~50 亡命ですか~
ベックスから相談を持ち掛けられるタケルとサクラ。
(なんだろ? 改まって?)
(なんでしょう? 正社員の話とか?)
(話の流れからチガウ)
ベックスの真剣な様子に顔を見合わせる二人は、
ひとまず話を聞くことにして頷いた。
「有難うございます。
ハハ、急に吃驚しますよね……」
そしてベックスは神妙な表情で語り出した。
「私が初めて買った◯ャンプは170円でした。
表紙はア◯レちゃん」
……
(……真剣な顔して言われてもな。
オレ等の居たときは?)
(……380円です。
ちなみに170円は1980年から1989年の期間です)
(そうか……しかもご丁寧にア◯レちゃんまで出たか。
名作だけど再放送しか知らんぞ)
(それはさて置き……この人転生者ですよ)
タケル達が若干ズレた会話をしていることなど
分からないベックスは、
それを黙り込んでいると勘違いし話を続ける。
「あれ? ちょっと古かったかい?
GOの曲も知ってたし同年代かと思ったんだけど」
(いやテレビがあるでしょテレビが!
サクラが当たり前体操とか言うから)
(ちょっと!!
タケルがエキゾチックと繋げるからでしょ!!)
……
(や、やめよう終わらんぞ)
(そ、そうですね……)
とりあえず答えるタケル。
「急にビックリしましたけど、
その◯ャンプの話が相談事でないとしたらーー
引き継ぐサクラ。
ーーここに居る3人全員が転生者だと思っている
ということでよろしいですか」
ニコリとして答えるベックス。
「もしくは転移者か、だね。話が早くて助かるよ」
……
(ハァ、ジャパンからだな)
(ハァ、ジャパンからです)
(ハァ、さて、もう認めるとしてだな)
(ええ、目的はなんでしょう?)
お互い少し沈黙した後、サクラが口火を切った。
「会長のお考え通り、
私……達は転生、というより転移者です」
ガタッ!
椅子から立ち上がり目を見張って二人を凝視する。
一頻り見詰めた後、深い溜め息を吐きドサリ、
と椅子に座るベックス。
「ハァァ~、緊張したぁ~
間違ってたら頭の可笑しな人だからね。
まぁかなり確信に近い自信はあったけどね、フゥ~」
先程の緊張感からは若干緩んだ空気の中、
今度は逆にサクラが尋ねる。
「クス、
黙ってればお互い知らない分からないで通せますのに。
なぜご自身の秘密を暴露してまで、
私達を異世界人と特定したのか?
当然その先がありますね?」
(ウワァ、ル◯ンみたい)
(ちょっと黙ってなさい!
あと、それ泥棒さんですから)
椅子に深く腰掛け少しリラックスしたのか、
その問いに答えるベックス。
「その通りですよ。
同郷者であるという理由以外に素性を隠している、
というのも重要だったんですけどね」
「……それは秘密の共有を以て何かしらの案件に
協力しろ、ということでしょうか?
リスクはお互い様かと思いますが」
ここで、
サクラの雰囲気が変わったことを、
敏感に察知したベックスは慌てて言葉を返す。
「いやいや、そういうことじゃなくて。
助けて、欲しいんだよ……」
ベックスが事情を説明する。
異世界人はステータスやスキルが良いため、
目を付けられ易く、
そのため大半が国の管理下に置かれる。
ここヴァッケンも例外ではないが、
ベックスは異世界人であることを隠してきたにも
関わらず、その優秀な能力から国の重鎮VVV
に任ぜられてしまい結局管理されることになってしまった。
ヴァッケンは特に管理も厳しく、加えてヴァッケンの
政治方針が戦争有りきの聖光国と歩調を合わせている
ことも出奔を後押しする理由となった。
なんとか魔国へ亡命したいが監視も厳しく伝手もない。
「獣王国やエルデに亡命すると、
戦争になってしまいますしーー
話を聞きつつサクラは高速演算を使い思考する。
タケルは高速演算を使えないので思考するフリをする。
ーー後でサクラに怒られる
(タケルのことは後にして。
嘘は言ってませんね……
大会に出ることと平行して進めれば、
より情報を得ることも可能、会長は国の重鎮ですし)
ーーですので真っ向から対立する魔国に亡命すれば、
追っ手もおいそれと手が出せないと考えています」
そしてベックスは、
タケル達に魔国への亡命と保護について書いた手紙を
王城かギルドを通して魔王かそれに近しい者に渡して
欲しいとのことであった。
「連絡用魔道具を使おうにも登録相手がいませんしね。
私を含めVVVや国の大臣たちが通常出す手紙は
全て検閲されますので、
信頼できる方に手渡した手紙が一番確実なんです。
一応ヴァッケンのVVVと言えば無下にはされないと
思うのですが……
あと、その、言い難いんだけど、
もうひとりのお連れさんに頼んでもらったりはーー
「ダメダメ、ぜっったいダメ」
「ダメです」
キレイに揃って答える二人に驚いているベックスに
構わず続ける二人。
「今すぐ乗り込んでくるよ」
「王城爆破されますよ」
その連れの評価に興味を引かれたベックスは
どんな人物なのか聞いてみる。
「アハハハ、冗談にしても面白いですね。
聞いても良いのかな? どんな人なんですか?」
ここでサクラの高速演算での処理結果が幾つかの解を
導き出す。
その中での最適解は……
わたし達の目的の達成、
ヴァッケンの情報を取り、会長を亡命させ、
ついで……いえ本命の修行にもなる。
サクラはベックスの問いに答える。
「それをお聞きして頂くと後戻りは出来なくなりますが、
よろしいですか会長?」
タケル達の答えが面白く、軽い気持ちで聞いてみたが
思いの外重い答えが返ってきたことで困惑するベックス。
しかし何かしら亡命の件とも関係があるのだろうと思い、
意を決して聞いてみることにする。
「ゴクリ、構わないよ」
それでは、と説明に入るサクラ。
この間タケルは空気と化すーーだってワカランし。
まず連れは魔国の関係者であり、
大会出場もその人からの提案であること。
大会で準決勝まで残ってヴァッケンに潜り込むことで
情報を取り、あわよくば打撃も与える。
今回ヴァッケンに来た目的を話し、
その上でベックスの保護は連れに話すことで
概ね達成出来るだろうと説明した。
説明を聞いてサクラの言う通り後戻り出来ない
と悟ったベックス。
「ハハ、君達は所謂スパイってことかい?
わたしの商会で働いてももらったし、
確かにこれは後戻り出来ないな。
ん? でもお金無かったよね?」
「ン"ン"、コホン。
その辺りは複雑な事情がございますので説明はまた後日」
「いずれにしても、作戦を練らないといけませんね」
パチリ、とウィンクするサクラに、
事態の重大さを忘れ見惚れてしまうベックスだった。




