~56 休日とシーマン~
今日はサクラの付き添いで王都を回ることになった。
ついでにオレのリュックの中に食料や雑貨を補充
しておくことにした。
魔剣と料理道具、工事道具しか入ってないからね。
何があるかワカランしね。
ということで、
朝メシ食ってから王都をブラついている訳だ。
「アッ!」
と声を上げたサクラは目的の店を指差し嬉しそうに
タケルに声を掛ける。
「ありましたよ!!
会長が仰ってた肉屋さんですよ!!」
もう突っ込んだので、
タケルは少しだけ遠い目をしながら
反応する。
「ああ、あったな。
ニックのニクニク屋……」
その語呂を聞いたサクラもクスリと微笑んだ
微笑んだとき周りの男性も女性もご高齢の方も幼い子も
皆サクラの方を見てほわぁっとしている……
スゲーな……
強烈な魅了効果だよ。
もうスキル認定で良い気がする……
そんなことを考えるタケルにサクラは
「面白い店名ですね、クス」
いや、
ネーミングセンスに驚嘆するけど面白くはない!!
それより周りの視線が痛いよオレは……
「チッ、何だあの横の冴えないのは、シネッ、ペ」
「リアジュウバクハツ、バクハツ、バクハツダァ!!」
「ハァハァ、キレイ……オネエサマ……」
「ネェネェおかあさん、
おかあさんはなんであのおねえちゃんじゃないの?」
「おお、おお、なんという、ああ(合掌)」
まぁ罵倒は構いませんよ。
誰だリア充とか? どこ出身だ?
あとアブないのと、
お子様の質問はお母さんには酷すぎる……
最後は合掌してるしな!!
「何してるんですか? 入りますよタケル」
サクラの微笑の効果に一瞬呆けていたタケルは、
サクラに声を掛けられ大きな骨付き肉の看板の付いた
大きな観音開きの扉の片方を開けて店に入って行った。
「ハァ~イ、いらっしゃぁい!」
扉の鈴が鳴ると元気に挨拶をする若い女性が見えた。
(か、完璧だ……
後半部のイントネーションがスバラシイ。
新婚じゃないけど)
しようもないことを考えるタケルを他所に、
サクラは店内に吊り下げてある肉の塊をキラキラとした
眼で興味深げに観察している。
「あれ、羨ましいにゃあ。新婚さんですかにゃ?」
直ぐに反応するタケル
「うわぁ惜しい!! ちなみに違います」
違う部分に反応しつつも新婚の件は
キッパリと否定しておくタケル。
「? 惜しいのが何のことか分からにゃいが、
新婚に見えたんだけどにゃあ。
まぁいいにゃ、どれくらい要るのかにゃ?」
(語尾もそうだけど白い三角巾の後ろにケモミミが
あるなぁ、可愛いねぇ。
しかしこの国獣人さんも住んでんだ)
タケルはハッとしサクラのお説教が入るのでは、
とビクリとしたが、
横を見るとサクラは肉の塊を熱心に観察しているよう
なので、ホッと胸を撫で下ろしながらタケルが答える。
「そうだねぇ、
とりあえず2人3食で5日分くらいでいいかなぁ」
「種類はなにがいいにゃ?」
「種類かぁ、お任せしても良いかな」
「コッテリとアッサリを混ぜておくにゃ」
「お願いします」
カウンターから出てきたケモミミ少女は慣れた手付きで
サクラの見ている肉を何種類か切り分けていた。
またそれを熱心に観察するサクラ。
あまりにも熱心なのでケモミミ少女が少し引き気味だ。
(そういやゆっくり買い物とか初めてだもんなぁ)
そんなサクラを微笑ましく見詰めるタケルであった。
肉屋での用事は済んだが、
まだ店内を熱心に観察しているサクラに声を掛ける。
「サクラ、次行くぞ~」
「えっ、あっ、は~い!」
慌ててタケルの傍まで来るサクラ、
「スミマセン、見入ってしまって」
「楽しいんだな」
「ハイ!!」
元気良く返事をするサクラと共に扉を開けて外へ出る
間際に店の人に礼を言うタケル
「ありがとねニックさん」
「誰にゃ、ニックって??」
ガタゴトッ
扉付近で躓いたオレは後ろから付いて来ていたサクラが
背中に乗り親子亀みたいな恰好で振り向きながら、
先程の店員に問い掛けた。
「店の名前は?」
「大丈夫かにゃお客さん?
