~26 魔王様との模擬戦ですね~
……
シーン
「ハァ、こ奴は……」
静まり返る大広間で
セイラの溜め息だけが大きく響いた。
そんな中ダイダロスが言葉を発した。
「殿、少しよろしいか?」
「ム? 構わんぞ」
「では失礼して。
殿のご懸念は……ご、ごもっとも? ですがーー
(迷ったな)
『だってごもっともでは……』
タケルたちから的確な突っ込みが入っているが
声には出していない……
ーーそれよりも、
そこのタケルとやらの態度についてでございます。
入室の際もですが、
我らだけでなくセイラ様にも無礼千万!!
到底許すことは出来ませんぞ!!」
ダイダロスはこれまでのこともあり、
今にも飛びかかりそうな勢いである。
ベリウスは変わらずジーっとタケルを観察している。
ティリトは相変わらず
無駄ターン状態でボーっとしていた……
ーーHP0になんぞ!!(タケル談)ーー
ダイダロスの言に対して
魔王は少し思うところがあったのか、
シスコンも鳴りを潜め真面目な顔で考え込んでいる。
タケルはどうしたものかと、
腕組みをしながら考えていると、
魔王から言葉が発せられた。
「……俺が少し試してやろう」
その発言に、
セイラはじめ広間の一同は驚きと共に
一斉に魔王の方を向く。
ハッと何かに気付いた様子のセイラは、
魔王の発言の意図が分かったようである。
タケルにその事を身ぶり手振りで伝えようとするが
変な踊りにしか見えず、
タケルはそれを見て「ウム、ポップな盆踊りか」としか
思っておらずその意図は一切伝わっていなかった……
そんな中ダイダロスは、
「殿、お待ち下され。
何をお試しになるのかこのわたし如きには量れませんが
この無礼者に罰を与えるのであれば我に下知くだされば
如何様にも致しますぞ」
それを聞いた魔王は、
「まぁ待て。
ソイツの先程からの態度も気になるんだが……
いや、繋がってるのか?ーー
ブツブツと考えが口を付いて出つつも、続ける魔王。
ーーとにかく姉上が連れて来た者であるというのが
一番引っ掛かっていてな。
愚にもつかん奴なら姉上は連れて来ない。
となれば試すしかなかろう……
て、ことでどうだ姉上?」
フフン、と鼻を鳴らしてセイラが頷く。
「珍しく頭が回るではないか。
フン、まぁそういう目的で連れてきたのでは
ないんじゃが丁度良いわい。
正直タケルの力はワシも量りかねておる。
恐らくワシかお主ぐらいでしか量れんじゃろうて」
タケルはというと、
その言葉を聞いて試すの意味を知る。
感想はというと、
(ああ、力を試すってことね。
ヨカッタ、なぞなぞとかじゃなくて)
『バカですか?』
といったマイペースの遣り取りを行っていた。
その他その場にいる者たちは
其々に各々の反応を見せるも、
共通している反応は一様に驚愕である
ーーティリト以外だよ(タケル談)ーー
先の大戦では
聖光神に敗れた形にはなっている魔王だが、
その聖光神も魔王を倒し切ることは出来ず、
今もその地位を守り続けている魔王はこの世界では
3本の指に入る強者である。
またその魔王と近い力を持つセイラでないと
測りきれないということは
タケルはそれに近い実力を持つということ。
ここにいる5将では倒せないと宣言したも同然。
驚愕に目を見開いていたダイダロスは、
それでもタケルの実力を認める訳にはいかない。
と魔王から発せられる殺気に抗い、
気力を振り絞り言葉を吐く。
「そ、そんなことが……いや!!
殿、そ奴を入国してからずっと見ておりますが、
魔力量も低く何より強者が放つ雰囲気が
一切ありません!!
こんな輩、殿と相対すれば気当たりだけで
失神しても可笑しくない程度の者ですぞ!!
