Indaco Capitolo 藍の章 Donna 藍のいる場所
Indaco Capitolo Donna Ⅰ
「相沢‼️オマエはハッキリとモノを言い過ぎるんだ‼️
だからモメるんだ‼️少し抑えて話が出来ないのか⁉️」
「上野部長‼️そんな事言ったって、ハッキリ言って分からせないと‼️」
「だから、其れがイカンのだ‼️少しは相手の事を考えろ‼️」
「すいませんね❗ヰタリアでは、お互いに言いたい事、言ってスッキリなんですけどね‼️」
「ココは日本なんだ‼️とにかくオレの部で、モメ事を起こすな‼️」
上野は怒りを沈めるかのように、
コップのビールをひと息に飲んだ。
「ハイ、上野さん、どうぞ」
あたしは、ビールの瓶を持って、上野に声を掛けた。
あたしの店の開店以来の、常連である上野の
空になった、コップにビールを注いだ。
「藍ちゃん。コイツにつける藥は何か無いかなぁ‼️」
上野が彼を指差しながら、あたしに聞いて来た。
彼を見た。
「ずいぶん、尖っているなぁ❗このコは、何に苛立っているのかなぁ⁉️」
あたしが初めて宙也に会った時の印象だった。
「ハイ、相沢さん」
彼は怒った様な顔でグラスを持った。
ビールを注ぎながら聞いた。
「ヰタリアに行ってたの❓」
「ええ」
彼はぶっきらぼうに答えた。
「ヰタリアの話聴きたいなぁ」
「田舎の街で暮らしていたから、名所とかに行った事ないから、大した話は出来ないですよ。」
「良いわねぇ、ヰタリアの田舎の話、そういうの聴きたいわ」
「コイツはねぇ、LEVANTEのSKIチームにいたんだ。ヰタリアでスキー教師をしてたんだ」
上野が口を挟んだ。
「スゴいのね、相沢さん、SKI上手なのね」
「大したことないです」
「ずいぶん警戒してるのね、どうして❓」
あたしは笑いながら言った。
「えっ⁉️そんな事ないですよ」
「あたしは、あなたがヰタリアで、どんなモノを見て、
どんなモノを、食べて暮らしてきたのかを、知りたいだけよ。
どんなガイドブックにも、載っていない‼️
あなただけの、ヲリジナルのヰタリアを、聴いてみたいのよ」
「退屈なつまらない話ですよ」
「其れを決めるのは、あなたではないわ❗あたしよ。
其れともあたしには、話したくないの❓」
彼はハッとした表情であたしを見た。
引き戸が開き、お客が入って来た。
其れを合図に、店は忙しくなった。
上野は、声のトーンを下げて、彼と仕事の話を
しながら、しばらく飲んでいた。
『上野さん。なんだかんだ言っても、あのコを氣に要ってるみたいね』
あたしはそう思った。
「藍ちゃん。おあいそ」
上野が声を掛けた。
お勘定を済ませて、上野と一緒に帰ろうとする彼に、声を掛けた。
「上野さん。いつも、ありがとうございます。
相沢さん、またね、今度はヰタリアの話を聴かせてね」
彼は顔を引いて頷いた。
『きっと、上野が連れて来る時しか、来ないだろうな』
あたしはそう思った。
そんな或る日・・・
お店の太客であり、あたしに氣がある。
鉄道會社向けの機械製作會社の役員でもある堀田と出かけていた。
クラブのようなノルマのある
同伴をする訳ではないが、
やはり女ひとりで店を切り盛りするには、
こういった太客がいないと苦しくなる。
堀田の場合、役員でもあるが、
もともと育った家が資産家でもある。
根がボンボンという事で財布のヒモが緩く
これぞと思ったオンナにはカネを使う。
あたしの店に落とす金額が桁違いなのである。
そして、役員という事で下請業者の担当者を店に来るように営業をしてくれる。
「あっちゃん。何だアレ⁉️」
堀田が指差した。
店の前にスーツを着たひとり若い男が、
しゃがみこんで近所の野良猫とジャレていた。
「相沢さん⁉️」
「知り合い⁉️」
堀田が若い男だけに反応した。
「上野さんが、連れて来た部下のコです」
堀田は常連客の上野の名前が出て少しホッとしていた。
「相沢さん」
あたしはクルマを降りて、彼に声を掛けた。
