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第四十三話

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 王家の祝福(ギフト)が失われてどれほどの月日が経ったことだろうか。


 遥か昔、ベルディフ大陸に国を持つ王族は祝福(ギフト)持ちと言われ、特殊能力を持つ王族が国を統治する事で平和が維持されたのだと記録でも記されていた。


「待て!待たないか!」


 麻薬の拠点としては一番腐り切った街とも言われるツクバルで、イエルドは走り出すレクネン殿下を止める事が出来ず、殿下が殴りつけられ、地面に叩きつけられる様を呆然と眺める事しか出来なかった。ここで王子の名前を呼べば危険は嫌でも増す事になるからだ。


「大丈夫ですか?」


 イエルドが声をかけると、女が消えた闇の方を睨みつけるように見つめる殿下の瞳がおかしな事になっている。王家の特徴でもある金色の瞳に金冠が浮かび上がり、眩い光を一瞬辺りにもたらしたのだ。


 すぐに光はなくなり、瞳に浮かぶ金冠も消えたけれど、王子に付き添っていたイエルドは生唾を思わず飲み込んだ。


 祝福持ちには瞳に金冠が現れるのは有名な話である、その時には何の祝福かわからなかったが、レクネンは確かに祝福を得る事になったという。


『他人の悪意が見える祝福』


 レクネンに悪意を持つ人間には胸の辺りに漆黒の渦が見えるのだという。その悪意の大きさによって渦の大きさも変わり、そこに殺意が含まれるようになると全身が渦と化して化け物のように見えるのだという。


「イエルド!ぼうっとしていたら危ないではないか!」

「え?」


 ハリエット嬢が経営する『乳児院』へと移動中、鼻先を掠めるようにして矢が飛んでいく。ナイフを手に取った殿下が暗がりの中へとナイフを投げると、奥の方で人が転がる音がした。


 悪意が見える殿下には暗闇などは関係ない、悪意が滲む暗器なども察知できるため、動きに無駄がなくなっているのだ。


 イエルドがレクネンとハリエットをツクバルの街に連れて来たのがひと月以上前の事となる。


 箱入り王子と言っても過言ではないレクネンと侯爵令嬢であるハリエットを連れて来たとしても、何が出来るのだろうかとイエルドが考えている間に、レクネン王子は王弟エルランドに頼んで第二師団を呼び寄せ、あっという間に領主であるロメオ・ツクバルを殺してしまったのだった。


 ツクバル領は王家の直轄地とすると宣言し、ハリエットが経営する乳児院のみならず、ツクバルの領地内にある孤児院、福祉施設に、領主が溜め込んだ金を注ぎ込んだ。


 そうしている間にアハティアラから解毒剤が送られて来る事となり、麻薬の中毒患者の治療が貴族や平民など関係なく、積極的に行われるようになった。治癒後は軍部への就職斡旋を積極的に行い、腐り切った領軍の再編を行った。軍のトップを処断したレクネンは、そのまま王国で第二の都市と呼ばれるベルゲンに派兵をすると、麻薬集積場を押さえてしまう。そのあとは間髪入れずに大都市ハーマルにも手を出した。


 こうしてわずか一ヶ月の間に、巨大な麻薬集積場が三ヶ所、王国から消滅した事になる。

 麻薬集積場を抱えていた領主は即座に捉えられ、王弟の名の下に断罪が行われることになったのだ。


 レクネン殿下には嘘と甘言を呈して擦り寄ってくる輩が光に集まる蛾のように集まって来たのだが、祝福を持つ殿下にとっては、それは選別をする貴重な機会以外の何物でもない。


 裏切り者には粛清を、殿下は血に塗れるほど、周囲は恐れ慄くようになっていった。

 そうして帝国の間諜だけでなく、自分の身の危険を感じた貴族たちが暗殺者を送り込んでくる事となり、今のように矢を射られたり、ナイフを投げられたり、斬りかかられたりと、忙しい事この上ない状態なのだ。


