~75 肝が冷えますね~
(だけどヴァッケンに潜り込むつもりが
こんなことになるなんてねぇ。
まぁタケルのせいなんですけど、もう。
……でもマニスちゃんとか言ってたし心配ですね)
心の中で独り言ちるサクラ。
ここは講義室が多くある寮の1階から
直接繋がる学園本棟の廊下である。
定期巡回の他は特に人気も無く
灯りも殆ど点いていない。
そんな中サクラは
スキル「隠形」で気配を断ち「光学迷彩」で姿を隠し
「隠蔽」で魔力を消している。
人混みでは隠形を使うと逆に目立つこともあるが
今は人も居ないため3つである。
スキルを重ね掛けしある人物を探す。
(さて、どこでしょうねぇディースさんは)
サクラはヴァッケンと聖光国を行き来する
ディースに辺りを付けた。
何かしら情報を持っている可能性が高いからだ。
本棟の廊下を足音も消すサクラは廊下を進み
寮から最も遠い廊下の突き当りの階段を目指す。
サクラは学園の建物の位置については既に把握しており
2階から本棟を抜ければ職員エリアであることも
知っている。
まず目指すはそこなのだが……
……
(ここ、少し可笑しいですね?)
サクラが立ち止まったところは廊下の突き当り、
木目調の壁であり硬質で高価な木材を
使用しているのが分かる。
外見は特に可笑しなところはないが
一部だけ空間に歪があるように思えた。
どうもそれが違和感に繋がったようだ。
(変に調べて警報でも鳴ったら台無しですからねぇ。
そうですね――
そう言って慎重に魔力を走らせる、
というより歩かせると言った方が適切な程ゆっくりと
その空間を調べ始める。
――隠し魔法陣ですか……
どこか近くに繋がってますねぇ。
セキュリティは人物認証とログ管理に
上書き防止ですかね)
2~3分程経過し調べ終わったサクラ。
(昨日も一昨日も、
ここのところ頻繁にここを使ってますね。
えと、最近の使用人物は……ヌフ、サンク、
ディースさん!! ビンゴですね)
とりあえず今の時間は使用していないことを確認し、
その壁の上に手を翳しセキュリティを突破。
(フフ、この怪盗サクラ様にこの程度のセキュリティとは
舐められたものですね、フッフッフッ……
やってる場合ではないですね。
ちょっと置いといてですねーー
壁をすり抜けるサクラ。
スゥ
ついでにログを消去し上書きも元に戻しておく。
すり抜けた先は寮の2人部屋程度の広さがある
小部屋であった。
テーブルと椅子が4脚以外何も無い。
(何のお部屋でしょうか?
初日ですから無理はしませんけど、
とりあえず最近の入室ログですともう少しすれば
誰か来そうな感じですね。
しかし隠れるところが無いですね、ここは。
まぁ3スキル展開中ですし
部屋の隅にでも蹲っておきますか。
ただこの部屋に入ってくるときは分かりますけど
ディースさんの気配は掴めませんからね。
気を付けないと)
そう言って部屋の隅に移動し
床に腰を下ろそうとした時に部屋に誰かが入ってくる。
スゥ
スゥ
入ってきた二人は無言で椅子に腰を掛ける。
サクラは見付かることなく
ホッと胸を撫で下ろしている。
(フゥ、大丈夫だとは思ってましたが肝が冷えますね。
……ディースさん、もう一人は、
!?ーー
サクラが顔を見て少し驚く。
ーーそっくりですね……双子ですか?)
会話を始める二人。
「ご苦労ディース」
「ハッ、ヌフお姉さま」
「そうだな今日は、まずヴァッケンのことだーー
そう言って話し始めるヌフ。
VVVNo.1、2、3が何者かに連れ去られ、
ヴルカヌスも何者かに敗れ
ヴァッケンの上層部は上へ下への大騒ぎだったそうだ。
ーーとりあえず同盟国として殿下が、
あと猊下が向かわれた。
獣王国から兵でも差し向けられれば面倒なのでな」
それを聞いたディースは、
「やはりあの時のーー
ディースはサクラとアレクサンドルを
連れ出す際の状況を説明する。
ーー王城の上空に3人と城の尖塔に1人。
その者等が噛んでいるのでしょう。
私はその後転移してしまいましたから」
頷き、言葉を返すヌフ。
「フム、恐らくそいつ等だろうが全く素性が分からん。
見ていた者も居たが上空で行われていたことと、
ヴルカヌスは移動したようだからな。
今調べているところだから待つしかない」
それよりもと続けるヌフ。
「そう考えると、お前がサクラとアレクサンドルとやらを
連れ出したのは僥倖だったな」
そう言い無表情ながらも若干喜色を滲ませるヌフ。
「しかしサクラとアレクサンドルは何とか確保していますが、
大会4強の残り3人は?」
それに問いにヌフが説明するには、
王や親衛隊が居なくなったため、
ヴァッケンの上層部は今年の勧誘については
当然行えないと考えていた。
事態が収束した後、
その旨を3人に伝えると3人は揃って
「サクラ殿に勝てるよう精進したい」
と言って去っていったそうだ。
「そのサクラとやらがどれ程の者なのか分からんが、
優勝者を確保しているのは大きい。
聖光神様もお喜びになろうーー
そこで思い出したようにヌフが言葉を継ぐ。
ーーそれで異世界人は2人居たはずだが?」
ディースは1人には断られた旨を伝える。
エレーナのことである。
「そうか。
まぁ2人は確保しているしな、まぁ良い。
ただいつも思うが
世界中の目ぼしい奴らをサッサと攫って来た方が
一気にことが運んで楽だと思うのだがな」
対してディースは、
「それだとーー
全てを言わせず途中で言葉を遮るヌフ。
ーー分かっている。
大会で強者を集める方が効率的であるし、
世界中の情報を集めて攫ってだと効率も悪いし
警戒もされる、だろう?
分かっているのだがな」
分かっている、というヌフに更に言うことはないとばかりに
頷いて沈黙するディース。
「とりあえずサクラとやらは
お前の言う通り上に聞いてやるから少し待て。
あと、アレクサンドルとやらは手綱を握っておけよ。
やたらと反抗的と聞いているしな。
あまりに面倒なら神都へ連れて来い」
頷くディースを見て、今日はそんなところだと
席を立つディースとヌフ。
入って来た壁から出て行く二人を部屋の隅で
見送っているサクラ。
……
(フフフ、精進したいなんて、もう。照れますね)
本当に少し会話しただけの3人であるが、
無事であることに安堵してテレテレするサクラ。
そんな状態のサクラではあるが、
警戒はしっかりとしており、
それから念のため1時間、と思っていたが
1時間は暗部が情報収集の際念のため時間を置いて
その場を去る場合の基本的な時間であるため、
更に念のためもう1時間、2時間程度置いてから
部屋を後にしようと考えるサクラ。
1時間後
スゥ
再度ディースが部屋に入って来ると、
「……壁にも異常は無かったし、異常なし」
出て行ったディースを再度見送り、
部屋の前に張っていたことが分かりホッとするサクラ。
(フゥ、とりあえずお二人は暗部ですか。
なかなか手強いですね。
あとディースさんの探知が出来ないことも
気掛かりですし……
でも貴重な情報も手に入りましたし。
今日はこんなところにしますか。
明日からは学校ですしね♡
タケルには明日どこか空き時間を見つけて
連絡しますか。
ふぁ~あ、寝ましょう。お肌に悪いですし)
慣れているようで慣れていない
サクラの隠密道中であるが、
まずは初日の情報収集を終えて
明日に備えるのであった。