それがセイラ様がお連れしたとは言え
殿の手を煩わせるなど
容認出来る訳がございません!!」
セイラはそれを聞いて悪い方の顔でニヤリとするが、
特に何も言わない。
魔王は諭すようにダイダロスに話し掛ける。
「では、お前や他の……ゴホン。
ティリトは除いて、
他の5将でさえ恐怖を抱いておる余の殺気を
なぜソイツはああも平然と流しておるのだ?」
アッ!! と声は上げなかったものの、
ダイダロスはそのことに思い至らなかったことを
恥じ入っているようで俯いてしまった。
魔王は続ける。
「ソイツが力を隠しておるからよ」
そうそう、といった感じでセイラはタケルの方を見て
親指を立てニカっとしてキラっと歯を光らせつつ
ドヤ顔を決めるという器用なマネをしていた。
(いやいや、ムリに戦らなくてもい~んだけど。
そもそもメチャクチャ偶然だろうし、
腹は減るしで、ホント疲れるわぁーー
『まぁまぁ。
お師匠様のお言い付けも少しは進むということで』
ーーまぁなぁ。
でもこっち来てまだ4日目に魔王って……
早いっちゅ~に)
ブツブツ思いつつ魔王を見ると、
項を垂れるダイダロスに言葉を掛けるところだった。
「ダイダロスよ。
余のことを慮ってくれるのは嬉しいのだが、
これは姉上の試練でもあると思うのだ。
伊達に100年以上も余を一人にして寂しい思いをさせて
何もせず帰って来るとは思えん。
恐らく今後のことも考え連れてきたのであろう」
中盤に若干おかしな台詞が混じっているが、
全体的には合格点と言える説得の内容である。
流石にダイダロスはそれ以上なにも言うことはなく、
恨めしそうにチラリとタケルの方を見て、
「……かしこまりました。
これまでの無礼を許すわけではございませんが、
この場は殿にお任せしましょう。
失礼申し上げました」
「ウム」
魔王が頷き、タケルの方を見る。
(とりあえずなんとかなるかなぁ)
『そうですねぇ、少し心配なのは
昨日の朝から何も食べてないことですか。
空腹ですとタケルはからっきしですからねぇ、
加えてお師匠様との修行の影響も若干ありますしね。
……ただタケルの大好物のお色気が無いだけマシでは
ないですか!!
フンッ!!』
何を思い出したのか?
途中からなぜか勝手に怒り出したサクラ。
困惑するタケルを他所に魔王は立ち上がり
こちらを見据えていた。
そしてタケルから視線を外さずにセイラに向かって、
「姉上、闘練場の方で行いたいと思うがどうだ?」
それに対してセイラは、
「構わんじゃろ」
とだけ答え、椅子から立ち上がる。
闘練場へ向かうため、他の者達も立ち上がる。
そこで、イブリスが扉の外に向かって、
「マモンよ、タケル殿を闘練場まで案内するように」
「ハハッ」
と大きな声で応え、
3m以上ある重そうな扉を軽々と開けて入って来た。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
闘練場に案内されたタケルは、
その大きさに驚きつつも数多の戦士が闘ったであろう
場所を眺め感想を漏らしている。
「オー!! 凄い大きいねぇ!!」
その様子を苦々しく見つめるマモン。
さっき闘練場に案内している際に「数秒持たんぞ」と
脅しを掛けたものの全く気にしていない様子に
歯噛みする。
5将はじめセイラも闘練場へ移動しており、
所謂貴賓席である一番高い場所
ーー平屋一戸建て7LDKのような広さ(タケル談)ーー
に陣取って魔王とタケルの闘いを見るつもりのようだ。
ただティリトと部下の者達と思しき一団は、
タケルの向かい側入口近辺に控えており
万一の場合に備えている。
魔王は、そのティリトのいる入口から入って来ており
その広さを堪能しているタケルを見て薄い笑みを零す。
「タケルよ、始める前に何か言い残すことはないか?」
ティリトちゃんが動いてんの初めて見たよ。
と別のことを考えていたタケルに、
まるで死地に赴く者に掛けるようなセリフを吐く魔王。
声を掛けられ、魔王を見ながら少し考え、
「……終わったら食事をお願いします」
タケルはセイラほどではないが燃費が悪い。
ーー師匠との修行ではキチッと食べないと
持たないのだ(タケル談)ーー
にもかかわらず昨日からなにも食べておらず、
おまけにこの世界に来る直前の師匠の修行が
いつも通りキツかったので、
真面目にもう少しお腹に何か入れないと拙いと
思っていることから出た言葉なのである。
しかしセイラは貴賓席で笑い転げているし、
同様に貴賓席内のイブリスは苦笑を、
ダイダロスはここまで届くような怒気を、
ベリウスは薄い笑みと更に目を見開いて
興味津々といった様子になってしまっていた。
ティリトはボーっとタケルを見ているが、
その部下たちは魔王相手に「バカではないのか」
また「我らの主を舐めているのか」といった感じだ。
「ハッハッハッ!!
さすがに姉貴が連れてきただけあるな!!