其の声を聞いて、猫は駆け出していた。
彼はこの前と違って、悪戯を見られた子供のように、
少しテレたような笑顔をあたしに見せた。
「どうしたの❓」
店の駐車場にクルマを置いて、堀田もやって来た。
「ぢつは上野部長から謹慎を言い渡されて‼️
この街に来て、間もなく知り合いもいないから、ココに来ちゃいました」
「謹慎って⁉️どうしたの❓」
「課長の態度が氣に入らなくて、口論に・・・」
「若い時は、そんな事のひとつやふたつあるさ、
むしろ其のくらいの元氣がないとね。
上野さんの部下なんだってね。
彼も若い時は“喧嘩屋”と呼ばれてたんだよ‼️
僕が其れとなく話をしてあげるよ」
堀田が笑顔で彼に話掛けた。
堀田と上野は知り合いだった。
あたしは堀田の行動を怪訝に思った。
“普段の堀田ならスルーするのに、なぜ⁉️”
二人のやり取りを見ながら、
堀田は彼を
自分の目的の障害になる
と読み取ったのだろう。
しかし・・・
初対面
もし彼を排除して
”あたし“が
どんな行動に出るのか読めないと考えて消去法を採った。
男二人、女一人。
近所の目もある。
ウワサ好きな連中から見たら
このシチュエーションは
真実なんかどうでもイイのだ。
“あの店のママを巡ってモメてたみたいよ”
絶好の味付けの”ネタ“になるのだ。
そんな事はゴメンだ。
「店開けるからとりあえず、二人中に入って」
あたしは言った。
こうして彼は、
自分の意思とは別に・・・、
望むと望まざるに拘わらず
桜花の常連となっていった。
数日後。
堀田が一番乗りで来てた時に、上野がひとりでやって来た。
「上野さん。いらっしゃい」
「藍ちゃん。おはよ。ビールお願い」
そういって彼は堀田に声をかけた。
「堀田さん。早いですね」
そういいながら堀田の隣に座った。
あたしは上野にビールを注いだ。
彼は美味しそうにひと息で空けた。
「上野さん。今日はひとりですか⁉️宙也さんは❓」
「はじまった‼️相変わらずだな」
堀田の毒舌に苦笑しながら上野は答えた。
「アイツは今日は出張で、岐阜に行ってます」
「ぢゃあ、謹慎は終わったんですね」
「よく知ってますね」
「先日、ココの前で、野良猫をカマッてたので、どうしたんだい❓と聞いたらアナタから、謹慎を頂きましたって言ってたもんで」
「そんな事まで話していたんだ。しょうがないヤツだなぁ」
そう言いながら、上野は“おやっ⁉️”と思った。
堀田が宙也に興味を持った事が氣になった。
「でも、なかなか優秀なコなんでしょう。
エムテックさんに入れるくらいなんだから」
あたしは上野のお通しを用意しながら聞いていた。
「あのコ、優秀なんだ」
エムテックという會社は
樹脂化成品を扱う會社である。
家庭で使うラップから戦闘機のキャノピー等まで
扱う商品の範囲が広いのである。
現在、宙也が所属しているのは、ラップ等の日用品の製品を扱う部署である。
エムテックは堀田の會社とも取引があった。
以前、堀田の會社が顧客に納入したアクリル樹脂を使った製品に、予算の関係で海外の価格の、安いアクリル樹脂を使ったところ・・・
強度不足の粗悪品のため破損して、大問題になった。
困った堀田が上野に頼み、事なきを得た。
其れ以来の付き合いになった。
「ヤツは、ミラノ出張所の現地スタッフで、採用だったのですよ。ヰタリア人スタッフが、本社からの送金をクスねていてね。被害額が100万超えて・・・
業を煮やした所長が、信用出来る日本人スタッフが、欲しいと思ってたら、たまたま、ヤツと知り合ってね。雪が無い時だけでも、イイから手伝ってくれと、頼んだのがキッカケで」
クスねた手口はこうだった。
本社からの送金を銀行で両替せずに、
息のかかった両替商に
非常に高いレートと手数料を取って掠めていた。
「所属メーカーが、スキー事業から撤退し、
ヰタリアでの労働許可証を失った。
其の時の所長が、本社に掛け寄って、ミラノ出張所の正式なスタッフになり、再び許可証が発行された。
