~86 尋問1~
尋問開始前にサクラがディースを
目覚めさせようとしたところ
安全であるならディースはもう少し寝かして
おいてくれとのヌフからの提案でそのままにしてある。
ユウコがお茶を頼んでくれ
神域で取れた高級茶葉を使用したお茶とポットが
人数分並ぶ。
一人分だけカップが空いているが、
当然ディースの分で起きてから飲むことが出来るよう
ポットを置いて行ってくれた。
持ってきたのはヴァジュラで
神殿に入って来た時の挨拶をまたもしそうになり、
タケルも反応したが途中でサクラとセイラにジロリと
睨まれそそくさと退散していった……
準備も整いサクラとセイラで尋問を開始することになり
まずはセイラが食い付くように尋ねる。
「まずはその顔、身体について知っていることを
話してもらおう」
いくつか尋問の予想をしていたのであろうヌフは
淀みなく答える。
「我らは聖光神さ、聖光神に似せて造られた肉体に
優秀なスキルを持つ者の魂を入れ込まれた駒だ。
記憶を消されてな」
嫌な推測が概ね当たっており、
やはりと思うサクラだが疑問の残る箇所を尋ねる。
タケルとセイラは黙って聞いている。
「魂を入れ込むことは予想できていました。
あなた方はご存じないかもしれませんがヴァッケンでも
同様のことが行われていたようでしたから。
となると身体の方は人造……
あなた方は特別と言うことですね?」
それに問いに対しヌフは、
「フム、そこまで調べていたか。
ヴァッケンのことは知っている。
それと言う通り我らは厳選されたらしく特別だ。
この身体は聖光神の身体をベースに造られた
物質魔力融合の擬似肉体だ。
聖光神の肉体は完璧だ。
少々強力な攻撃を加えても何も問題ないと聞いている。
我らの肉体はそこまで再現出来てはいないがな」
先を促すサクラ。
「そうだな、ヴァッケンの暗部にもこれまで何度か
行われていた生きている者に魂を入れ込むのとは
少し違う。
単純に何も入っていない肉体に魂を憑依させるだけだ。
憑依魔法は一般には広まっていないものの
普通にあるからな。
ただこの肉体は聖光神の身体の特性から
魔法適正が高くないと適合しないという
難しいところがある。
そのため我らは10人しかいない」
タケルとセイラはサクラの方をチラリと見遣る。
複雑な表情をしているサクラ。
なぜなら今のサクラと方法は同じ、
何もない肉体に憑依魔法を使って魂を入れ込むからだ。
それでも今は情報を取ることを優先させねばならず、
続いてセイラが尋問を代わるようだ。
「では、憑依魔法の達者な者がおるということじゃな。
それとそんな魂を弄ぶような輩じゃ。
記憶をいじって従順な兵士として
使うこともやっておろう?」
続くサクラ。
「そう、死地に赴くのに躊躇いは無くなる。
ただ元々身体に入っていた魂と、
入れ込んだ魂の元の肉体は一体どこに?」
答えるヌフ。
「魂は聖光神に。
肉体の方はシんだことになったり奴隷の魂を入れたり、
他はお察しだ」
この話を聞いてサクラもセイラも同じ結論に辿り着く。
口を開いたのはセイラ。
「要は魂を集めておるんじゃな」
補足するサクラ。
「魂を集めながら従順な兵士を量産し、
聖光神と近い肉体を持つ優秀な兵士も同時に造る。
逆らう者は居なくなり
いつでも戦争を起こすことが出来るーー
継いでヌフが、
ーーそうだ。
聖光神は全世界を戦争に巻き込むつもりだぞ。
それこそ我らも含めて全ての魂を手に入れるつもりだ」
シーン
沈黙の中、
見兼ねたのか口を開いたのは意外にも
お茶を飲んではプカプカ浮いていたユウコである。
「魂はエネルギー、記憶やスキルの集合体。
全て取り込むとしたら膨大な力が手に入る。
ただ普通は身体が耐えられないけど魔力体と主殿は別」
それを聞いたサクラが反応する。
「聖光神の狙いが全世界の魂。
だから学園で能力を伸ばし、
伸び代が無くなれば神都へ呼び込んで……
なるほど魂のエネルギーを集めて
膨大な力を手にしたいのは分かりました」
一拍置いて続けるのはセイラ。
「その力を全世界の統一に使うのか?
