~22 歓迎されてないようですね~
変わらず腕を引っ張り合っている二人。
一人は自分の胸の辺りに押し付けるように、
一人はとにかく離れるように。
「呼んでる!! 呼んでるよ!! セイラさん!!」
なんとかこの場を凌ぎたいタケル、
ニヤリとしながらセイラは答える。
「ククク、もう少しでお主に貸しを作れるというに、
途中で止まる訳がなかろうて、放っておけ。
クフフフフーー」
(貸しって……お詫びじゃ……しゅ、趣旨変わってるし……)
そんなことを思うタケルを他所に、
悪い方の顔のセイラを見て、
盛大に勘違いをした出口の男は、
「ムゥ!! セイラ様、加勢に参りますぞ!!」
慌てるタケル、
「ちょちょちょ、ちょっとちょっと!!
セイラさん!!」
振り向くとそこには身長は優に3mはあろうかという
巨体を躍らせ、手に持った斬馬刀のような巨大な剣を
タケルに向けて振り下ろすべく走ってくる姿が見えた。
(ウワ~デッカい剣。
洞窟内じゃ振れないんじゃないの?)
そんな中タケルはタケルらしく他の事を考えていたが、
「チッ、致し方あるまい」
ふ、と手の力を緩め声を張り上げるセイラ。
「待ていダロス!! こ奴はワシの連れじゃ!!」
タケルは助かったとばかりに、手を振り払いざま、
グルンと振り向きその男と正対する。
ピタッと剣が止まったのは、タケルの目と鼻の先。
出口から20mほどを一瞬で詰めてきた。
その巨体からは想像できない速さがその男の非凡さを
表していた。
「そ、その愛称……なによりその御姿……
やはり、やはりセイラ様!!」
理由は深く分からないが、
その男の目に若干光るものが見え、
随分と長い間会っていない親しい者同士が会ったときに
生まれる。
そんな感動の場面が訪れようとしていたーー
ーーとタケルは思ったのだが……
「貸しを作り損ねたではないか!!
バァカタレェーー!!」
ドォゴオオォォーーーーーー
セイラの蹴りが、ダロスと呼ばれた男の腹に炸裂した……
☆★☆★☆★☆★☆★☆★
ダロスと呼ばれた男ーー
ーーダイダロスは生来丈夫であった。
まだ生まれて間もない頃に、
馬に蹴られて馬小屋の屋根を突き破って飛び出した時も
慌てて駆け付けた両親を他所にキャッキャッと言って
喜んでいた話は有名である。
他にもそういった話は枚挙に暇がないが、
話が長くなるので別の機会に。
そんな遠慮のない蹴りを喰らっても大丈夫な男は
飛ばされた先の砂浜から、
スクッと立ち上がると涙を流しながら、
出口に顔を出したセイラに駆け寄っていく。
「今の蹴りといい、間違いなくセイラ様……
お、お帰りにーー
あとは言葉になっていない。
それからダイダロスは涙をボロボロ流しながら、
巨体を小さく折り畳み、
セイラの前で膝を付き頭を垂れていた。
「ウム、苦労を掛けたのう」
と言って、ポンと軽く肩に手を置く。
(蹴りで判断……あと、たいがい吹っ飛んだよね……)
『はい……』
エ~ト、SとMかな? 変態ってことで良いのかな……
相変わらず話がまともな方向に向くまでに時間がかかる
タケルであったが、チラッとこちらを見たセイラに、
「またおかしなことを考えておる顔じゃのう、お主は」
ダメだこりゃ、
といった顔をされ眉を顰めながら溜息を吐かれる
ーーこっちがイイタイ(タケル談)ーー
ダイダロスはこちらを見ると、
先程のボロ泣き状態とは打って変わって、
こちらを抜け目なく警戒しながらジッと見つめている。
(鼻水垂れたままだけどね……)
『はい……』
そんな関係のないことしか話していない
タケルとサクラを他所に、
ダイダロスはセイラに歓迎の意と共に疑問を口にする。
「このダイダロス含め我ら魔王麾下、
セイラ様の御帰還は日々切望致しておりました故、
心よりお喜び申し上げる所存でございます!!
しかしながら、
洞窟内のことは後でお聞きすると致しまして……
先程争っているように見えたあちらの男は一体?」
雰囲気から歓迎されていないことが分かる。
そんなタケルをセイラはニッコリ微笑みながら
手招きする。
あ~いう笑顔のセイラさんって、
この世界でも、地球と併せても何本かの指に入る
ホントの美人だよねぇ。
写真集とか出せるんじゃないの。
しかぁしっ!!
しかしである!!