其のミラノも閉めたために、日本に戻って来て、私の元に来たワケ‼️」
「やっぱり優秀でしょう。この就職氷河期にスキー教師だった彼が、エムテックさんで、バリバリ働いているのだから」
「まだよく分からないね。大学は卒業してるから、もう少し診てみないと」
「ちゃんと大学も出てるんだ‼️」
上野はますます堀田に警戒した。
堀田には悪い癖がある。
金持ちゆえに人の反応を見て樂しむ癖がある。
これはと思う人間を
散々持ち上げて、自分に振り向いたら後は放置するという
厄介な趣味の持ち主だ。
宙也は良い部下かと問われれば
躊躇するが・・・
仕事は出来る方なのだ。
これから育てていきたいと彼は思っている。
堀田に引っかきまわされたくないのである。
Indaco Capitolo Donna Ⅱ
彼が仕事が終わって店に来て
他に客がいない時や、堀田と三人の時には
ヰタリアでの話をしてくれる。
意外だったのは話をするが上手。
あたしは彼のヰタリアでの話を聴くのが樂しみだった。
特にガソリンスタンドでのエピソードは大爆笑だった。
彼が友人のFIATを借りてドライブに行った。
友人に「夕方の5時迄にガソリンを入れた方がイイよ」と
アドバイスを受けていた。
ヰタリアのスタンドは有人とセルフの混成が多く、
夕方の5時以降はスタッフが帰ってしまい、
無人のセルフになる。
強盗も多いから、なるべく5時迄に給油をしていた。
うっかりして5時を過ぎてしまい
給油しない訳にもいかず
無人のスタンドにクルマを止めた。
お金を入れて15リッターのボタンを押した。
給油口を開けて、ノズルを差し込んだ。
レバーを握ったが反応がない。
「参ったなぁ・・・」
辺りを見渡すと・・・
ガソリンポンプのカバーがへこんでいた。
そして大きめなプラスチックハンマーが置いてあった。
「なるほど、叩けばイイのね。叩けば‼️」
ハンマーを持って
”ゴン‼️“とポンプを叩いた。
しかし反応がない。
今度はかなり強く叩いた‼️
“やった‼️”
ポンプは動いた。
しかし
喜びもつかの間
今度は止まらなくなった‼️
明らかに指定数量を超えている。
どおにも出来ずに
ノズルが自動に止まった。
つまり満タンに入ってしまった。
「ヤベ~カネ足りるかなぁ⁉️」
おそるおそるモニターを見ると
15リッターのまま
正常終了の表示だった。
彼は「すいません。すいません。」と連呼して
スタンドを後にしたそうだ。
其の時の彼の頭のなかは
「日本人、ガソリン盗む」の新聞の見出しがよぎったそうだ‼️
「幸い今日まで請求も来ないです」と笑って言っていた。
あたしと堀田は大爆笑‼️
堀田はそういう機械に詳しいから
「ヰタリアのポンプは精度がいい加減だからね。ヰタリアあるあるだよね‼️」
そういって、彼のグラスにビールを注いだ。
あたしは彼と堀田がヰタリア話をキッカケに
仲良くしてくれればイイなぁと思っていた。
堀田はぢつはかなり嫉妬深いのだ。
以前もあたしにモーションをかけた人を追い出した事がある。
あたしは彼にお店にいて欲しかった。
”最初は取っつきにくいコかなぁ“と思ったけど、
こうして話をしてるとおもしろいのと、
桜花のなかで唯一の年下だから
其れほど氣を使わなくてイイ。
店のなかで樂に接してられる。
貴重な存在なのだ。
そんななか
堀田が出張で3日間いない時にちょっとした事件が起きた。
あたしは堀田もいないから、
宙也のヰタリアの話でも聞いて、
笑って氣樂に過ごせると思っていた。
仕込みをしてると店の引き戸が開いた。
「宙也⁉️今日は早いなぁ」と思ったら
中年の女性がにらみ付けながら立っていた。
「どちら様ですか❓」
「ビショップのママです。少し話があって参りましたの。」
合点がいった。
ビショップと言えば以前、堀田が通っていた店である。
あたしが堀田と初めて会った店はビショップではない。
上野に連れていかれたおでん屋に堀田がいた。
