~110 タリスとの面会①~
カタン コトコトコトコト――
流石に王家の馬車である。
あまり振動もなく4人を乗せて貴族街を通って行く。
前後には2騎づつ護衛の兵士が付いている。
――あっ、あそこがあのブタ饅頭の屋敷よ。
生意気にも神城にも近いのよ」
窓の外を見ながら
色々と案内をしてくれるセレネースだが
この状況でブタ饅頭は頂けない。
直ぐに、
「セレネース様、お口が悪うございますよ」
パリエットに窘められる。
「はぁい。
最近見てないから変わってるかもしれないしね。
でも学園ではサクラちゃんもそう思ってたよね?」
なぜにここで振る? セレちゃんよ?
そう思いながらも答えるサクラ。
「ホホホ、そんなお下品なことは思いませんわ。
そうですね、
少し身体から脂が多く排出されることが
ありますから揚げるときは注意しないと
いけないなぁ、くらいでしょうか」
目を見張るパリエットと若い執事。
「プッ、クスクスクス。
サクラちゃんのが酷いじゃない」
この辺りの感性が少しズレているサクラ。
その会話を聞いたパリエットが声を掛ける。
「仲がよろしいようで何よりです。
そろそろ到着いたしますよ」
ここまで5つの門を通ってきており
4つ目の門を潜った先には
恐らく聖光教の本部であろう大聖堂が見えた。
そして5つ目の門を抜け暫くしてから
馬車が停車する。
先にパリエットにエスコートしてもらい
セレネースが、
その後に同じように若い執事と共に続くサクラ。
降りた先は神城の正面玄関。
人が3、4人で手を繋がないと1周できないくらいの
太さがある真っ白い6本の柱で支えられた
真っ白い大きな屋根の下の石畳に足を着ける。
そこから赤い絨毯が正面扉まで敷かれており
その両脇に近衛兵であろうか?
10名づつが槍を持って微動だにせず立っている。
一緒に来た騎士達も正面扉の一番近くに移動し
同じように並び立つ。
「ご苦労さま」
一言礼を言いその間を抜けていく4人。
(……神都自体の障壁は3重。
神城には5重の、恐らく対物理、対魔法障壁、
当然外部への通信阻害も掛かってますよね。
専用回線のみ使用可能といった感じですか。
しかしここまで厳重だと……
さて念話は通じますかね?――
念話を展開して障壁を探ってみるサクラ。
――繋がりそうにありませんね。
まぁ今日中には帰りますし
直接伝えれば良いですか)
そんなことを考えながら
セレネース達に付いていくと
大きく開け放たれた扉から一人の男が
前に出てくる。
「久しぶりだな、セレよ」
「お兄ちゃん!!」
聖光国 第1王子
タリス・レブン・アーリー・クリムゾンであった。
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神城シャラフ 第1王子タリス 私室
「お兄ちゃん、もう起きて良かったの?」
心配そうに声を掛けるセレネース。
流石に王子の私室は広く
寝室とは別の来客用の広間にある
10人は掛けられるであろうテーブルに座っている
セレネースとサクラ。
2人のメイドは高級なハーブの様な匂いのする紅茶と
恐らくそれ一つで庶民の月給位はするであろう
お茶菓子をテーブルの上にセットした後、
警護の意味もあるのだろう、
一礼して扉の傍に控える。
パリエットと若い執事はセレネースとサクラの
後ろに立ったまま控えている。
「もう、その呼び方は止せと言っているだろう。
いつまでも恥ずかしいではないか」
不満なのかそんなことを言うタリス。
プクッと頬を膨らませて反論するセレネース。
「お兄ちゃんはお兄ちゃんじゃない。
いい歳していつまでも恥ずかしがらないの」
額に手を当て、一つ溜め息を吐き
「ハァ、いい歳だから恥ずかしいのではないか。
相変わらず可笑しな答えをする、フフ」
仲が良いところを見せてもらっているサクラだが
先立ってのアリア戦のこともあり
警戒は解いておらず、