こいうときのセイラさんはロクでもないことを
考えていることが多い……
全く全く全く以て油断はできない。
そう思いながらも顔には出さないが、
警戒しながらセイラの少し後ろで立ち止まる。
タケルが後ろに来たことを確認したセイラは
徐に口を開いた。
「ウム、ダイダロスよ。こ奴はワシのフィアンセでの。
タケルというのじゃ」
……
シーン
やっぱりやったよこの人……
タケルは手で眉間を摘まんで、
鼻から溜息を吐いて呆れた顔をしている。
周りはダイダロス含め静まり返り、
波の音だけが響いている……
セイラを知っている者は、
言葉の意味を理解し兼ねており、
セイラのいない年月の間に新しく生まれた者は、
まわりの先輩、上司の表情と反応を見て、
唾を飲み込み緊張した面持ちで状況を見守っている。
その中で空気を読まずしてやったりの、
ニコニコ顔のセイラに向かってタケルは、
「ど~すんのセイラさん、この空気?
知らないよオレ」
サクラも続いて非難の声を上げる、
もちろんオレとセイラさん以外には聞こえないように
だが。
『セイラ様は魔王様の姉上。
こちらの国のトップに君臨する御方の身内も身内、
その御方が帰ってくるなりフィアンセは
流石に拙いのではございませんか?
それにフィアンセなんて、
そんなこと言われては困ります。
そもそもセイラ様はタケルとまだなにも、ゴ
ニョゴニョーー
途中から壊れたようだが、前半はサクラの言う通りだ。
セイラも周りの雰囲気を悟り、
さすがにマズイと思ったのかニコ顔から徐々に
引き攣った笑みに変わっていき、
……
「冗談じゃ、テヘッ(ペロッ)」
まぁたやってるよ、この人……
☆★☆★☆★☆★☆★☆★
いまオレたちは漸く王都へ向かうべく、
洞窟出口の砂浜から出て防砂林と思われるところを
歩いている。
まずは洞窟内でのことをセイラさんがダイダロスさんに
説明している。
「左様でございますか、俄かには信じられませんが……
セイラ様がそう仰るなら
そういうことにしておきましょう」
といった感じの返答で、
全て納得したわけではないがセイラさんと一緒に洞窟を
協力して抜けてきたことで、
ひとまず王都まで案内してもらえるぐらいの信用は
得られたようだ。
「なんじゃ、ダロスよ。
あまり信用していないような返答じゃから言って置くが
貴様と闘ったらーー
ピクッとダイダロスが反応するのが見えたタケルは、
マズイと思い口を挟んだ。
「そんな話はどうでもいいじゃんか。
それよりセイラさん。
さっきのことといいホントいい加減にしとかないと、
時を止める呪文として認定されちゃうよ」
サクラもひとこと言いたいようだが、
周りにダイダロスと洞窟の警備に残した兵士を除いた
28名とも一緒に移動しているので
念のため黙っているようだ。
「わかっておる。
さっきから反省しておると言っておろうが」
少し反省したようなセイラだが、
いずれまたやるんだろうな。
と遠い目をするタケルと、溜息を吐くサクラ。
それとサクラから、ダイダロスの部下は
この国の当主であっても可笑しくないセイラさんと
オレの関係を訝しく、同時に好奇心も相まって、
オレたちの後ろでコソコソとその話題で盛り上がって
いるようだ。
またダイダロスさん本人はセイラさんに同格の口調で
話すオレにあまり良い印象を抱いてないとのことだ。
その証拠にセイラさんからしかオレの情報を聞かないし
オレとは喋ろうとしない、とのことだ。
まぁ初対面があれだしなぁ……
今の国王=魔王さんのお姉さんだから性別が関係ない
とすれば、
この国で王様やっててもおかしくない訳だし、
いきなり現れて敬語も使わず親し気だったら
ーー親し気か……そう見えんのか(ハァ)ーー
色々と思うところもあるんだろうし、
そりゃダイダロスさんも良い気はしないだろうなぁ……
いつでも代わるけど。
あっ、
ダイダロスさんも扱い一緒だし代わっても一緒だわ!!
ワッハッハ!!……ハァ
(そ~だねぇ。
暫くはあんま喋らないほうが良いか。
面倒になっても困るし気を付けよう)
珍しく気を遣うタケル、方向性は間違っていない。
タケルがそんなことを思っていると、
「今はとにかくセイラ様を王の元へお連れせねばならん
ので時間もないが、
わたしと戦ったらどうなるのか
王都に到着次第是非手合わせを願いたいものだな」
身長3m、腕はオレの胴ぐらいありそうだ。
また胸には銀色に光る軽めだがモノは明らかに高品質の
魔力が少し漏れ出てるようなプレートアーマーを装備し
背中にはさっき洞窟で抜剣していた身長の3分の2ほど
ありそうな大剣を背負っている。
そんな大男が少々怒気と殺気を孕んだ目でジロリと
タケルを睨む。
(コワッ!!)
直ぐに目を逸らすタケルに、
一つ溜息を吐いてサクラが、
『もう、しっかりして下さい!!
例え相手が巨人族の血を引き、
しかも変異種でパワーもスピードも尋常ではない
とはいえこれまでしっかりと修行しているのですから
いちいち不安にならずドンと構えてなさい!!』
ハイ? 変異種って?
