~101 獣王国 vs 連合軍①~
こちらは獣王国アリア側国境からヴァッケン寄りへ
入った緩衝地帯に陣取っている、
聖光国アビスクリムゾン、聖炎国ヴァッケン、
海洋国オーセルの連合軍幕舎。
「出て来ますかな?」
口を開くのは
聖光国 第一聖守護と聖光教の教皇を兼任する
ラウル・アビー・パドローク。
純白のローブにフードで顔は良く見えない。
胸には剣が2本地面に突き刺さっているような
聖光教を示す紋章。
回復、解呪、対闇魔法のスペシャリストでもある。
前大戦経験者で今回の奇襲の発案者であり、
聖光国とヴァッケン軍を率いる副官として
参戦している。
「いずれにしても聖光国に恭順せん輩をいつまでも
放ってはおけん、叩き潰す。
と言いたいところだが降伏も打診する。
獣王国の領土を焦土にするには惜しい」
答えるのは聖光国 第1王子
タリス・レブン・アーリー・クリムゾン
総司令官を任命されているセレネースの兄である。
こちらも純白ではあるが全身鎧。
対魔法、物理攻撃を50%カットする魔法をが付与
されている。
剣は聖光国国宝でもある聖剣「ガーランド」
「絶対切断」に「自動修復」機能付き。
ガチ装備であり今回の本気度が分かる。
「フフ、仰る通りですわね」
こちらは海洋国オーセル軍総司令官
セルキ・ナガン・ドラゴニール
濃い藍色の軍服に同じく藍色のマントとロングブーツ
腰辺りまでのロングヘアー長身の
人族なら30前後の妖艶な美女である。
当然、水系統魔法はお手の物。
傍らの副官に持たせている槍はこちらも
オーセルの国宝「カルマンド」
穂先が4つに分かれておりタケルが見れば
「フォークじゃん」と言うこと間違いなしのフォルム
であるが
国宝でもあり当然性能は優秀で「絶対貫通」に
「自動修復」加えて「水系統魔法補助」
20%の効果アップが付与されている。
ということで、
遠距離中距離近接とこなすオーセル軍の№3である。
そんなセルキが話題を変えて続ける。
「そういえばヴルカヌス様の報告を受けたときは
驚きましたわ。
わたくしの管轄でなければ誤報として
処理していたところですわ」
それを聞いたラウルが尋ねる。
「私も驚きましたが、
加えてVVVの面々まで倒され
連れ去られたと聞いております。
一体どこの者の仕業でしょうかな?」
答えたのはタリス。
「ラウルよ、その件については現在暗部が動いている。
少し気になる情報もあるが
今はこの戦に集中するのだ」
額を押さえながら応じるラウル。
「これは失礼いたしました。
仰る通りですな、まずはアリアを落としますかな」
その様子を口元に笑みを湛えながら見ていたセルキ。
「そうですわ。
瞬く間に混乱のヴァッケンを纏めたその手腕。
そして今回の奇襲もまさかのタイミングで
アリアも戦力を整えられていないはず。
素晴らしいですわ」
手放しで褒め千切るセルキに応えるラウル。
「これはオーセルの右腕とも呼ばれるセルキ殿に
お褒頂けるとは光栄ですな」
そこで、
「失礼します!!」
幕舎の入り口外側から声が掛かる。
「入れ」
入口に向かって許可を出すラウル。
入って来たのは情報担当官の兵士である。
頷くラウルを見て報告を始める。
「報告いたします。
国境にアリア軍が展開。
バロンに女王アリアの姿を確認。
また東海岸方面には
ソニアを中心とする大部隊を確認」
それを聞いた3人は顔を見合わせ頷く。
口を開いたのはセルキ。
「フフ、予想通りですわね」
「それしか手は無いでしょうな」
「フン、今日でアリアの命運も尽きるな。
降伏はせんだろう」
「では、セルキ殿手筈通りお願い致しましたぞ」
口角を上げて頷くセルキを後に
幕舎から出ていくタリスとラウル。
各々の秘書兼副官達も同時に出ていくと、
残ったのはセルキとその副官のみ。
「フフフ、傀儡共が張り切ってるわねぇ。
まぁ今回は言う通りに動いて差し上げますわ」
そんなセルキの独り言はユラユラとした明かりが灯る
幕舎内に染みていくのであった。
☆★☆★☆★☆★☆★
獣王国アリア側 国境砦
ゴォオオオーー
こっちに障壁をーー
ズドォオオオーー
崩れた個所の補強ーー
グワァァーー
ギイィインーー
キイィインーー
アリア側国境の砦は散発的な戦闘から
本格的な大規模戦闘へと移行。
現在は遠距離からの魔法攻撃に砦近くでの
部隊同士の戦闘が行われている。
夜襲であり対応も若干の遅れがあったが
助かったことになぜか一気に攻めて来なかった。
しかしここへ来て突然の大規模な攻勢に
砦の兵士達も
困惑と疲労が頂点に達しようとしていた。
そこへ到着したのは、
「フン、バカがーー
一拍置いて大声で兵士たちを激励するのは
ーー貴様ら!! 良くやった!!
今からはこの俺が打って出る!!
