~109 神都グローリアスへ~
セレネースからお城に要は実家に付いて来てくれと
頼まれたサクラ。
セレネースはサクラが学園に来てから
馬が合ったのか同部屋であることも幸いし
概ね行動を共にし更にその人柄に触れる内に
深く信頼するようになった。
また自分では到底及ばない実力者だということも
理解しており
それ故にセレネースの心に影を落とす
兄のタリスに付いている白い靄を確認して欲しいと
サクラにお願いする。
白い靄など見えない、もしくは引っ付いていても
何の問題も無ければ
それはそれで安心すると言うセレネース。
大会のこともあり、
また調べたいことも多々あったが、
ここまで言われては断る訳にもいかず
了承の意を伝えたサクラ。
そしてその夜。
いつも通りベッドに入るフリをして
横になろうとしたところ、
そのセレネースから
ヒソヒソと少し付き合って欲しいと言われ
部屋にサラまでやって来る。
とりあえず制服に着替えるサクラ。
神域へ集まる時間までには少しあるが、
一応タケルには少し遅れるかもと連絡をしておく。
「ヒソヒソ、
なんか今日は色々ゴメンね、サクラちゃん」
廊下を忍び足で歩きながら謝罪するセレネース。
「ヒソヒソ、ううん、別に構わないんだけど。
どこに行くの?」
同じく忍び足のサラがそれに答える。
「ヒソヒソ、中庭の噴水よ」
ますます分からないサクラであるが
特に危険も無いようなのでとりあえず付いて行く。
中庭の噴水付近はボンヤリと灯りが点いており
水がシャラシャラと音を立て
月の灯りが差し込んでおり幻想的な雰囲気である。
そこには既に人影があり、
近付くとエレーナだと分かったサクラ。
「ヒソヒソ、あれ? エレーナさんも
呼ばれたんですか?」
何か真剣な表情の割に口元が緩んでいるように
見えるのはボンヤリと灯る明かりのせいか。
何か可笑しいとは思いながらも
エレーナの言葉に耳を傾ける。
「ヒソヒソ、ウム、一緒にと言われたのじゃ」
いつもなら饒舌に知っていることを
喋りそうなものだが
今日は口数も少ないエレーナに
イヤな予感を覚える。
そんな折、
向こうから3人の人影がこちらに近付いて来る。
噴水の傍までやって来ると
そこにはクラスでもお昼なんかも
一緒に行動することが多いデーブ。
それに豚骨スープの元取り巻き
侯爵家と伯爵家のトランとバニラの2人が
横に並んでいる。
メンバーもメンバーであり
更に訳が分からないサクラを他所に
デーブが話し始める。
「ヒソヒソ、こんな時間に申し訳ない」
まずは謝罪から入るデーブは躊躇いがちに続ける。
「ヒソヒソ、
その、自分でやってくれって言ったんだけど……
とりあえず繋いだんだから、後は任せるよ」
そう言って一歩引いたデーブ。
そのデーブに礼を言い、
代わって前に一歩踏み出したトランとバニラは
サクラの前に進み出ると、
「ヒソヒソ、
その淡い桃色の髪も
黄金比をこの世に体現したようなスタイルも
月の女神も逃げ出しそうな美貌、
誰にでも好かれるその人柄、
それに加えて地獄の鬼も裸足で逃げ出す
その強さに惚れてしまった。
私が跡取りになった暁には
侯爵家の全ての財宝をキミに。
結婚を前提に私とお付き合いして欲しい」
跪いて右手をサクラの方に差し出しながら
言うのはトラン。
既に白眼のサクラであるが更に続く。
「ヒソヒソ、僕も同じ思いだ。
付け加えるとすれば、
その眼が時折竜の様に獰猛な瞳に、
濃い蒼を湛えた瞳に代わる。
キミのその瞳にその強さにその美貌に
その人柄を好きにならない奴は居ない。
伯爵家が全力を以てキミの要望に応えよう。
この僕とお付き合いして欲しい、
結婚を前提として」
同じく跪いて右手を差し出すバニラ。
……
これまで色々と変態や理不尽なことで大ダメージを
喰らうことが
――ダメージはだいたいオレだ。
何言ってんだ(タケル談)――
多かったサクラであるが、今はその比ではない。
いっそ気絶したいサクラである。
しかし白眼ではあるが気絶はしていない。
この場ではムダである高い能力が邪魔をして
それを許さない。
セレネースもサラも固唾を飲んで成り行きを
見守っている。
なぜに女性、否、女子という生き物はこういう事を
観劇でも観賞するかのように
複数人で行おうとするのか?
というか知ってたなこ奴等!!
