~39 三国同盟締結ですね~
鎧から生還した魔王は謁見室までやって来ていた。
「あのう、オレの扱い雑過ぎません?」
道端に捨てられた仔犬を見るような視線で見た後、
「それは私のせいではありません……」
目を伏せて答えるゼヒライテ。
そんなアホなイタズラをするのは、
この中では一人しかいないのだが
本人が名乗り出るはずもなく
ゼヒライテも敢えて言わない。
仕掛けた本人はお茶を啜っており、
魔王は首を捻っている……
そんなアホな一幕を終わらせる声が謁見室に響く。
「ヤッホー! マザー連れて来たよー!!」
その声に真っ先に反応したのは
灼熱竜リンデンブルムことリムであった。
「あーーー! お姉ちゃん!! おかえりーーー!」
「オ~! 弟よ、ちゃんと仕事してきたか?」
「うん!
ボク、ちゃんとセイラをマザーのとこへ連れてきたよ!」
「そかそか、よく頑張ったなぁ」
いっしょに帰ってきたタケルはその光景を
出来るだけ目立たないようにコソッと見ている。
なにやら微笑ましい光景に見えるのだが、
あの危険なセイラさんと同じ匂いのする
ヴァルディオーネさんとあのリムが姉弟だと!?
まだまだ子供のリム、
特にセイラさんに甘えるのは姉と似ているからか……
となると魔王との確執も今後続くだろうし
揚句に姉の方はセイラさんと同様に危険ときてる。
これはよく考えて行動しないと
大変なことに発展しそうだな……
やっぱり出来るだけ関わらないでおこう。
「そうだ、お姉ちゃん!!
そこに居るタケルとタケルと一緒に居るサクラは
すっごく面白くてーー
ウォイ!!
関わらないでおこうと決めたとこだよぉ(泣)
リムの言葉を聞いたヴァルディオーネは
話の途中だが遮って疑問を口にする。
ーー待~て、待て待て待て、弟よ、落ち着け?
そこのタケルはボクも一緒に来たから知ってる、
知ってるぞ弟よ。
しかしだ、タケルと一緒に居るサクラってのが
見えんのだが……少し心配だぞ弟よ?」
「フフフ。
それについてはわたくしから説明いたしましょう。
まずはご苦労でしたねヴァル」
ハッと我に返ったヴァルディオーネ。
「オッと、失礼しましたマザー。
弟を見てすっかり舞い上がってしまいました。
アハハハハ」
弟溺愛ドS姉、片や対弟ドS姉、
こっちは弟が変態だけど……
一体この世界の姉という括りの人達は
ドSでないといけない法律でもあんのかーー
『考えるの止めませんか?』
(そだな……)
そんな様子をもう一人恨めしそうに見ている者が居た。
しかし何か言って大変痛い目を見るのは避けたいので
瞑目している。
目を瞑るといっても当然瞑っているかどうかなど
全く分からず、
外からは単に骸骨の彫像にしか見えないダグザ。
そんな中マザーがサクラについての説明をすると、
ヴァルもサクラの存在を認識するのだった。
「へぇ~、人間にしては珍しいね。
ボクは弟が好きみたいだから何でも良いけどね」
と言ってニコリと笑う姿は、
まだまだ若い15~6歳の少女にしか見えない。
弟のリムは8~10歳くらいだから
ホントに姉弟なんだなぁ、と
さっきからの遣り取りを見ているにもかかわらず
再認識する。
「ようこそ、ダグザ殿」
それまで退屈そうにしていたが
外からは一切分からないダグザが
慌ててビクッと体を揺らした。
あまり内容を聞いていない証拠だ。
「ハ、ハハッ、マゼヒライテ様におかれましては、
ご、ご機嫌麗しゅう。
この度はーー
「あまり緊張なさらないように、ダグザ殿」
ーーハッ、有難きお言葉」
ダグザは膝を突いたまま俯き
ゼヒライテの言葉を待っている。
「お顔を上げてくださいダグザ殿。
