~10 暇つぶしって……~
「さて、とだ」
頼んでおいたであろうピッチャーからグラスへと
酒を注ぎながら足を組んでリラックスした姿勢で
ひと口呷る。
チラッとタケルに視線を向け固まっているのを見て
「そんな緊張せんで良いぞ。
さっきも言うたが
少し聞きたいことがあるだけじゃ」
「は、はぁ」
緊張せんで良いと言われてもねぇ……
「オヌシも、ほれ、注いでやるわい。飲まんか」
「あ、ありがとうございます」
『ほどほどにしてくださいね』
分かってる。
とサクラに言いながら
恐縮しつつグラスを差し出す。
オレの分の果実酒まで頼んでくれてたようで
グラスに注いでもらい同じようにひと口飲んだ。
それを見てセイラさんが話し始める。
「フム、少しは落ち着いたかの?」
「ええ、まぁ」
「ウム、それではーー
それが合図かのように
セイラは真剣というか興奮?
しているような表情に変わり、
ビシッと音がしそうな勢いで指を1本立てながら
タケルに問い掛ける。
ーーお主に聞きたいこと、まずは1つじゃ!!」
タケルはビクッとしながら「まずは?」
という部分に不吉な予感を感じつつも
セイラの質問に耳を傾ける。
セイラは立てていた指をタケルに向けて、
「お主は魔力がないのか?」
先程からセイラは興奮を隠している様子だが、
明らかに隠し切れておらず血走った眼で
こちらを見つめている。
普通ならその威圧にも似た感覚から
引いてしまうのだが
そんな様子でもセイラの美貌は
あくまで損なわれないままであり、
そのバランスによって
なんとか椅子を後ろに引かずに済んでいる
タケルであった。
しかし一体何にそんな興奮しているのか訝しげに
思っているタケルとサクラではあるが
問題はそこではなく
セイラの発した質問の方である。
タケルは思考を巡らせる。
(確かに魔力は完全に消してたけど……)
一拍置いて、
(なんか失敗した? これ)
『特に問題はないはずでした。
いまこの瞬間も漏れていません、が……』
サクラもおかしいところはないと言う。
が、当然サクラも気付いたようだ。
となると、セイラさんの意図するところは一つだ。
恐る恐る聞いてみるタケル。
「恐らくだけど魔力が全くないのは……
おかしなこと? ってこと?」
少し驚いた様子のセイラだが、
すぐに落ち着いた口調で、
「フム。
そちらから種明かしをしてくれるとは
思わなんだぞ」
ハァァ、と溜息を吐いて目を瞑り一拍置いてから、
「要は全く魔力のない人間なんて居ない、と」
「フン、そうじゃ。
全くないというのは故意に魔力を抑えておるとしか
考えられん。
要は高度な魔力操作が必要ということじゃ」
タケルがセイラの目を見て先を促すように頷く。
「にもかかわらず、
ギルドカードは
各ステータス概ね60から100と少し。
これがおかしいと思わずにいられるほど
ワシは鈍ってはおらんわ」
(なるほど、ね)
『前の世界では魔力を持たない人は
普通にいましたからね。
盲点でした。
申し訳ありませんタケル』
(いんや、オレが迂闊だったんだ。
それに普通は魔力探りながら仕事してる人
そんないないと思うしなぁ。
ギルドの他の人達普通だったし謝ることないよ)
ひとしきり沈黙が続いた。
セイラは腕を組み片目を瞑り
その長い足を組み替えながら、
グラスに入っている酒を一気に呷り、
タケルがどういった答えを出すのか待っている。
「うん、わかった。
セイラさんの言う通り魔力は押さえてた……
ただそれを知ってセイラさんはどうすんの?」
サクラもそこを聞きたいようだ。
オレも看破されて狼狽えているんじゃなくて、
実際ここでネタ晴らししたとしてその後の
セイラさんの目的が分からないんだよね。
名探偵ならここで警察に任せて終わりなんだけど
別に悪いことをした訳ではないし、
セイラさんの目的はそこじゃないだろう。
黙っているセイラはというと、
(ワシの思った通りじゃったわい。
初めてギルドに来たときからやたらと薄いし
弱そうな奴じゃし変じゃなとは思っておったが。
さっきガトーのところでしっかり探ったときに
ポッカリ穴が開いたように
そこだけ魔力がなかったから確信したんじゃが
結構な魔力操作よ!!
これで隠形でも使われたらカクレンボでは
敵無しじゃろう。
ワシの慧眼じゃとマザーに自慢してやるワイ!!
依頼の前から気付いておったぞ、とな!!