上野は飲み方もスマートで、「外に飲みいこうか」と誘われても安心して出掛けられる。
上野と堀田は知り合いだ。
当然、堀田は話かけて来る。
上野は彼なりに、桜花に太客になりそうな堀田を紹介してくれたのだと、あたしは思っている。
ビショップのママが乗り込んで来ても関係無いのである。
「どういったお話でしょうか❓」
「堀田さんの事で」
「何かお飲みになりますか❓」
「アタクシはいつもブランデーなの。
こんな店ぢゃあ用意してないでしょうね。
しょせん一膳飯屋でしょ‼️」
小料理屋、和食をアテにブランデーを
飲む人なんてほとんどいない。
其れを承知でゴリ押ししてるのだ。
しかも“あたしの店を一膳飯屋です”って
”このオンナ絶対許さない“
この窮地を挽回するにはと考えた。
堀田は役に立たないだろう。。
あたしのなかで
「藍さん。藍さん。」と笑顔で話す宙也の顔が浮かぶ。
“宙也しかいない”
あたしは厨房に入り
祈るような氣持ちで宙也にメールを打った。
「宙也くん。仕事ちうにゴメンね。
急ぎでブランデーのVSOPを買って持って来て欲しいの‼️
宙也くんにしか頼めないの‼️
お願い‼️ 藍」
”お願い。氣付いて‼️。宙也“
そして
ビショップのママに言った。
「桜花は和食の店です。
あたしの料理でブランデーを合わせる人はいませんわ。
今、ブランデーを頼みました。
もう少しお待ち下さい。」
“こんなオンナになんか負けられない”
「あれ⁉️藍さんからだ」
オフィスでデスクワークをしていた
宙也はメールに氣が付いた。
「相当、困っているみたいだ」
藍がこんな無理を言ってくるのは何かあると思った。
彼は立ち上がり、上野の席に向かった。
「部長。ちょっとイイですか⁉️」
宙也は上野にメールを見せた。
上野はけっこう捌けている。
彼も藍が何か困っているのを理解した。
「相沢君。其のお客様は長いお付き合いです。
お困りの様ですから、キミは対応をお願いします。
今日は其のまま直帰してイイです。」
「ハイ‼️」
上野の許可が出たので
机の上に散らばってるものを片付けて、
おもてに出ようとすると
「相沢君。お客様に宜しくお伝え下さい。頼んだよ」
と言って笑っていた。
祈るような氣持ちだった。
勝ち誇ったようなドヤ顔を見せるビショップのママ。
聞き覚えのあるクルマの
エキゾーストノートが聴こえる。
トバしてるみたい⁉️
かなりうるさい‼️
彼のZ32の音に似てる。
確か、「柿本改ってマフラーが入っている」って言ってた。
店の前に強化ブレーキの音がひびいた。
いきおい良くワインレッドのZ32が停まった。
「藍さん。ゴメンね。お待たせ‼️」
宙也は勢いよく引き戸を開けた。
「勝った‼️。宙也。ありがとう‼️」
あたしは賭けに勝ったと思った‼️。
トレーにVSOPのブランデーと前に冷製のお通しを造った時に使ったブランデーグラスを用意した。
ビショップのママは水と氷を要求した。
あたしは水と氷を用意した。
宙也はクルマを店の駐車場に停めて、戻って来た。
店に入って来た彼は
「今日はもう上がりだから」と独り言のようにいって
冷蔵庫から冷えたビールを自分で出した。
そしてビショップのママを見て、言い放った。
「オタクVSOP飲んだ事ある⁉️
もしかして初めて⁉️
飲み方知らないのかね‼️
こりゃたまげたねぇ‼️
氷に水⁉️ブランデーにフツーは入れないけどね。」
「何このガキは‼️失礼ね‼️」
「宙也くんはヨーロッパで暮らしていたコなんですよ。」
「えっ⁉️」
この街で高級クラブで名前が通ってるビショップ
しかし、ヨーロッパで暮らしていたという客はいなかった。
「日本人くらいだよね。見栄張って、何でも水と氷で割ればイイと思ってね。ホントの飲み方も知らないのだから‼️ブランデーはフランスでは命の水っていうくらいのポジションだからね。」
ビショップのママは真っ赤な顔になった。
「どんな飲み方しようがアタクシの勝手よ‼️」
