~81 神域へ行きますよ~
「とりあえず剣のままで?」
質問の前に確かめておくサクラ。
端から見ると剣と喋ることになるからだ。
「夜はピカピカで目立つ」
ユウコは雷の精霊神である。
剣化した今でも時折パチパチと小さな稲光が
しているくらいだ。
「クス、確かにそうですね。
それでは少しお聞きしたいことがございますので、
お付き合いくださいね」
「ん、良きに計らえ」
一体どこで覚えるのやら。
しかも微妙に使い方が間違ってるし、クス。
「はは~それでは女王様、失礼してーー
戯けた口調でサクラが聞いたのは、
まず捕虜にした3人のこと。
近くには居ないからだ。
「神域」
驚くサクラ。
「エエッ!? 繋がるんですか?」
「この世界にも慣れてきた。繋がる」
サクラの言う神域とは
ユウコはじめスカージ、ベレヌスも持つ
自身の専用空間である。
神竜ゼヒライテもタケルと戦った際に
使用した場所である。
ただタケル達は別世界からやって来たため
慣れて繋げるまでに時間が掛かっていたようだ。
「はあ、まぁ流石と言いますか、
じゃあ逃げられないでしょうし。
後で聞きたいことがありますので、
私も神域に通して下さいね」
「わかった」
さて次は一番の疑問、
「ユウコ様はどうやってここに?
それにタケルは?」
遣わしてくれたのはタケルと理解しているが、
今日はなぜか念話も繋がらない。
そしてユウコについては、
聖光国へ入るにも国境にはヴァッケン同様
魔力体は弾かれる障壁があるし
何よりタケルと離れることを最も嫌うユウコ。
サクラの記憶ではタケルと契約してから
ユウコが単独で動いたことはなかった。
「国境は剣化してセイラが学園宛に送った荷物に紛れた。
中身は私だから今はもうカラッポーー
少し間があって、
ーー主殿はセイラと一緒。
あとは秘密のアッ◯ちゃん」
「ハ?」
またも可笑しな単語出てきているし、
それにタケルとセイラが一緒に居るのは構わない。
が、あの二人が揃って真面に事が進んだことが
あっただろうか?
と記憶を探るサクラ。
「ひ、秘密ですか?
ではそれ以上はお聞きしませんが……
お陰様で私のことは露見せず、
明日には学園に戻る予定ですが、
ユウコ様はどうなされるおつもりですか?」
恐らく言われたことを
思い出しているであろうユウコ。
「……付いていく、サクラに」
「私ですか!?」
確かに心強くはあるが、とサクラが考えたところで。
ユウコが言葉を継ぐ。
「主殿から守れって。
危険なら全力出して良いって。
あとリュックごと渡しとけば良かったって言ってた」
それを聞いたサクラは
冬のコタツの中に潜り込んだような気持ちになる。
冬の陽光に当たっているような、
といった表現にならないところがこのコンビらしいが、
とにもかくにも嬉しく思う。
「そ、そうですか、タケルがーー
つい口の端が上がってしまうが、
それを抑え込みユウコに尋ねる。
ーーですが、
学園の障壁は剣化して通れたとしても
剣を持ち歩く訳にもいきませんから……
寮の部屋に、と言っても2人部屋ですし」
そこで剣の前辺りの空間から、
ポロリと出てきたアイテム。
「これ使えってセイラから」
サクラが手に持って確認すると、
それはアンクレットであった。
ユウコの説明によると、
このアンクレットは空間収納付きで、
そこにユウコを収納すれば問題ないとのことであった。
セイラに感謝しつつ、
納得したサクラはユウコが傍に居てくれることを
心強く感じながらアンクレットを起動させて
剣化したユウコを収納するのであった。
暗部3人の尋問と今後の聖光国の動き、
セレネース誘拐犯である侯爵家の動き、
色々と調べることはあるが、
その前にタケルとセイラの秘密の行動に
マキシマム・レッドが暴発しそうになるが
我慢して、まずはテントへと戻るのであった。
学園南側 フィロン大森林 入り口簡易詰め所前
明けて翌朝、サクラやセレネースの班も含め
昨日集合した森の入り口へ
学生全員が無事に帰って来ていた。
まずはマレーネから順位の発表があった。
1位 ギュスタフ班 ボスクラス1体 魔獣61体
2位 セレネース班 ボスクラス1体 魔獣59体
3位 サクラ班 ボスクラス1体 魔獣53体
森の入り口に戻るまで2体程倒したが、
サクラの班は惜しくも3位であった。
サラ&デーブによると充分に好成績だそうで、
学期末にもらう成績表が楽しみになったようだ。
後はマレーネが疲れているだろうから、と
閉式の挨拶もそこそこに解散となり
学生達は学園に戻ることになった。
そして問題のギュスタフを
閉式まで確認していたサクラ。
はじめは1位ということで
回りに散々自慢して回っていたが、
2位の班を聞いた瞬間、
居ないものと思っていたセレネースを見付け、