大した肝の据わり方よ」
タケルは先程のイブリスからの提案を
受けたいだけなのだが、ここではその理屈は通らない。
魔王を舐め切った表現として捉えられた。
当の魔王は自分で言うのもなんだが、
この世界でも一、二を争う強者の自負がある。
しかしながら先程よりタケルに対して
余裕の笑みを崩してはいないものの、
その魔王が放つ尋常でない殺気は離れていても
周囲の者達に戦慄を覚えさせているが、
タケルは全て受け流している。
というより慣れているように見える。
魔王は苛立ちよりも、
これまで遭ったことのない言いようのない
不気味さを感じていた。
それを紛らわすように言葉を吐く。
「俺を満足させることができれば考えてやろう!!」
はじめ、の合図も何もない。
言葉と同時に踏み込んでくる魔王。
30m程度の距離を一気に潰しタケルの懐に入る。
どこから出したのか魔王の奉じる神、
所謂魔神から下賜されたとされる剣、
魔神剣「マハザエル」を既に抜き放ち、
顔を下に向け居合のような構えから、
静かに顔が上がるのが見える。
ゆっくりした動きのように見えるが、
ここまでの動作が一瞬の間に行われている。
裂孔の気合い、そして横薙ぎに一閃。
「フッッ!!!」
その場の誰もが、セイラですら拙い、
と思って席を立ち上がりかけるほどの速度と技の冴えを
魅せた魔王の一撃は、タケルが真っ二つになる未来を
視るに相応しいものであった。
しかし魔王の配下達は、
タケルが魔王を舐めているわけでも
何でもないことを知る。
薙いだマハザエルはタケルを捉えることはなかった。
セイラはじめ貴賓席の者達が見たのは、
タケルが立っていた後ろの壁
ーー観客席との境界で観客に被害を出さないために
地球規格よりかなり分厚く作られているーー
に勢いよくぶつかる魔王の姿であった。
ドゴォォォッ!!
ガラガラガラガラ カラ カラカラ……カ ラ
……
誰も一言も発しない。
セイラですら驚きに目を見張ったまま
身動ぎひとつしていない。
口を大きく開け、いかにもアホな顔をしているのだが、
それがそう映らずに可愛く見えてしまうのは、
この世界でも地球でもまず見ることのない
美貌の持ち主であるからだ。
タケルは特に気張った風でもなく自然体で
煙の向こうの魔王の気配を探っている。
戦闘モードのタケルは灼熱を体現したような
赤みがかったモノにより身体中が覆われているように
見える。
ダグザ戦ではまだ薄らであったが、
魔王が相手ということで抑えていた力を更に解放した
タケルは身体強化とは別のモノを
体に纏わせることによってステータスを
大幅に上昇させる。
その纏ったモノが赤み掛かって見えるのである。
「な、なんじゃあれは!?
尋常ではないぞーー
今の状況を見て言葉を吐いたのはセイラだけ。
他の者達、タケルに否定的なダイダロスでさえも
生唾を飲むので精一杯。
そんな中冷静なタケルとサクラ。
『全然効いてませんよ』
(まぁそうだろね、そこまで手応え無かったし。
自分から飛んだ感じかな)
タケルたちの予想通り魔王は、
ゆっくりと煙の中から立ち上がる。
「クッククク、クァッハハハハハハハ!!」
突然笑い出した魔王は
ゆっくりとこちらに向かって歩いてくるが、
確かにダメージは殆どなく、
また先程までの当たれば気絶してしまいそうな
殺気も無かった。
その様子を見て、
タケルも戦闘モードを解き
目の前の魔王を注視していると、
バンッ
と、突然両肩を荒々しく叩かれ、
「お前、メチャクチャ強えじゃねぇか!!
姉貴の目に狂いは無いとは思ってたけど、
これ程とはな!!」
ポカーンとしているタケルを他所に、
魔王は一人で盛り上がっており
ニコニコと上機嫌である。
(よく見たらセイラさんと一緒でスゲー美男子だな。
羨ましい……)
シルクのハンケチーフを両手に持って
歯噛みしそうになるが、
「おう、メシ食いに行こうぜ!!
歓迎するぜ!! 皆構わねぇよな!!」
貴賓席にいるセイラ、魔王配下の5将とティリトに
向かって叫び、
タケルの腕を掴んで食事へ連れて行こうとしているのを
見て我に返った5将たちは微妙な表情をしながらも、
慌てて追いかけるのであった。
魔王との対戦は若干のわだかまりと、
疑問が残りつつも一旦お開きとなったのであった。
いつも読んで頂き有難うございますm(_ _)m
皆様、良いお年をお迎えくださいませ。