ん? 店の名前にゃ? ああ!!
ニックって付いてるけどニックは居ないにゃ。
ニャハハ、単なる語呂合わせじゃないかにゃ。
まぁアタシなら絶対付けないけどにゃ」
おらんし!!
心の中で突っ込んでおく。
そんなこともありながら、お礼を言って表に出た二人。
若干の疲労感を残しつつ気を取り直して次の店を探す。
精神的に若干疲れているタケルを他所に
サクラはまだまだ買い物を楽しみたいようだ。
「あと雑貨ですよ雑貨、買い物買い物、
ショッピングゥ!!」
グゥ!! で親指を立ててこっちに向けてくる。
だから古いってサクラ……
……
雑貨屋では普通に買い物が終わった。
そう普通だ、これで良いんだよ。
なんでも普通が一番なんだよ、修行もそう!!
神竜様とか出てきたらシンドイって!!
よそう……せっかくの休みだし。
そもそも地理的情報がウンタラ言ってなかったか?
ちゃんと情報取ってんだろうなぁ?
その後、商会のケーキを卸しているカフェで
サクラの開発した新商品のケーキを食べて自慢され、
王都の情報も取れたのか知らんけど、
そろそろ帰ることにした。
商会へ戻る最中、
相変わらず振り向いたり指差したりされまくっている
サクラにタケルが注意を促す。
(周りのオマエを見る視線がスゲーんだから、
出来る限り静かに目立たないようにしろよ。
恐らく大会出てんの見てるから絡まれんのが無いだけ
マシだけどな)
それとなく周囲を見渡すサクラは、
タケルの言う意味に気付いたようで、
(フフ~ン、そんな美女と一緒に歩けるなんて光栄に
思いなさい)
美女ねぇ……オカンの間違いじゃないのか?
(なぁんですってぇぇ……)
心奥だぞ!! なぜに!!
(って、何も言ってませんよね?
何か聞こえた気がして)
全力で気のせいを連呼するタケルを見たサクラが
楽しそうであるが寂しそうにも見える表情で
声に出して話し始める。
「フフフ、どうせオカンとか言ってたんでしょうけど
今日は許してあげますーー
だからなぜに分かる……
ーーあ~あ、こんな日が続けば良いんだけどなぁ」
少し雰囲気の変わったサクラに気付き
黙って続きを聞くタケル。
「だって、せっかく身体も頂いたのに、
お師匠様のご指示とは言えタケルはいつも忙しい
ですからねぇ……
今日ぐらいは全力で楽しみたかったんです」
好きな人と……
それを聞いて頭を掻くタケル。
「あ~ゴメン!! そりゃそうだよな。
身体もらってから息抜きしてないもんな。
肉屋さんでは分かってたんだけどなぁ……
そうだ!!
あの肉屋にニックが居ないから調子狂ったんだ!!
そうだ!! 肉屋のせい……にはならんわな。
ゴメンなサクラ」
そんな答えを聞いて首を振るサクラは、
「ぜ~んぜん、気にしないで下さい!!
