」
黙って聞いているディースに問い掛けるヌフ。
「お前はどうする?
と言ってもこの面子では逃げられんがな」
肩を竦めてみせるヌフ。
サクラとセイラ、
扉の向こうでフヨフヨしていたユウコは
今度は部屋内でサクラ達の頭の上付近で
フヨフヨしている。
ヌフを見て、
サクラ達の様子をチラリと見たディースが答える。
「私はお姉さまと一緒であれば……
それに聖光国、聖光神への恨みだけは残っていますが、
今更復讐と言ってもアレ等を相手にするのは……」
それを聞いたセイラが口を挟む。
「確かお主等、記憶は消されたのではなかったのか?」
ヌフとディースが顔を見合わせお互い頷いてから
ヌフが説明する。
「我ら二人だけは少しだけ記憶が残っているのだ……
我らは姉弟で元魔法師だ。
いつこうなったかも前の名前も既に覚えていないがな」
何の拍子にそうなったのかは分からないが、
ヌフとディースは姉弟であることだけは
覚えているようだ。
その話で合点がいったサクラ。
「だからあなたはディースさんを連れてーー
遮るようにヌフが言葉を継ぐ。
ーー姉弟という記憶しかないのにな。
護らねばという思いだけはあるのだ。
可笑しなものだ、人間というのは……
もうその話はいいだろう。
それよりも約束通りディースを
目覚めさせてくれたことに礼を言う」
そう言って頭を下げるヌフ。
それを傍らで見ていたディースは、
「わたしはサクラの魔法で眠っていたのは分かった。
ただ眠る前の記憶だとお姉さまはそこの精霊に
やられたのではないのか?
……回復してくれたのだろう?
私からも礼を言う」
ヌフと同じように頭を下げる二人。
礼を言われるも沈んだ表情のサクラ。
セイラはというと、
「クゥゥ、グス、お主等苦労したんじゃのう。
ここで暫くゆっくりしておれ。
聖光神はワシ等が何とかするワイ」
相変わらず涙もろいセイラ。
しかしもう一方も相変わらずで、
既に自分の領地のように語っているのを頭の上で
聞いていたユウコが補足する。
「ここは私の神域、セイラのじゃない。
みんなタケルとサクラが認めた。
ゆっくりすれば良い」
神域と聞いて驚く二人であるが、
顔を見合わせて頷くと、
厄介になることをユウコに伝える。
ただ二人はもう一つ気になったことがあるようで、
まずはヌフから、
「ということは、ユウコ様は精霊でも精霊神であると?」
何でもないように「ん」と頷くユウコ。
再度驚くヌフ。
それではヴァッケンのVVVでは
相手にならないだろうと思い呆れた風に溜息を一つ。
またディース、
「いま確かタケルと言いましたが、
それはアンデッドマンのことではないのですか?」
今度はサクラが頷く。
ユウコから目を移し頷くのを確認したディースは
驚愕に包まれる。
「じょ、情報にあったヴルカヌスを
素手で武器も防具も無く背中に誰か背負い
獄炎で焼かれながら倒したかもしれないというのは、
ま、まさか?」
そこで気付いたのかヌフも確認するように
サクラとユウコを交互に見遣る。
同時に頷くサクラとユウコ。
「「そう(です)」」
目を見開いたまま固まり
ゆっくりと顔を見合わせる二人。
その様子を見ていたユウコが珍しく面白そうに
誰ともなく話し始める。
「フフ、主殿はバカだけど強い。
わたしも久しぶりに全力を出しておきたい。
あとでジイも誘ってみる」
今度はその場の全員が驚いてユウコの方に目を向ける。
「もう戻ってる。
どうせジイと話し込んでるはず」
そう言ってユウコはスーッと
神殿の方に向かって飛んで行く。
全員が顔を見合わせ一斉にユウコを追い掛け始め、
神殿まで戻る間にユウコの後ろから尋ねるディース。
「その、タケルは一体何者なんです?」
振り返らずに答えるユウコ。
「わたしの主殿、一度敗けてる」
その一言で唖然として立ち止まってしまうディース。
傍で聞いていたヌフも口を開けて立ち止まる。
(精霊神に勝つなど、どうやるのだ?
……勝つわけだ)
そんな二人の思いも関係なく神殿へ向かうユウコを見て
深い溜息を吐き慌てて追い掛け直すのであった。
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神殿の奥 応接室(小)
「流石ですのタケル殿は、時代劇にも造旨が深い」
「たまたま知ってただけだよ。
ご飯作ってる横で
師匠がアホみたいに何回も見るからさ」
「なるほど、わたくしも精進せねば。
今度は主題歌の話をーー
タケルと盛り上がっているのは
ユウコにジイと呼ばれているヴァジュラである。
執事であり、こんなだが神域を管理する精霊王である。
武器化というより防具化すると
ユウコの纏う全身鎧やマントに変化する。
いつもは黒いタキシード姿であるが
今は何の番組に影響されているのか
少し小汚い素浪人風の格好で顎には白く長い髭を
貯えている。
小道具なのか刀も差しているようだ。
そんな会話の中到着したユウコたちに
ヴァジュラが気が付いたようで、
「これはこれは皆様お揃いで。
ユウコ様も仰って下されば
すぐにでも参りましたのに」
聞いたユウコは、
「構わない。
転移か雷化ならすぐ。
でもみんなどこ行ったか分からなくなる。
案内がてら」
ホホ、と口元に笑みを湛え
ユウコの次の言葉を待つヴァジュラ。
「時代劇の精進もだけど
私たちも精進する。
タケルと戦る、ジイも」
それを聞いていたタケルは渋い表情で、
「えーーイヤだよ。
もう夜更けも夜更けで明け方になるし、
朝飯の調理もあるし眠いし難しい話ばっかで疲れたし、
オマケに誰かに麓まで落とされるしぃ、チラッ」
自分が悪いのは分かっているが
タケルのあのイヤミな顔でチラ見されると
イラっとくるサクラ。
ユウコはというと、
「ん、そういえばそう。
じゃ明日の夜にする。
お肌に悪いしみんな帰る、じゃ」
と言って神殿の奥へとフヨフヨと姿を消すのであった。
呆然と見送る3人。
サクラもヴァジュラもこういった行動には慣れている。
但し言い出したら必ず実行することも知っているので、
明晩は覚悟せねば、と思っているヴァジュラ。
そんな中ヴァジュラが、
「それではそこのお二人は残られると
お聞きしておりますから、こちらで食事でも摂って、
ああ、寝床もこちらで用意してますから使って下され。
あの孤塔まで行くのは老体にはちとキツイですしな。
ホッホッ」
まぁ転移でも雷化でも一瞬で行けるのだが
ヴァジュラなりの気遣いなのだろう。
呆然としていた二人も、
ヴァジュラに礼を言い今日はここでお開きとなった。
ただ素浪人姿のヴァジュラが作る料理に
一抹の不安を覚えるヌフとディースであったが
当然口に出せる訳もなく
応接室のテーブルに着くのであった。
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