「オタクがそんな飲み方して、“知らないの恥ずかしい“と
馬鹿にされ笑われてもカンケーないからね。オレにはね。」
彼の毒舌か炸裂した。
ビショップのママは
ヨーロッパで暮らして来た彼に敵わないと思い、
あたしに攻撃を定めた。
「ウチの客の堀田さんを盗って‼️」
「お言葉ですが、桜花に来たのは堀田さん自身の意思です。」
「堀田さんが言ってたわ。しつこい営業されて辟易してるって」
「ぢゃあどうぞ、引き取って頂いてもいっこうに構いませんが‼️」
「この泥棒猫がっ‼️」
あたしのひと言に激昂した
ビショップのママが水の入ったデキャンタを持って立ち上がった。
あたしは怯まない。
こんなオンナには負けない。
そう思った瞬間
ビショップのママの行動を見て彼は素早く反応した。
あたしは彼の其の反応の速さに吃驚した。
「あっ‼️」
あたしの前に立って両手を拡げた。
ビショップのママは
彼に向かってデキャンタの水を浴びせて
そして続けざまに彼の頬に平手打ちを喰らわせた。
彼は言った。
「氣は済みましたか⁉️コレで収めてもらえませんか⁉️」
「…」
「お會計して帰ってもらえますかね‼️
コレ以上するなら、オレは警察に被害届を出しますが…」
ビショップのママは
彼をにらみ付けながら
「今日はコレで帰るけど、このままぢゃあ済まさないからね。」
啖呵を切った。
其れを聞いて
彼も黙っていなかった
「ぢゃあ、ヤラれる其の前に、アンタを連れて警察にいくぞ。」
「ツリはいらないよ‼️」
財布から一万円を出した。
「全然足りないね‼️オレの時給は高いんだ‼️。」
彼は平然と言った。
ビショップのママは
もう一万円の札を
カウンターに叩きつけて帰っていった。
あたしは急いでタオルを持って来て、宙也を拭いた。
「ゴメンね。宙也くん。ゴメンね。
こんな目に合わせちゃって」
「大丈夫ですよ。藍さん。
スラローム狂技でポールが顔に当たる事もあるから、ソッチの方が物凄い痛いの‼️あんなの大した事ないです。」
「とにかく、一度帰ってシャワーを浴びて着替えてから戻って来て、其の間に美味しいモノ作ってあげるからね。」
其の時、なぜか彼は吃驚した様にあたしの顔を見た。
そして笑顔になって
「ハイ」と言って店を出た。
「宙也くん。どうしたんだろう❓吃驚して‼️」
あたしは厨房に立ちながら考えていた。
しばらくすると彼が戻って来た。
彼は
「またビールもらいますね。」と言って
冷えたビールの栓を開けた。
コップに注いで、ひと息でグラスを空けた。
あたしは彼のためにステーキを焼きはじめた。
肉が焼ける良いニオイが漂った。
「宙也くん。もう少しで焼けるからね。」
「藍さん‼️ステーキですか⁉️。うれしいけどおカネが…」
「大丈夫よ。あたしに任せて‼️」
あたしはある考えがあった。
焼き上がり、包丁でカットして皿に盛った。
山葵の小皿と醤油の小皿と岩塩の小皿をトレーに載せた。
「ハイ。お待たせ‼️」
彼は、はしゃいで喜んだ。
「わ~い‼️ステーキだぁ‼️」
箸で山葵をつまみ肉に載せた。
醤油を少し付けて、口に運んだ。
「ウマッ‼️」
そしてビールを飲む。
「シアワセだぁ‼️」
テーブルを叩いてよろこんでいる。
美味しそうに食べてる彼の笑顔を観てると
さっきまでの嫌な氣分が消えていく。
あたしのケータイが鳴った。
“堀田から“だ。
あたしはスピーカーに切り換えた。
モチロン、彼に聴かせるために‼️
「もしもし」
「あっちゃん。オレだ。ゴメン、會議が長引いて」
「どちらのオレさんですか⁉️」
「あっちゃん。どうしたの❓機嫌悪いの⁉️何が遭ったの❓」
「ええ。とても不愉快な事が遭ったわ。
あたしがヒドイ目に遭っても、誰かさんは返事もしないし」
「ゴメンね。會議が長引いて、ケータイ見られなかった‼️」
「ホントかしら⁉️ビショップのママが
オレさんを盗ってと乗り込んで来たわよ‼️」
「えっ⁉️ウソだろう❓」
「ウソぢゃあないわよ。本人に聞いてみたら‼️。