そりゃそーか。
などと混乱して思考が定まらないサクラであるが
ハッとなって最も大変なことに気付く。
ソロリ、とエレーナの方に目だけを遣る。
そこには顔を真っ赤っ赤にして
腕組みをした片方の手で口元を抑え
歯を食い縛り過ぎたのか
その手の間から血が滴りを落ちているが、
夜なのでサクラ以外では一人を除いて
その様子は今のところ誰も気付かないという状況で
笑いを堪えまくっているセイラが居た。
眉を寄せ、目だけは真剣に見せているが……
その一人であるデーブだけはエレーナの
滴り落ちる血を見てドン引きの言葉通り
その場から10歩ほど後退っている。
サクラは思った。
(…………シんだ)
その後、神域へと移動するのに
いつもの学園の屋根に集まった3人。
セイラにずっと敬語のサクラと
「青春じゃのう、ウクク」と分からないことを言う
セイラを不審に思いながら
神域へと移動したタケル達であった。
☆★☆★☆★☆★☆★
「あぁ~疲れた」
「フフフ、モテモテだねサクラちゃん」
ムスッとした表情でセレネースの方を見るサクラ。
学園を出て、ここ学術都市フィロンにもある
聖光国の役所に向かっているところだ。
そこに神都へと転移できる魔方陣があるそうで、
王族であるセレネースや公爵、侯爵、伯爵など
位の高い貴族、
また推薦状など許可を得た者が使用可能だそうだ。
「もう、ホントに怒ってるんだからね。
先に言っておいてくれないと
心の準備ってものがあるでしょ?」
(うぅ、先に分かっていれば
どうとでもなったのに!!
ハァ、とりあえずタケルにはバレませんでしたが
セイラさんには一生頭が上がらないわ、ああ……)
心の中で嘆くサクラに
優しく声を掛けるセレネース。
「でも、良かったじゃない。
“それでもキミが好きだーーー!!”
って言ってたから、
これからは変な絡まれ方もしないし
むしろ助けてくれるんじゃない?」
楽観的なセレネースの回答に
深い溜息を吐きそれに答えるサクラ。
「それはそうだけどそうじゃないのよ」
別のことで頭の痛いサクラの返答に
セレネースが疑問符を浮かべたところで
役所に到着する。
一応本日中には帰ってくる予定なので、
二人共が制服で出てきている。
敵の懐ド真ん中もいいところに行くので、
念のためユウコも一緒にということで、
アンクレットは装備している。
ガチャリ
役所の扉を開け
慣れた足取りで受付に向かうセレネース。
後を付いていくサクラ。
受付も慣れたもので
セレネースの学生証
そしてサクラの学生証をチェックし
問題が無いことを確認し奥へと通される。
案内してくれた男性は
ここフィロンの聖光国都市機構交通部フィロン支部
のお偉いさんらしく
「お気をつけていってらっしゃいませ。
昨日お聞き致しました通りに
馬車は手配致しておりますので」
昨日のうちにセレネースが
馬車を手配をしていたようだ。
その言葉を聞いたところで
魔方陣へと促された二人が位置に着くと
景色が白く滲んでいくのだった。
聖光国アビスクリムゾン
神都グローリアス 都市機構交通部 神都本部
「お待ち申し上げておりました。
セレネース様、サクラ殿」
滲んでいた景色が元に戻ると待っていたのは
モーニングに近いベレヌスのような
黒の執事服を着た老年に差し掛かろうかという
銀髪の男性。
跪いているのを見たセレネースは、
「もういいってば、パリエット。
それよりこっちサクラちゃん、可愛いでしょ?」
立ち上がると右手を胸辺りに添えながら
セレネースとサクラに向かって頭を下げる。
「セレネース様より良くお聞き致しております。
ようこそおいで下さいました。
わたくしパリエットと申します。
代々王家の筆頭執事の役目を賜っております。
以後、お見知り置きを――
そう挨拶をすると、
次にセレネースを少し叱るような口調で
――セレネース様、物事は出来る限り正確に
伝えるものですぞ」
言葉を掛けるパリエット。
首を傾げるセレネース。
「フフフ、お聞きしていた以上に
見目麗しい方ですな」
もう、とパリエットの二の腕当たりを
叩くセレネース。
目の前の執事についてはかなり信頼しているように
見える。
挨拶も終わり、
パリエットに案内され建物を出ると
そこがフィロンと同じく役所の建物であったのが
分かった。
ただフィロンの2倍ほどの大きさではあるが。
その大きさに驚きながら前を向くと
馬車が4,5台横並びに通っても問題ないような
大きな通りと迎えであろう豪奢な馬車が目に入る。
また流石に王都もとい神都というだけあって
周囲の町並みは白を基調としているようで
荘厳な雰囲気を醸し出している。
(恐らく貴族街でしょうね)
そう当たりを付けるサクラ。
確かに周囲には豪邸が立ち並んでおり
商店などは無く
高価だと思われる衣服を身に着けている
道行く人々もそう多くない。
景色を見ながらそんなことを思っていると
馬車の方からサクラをエスコートするために来た
今度は若い執事服の男が手を差し出す。
セレネースはパリエットに付き添われ
豪奢な馬車の扉からサクラに声を掛ける。
「サクラちゃん、
馬車からゆっくり見られるから早く」
その声を聞きながら、
まずは第1王子タリスとの面会について
思考を巡らせるサクラであった。