全世界に逆らう者が居なくなって……
その後はどうするんじゃ? 終わりではあるまい」
ユウコを除いた3人が考え込むが答えは出ない。
ヌフもそこまでは知らないようだ。
これ以上考えても答えは出ないため
更に情報を集める必要があり
一旦今出来ることをしようという結論に
至ったタケル達。
そこで先程からの会話で
何か気付いたのかヌフが尋ねる。
「他にも何かあれば言ってくれ。
それより気になったのだが、
そこのユウコ、ユウコ様の主殿というのは
サクラではないのか?」
サクラとタケルが顔を見合わせ苦笑する。
「今までは紹介する必要もありませんでしたから、
言ってませんでしたが
ユウコ様の主はこっちのタケルですよ」
答えるタケル。
「ヌッフッフッ、そうなのだよ。
あっ、シャレじゃないからな!!」
ポカンとタケルを見るヌフは一つを溜息を吐いてから、
「フゥ、分かった。
やっぱりサクラが主なのとお前がバカ男なのがな」
傍らで笑い転げているセイラを他所に
一応ユウコがフォローするようだ。
「わたしの主殿はタケル。
でもおバカなのは間違ってないかも」
それを聞いてディースが起きても可笑しくないくらい
部屋の隅から隅まで転げ回るセイラ。
ユウコのフォローはしかしヌフには効果があったようで
初めてクスリと笑みを零したのであった。
その後ヌフとディースの事情を
聞きたいところであったが、
尋問が終わってから全て話すとのことで、
まずはヌフたちの身体について調べるため、
「サンクさんの身体も同じですか?」
「そうだ」
との問答の後、
サンクの身体が安置されている場所へ
ユウコに案内してもらい移動する。
到着したところは「迅雷鳥の孤塔」とは逆側にある
「雷々蝶の孤塔」
例によってユウコが通るとフヨフヨと寄って来ては
離れるを繰り返すが、
迅雷鳥よりは大人しく近付いて来るので
スンナリと通ることが出来た。
不思議な光景にセイラとヌフは興味津々で
寄って来る雷々蝶を不思議そうに見詰めていた。
タケルは相変わらずラーメン屋みたいな名前だな、
と思いながら頭の後ろで両手を組んで歩いていた……
到着した塔の一室に安置してあったサンクに
手を合わせるタケルとサクラ。
セイラ達は両の指を組んで祈る形である。
どうして亡くなったのかは後にして
サンクの身体を調べ始めるサクラとセイラ。
調べている間にサンクが亡くなった原因を
ヌフに聞いたタケルは
「そうか」
とだけ言ってその後は黙って
事の成り行きを見守っていた。
……
暫くして調べ終わった二人は難しい表情で
調査結果を共有する。
まずはセイラが口を開く。
「液体魔法銀が使われておるのはすぐ分かった。
ただ他の成分が分からん。
液体魔法銀である液体の特性を消しつつ
固体として確立させしっかりとした肉体として
成立しておるワイ」
サクラも混ぜ込んであるのが何か分からないのは
同様のようだが
何か思いついたことがあるようで口に出そうとするが、
もう少し確信を得てから
タケル達に伝えることにしたようだ。
調査が終わったため「迅雷鳥の孤塔」へと戻って来た
タケル達。
お茶を飲みながら話し始めるのはセイラである。
「フム、とりあえず今回はここまでじゃ。
貴様等の事情は話してもらうとして、
先に今後の動きを話し合いたいのじゃがーー
サンクの調査から元気のないサクラであるが
セイラの言葉を継いで、
ーーまずは聖光国側の動きを確認しましょう……
ヌフさん、これから聖光国はどう動きそうですか?」
これに対しヌフは、
「我らのことで言えば、
代わりが造られるまでには少し時間が掛かると思う。
さっきも言ったが優秀な魂が必要だからな。
それに上手く馴染まないと肉体ごと弾け飛ぶからな」
もう一つの懸念材料は、と前置きし続けるヌフ。
「我らが行方不明となると
代理でシス、セット、ウィットが動くだろう。
追手は……カトル、トワも動くかも知れん」
ヌフの説明では、
シス、セット、ウィットがヌフたちの代わりで
情報の取り纏めや連絡役。
後は追手が2人来るかもしれない、とのことであった。
それぞれが手練れで特にカトルとトワに至っては
幾つか聖光神からの力を付与されているそうだ。
ただなんの能力かは分からないとのこと。
変わらず元気のないサクラではあるが、
それを聞いて話し始める。
「では、今後は追手を躱しつつヌフさん達の保護を継続。
学園で情報を集めつつ、
これから行われる魂の回収や話にもあった
無茶な憑依を阻止。
あとはーー
一拍置いて意を決した表情で言うサクラ。
ーーディースさんの言っていた聖光神に会うこと。
直接会うことで得られる情報も
必ずあるはずですからね」
カラ元気なのが見て分かるサクラに
タケルが言葉を掛ける。
「動きの確認はそれで良いよ。
あとはディース君を起こして差し上げて頂戴。
ほんでもってヌフりん達の事情を聞こうぜ。
ヌフりん達はこれから聖光神をブッ倒すまで
ここでゆっくりしてだな。
サンクるみたいなのを
今後出さないようにオレ等が頑張ろうぜ」
可笑しな呼び名にも反応せず伏し目がちだったサクラが
ハッとタケルを顔を見る。
セイラもいつも通り偉そうにしながら頷いている。
そんな様子を見てヌフが、
「フン、聖光神を倒すなど考えなしのバカ男だな。
しかし我らの処理についての話の時も今回もだが、
サクラに対しての気遣いについてだけは男前だな」
サクラは相手が自分をコロそうと向かってきている者で
あっても、まだ相手をシに追いやることに慣れておらず、
ユウコにもフォローしてもらっていたが、
まだまだ自分を責める癖があった。
そして辛い言葉を吐かないといけない場面では
雰囲気を変え、時には肩代わりして言葉を投げる。
また周りの者達を守るのを最優先とすることを
忘れてはいけないと伝えたかったタケル。
そしてその気遣いをヌフに見抜かれた形だが、
そのことに気が付かなかった自分と
それを暴露され顔が真っ赤っ赤になったサクラは、
「……タケルのーー
ーーバカァアアアアアアア!!!!」
ドッゴォォォオオオ――――
バッキバキバキ――
ピュゥゥゥゥ――
部屋の扉と共に雲海へ落下していくタケルであった。




