~108 お城にですか!?~
少し時は遡り、
獣王国アリアと連合軍との大規模な戦闘も
連合軍の撤退という形で幕を閉じ
国境近辺が戦勝で浮かれ騒がしい頃。
アリア側国境を越えた街道。
そこから少し外れた浅い森の
周囲から死角になった場所。
そろそろ陽も明けて来る頃だが
ここはまだ薄暗い。
そんな中、
少し安堵の息を洩らし会話を始める3人が居る。
「フゥ、上手く潜り込めたな」
「ああ、とりあえずな。
しかし私は東の海岸担当だったが
何者だあれは?」
「セットもか、わたしも西海岸のヴァルディオーネ
の強さを見たが予想を遥かに上回っていたぞ。
それにその前の烏に謎の矢……」
「私は国境東側だったが、アリアも噂に違わず
強かったが西側に現れたアレを倒した魔法は
遠くから見ても凄まじかった」
順にセット、シス、ウィットである。
聖光国暗部であり
先程までの戦闘で軍監を努めていた3人。
「まぁとりあえず今の情報を伝えられたことは
僥倖だ。
それに教皇の指示も理解できる」
「ああ、アリアにあんな戦力があるなど
聞いていない」
「とにかく我らはそれを探らねばならん」
「そうだな、まずは王都アリアで情報を集めるぞ。
それとーー
懐から3つの首飾りと宝珠を出すシス。
ーーこれは教皇から預かった
「七面装」と「帰還石」だ。
この仮面のまま動けんし我らの素顔も目立つしな。
後は緊急の離脱用だ」
それを受け取ったセットとウィットは
頷くとシスも含め
王都に帰還する兵士達に紛れるのだった。
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学園本棟 図書館
「スキル、スキルと」
「はい、サクラちゃん。
前大戦関係のはここに置くね」
「ありがとうセレちゃん。
後は聖光国と聖光教の歴史かな」
あの大規模夜襲から
聖光国側にも目立った動きは無いまま
3日が経過していた。
その間サクラは大会に向けて出場者の訓練に
付き合ったり、空き時間があれば図書館で
調べものをする日々を送っていた。
今日は学園もお休みで1日中図書館に入り浸ろうと
思っている。
先日の夜襲のこともあり情報収集にも
気合が入っているサクラは
禁書庫があればそこも内緒で侵入して
調べ尽くしてやろうとまで思っている。
禁書庫にまでは付き合えないが、
図書館には付き合ってくれているセレネース。
ただいつもの元気は無く浮かない顔をしている。
「サクラちゃん、戦争の話し聞いたでしょ?」
サクラに頼まれた本を持って来て置くと
そのまま椅子に座り机に突っ伏した状態で
サクラに話し掛ける。
それを聞き本を探しながらピクリと反応するも
その様子は突っ伏しているセレネースには
見えていない。
「うん、聞いたよ。怖いね」
速報ベースではあるが
この国、聖光国がアリアを攻め痛み分けで
終了したといった内容の伝聞が既に学園にも
伝わっていた。
痛み分けというのは聖光国の公式発表の引用であり
内容を知るサクラからすると滑稽に映るが
大々的に敗けたと報じないのは戦争中であれば
戦意の問題もあり特に何かしら思うところは
無かった。
しかしセレネースは兄である
第1王子のタリスが出陣しており
ケガもして帰って来ているだろうし
思うところがあるのだろう。
当然、サクラは知らないことになっているが。
突っ伏したまま話し始めるセレネース。
「はぁぁ。
お兄ちゃんも参戦してたんだけどーー
深い溜め息を吐き、続けるセレネース。
ーー側近の人から連絡があってね。
ケガして帰って来たらしいんだけど、
様子が可笑しいらしくって……
あっ、ケガは治ったから良いんだけどね」
この話で思い出すのは
サクラが学園へ来て間もない頃にセレネースが
言い淀んだことと関係があるのではないかと考える。
しかし王家の内情なので
「あの、そんな話し私にしても良いの?
まぁ何か出来ることがあれば力になりたいけど……」
探していた本を机に置きながら
セレネースの前に座り問い掛けるサクラ。
ユラリと幽鬼のように上半身を起こしたセレネースは
据わった目でサクラに尋ねる。
「あなたは幽霊を信じますか?」
「ヘ?」
突拍子もないことを言い出したセレネースに
驚いた顔をして目を見張るサクラ。
それを見てまた溜め息を吐き
話し始めるセレネースの話ではーー
ーーレイスやゴーストなどの魔物の類や
伝記の話では無く兄であるタリスの話であった。
まだ学園に来る前に城で剣の稽古や勉強を
今は行方不明の第2王子と共によく見てもらって
いたセレネース、兄妹仲は良かったらしい。
しかしいつの間にか父である現王も病気がちなり
第2王子も行方不明になり
その頃から第1王子であるタリスの様子も可笑しく
なっていったようである。
セレネース曰く
様子が可笑しいというのは簡単に言うと
昔は大変優しかったタリスが怖くて誰も近付けず
意見も出来ない状況になっていったということ
のようだ。
セレネースにだけは優しかったらしいが、
心配しながらも学園に入学することに
なったのである。
ーーそれでね、その学園に出発する前の日にね。
挨拶もあるしお兄ちゃんの部屋に行ったの。
そしたらお兄ちゃんの後ろに
ずっと白い靄みたいなのが張り付いててね……
怖くなって挨拶もそこそこに出て来ちゃったの」
その後、色々な人にそれとなく兄のことを
聞いてみたが白い靄のようなモノを見た者は
居なかったようで、
それ以来セレネースは
しっかり挨拶出来なかったことも
気になっていたようだが
白い靄のことがずっと気になって
頭から離れなかったようだ。
要はその白い靄とタリスが可笑しくなったことが
何かしら関係しているのではないか?
ということである。
その話を黙って聞いていたサクラ。
幽霊と言う意味も分かったが
現段階で兄であるタリスの可笑しな行動と
結び付けるには情報が足りない。
何よりセレネースはサクラに
何かを頼んでいる訳ではないのだ。
今は黙って吐き出すのを聞くしかない。
話し終わったのか
少しスッキリした顔をしたセレネース。
「ハァ、ゴメンねサクラちゃん。
変な話を聞いてもらって」
「ううん、聞くだけなら幾らでも聞くけど……」
「ありがと、サクラちゃん以外には流石に
言ってないよ」
王族の内情は一介の学生には重い話である。
漏らせばそれだけで
斬首になる内容だと思うサクラ。
まぁ一介の学生でもないのだが。
そんなことを考えるサクラを他所に
セレネースは俯きながらチラチラと上目遣いで
言い辛そうにサクラに尋ねる。
「あの、それでね、サクラちゃん……
明日はどこか出かける予定とかあるの?」
えらく話題が飛ぶな、と思いながらも
明日は大会出場者については講義も免除で
自主練習となっているが特に強制ではない。
それに動くのは概ねいつも夜なので
「ん? 魔物図鑑がまだだし
図書館かなって考えてたけど」
と答えるサクラ。
それを聞いてセレネースが
またも言い辛そうにするも意を決したのか
サクラの方を向いて手を合わせると
「サクラちゃん、お城に付いてきて。
お願い!!」
机にぶつける勢いで頭を下げるセレネース。
それを見ながらサクラは、
「どうしてこうなった?」と思うのであった。