ホント役に立たないわよね。
宙也くんなんか、上野さんに言って早退して駆けつけてくれたわよ。
あたしを守ってくれてビショップのママに
水掛けられて、平手打ちまでもらったのよ‼️
役に立たない誰かさんと違ってね。
身体を張って守ってくれたのよ‼️。
だいたい出張とか言って、何処の呑み屋に出張してるの❓」
「あっちゃん。本当に出張なんだよ‼️。
えっ⁉️何。そんな事したのか⁉️」
「宙也くんが守ってくれたからこうしてるけど、もしあたしがやられてたら、あなたはもう出禁よ‼️」
「あっちゃん、勘弁してよ…」
藍のペースに堀田はサンドバッグ状態‼️
あたしは彼にに向けてウインクをした。
宙也は声を殺し笑っていた。
「あっちゃん。彼に好きなモノ出して上げて、オレにツケといて」
「ビショップのママがこのままぢゃあ済まさないって言ってたのよ‼️オレさんは何日間いないの⁉️」
「分かった‼️分かったから‼️
彼にオレのいない間のボディーガードとして
店に来てもらってくれ。彼の分はオレが払うから‼️」
「解ったわ‼️。宙也くんにお願いするわ‼️
あと、お鮨も食べたいなぁ‼️」
「あっちゃんには敵わない。分かったよ。」
電話を切ってから
「ハイ。一丁上がり‼️」
あたしは彼に向かってペロッと舌を出した。
あたし達は大爆笑した。
彼は声を殺してガマンしてただけに
涙が出るほど笑っていた。
「藍さん。ありがとうございます。でも…」
「でもなぁに⁉️」
「藍さんを怒らすと怖い事がよく分かりました‼️」
「そうよ。あたしを怒らすとこわいのよ。」
あたし笑って彼に聞いた。
「宙也くん。オナカは⁉️」
「まだまだ空いてます‼️」
「もう少しするとお鮨が来るわよ‼️」
「ホントですか⁉️」
「堀田さんが手配してるから」
そんな事を言ってると引き戸が開いた。
「弥助鮨です。堀田さんから連絡もらって、配達に来ました。」
「ほらね‼️」
続いて上野が入ってきた。
「アッ部長‼️」
上野は既に一杯何処かで呑って来てる様子で
少し赤い顔をしていた。
其の証拠に相沢と言わずに
「宙也、首尾はどうだった」と聴いた。
宙也の代わりにあたしが答えた。
「上野さん。ありがとうございます。本当に助かりました。宙也くんがあたしを守ってくれたの‼️」
「藍ちゃん。少しは役に立ったみたいだね。」
「ホントに彼が身体を張ってくれたの‼️。
堀田さんは出張らしいですよ‼️。
何処の呑み屋に出張してるやら‼️」
三人で大爆笑した‼️。
Indaco Capitolo Donna Ⅲ
この件をキッカケに
あたしと彼の仲は急速に縮まった。
堀田も彼に一目置かざろう得なくなった。
堀田はあたしと出かけてる時に見事に自爆した。
やはり出張と言いながらオンナと逢っていた。
出張先で知り合った夜のオンナから連絡が来たのだ。
一生懸命、仕事の電話を装っているが狭い車内。
オンナの声が電話から漏れて来る。
堀田の”自業自得“だが…
あたしには好都合だった。
週末や祝日の仕入れに
宙也と一緒に行ける様になった。
正直、堀田では用を為さなかった。
落ち着いて食材を診られないのである。
彼はあたしの仕事に興味が有った。
ヰタリアで雪の無い時期にはオーベルジュで働いていた事もあって、知識を持っていた。
其のなかでも驚いたのは一緒に魚屋に寄った時
彼はわたり蟹を診てて
「脱皮したわたり蟹は出ましたか❓」
魚屋のおじさんに聞いた時だった。
「オニイチャン。良く知ってるねぇ。
其処にあるのが脱皮した蟹だよ」
「藍さん。コレ揚げると美味しいですよ。常連さんもヨロコビますよ。」
「ホント⁉️」
あたしは魚屋のおじさんを見たらうなずいていた。
「其のオニイチャンの言うとおりだよ。」
あたしはふたりに薦められてわたり蟹を仕入れた。
彼は帰り道に説明してくれた。
「ヴェネティアに行った時に、脱皮した蟹が売っててね。魚屋さんに食べられる店を教えてもらって、行って食べたら美味しかったのですよ。」