ちょっと言ってみただけだから。
それに今回の件も大詰めですよ、失敗すると
どこでお師匠様が見てるか分かりませんからねぇ~」
ウワァと頭を抱えるタケルを見て、
コロコロと笑いながらも、
先程の最後に言った言葉が聞こえていたほうが
良かったのか良くなかったのか、
スキルを使っても答えは出ないのであった。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★
「揃っておるな」
「「「ハッ!!」」」
「それと、シーマンを呼べ」
普通であれば20人は座れるであろう大きなテーブル。
そこに座る4人の内の一人が壁際の文官らしき男に
声を掛ける。
程なくして入口の扉からノックの音が響いた。
「入れ」
現れたのは年の頃20歳にも満たない女性。
全身が黒で統一されスリットの入ったタイトスカート
にタイツ、上半身はピッチリとした身体のラインが
強調されるような長袖、靴はローヒール。
両の腕輪と首飾りは魔道具のようだ。
「お呼びでしょうか閣下」
扉の前で跪くシーマン。
「まずは座れ」
テーブルに座るよう促すのは、
ヴァッケン王国、国王ヴルカヌスである。
シーマンが座ったところで会議を始めるヴルカヌス。
「さて、今年はどうだ? 親衛隊の諸君。
常連以外にも残っておるようだが」
発言の順番が決まっているようでヴルカヌスの右手に
座っている男が発言する。
「そうですな、わたくしの見立てでは昨年は4強に残った
ものの撥ねました天眼、魔人は力を付けております故、
取り立ててやっても良いのかと」
ヴルカヌス親衛隊
VVVNo.1焦熱のエグゾネスレである。
先を促すヴルカヌス。
「そうねぇ、同じね。他はちょっと見劣りするわ」
続いて発言するのはNo.2炎熱のサージェリー。
「そうだね拳闘士も残るだろうけど魔人には勝てないし
そんなもんでしょ」
そしてNo.3焼灼のスカルペル。
親衛隊の意見が出終わり、ヴルカヌスが問い掛ける。
「フム。ではこのサクラとやらはどうなのだ?
圧倒的だと言うではないか?」
「閣下ーー
エグゾネスレが発言を求め頷いたヴルカヌス。
ーー閣下もお人が悪い。調査結果次第だと仰ったでは
ありませんか」
口角を上げるヴルカヌス。
「フッ、そうであったな。
二度も煮え湯を飲まされておるからな。
して、どうだ? シーマンよ」
発言を求められたシーマンが答える。
「ハッ、恐れながら申し上げます。
登録は獣王国王都のギルド。
連れであるタケルと共にNo.5の商会で働いており、
特に怪しいところはないかとーー
ただし、と続けるシーマン。
ーータケルの登録がフィーネであることが気掛かり
ですが」
シーマン以外、
テーブルに座る全員の気が抜け小さく笑い始める。
「クハハ、あ奴は流石にあのアホが化けているということ
はないであろう。
二つ名が「アンデッドマン」であるぞ」
エグゾネスレに続いてサージェリー、スカルペルも
声を上げて笑い始める。
「プフフフ、そうね流石にキチャないしないわね」
「アハハハ、あのセイラはあんな戦い方はしないよ」
ヴルカヌスはじめ8強の試合は確認してある4人。
確かに当たりである。
ある意味タケルは怪しまれていないので成功なのだが、
不憫である……
それを見ていたヴルカヌス。
「……フム、流石にありえんか」
気持ちを切り替えたヴルカヌスは次の議題へと移す。
「まぁいいだろう。次は、
ベックスとセンターの動きはどうだ?」
先程と同じくシーマンが答える。
「ハッ、こちらも同様に今のところ問題はないかと」
少し引っ掛かるヴルカヌス。
「……今のところとは?」
「……」
黙して語らないシーマン。
思考を巡らすヴルカヌス。
「勘か? シーマン。
フーム、あの二人のスキルは我が国の防備と収入の
重要な部分を担っておる故、抜けられては困る。
他国への利益にも繋がるであろうし念のため監視を
付けておるが……」
黙ったまま腕を組み考えていたヴルカヌスだが、
考えが纏まったのかシーマンに指示を与える。
「それでは監視を増やせ。
サクラとやらも問題ないのであれば他に任せて、
貴様はベックスとセンターに張り付け」
「御意」
こうしてベックスとセンターの監視は、
シーマンの一言で強化されてしまうのであった。
タケルはノーマークのフリーでパス受け放題に見えたが
シーマンだけは眼を離していなかった。




