これにはヴィルヘルミーナもニッコリである。
オーガに続きオルトロス、マンティコア、ドレイク、トロール、イエティ、そしてワイバーン。
なかなかの難易度だが、俺たちの敵ではない。
ヴィルヘルミーナの〈プロテクション〉と俺の皮膚は未だに無敵の鎧であり、物理的な攻撃はすべてシャットアウトしていた。
もちろん回避もするので、そもそも被弾自体が少ない。
風の精霊で動きをサポートすれば、まるで疾風の如く素早い動きが可能なのだ。
攻撃力については、〈ファイア・ウェポン〉を両手にかけて爪でぶん殴るだけで魔物の身体に穴が空く。
〈ファイア・ウェポン〉に炎の精霊による強化を乗せれば、攻撃力は更に上昇する。
ワイバーンだけに炎の精霊とは相性がいいので、通常攻撃が常時必殺技のような状態になっているわけ。
中層も敵はいない。
問題があるとしたら罠の方だろうか。
ファイアサークル、マインドボム、パラライズミストなど魔法の罠が増えていたが、精霊たちの尽力によって事なきを得ている。
逆に言えば精霊頼みなので、素でくらったらマズいということでもあるのだ。
特に単純にダメージを与えないような罠は厄介で、精霊魔法が使えなければ何度か死んでいたような気もする。
たださすがの難易度だけあって、宝箱は豪華だ。
浅い階層でもちらほら見つかったが、どれも銅貨やら質素な武具など、パットしないラインナップだった。
それが中層に来たら、宝石や銀貨、魔法のかかった武具や道具などがジャンジャン出てくるようになったのだ。
これにはヴィルヘルミーナもニッコリである。
しかし中層もあと僅かというところで、俺たちは立ち止まることになった。
「さすがに深層には手を出せないね、これでは」
「ああ。魔物も段違いに強くなってるだろうし、何より罠が怖いよな」
「そうだね。罠対策を怠ったのは痛手だ。戻ったらなにがしかの対策が欲しいね」
「じゃあ帰るか?」
「うん。一応、ここには来れるようにしておくけど」
「……?」
言っている意味が分からない。
首を傾げていると、ヴィルヘルミーナは軽くウィンクしてみせた。
「まあ見ておいで。――〈テレポーテーション・サークル〉」
「お、もしかしてここと地上とを行き来できたりするようになるのか?」
「よく分かったね。深層に挑むときにはこれを使えばいいし、中層から浅層を掃除するのにも使えるからここに設置しておくのが効率が良さそうだと思ったのさ」
「すごく便利だけど、難易度の高そうな魔術だな。俺が使えるようになるのは、何年後だ?」
「さてね。ロランの努力次第、といったところだね」
ヴィルヘルミーナはマッドゴーレムを解除して泥に変えると、〈テレポーテーション・サークル〉の上に乗った。
「さあおいでロラン。転移は初めてだと酔いやすいから、私の手を握っておいていいから。でも間違っても力を入れて握りつぶさないでおくれよ」
「おう、じゃあ服の裾をつまんでおくよ」
「……まあそれでもいいか」
俺とヴィルヘルミーナは、こうしてダンジョンアタックを終えた。
* * *
〈テレポーテーション・サークル〉で一気に家まで帰還した俺たちは、ひとまず今日の戦果を確認することにした。
ヴィルヘルミーナの個人空間〈ストレージ〉に収納してあったお宝は、テーブルの上に乗り切らないほどあった。
宝石がたくさん。
銀貨がたくさん。
魔法の武具もたくさん。
魔法の道具もたくさん。
「これ、一体どうするんだ? 武器とか使い道ないだろ」
「いや、魔法の武器ならロランの馬鹿力でも簡単には壊れないと思うよ。特に不壊のウォーハンマーはロラン向きの武器だと思う」
「爪じゃあ駄目なのか」
「今は私とふたりきりだから別に構わないけど、人目のあるところでは武器を使わないと一発で人間じゃないと見抜かれるんじゃないかい?」
「そんな機会、あるか?」
「……すまない。言ってて正直、想像もつかなかった」
だよなあ。
俺とヴィルヘルミーナが人目のあるところにいる状況がよく分からない。
この辺鄙な森には人間が来ないからこそ俺は定住を決めたのだし、ヴィルヘルミーナも同様に人間を避けてここに住んでいる。
俺たちが人里に赴くことがあるとも思えなかった。
「とりあえず有用なものとそうでないものを仕分けしよう。今日中にする必要もないから、のんびりやろうか」
「そうだな。宝石や銀貨の山はどうするんだ」
「人里で換金するのが一般的だけど、実は真理の魔術には銀貨や宝石を触媒とする魔術があるのだよ」
「俺の知らない魔術か……」
「当分、触媒には困らなさそうだな。思う様、練習できるぞ」
宝石や銀貨を使い捨てにするってことか?
豪勢な魔術があったものだ。
しかし折角ならそんな魔術も学んでおきたい。
知りたいことはすべて知っておきたい、そんな欲望に駆られる。




