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深淵海域 -魔導書ソウラマリスの伝説を追え-  作者: 山鳥はむ


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這い上がれぬ穴


 俺は謎の光の玉を追って、海の底深くへと潜っていた。

「確かこっちの方に飛んでいったと思ったんだが……」

 潜るにつれて暗くなっていく海の中。入り組んだ岩石地帯が徐々に目の前へと迫ってくる。深海の風景に気を取られていると飛び出した大岩にぶつかってしまいそうだ。

 岩を避けながらぷかぷかゆっくりと狐さんが落ちてくる。その周りをスイスイと尻尾で推進力を得ながら泳ぐヤタノ隊員。


 だいぶ時間をかけて一番底と思われる場所までやってきた俺達は、岩石地帯を探索してみることにした。

「目立った人工物はないな」

「ここまで入り組んだ場所だと、難破船も落ち込んではこないでしょうね」

「そうだな……ここには何も……ん?」

 水中洞窟の隅に、白い物体が落ちていた。

「なんだ……? 暗くてよく見えないが……」

 すると狐さんが水中用の照明を取り出して照らしてくれた。


「おお……狐さん、ありがと――おぉっ!?」

「…………!!」

 照らし出されたのは一体の白骨死体だった。びっくりして思わず狐さんと抱き合ってしまう。

「骨の具合からして、割と最近のもののようですね。あぁ、これも……隊長、少し離れていてください」

「ん? また何かあるのか?」

 ヤタノ隊員の尻尾が水中でざわざわと揺らめき、白骨死体を取り囲むように広がっていく。その途端、白骨死体から紫色の靄が勢いよく立ち昇った。

 だが、即座にヤタノ隊員の金色の尻尾が紫色の靄を余さず包み込み、ぎゅっ、と絞り上げる。


 ァアアアアァーッ!!


 背筋を凍らせるような怨嗟の声が響き渡り、隣にいた狐さんがびくんと身を竦ませる。


 こぅっ――!! と白骨死体から紫色の閃光が迸り、出現した光の玉が水中洞窟を上に向かって飛び出していった。

「どうにも、あの光の玉だけは捕えきれませんね」

「今なにしたの? ヤタノさん?」

「飛び出してくるとわかっていれば、幻想種とはいえ対策は容易いのですよ、隊長。ただ、わかっていても掴みどころのないものというのは……」

 悔しそうに洞窟を見上げるヤタノ隊員。俺も同じように頭上を見上げてみると、探検隊の隊員達がちょうど降りてくるところだった。

「隊長ー!!」

「おー! タラコ隊員か! リーゼ隊員に、タカミネ隊員もいるな! 他は誰だ? いっぱい来たぞ?」

 続々と海底へ降り立つ隊員達。


「隊長! ほらよ、オレからのラブレターだぜ!」

「なっ……!? タラコ……お前……」

 そう言ってタラコ隊員が一枚の古い紙片を差し出してくる。ドキドキしながらその紙片をよく見れば、たぶんこの海域で亡くなった人の遺したメモだ。まあ、そんなことだろうと思っていた。

「なになに、これは何て書いてあるんだ……? ええと……“あの糞ったれの魔導書はどこへ消えた? いや、それより他の連中はどこへ消えた? 俺がはぐれたのか? ……一人にしないでくれ!” と……。遺書か? ちょっとやるせないな。これどこにあったんだ?」

「向こうの、比較的浅いところに落ちてたぜ。なんかウゼぇ触手が襲ってきたり、骸骨から変な靄が出てきたけどよ。皆で倒してやった!」

 見た目は華奢な幽狐族のタラコ隊員だが、こう見えて武闘派だ。他の隊員とも力を合わせて幻想種を倒したのだろう。


「そうか……それにしても『魔導書』か。これはいよいよ、探検の目標が定まってきた感じだな! なぁ! リーゼ隊員!」

「えっ!? あ、うふふっ、そうですね、隊長」

 一人だけ背を向けていたリーゼ隊員に声をかけると、彼女は珍しくあたふたと慌てた様子で、手に持っていた小さな紙片を胸元に隠している。

「リーゼ隊員……その胸に隠したのは……?」

「もう、いけませんよ隊長! 女性の胸をそんな風に指さして……」

 恥ずかしそうに両手で胸元を隠すリーゼ隊員。

 え? 普段、露出高い服でも気にしてないよね? 何で急にその反応?


「隊長だめだよ~。えっちだなぁ、もう~」

 オッツマン隊員がやんわりと諭してくる。あれ? 俺、いつの間にか、えっちな人として認定されているの?

 周りの隊員の反応を見ると、何故か皆が生温かい視線で俺を見ている。

「ちっ、違う! 決して俺は、どこぞの変態紳士みたいな下心はない! ないぞ!」

 慌てて誤解を解こうと弁解するが、皆の生温かい視線は変わらない。ヤタノ隊員、タカミネ隊員、シエラ隊員、果ては海底に降りてくる途中だったガイア隊員までもが疑わしい目で俺を見ている!