オレの感覚使ってデータ取ったんだな……
聞かない方がヨカッタなぁ、
巨人族の血を引く変異種って、
聞いてるだけでも強そうじゃん……
……サクラは不安を煽っただけだな、ウン。
更に気が滅入るタケルとは対照的に、
こういう事態に陥らせたセリフを吐いた当のセイラは
非常に嬉しそうにこちらを見ており、
グッと親指を上にして、いかにも「グッジョブ」
といった感じである。
(ハァ、なんか勘違いしてんなセイラさん)
珍しく気を遣い、
面倒にならないようセイラと暫くは喋らない方向で、
とした矢先であったがタケルの思惑は早速脆くも
崩れ去る。
(慣れないことはするもの、
いや、考えるもんじゃないな、ハァ)
ダイダロスは先程のセイラのセリフが
気に障っていたようでタケルの話の方向を逸らす作戦は
セイラの逆方向の援護
ーーフレンドリーファイアという(笑)
笑ってる場合か!!ーー
もあり見事に破れたのであった。
そんな思惑が交錯しつつも、
森を抜け王都へと通じる魔方陣のある街の入り口が
見えてきたらしい。
ダイダロスの話では魔方陣は各都市に設置されている
らしく、定期的な王都からの巡回や非常時に限って
使用されるとのことだ。
また、その魔方陣を発動させる鍵
ーー登録制の魔力認証みたいなものーーは
一定クラスの将官のみを対象とするとのこと。
セイラさんとダイダロスさんが話しているのをサクラが
内容を纏めてくれた。
(ふ~ん、結構整備されてるんだな)
『ええ。
どうもセイラ様が構築されたような感じの会話ですね。
ダイダロス様がその魔方陣の固定化について褒めて
おられます』
(今更だけど、やっぱこの島出身なのなセイラさん)
『そうですね、洞窟の件も合点がいきます』
前を歩く二人の会話を聞きながら情報を整理し、
後ろのヒソヒソ話に若干の居心地の悪さを感じながらも
街の入口の検閲もスルーし入っていく。
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ミクトブランーー
ーー魔国ミクトラムの王都ミクトクーリアの衛星都市
特に港湾関係の業種が中心となる都市。
街と言ってもかなりの規模で、
前述の通り海が近いことから漁業も盛んで港にたくさん
の船が泊っており、時折生魚の匂いが漂ってくる。
防壁は無いが、これまでの話にも出てきた物理、
魔法を強烈に弾く魔法障壁がここ150年間外敵の
侵入を許していない。
要するに先の大戦以降は一部を除いて隔絶された空間と
なっているが基本的には島内で大概の物は揃い、
冒険者ギルドもあって、外部の国と然程変わらない。
通貨単位は、この世界共通のデルフィであり、
通りを歩いていると、
そこここでやり取りされているのが目に入る。
「へぇ~、かなり活気のある街だね。
障壁あるし、もちょっと暗い感じかと思ったよ」
それを聞いたセイラが、フフン、
と自慢気に鼻を鳴らすと、
「どうじゃ、なかなかのもんじゃろう。
この島は概ねーー
セイラさんが誇らしげに
この島のことを語り出そうと振り向いたところ、
「セイラ様、ポートに到着いたしました故
お話は後ほど」
と言って、オレたちを案内する。
場所は街のど真ん中に位置する大きな広場、
周りに成人男性が手を回しても少し余るくらいの
太さの柱が6本並んでおり表面には魔法文字であろう
文様がビッシリと刻まれている。
その広場の中心、6本の柱の内側、
これまた地面にビッシリと文様が刻まれた円形の場所の
真ん中に案内された。
「それでは、皆揃っておるな」
周囲には一般庶民? の方々が見物に来ており、
中には予想通り漁師的な職業のガタイの良い、
頭にハチマキのような白い布を巻いた髭面の人?
たちが興味深そうにこちらを見て隣の友人とコソコソと
話している。
そりゃ外からの来訪者なんて自分のお爺さんあたりに
聞いても居なかっただろうし、珍しいんだろうなぁ……
いや、魔族ってそもそも平均寿命は?
セイラさんはダークエルフってことだから
長寿だろうけど他にも居たりとか
結構バラバラなのかね?
「それでは、セイラ様参ります」
「ウム」
色々と取り留めもない疑問、
街の雰囲気から意外と生活水準も高い感じがするなぁ。
サクラにも聞いてみよう。
などとタケルが考えてる間に、
セイラにのみ声を掛け、
タケルの返事は聞かずにダイダロスは王都へと
転送魔方陣を発動したのであった。
(ウ~ン、嫌われてるねぇ、どうしますかねぇ)
『タケルのテヘペロでは逆効果であることだけは
忘れないで下さいね』
(……ウン、それだけはやっちゃイケナイ気がするよ)
オレの視界が光に包まれ、周囲の景色が滲んでいった。