店に戻って来たら
ちょうど堀田が開くのを待っていた。
わたり蟹を見た
食にうるさい堀田が喜んでいた。
「おっ‼️脱皮したわたり蟹だ。柔らかくて旨いんだよな」
堀田はご機嫌になった。
「あっちゃん。さすが‼️知ってるねぇ。」
あたしは「宙也くんが教えてくれたの」と言おうとしたら
彼があたしを見てニコっとして唇に指を当てていた。
「ナイショ。ナイショ。藍さんの手柄に‼️」
氣が付いたら彼と
アイコンタクトが出来るようになっていた。
Indaco Capitolo Donna Ⅳ
6月に入った。
雨が続いていた。
彼と食材を仕入れに行くようになって、氣が付いた事がもうひとつあった。
クルマの運転が上手だって事に
堀田のセルシオは正直乗りたくない…。
せっかちで氣が短い‼️
急ハンドル、急ブレーキが多い‼️
身体の小さいわたしは
彼のセルシオの本革シートは滑るし動いてしまう。
以前車内でジェラート食べてたら、
急ブレーキをかけて身体が滑って
お氣に入りのワンピースにジェラートが落ちた…
「堀田さん‼️。コレお氣に入りなのよ‼️」
あたしは怒った。
堀田に新しいワンピースを買ってもらった‼️。
宙也のZ32に乗ると、不必要に身体が動かない‼️。
初めて乗る時はスポーツカーだし、車高は低い、マフラーも入っているから音もデカイ‼️
運転乱暴なのかなと思って身構えてたら…
すごいスマートに運転してた。
「運転巧いのね。」
「クルマがイイのですよ。重心が低いから安定するんですよ。」
彼は笑って言ってた。
商売柄色々な人のクルマに乗って出掛ける事もあるが、
正直、彼の方が巧いと思った。
其れを裏付ける話があった。
上野が店に来た時
彼がやたら首を回したり、肩を揉んだりしてたので
「どうしたの❓かなり疲れたみたいね」
「今日は部下と同行でね。ソイツが運転が下手で、怖くてね。宙也だとアイツ運転巧いから、ゆっくり寝られるんだ‼️この前、客先に行く間に熟睡してアイツに怒られた‼️」
「彼らしい。」
上野を怒ってる姿が浮かび、あたしは笑った。
「やっぱり、宙也くん。運転巧いんだ‼️クルマがイイからなんて言ってたけど‼️」
引き戸が開いて
「ただいま」
彼が帰って来た。
「うん⁉️どうしたの❓」
「今、ウワサしてたのよ‼️」
「えっ⁉️なにを⁉️」
「ナイショ‼️。お通し作らないと」
”彼がやって来た“
さぁ、あたしの1日が始まった。
週末。
仕入れのために
あたしのマンション近くの
コンビニで彼が来るのを待っていた。
エキゾーストノートが聞こえてきた。
Z32が駐車場に入って来た。
窓が開いた。
「おはよ。宙也くん。なに飲む❓」
「珈琲ブラックで」
あたしは店に入ってブラックの缶珈琲を2本買った。
Z32の助手席のドアを開けて乗り込もうとすると、
A4サイズの1枚の用紙が置いてあった。
”朝日高原 ヒルクライム 出場要項”
「宙也くん。なぁにコレ⁉️」
「クルマの狂技。ヒルクライムって言って、峠や丘を駆け登ってタイムを競うの」
「宙也くん。出場するの❓」
「ハイ。」
あたしはもう一度、用紙を見た。
「再来週の日曜日かぁ。」
高原の良い空氣でも吸って氣分転換したくなった。
彼の走りもみてみたい。
お店休みにして一緒に行こうと思った。
「宙也くん。あたしも応援に付いていってイイ❓。
高原の良い空氣を吸って氣分転換したいの‼️」
「お店と堀田さんは大丈夫なのですか⁉️」
「お店は休むわ。役立たずさんは奥さんサービスしないと大変なのよ。」
「どうして❓」
「カッコつけてるけど、奥さんの実家は鉄道會社の創業家なのよ。其のおかげで取引が出来て、彼は役員になれたのよ。其れがなかったらねぇ…」
あたしは笑った。
「そうなんですね。イイですよ。結婚ってタイヘンなんですね。」
あたしはこうして
お店以外の事で初めて彼と出かける事になった。
Continuare