また部屋内の調度品や部屋に掛かっている
魔法についても探っているところである。
そんな中、
セレネースがサクラを紹介するようだ。
「そうそう、紹介しなくっちゃ。
お兄ちゃん、この人がサクラちゃん。
見た目は超カワイイけど
ヴァッケンの大会で優勝してるくらい強いんだから
手を出しちゃダメだよ、唐揚げになっちゃうよ」
そう言ってウィンクするセレネースは
大変カワユイのだが、
紹介の仕方が少々可笑しいので自己紹介と訂正を
一緒にするべくサクラが口を開く。
「ご挨拶が遅れ申し訳ありません。
はじめまして、わたくしサクラと申します――
そう言って席から立ち上がり
跪ずこうとするところを制するタリス。
――そのままで構わん。
唐揚げは好物だが自分がそうなるのはな。
まぁ仲が良さそうで何よりだ。
お転婆で大変だと思うがよろしくしてやってくれ」
そう言うと悪戯っぽい笑みを浮かべる。
それを聞いたセレネースが否定するのを
横目に見ながらタリスがサクラに尋ねる。
「今セレも話しておったが
ヴァッケンの大会は圧倒的だったと聞いた。
どうだ? 近衛と手合わせでもしてみんか?」
それを聞いたセレネースが間髪入れずに口を挟む。
「ダメだよ、お兄ちゃん!!
今日はお見舞いと私の友達を紹介するのに
帰って来ただけなんだから。
それに学園の大会もあるし
ケガでもしたら大変でしょ」
席を立ってタリスの肩の辺りをポカポカと打つ
セレネースに、
「分かった分かった、ちょっと見てみたいと
思っただけだ。
まぁ強さも問題ないだろうし、
セレがそれだけ言うなら将来的には
王家直属で召し上げても構わんしな」
そう言うタリスをキラキラとした目で見る
セレネース。
「ホント!?」
「しっかり卒業してからの話だがな。
特にお前だがな」
更にプンスカするセレネースであるが、
それを制したタリスは目立たないように
近付いてきたメイドから耳打ちされ頷くと、
ここで一度退席するようである。
「お、もうこんな時間か。
スマンな、少し会議に出てくる。
昼食ぐらいは一緒に食べられると思うから
少し待っててくれ」
そう言って退出するタリスに
サクラは一礼をしながら、
セレネースは手を振って見送る。
それを見て部屋付きのメイドの一人が
パリエットに耳打ちをする。
そして、
「セレネース様、少し昼食の準備で外しますが
御用がございましたら
そこに一人控えさせておりますので
何なりとお申し付けください」
そう言ってパリエットと若い執事は
部屋を出て行く。
扉の前のメイドの方を見ると
スカートの裾を摘まんで
優雅にお辞儀をしているのが目に入る。
テーブルにはサクラとセレネースだけである。
それを見計らい小声でサクラに話し掛ける
セレネース。
「どうだった? 何か見えた?」
「その様子だと
セレちゃんも何も見えなかったんでしょ?」
「うん、そうなの」
「大丈夫そうだね」
「……見間違いかな?」
今のところ当初の目的である白い靄については
特にその兆候も無く
困ったことと言えばセレネースの
サクラの紹介をタリスがそのまま鵜呑みにしている
場合くらいだ。
「うん、サクラちゃんにも見てもらったし。
大丈夫と思うことにするよ」
「フフ、元気が出て良かった。
……それとは別に、
ちょっとあの紹介は無いんじゃない?
ん? セレちゃん?」
キャーと冗談と分かる小さい悲鳴を上げ
万歳をしたまま仰け反り、
「お助け~唐揚げにされる~」
などと言うセレネースを暖かい目で見ながら
何事も無いことを祈るサクラであった。
その後、
他愛も無い話をしながら2時間ほどが経過する。
そうこうしている内に
パリエットと若い執事、もう一人のメイドが
戻って来る。
程なくして、
「待たせたな。
やっと終わった、年寄りは話が長くて敵わん」
そう言って部屋に入って来るタリスは
!?
その後ろに白い靄を従えていたのだった。