此度はこちらからの急な呼び出しにもかかわらず
応じてくれたことに感謝致します」
「こ、これはこれは、ゼヒライテ様御自らの感謝の意、
ダグザ一生の誉れと致したく存じます」
洞窟内では、あれだけ無視が虫で、
などとダジャレを言おうとしていた人物と
同一とは思えない言葉遣いである。
やっぱりゼヒライテ様って凄い存在なんだなぁと
改めて思うタケル。
ところで、とゼヒライテは続ける。
「今回ダグザ殿に来てもらったのは他でもない、
先程から話題のサクラ殿の件です」
「ハッ、そこなタケルの中に居ると仰られる……」
「そうです。
そのサクラ殿ですが、
ダグザ殿であれば認識されているでしょう。
非常に珍しく魂だけの存在、
しかもタケル殿と肉体を共有しているのですよ」
ダグザも不死の王国を纏め魔法にも長けた人物である。
ゼヒライテの説明後、
サクラが存在を開放しているため
分かり易い状態であったとはいえ、
その違和感については直ぐに気付いていた。
「ハッ、先程のお話の際に認識は致しましたが……
あの、それでどのようなご用件で?」
ここでセイラが「策がある」と
ゼヒライテと打ち合わせた内容を説明する。
要はミクトラム本土の一部を割譲し領土として
認めることである。
ダグザの作った国ニダベリルは洞窟内にあり、
国土とは言え手狭であるし、
以前から島内の領土交渉を何度か行っていたようだ。
この提案はダグザにとっては渡りに船であり、
その上で対聖光神への戦力にもなってもらう。
そして領土を与える交換条件として
ダグザの準備しているドリームボディをもらう
といった形だ。
ダグザは暫くポカンと口を開けたまま
返事が出来なかった。
「ダグザ殿?」
見た目からは骸骨の口が開いているだけで、
聞いてるのか聞いていないのか分からない
厄介な見た目のダグザが、ハッと我に返り、
「いやいやいやいやいや…………
ほ、本気と書いてマジですか?」
なんでアンタがそんな微妙な言い回しを
知ってんだよ!!
と突っ込むのを我慢しながら聞いている
タケルとサクラ。
「超本気と書いて大マジです」
ウマいこと言わなくて良いんだけどな。
ゼヒライテ様もさ……
そのゼヒライテの答えに一瞬圧倒されたが、
思考を強制的に戻し答えに窮しているダグザ。
そりゃそ~だ、長年の夢、性転換!!
イヤ、ホントは受肉が目的のはずだけど。
どっちでも良いけど改めて確認してみると、
この人が王様ってどうなんだ?
まぁ国民はキャッキャッ言ってたけどなぁ……
「フフ、ダグザ殿、申し訳ありません。
突然で驚いたでしょう?」
モゴモゴとなっていたダグザが目を見開いた……
気がして、そちらを見ると、
「ハッ……ま、まさか、頂ける土地というのは、
き、禁断のーー
『(なんだ? 禁断の?)』
シーン
「その「禁断の」、というのは存じませんがーー
『(どないやねん!!)』
ーー魔国、また同盟関係であるわたくしたち竜の里も
ダグザ殿と良い関係で有りたいということですよ。
あなた見た目にそぐわず善政を敷かれてますしね。
魔王もそうですね」
ゼヒライテにもダグザの洞窟王国内の
キャッキャッウフフ情報は入っているようで、
地味にディスっているが認めてはいるようだ。
ゼヒライテからの問いに、
扱いは雑でも魔国の代表である魔王は
珍しく神妙な顔でコクりと頷く。
カッと目を見開いた……
ように見えるが、
あまり表情の変わらないダグザは
それでも大きく身を乗り出して、
「本当でございますか!?」
ニコリと微笑むゼヒライテは
ダグザに温かい視線を送りながら、
「わたくしが嘘を吐いたことがありますか?