ガッハッハッ……
い、いやチガウんじゃ、
これではワシがスゴいじゃろと
マザーに自慢するだけ報告会になってしまうわい。
マザーからの依頼は連れてきてくれじゃ……
ウ、ウーム、嘘吐いておったことを弱みとして、
い、いや、こ奴も言うておるが、
力を隠しておるだけじゃし弱みとも言えんしーー
頭から湯気が出ているように錯覚するほど
考え込むセイラ。
(な、なんかメチャクチャ考え込んでるけど……
だ、大丈夫かな?)
ーーック!! かくなる上は!!)
セイラは何か重大な決意を秘めたかのように、
カッと目を見開き徐に口を開いた。
「暇なんじゃ!!」
…………
「『ハッ??』」
……そうだねぇ、
野球しててバッターが打って三塁に向かって
走るぐらい?
サッカーでディフェンスが突然振り向いて
味方ゴールに全力シュートする感じ……
う~ん、良い例が浮かばんなぁ。
とか言ってる場合じゃなくて!!
全然意味ワカラン!!
予想外の答えに二人してポカンと口を開ける。
実際アホ面晒してるのはオレだけだけど。
「えっとセイラさん?
ちょっと何言ってるか
全然分からないんだけんども?」
混乱し過ぎて言葉尻がおかしくなってるな。
「い、いや、だからじゃの、暇なんじゃよ。
結構な時間を生きてるからかのぅ。
オモシロそうなこととは
最近全く縁が無くてのぅ(遠い目)」
フゥ、と溜息を吐き少し寂しそうな横顔を見ると
気の毒な感じがしないでもない……
(て、そんな訳あるかぁ!!
なにが「のぅ」だよ!!
な~んか別の目的があるな。
ガトーさんとこでの行動から考えても、
あんなしおらしい訳ないし、
あの変に哀愁漂う感じが胡散臭いし、
チラチラこっち見てるし怪しさ満点の演技が
また下手過ぎる……
な、なんだか、
チガウところで可哀そうになってきたなこの人……
そもそも暇だからってイチイチ強引に部屋にまで
来るわけないし、
要は暇つぶしって言ってんのに
それが通用するわけないことぐらいは
判ってるだろうから、
なんか言うと思うんだけど)
タケルがそう考えていると、
「要は暇つぶしなのじゃ!!」
「『ウォォォォイッ!!』」
悉く予想を越えてくるなオイ!!
と心の中で突っ込みつつ一息吐いて、
またもグラスに手を伸ばし
酒を飲んでいるセイラさんに
再度具体的にどうしたいのか聞いてみた。
「ウム、暇つぶしなのは事実なのじゃがーー
(ダ、ダメだ、予想するだけムダだ……)
『ある意味ブレてないので、
ヒドく限定的にですが尊敬に値しますね』
サクラの微妙な評価を聞きつつ、
ーーお主が力を隠しているということは、
必ずなにか理由があるはずじゃ。
それが悪巧みであれば事前にブッ潰す。
それ以外の理由で面白そうであれば
ワシが力を貸してやろうと
そう思っておるわけじゃ。
いずれにしろ暇つぶしにはなるじゃろう?
フッフッフッ」
相変わらず話し方と内容と容姿のギャップが
有り過ぎて眩暈がしそうだし、
言ってることはマックス自分の趣味といった
感じだけど要は協力してやろうということか……
な~んかまだまだ怪しいけどなぁ、ウ~ン。
こじつけ臭いし、
まぁ細かい部分は納得いかんが概ね納得か……
納得か??
「結論、キサマは何がしたいのじゃ、
それをキリキリ吐けい!!」
飲み干したグラスをガンッ!!
とテーブルに置きながら目を細めるセイラ。
コワッ、恫喝だ、パワハラだ!! セクハラだ!!
……セクハラは違うか。
ビクッてなったし(汗)
傍から見ればパワハラに見えるだろう。
まぁ弱肉強食のこの世界に
そんな概念はないだろうが……
こちらも疚しい事情がある訳じゃない。
だけに、返答に困るところだ。
『ある程度まで正直に話してみてはどうですか?
私たちに疚しい部分は一切ないことが
前提として揺らぐことはありませんので、
変に付き纏われるより話せる部分は話してみて
お付き合いするほうが動きやすいとは思います』
不安な雰囲気の声音ではあるが、
ある種割り切った声のサクラから提案がなされる。
(う~ん……そうだな。
しつこそうだもんセイラさん……)
『……私はなにも言ってませんから』
うわぁ誘導されたよ!!
嵌るオレもオレだが
雰囲気もウマく作りやがったな!!
言ってる場合じゃないけど……
威圧感タップリに
また時間はまだまだあると言わんばかりに
ゆったりとした優雅な動作で酒を注いでくれるが
セイラの悪いときの笑顔が顔に張り付いている。
「あっと、こぼれるこぼれる、ズズ」
「それを飲んだら、吐くんじゃよ」
ニッコリと寒さを感じる笑みを見ながら、
少し口を付けグラスをテーブルに置くタケル。
言葉を待つセイラにタケルはーー