この獣王アリアの本気を見たい奴は付いてこい!!」
国境の兵士達は
濃緑色の全身鎧に身を固めた
豪将として名高いバロンの姿に
こちらも全身濃緑ではあるが軽鎧とマントを纏った
速さ重視の装備であるアリア。
その姿を見て言葉を聞き士気が上がる。
オオオオーー
まだまだいけるーー
ウオオオーー
根性見せろーー
ウワァアアーー
軍を率いて向かったが、
若干本隊より早く到着したのには理由があった。
「フン、バカが。一発カマスぞ」
「御意」
砦の上からバロンと共に跳び下り
華麗に着地するアリア。
重々しい音と深い着地の跡を地面に残した
バロンが吠える。
「前面部隊左右に展開!!!!」
その重低音の声を聞いた前方部隊の指揮官は部隊に
指揮を飛ばす。
「開けい!! 左右に散れ!! 今すぐだ!!」
切り結んでいた兵士達も分かっているのか
上手く左右に分かれたところに
前方の部隊がアリアを確認し
雪崩を打ったように殺到してくる。
獣人であり金獅子族であるアリア。
当然高位遠距離魔法も使えるのだが、
やはり魔法、物理攻撃共に得意なのは中近距離からの
速さを活かした攻撃と風系統攻撃である。
「蹂躙走破」
ドッ ンーーーー
キィィィィーーーー
ゴォボアアアアアアアアアーーーー
前面の敵兵が空に花火のように打ち上がる。
こうなることが分かっていたのか、
左右に弾き飛ばされた者達は
待ち受けていたアリアの兵士達が構える盾に
とんでもない勢いでぶつかり気を失ったり骨折の
憂き目に会っている。
「相変わらず大層な名前だな」
そんなことを呟きながら付いてきている
バロンを確認する。
実はこのスキル、
アリア本人としては少し真面目に走っただけで
発動するのである。
ただ一定以上の速さと力と体力がある者でないと
習得できないスキルなのだが、
その速さと力と体力がアリアにとっては
大したことが無くても
周りから見ると尋常ではないだけなのである。
そして敵だらけの左右に向かって放つのは
「フン、獣神速衝烈覇」
ゴォオオオオオオーーーー
バキバキバキバキーーーー
ザシュザシュザシューーーー
無数の特大の風の刃と衝撃波が兵士を薙ぎ倒し
切り刻んでゆく。
「フン、バカが。
これで連れてきた部隊に前線を押し上げさせて
左右を包めば問題無かろう」
分かっているとばかりにバロンが直ぐ様指示を
飛ばしている。
走っただけで兵士が弾け飛び、
前線を押し上げる程の一撃を戦場に到着するなり
やってのけたアリア、獣王の面目躍如である。
「バロン、ここは任せたぞ。
俺はこのまま敵右翼の聖光国を叩く。
俺の部隊もそのように」
「ハッ!!」
後続の部隊は既にバロンの直ぐ後ろまで展開しており
流石は速さに定評のある獣人が
主力となっている部隊である。
アリアは押し込まれた部隊を
国境から少しでも押し返すべく
先に到着し大技を放ったのである。
味方を巻き込まないためという理由もあるが
アリアはどちらこといえば遊撃に向いている。
その速さ故に一人の方が動きやすいのだ。
軍を指揮するような仕事は
バロンやソニアの方が向いているのである。
そして敵右翼へと足を向け移動を開始し
味方の後方に到着したところで押し上げた前線が
またも押し込まれようとしているのを
確認するアリア。
「フン、流石に簡単にはいかんか」
そう言ったところで前線の味方兵士を薙ぎ倒し
飛んで来るのは光を纏った大きな斬撃。
前線の兵士が数百人単位で犠牲になったようだが、
アリアは一つ気を吐くと
その斬撃を魔力を纏った蹴り一発で砕いて見せる。
前面左右では敵味方入り乱れ乱戦を繰り広げているが、
そのド真ん中を抜けてくる人影。
タリス・レブン・アーリー・クリムゾンである。
周囲には手練れと見られる一般兵とは異なる
一段上の装備を纏った者達が固めている。
アリアの周囲も同様に近衛兵で固められている。
睨み合う両雄。
そんな中、アリアの後方に居た
連絡用魔道具を持つ近衛兵がアリアに耳打ちをする。
タリスから目を離さず
それを聞いたアリアは
苦虫を嚙み潰したような表情で叫ぶ。
「フン、バカ共が!!
夜襲でトロトロしておったのはこのためか!!」
"バカ"に"共"が付いて最上級の焦りを見せるアリア。
「バカはお前だアリア。
まんまと誘いに乗りおって
前線に出てくるから手が回らん。
まぁだからこそこうして貴様と話せるのだがなーー
片手だけ腰に手を当てもう片方の手をアリアに向け
差し出しながら言葉を継ぐ。
ーー今からでは間に合わん、降伏しろ。
民達の安全は保証する」
戦場でのアリアの判断は早い。
勝ち負けの分岐点を捉えたときに躊躇していては
敗北することを良く知っているのだ。
「フン」
鼻から息を抜きセイラからの指輪を砕くアリア。
直ぐさま魔法を使う。
「イグニオール」
!?
対象を中心とした火柱が上空へ向けて吹き上がる。
少し驚いたタリスであるが、
周囲の者が展開した魔法障壁により
全くの無傷である。
「フ、珍しい、炎系統の属性魔法とはな。
そんな奇策が通用すると思っているのか?
指輪を砕いたのを見ても相当焦っているようだな。
クックッ」
そんな遣り取りの中、
国境の砦の一番高いところに陣取り
目を皿のようにしてアリアが戦闘中と思われる地域を
見ていた情報管理官。
指輪を砕いたことは見えないが、
アリアがあまり使わない炎系統の大規模魔法は
砦からは充分に見えた。
!?
アリアとソニアから直々に依頼されていたその男は
大きな火柱を見て直ぐに
依頼されていたことを実行に移すのだった。
使わなくて済むならその方が良かったのだが、
念のためとアリアとソニアが準備していたのは
そう、同盟国の魔国に連絡を取ることであった。
そこから竜の里にも連絡が入ることになっている。
セイラの言う通り大規模部隊の派遣は難しかったが、
竜の里、魔国の判断により
この後アリアの危機に際し最も心強い味方が
派遣されることになるのであった。