安心なさいダグザ殿」
「え、ええ、そうですね、失礼いたしました。
……しかし、あの身体はーー
ウ~ン、と頭を抱え蹲ってしまったダグザ。
(なんか気の毒になってきたな……)
『……はい』
サクラも自分が関わることだから
何も言えないだろうし。
「ダグザ殿ーー
悩みに悩むダグザに声を掛けるゼヒライテ、
ーーあなたもご存知だとは思いますが、
現在、南の大陸では聖光神の力が増大しつつあります。
あなたの作った王国を
魔国や竜の里に組み入れるつもりはないのです。
今は少しでも対抗できる力が欲しいのです。
150年前の大戦をご存知でしょう?
あの時以上の未曽有の危機がやってくると
考えられます。
あなたの王国も魔国、もちろん竜の里も含めて
全て灰燼に帰すと考えてください」
大変に重い話を聞いて、
ダグザは息を飲む……ように見えた。
「今は手を取り合って聖光神に対抗せねばなりません。
彼の者はそれほどの力と……
なにやら画策していることもあるようです。
そもそもダグザ殿のお身体の話がなくとも、
この件についてはお願いするつもりでした。
……如何でしょう、協力を仰げませんか?」
と言って頭を下げる。
ダグザを王として認め土地を与え、
また立ったままではあるが
神竜が頭を下げるという行為で、
ダグザは慌てふためきまくっている。
……しつこいようだが、そのように見える。
骸骨なので分かり難いと言いたいところだが、
今回はゼヒライテの下げた頭の
下に滑り込んだことからも焦っていることが分かる。
「お、お、お、御顔をお上げくだされ!!
そそそ、そんなことまでされては
断るなどという問題ではなく、
貴方様の眷属の方々に殺されてしまいます!!」
もう焦りに焦ったのであろう。
ダグザは膝から下も地面に擦り付け
両手を地面に投げ出して五体投地、平伏している。
ドゲザを通り越して
万歳のままうつ伏せに寝転んでいる。
世界は異なっても、相手に敬意を払いまくったり
深く謝罪するときは結局こうなるのか、
とタケルが感心していると、
「タケル、サクラさん!!」
パッと顔を上げたゼヒライテは
パァっと暗闇に太陽が差し込むような表情で、
タケルとサクラに話しかける。
『「ハ、ハイ!」』
急に声を掛けられた二人は揃って間抜けな返事をする。
「ダグザ殿からお許しが出ましたよ!!
ダグザ殿、顔を上げてください。
タケル、サクラさん、あとはお任せ致しますよ」
と、ニコニコして話すマザー、
なんだか申し訳なく思うが、
今更なので、サクラのためでもあるし
今回はしっかりと恩返しすることを決心した。
「色々と有難うございます」
『……本当に有難うございます、ゼヒライテ様』
感慨深げにサクラもオレもお礼を言う。
忘れてはいけない。
ダグザくんにもお礼を言わないと、
なんと言っても今回のサクラの件は
彼の転生体がないと進まなかった話だしな。
「ダグザく、さん、様、有難うございます」
『ダグザ様、心より御礼申し上げます』
超ドゲザから復活したダグザは溜息を吐きながら、
こちらを向いて疲れたように話す。
「無理くりな敬語だなオマエは。
ハァ、しっかし、
ホンッッッッッットお前たちと会ったのが運の尽きだ。
洞窟でヤられかけてから碌なことがない。
ここ数百年なにもなかったのにブツブツーー
と、ひとしきり恨み言を呟いていたが、
ーーまぁとにかくだ! 案内するから持って行け!!
ちなみに魂の定着は余も得意ではあるが、
イブリス殿のほうが適任だろう。
経験値が違うのでな」
そんな遣り取りがあり、
サクラの受肉についても一段落。
あとはイブリスに連絡を取り
海底洞窟へ行くことになった。
その後は簡易ではあるが
調印だの同盟関係の規約なんかの確認があったが
滞りなく終了し、
ここに北方島国三国同盟が成立したのであった。