「殿下、お疲れではありませんか?」

「これくらいでは疲れるわけもない」


 殿下は暗殺者の死体など全く気にしない様子で言い出した。


「廃嫡が決まれば私はハリエットと共にオーグレーン侯爵領に移動する事になるだろう。そうしたら冒険者ギルドに入ろうかと思っているのだ。だから、暗殺者の一人や二人や三人くらい、難なく捌けねば金を稼ぐのは難しいという事になるだろう?」


 冒険者ギルド?冒険者ギルドは魔獣を殺す依頼を受けることが多い場所であり、暗殺者を暗殺する場所ではないと思うのだが?


「ハリエットは領地に戻ったら、また子供の福祉とか、健全な教育がどうとか言い出すのだろう?であれば、金を稼ぐ力は養わなければいけないわけだ」


「確かに・・・」


 ツクバルの乳児院を経営する資金を得るためと言って王子がまず一発目に殺したのがロメオ・ツクバルだった。


 優しげに笑いながら、王国の王太子を簡単に殺そうとした帝国の回し者。殿下は見えないほどの速さでロメオの胸を貫くと、ロメオから三人分離れた男の腹も突き刺した。


 この三人分離れたところに居た男は帝国の間諜であり、麻薬を輸送する指揮をするためにツクバルを丁度訪れていた所だったのだ。


 敵味方入り乱れても、祝福持ちの殿下には何の問題も生じない。

 悪意がある奴が敵で、悪意がない奴が味方なのだから。


 そうして初めて荒事をしたとは思えないほど剣を奮い、敵の喉を断ち切り、敵の切先を交わしざま、床を滑るように進んだ殿下は、敵の足の腱を舞うように切っていたのだった。


 周り中が血まみれとなっても動じる様子もなく、

「ああ、金を稼ぐと言うのはなかなかに大変な事なのだな」

と、殿下が言い出した時には、さすがは王弟エルランドの甥であると、皆が皆、そのように思ったものだった。


 この時、誰の脳裏にもマグナス国王の姿は思い浮かばなかっただろう。

 誰も彼もが声を出してまで主張はしないが、マグナス王は間違いなく『愚王』の部類に入るのだろう。


 先ほどイエルドの元にも王家からの招集状が届いたのだが、そこには『王太子レクネンの正式な婚約者を選定するため、貴族院による大会議を開く事が決定した』というような事が記されていた。


 貴族院による大会議とは王国の貴族全てが出席する会議であり、王家の未来を左右するような判断を下す場合に招集されるものとなる。


 西では帝国軍との衝突が始まり、南は麻薬の貯蔵倉庫の摘発から復興の道筋がまだ見えないような状況である。それだけ麻薬による被害は甚大なものであり、アハティアラの解毒剤がなかったらどうなっていたのかと考えると、思わずゾッとしてしまうのだった。


 ちなみに王家から送られてきた物とは別として、王妃からも全貴族に向けて親書が発布されている。


 曰く、領地に存亡の危機を抱えている貴族に限っては、無理な出仕は必要ないとの事であり、ほっと胸を撫で下ろした貴族はそれこそ星の数ほども居た事だろうとイエルドは想像する。


 現在、国家存亡の危機にあるというのは間違いない事実であり、そんな中で、たかだか一人の王子の婚約者を決めるために、全貴族を招集しようというのだから笑うしかない。


 このような状況で嬉々として王都に向かう貴族は、帝国側にすでに寝返っているか、時世が読めない大馬鹿者という事になるだろう。


「ハリエット様にも手紙の事は伝えなくてはなりませんね」

「ああ、そうだな」


 ハリエット嬢の名前を出すと、殿下の口元に自然と笑みが浮かぶようになっている。今の殿下はハリエット嬢のためだけに生きているようなものなので、王子の婚約者を決めるための会議なのに、王都に行くか行かないかはハリエット嬢が決める事になるのだろう。


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