目を見開いたままセレネースを暫くの間凝視し
気付いたセレネースに睨まれた瞬間、
我に返り直ぐに目を逸らして式も終わっていないにも
関わらず珍しく走って学園の方へ向かった。
という一幕はあったが、
とりあえず学園へと戻ってきたサクラであった。
学園内 学生食堂
「惜しかったねぇ、サクラちゃん!!」
まだお昼には少し早いが朝食も食べていない
Sクラスは食事中である。
「サラちゃんとデーブ君のお陰だよ。
わたし後ろで歩いてただけだもん」
一緒に食事中のサラとデーブが首を横に振りながら
食べながら喋るという器用なことをしながらも
とりあえず話し始める。
「んんにゃ、モグモグ、あのワニを一撃で倒したのは
モグモグ、サクラちゃん」
「そう、モグモグ、そう、あのワニは、モグモグ、
苦戦必至だったけど、モグモグ、1秒で終わったから」
要は無事に帰って来られたのはサクラのお陰だと
言いたいらしい。
「へぇ~、わたしも見たかったなぁ。
やっぱり凄いんだね」
それよりも、と食べ終わったデーブが続ける。
「プハァ、やっと人心地ついたよ。
それよりも、その後のサクラさんーー
正面と右横からフォークに刺した
サラダと肉を同時に口に突っ込まれるデーブ。
サクラからコッソリ、
「足の先から1㎜刻みで細切れにされたら
痛いと思いますか?」
と満面の笑みで言われ、
口の中のサラダと肉を頬張り額から汗を流して
無言で頷くデーブに怪訝な顔をするセレネース。
サクラは涼しい顔である。
食事も済み、今日はSクラスの学生は全員お休みなので
とりあえず寮の部屋まで戻ってきたサクラ達。
暗部3人やギュスタフのことは気になるが、
動くとしたら夜しかないためセレネースと瓢箪湖畔で
フィロンドラゴンダイルを倒した時の話や
途中大きな雷が落ちた事などについて話した。
またワニを倒した際のお花摘みの話もしたが、
セレネースはお腹を抱えて大笑いし、
それで疲れた訳ではないだろうが
いつもより早い時間にも関わらずウトウトし始めた
セレネース。
「ふぁ~、眠くなってきちゃった。
お先に寝るねぇ~サクラちゃ~ん。
そ~そ~明日ね~転入生がね~来るって~
おやすみぃ~……
最後は何を言ってるのか聞き取りにくかったが
特に関係あるはずもなく、
「お休み、セレちゃん。無事でよかった」
と、セレネース寝顔を見ながら無事であっことに
心底安堵し、
いつもの秘密の小部屋へと向かうのであった。
学年本棟 暗部秘密の打合せ室
「さて、ここは大丈夫ですよ」
そう言ってアンクレットから剣化したユウコ、
雷神剣を取り出すサクラ。
途端に太陽のような黄色のワンピースに身を包み
同じ色のショートブーツを履いたユウコが顕現する。
「ヒマだ」
クスリと零し、相変わらず大変にプリティでキュアだ、
と感想を抱く。
可愛いものに目が無いサクラは
これだけ可愛ければ見るだけで視力も回復するのでは?
と逸れ始めた思考を元に戻し声を掛ける。
「すみませんユウコ様。
早速ですが、神域へ入れて頂いても?
ちなみにシんでませんよね?」
「大丈夫」
……
そこで珍しくユウコが考え込む仕草を見せたため
問い掛けるサクラ。
「どうされました?」
一拍置いて逆に尋ねるユウコ。
「サクラの魔法見た……
あれは見たことない」
言葉の少ないユウコの心意を汲み取り、
補いながら魔法の説明を始めるサクラ。
「ディースへの魔法ですね?
そうですねーー
サクラによると
あれはマキシマム・シリーズという
サクラが肉体を得たことによって現出した魔法系統の
ユニークスキルで”感情”が核となって構成されており
当然オリジナル魔法でタケルも知らないはずとのこと。
またディースに使った「マキシマム・グレー」は
余程精神攻撃に耐性が無い限り一瞬で、
加えて確実に夢の中に囚われ使用者の解除が無い限り
永遠に出てくることが出来ない効果を持つ超強力な
精神攻撃魔法であるらしい。
他にも使い方はあるらしいが、
ディースへ使ったのはサクラの説明にあった精神攻撃で
サクラが解除しなければ、
ディースは誘拐が成功したことを事実として
認識したまま夢の中で人生が終わるまで
過ごすことになる、と説明した。
聞いたユウコは感想を述べる。
「夢の中もひとつの世界。
使い方を誤ればサクラも戻って来れない。
気を付ける。
でもいつか主殿の役に立つと思う」
珍しく長文のユウコに驚くサクラだが、
ユウコはもう興味は無いのか神域に入るようだ。
「いくよ」
「はい、お願い致します」
ユウコがそう言った途端、周囲の景色が変わる。
そこは眼下に雲海が広がり、
巨大な山脈が遠くにも近くにも聳え立っている場所で
正面には見上げる程の大きな白亜の神殿があった。