 やばい。隊長の威厳がかかった危機的状況だ、これは。どう切り抜ければ――。

 そう思って上方を仰ぎ見たとき、天啓は俺の元へ舞い降りた。


「あ! ザフライ! あれザフライ隊員だな!? 今回は不参加だと思っていたが、追いついたんだ! おーいこっちだ、大丈夫かー!」

 新たな隊員の登場に全員の視線が俺から外れる。リーゼ隊員の視線だけは変わらずこちらを向いている気がしたが、そこは申し訳ないが気付かなかった振りをする。

 それにザフライの様子も気になるのだ。遅れてやってきたザフライ隊員は、あっちへフラフラ、こっちへフラフラしながら海底へと降りてくる。

「た、隊長……はぁはぁ……」

「どうした!? 大丈夫なのか?」

 上から降りて来たザフライ隊員は既に疲れ果てた様子だった。

「いや、すみません……。ここまで来るのに思いのほか……」

 ザフライ隊員はいつも変わったヘルメットをかぶっている。今日の深海探索でも真四角の奇妙なヘルメットをかぶっていて、そこへ空気ボンベの配管が繋がれていた。ちゃんと酸素供給ができているのだろうか? 少し、心配になる。背中には重そうな荷物を背負っているし、この格好で海の底までやってくるのは大変だったろう。


 ザフライ隊員の様子を見守っている間に次々と他の隊員達も集まってきた。途中でまた、海の中に怪音が鳴り響く。どこかで髑髏に憑依した幻想種との戦いがあったのだろうか、またしても光の玉が頭上を通過していった。

 飛んでいく光の玉に気を取られていると、誰かが服の裾を引っ張ってくる。

「ん? おお、アット隊員。どうした?」

「これ……ギルドの調査隊、遺したメモ……」

 多足型魔導人形であるアット隊員の口から、片言の言葉が漏れ出る。俺は差し出されたメモを読んでみた。どうも先行していたギルドの調査隊が遺したメモらしいが、アット隊員の口ぶりだと調査隊の安否は絶望的か。


“……ここには宝なんてなかった。宝なんて、なかったんだ!”


「宝はなかった、か……」

「なにぃ!? どういうことだよ! 新しい魔窟ダンジョンには財宝が眠っているって話じゃなかったのか!?」

「落ち着いてください、タラコ隊員。そもそも、ここを見つけたダンジョン研究家も、長らく封印されていた海域で何があるかはわからない、と言っていたはずです。当然、何もないということだって不思議じゃないんです」

 憤るタラコ隊員をヒバ隊員がなだめている。確かにヒバ隊員の言う通りだ。誰も冒険の先に、金銀財宝を保証してくれるわけじゃない。

「それでも、俺達は『未知』を求めて探検にやってきた」

 俺の言葉にタラコ隊員がハッとした表情で頷く。

「そうか! そうだな! つまり、この探検こそがオレ達にとっての宝! 探検隊、皆が集まっている。それこそがお宝なんだ!」

 タラコ隊員、良いことを言ってくれる。そう、この探検の果てに何があろうとも、あるいは何もなかろうと、俺達にとって重要なのはこの探検を楽しめるかどうかだ。


 探検隊の一同がうんうん、と頷いて探検の士気が高まる。

 そんな中、リーゼ隊員が「う~ん」と唸って、隊員の顔を見回すと一つの疑念を口にした。

「でも、やっぱりおかしくはないかしら? 探検隊のみならず、落下部や他の大勢の冒険者達が、利益の見込めない危険な冒険に足を突っ込んでいる……。ねえ、皆はいったいどんな情報を得て、ここ深淵海域にやってきたの?」

 それは確かに興味深い話だ。俺は事前調査なんてまともにせずにここへ来てしまったが、他の隊員達はそれぞれ別ルートで情報を仕入れてきている。


「俺はラジオで深淵海域のことを知った。あとはギルドでこの座標を教えてもらった程度だな……」

「オレは隊長からの呼びかけで初めて深淵海域について知ったぞ! 探検で手に入ったものは皆で山分けだって聞いてたからよ、てっきりお宝の山でも眠っているのかと思っていたぜ」

「自分も最初は隊長からの知らせがきっかけでしたね。それで、自分なりに深淵海域について調べてから来ました」

 タラコ隊員とヒバ隊員は俺からの呼びかけがきっかけだったようだ。


「ボクは隊長と同じくラジオで深淵海域のことは知ったかな。まあ、聞いていた時はそれほど興味を持っていなかったから、隊長に言われて思い出したくらいだけど」

「私は人伝ひとづてに、噂で聞いてはいました。隊長が集合をかけてから、短い期間ながら知り合いにあたって情報を集めたくらいですね。発見されたばかりの魔窟なので大した情報はありませんでしたが」

 シエラ隊員とヤタノ隊員は俺が声をかけるより前に、情報なり噂なりを聞きつけていたようだ。


 いい機会なので他の隊員にも尋ねてみたが、皆、それほど大差ない様子だった。大抵、俺が声をかけてから注目したパターンだ。探検隊としては新しい魔窟の情報にもっと興味を持ってほしかったが、こうして声をかければ集まるあたり、潜在的に熱い探検魂が心の中で燃えていると感じる。

「リーゼ隊員も同じような感じか?」

「ええ、私も隊長からお声がかかって、そこで初めてこの魔窟について知りました」

 そうか、やっぱり俺の声かけが最初のきっかけか。探検の先頭に立つ隊長としては、なかなかいい働きをしたのではないだろうか? 自分で自分を褒めてやりたいぞ。


「なんにしてもここは謎だらけの魔窟だ。探検しがいがある! さっきから飛び交っている光の玉の行方も気になるし、そいつの謎を解きに行こう」

「光の玉なら確か、ここからちょっと上の方で横に飛んでいきましたよ。通り抜けられる穴でもあるんじゃないですか?」

 光の玉の行方を目でしっかり追っていたのか、ヤタノ隊員がぴしりとその方角を指さす。

「なら、まずは横穴を探そう!」

 俺の言葉に皆が「おー!」と答えると、水底を蹴りつけて大きく跳び上がる。海中で浮力もあるため、ぐんぐんと水の中を上がっていくことができる。勢いが落ちたら適当な岩場に着地して、また蹴り飛ばして上へ上へと上がっていった。


「お、お、おっ!? 危ない、危ない!」

「頭ぶつけないように! 気を付けて!」

 突き出した大岩に頭をぶつけないように気をつけながら、探検隊は落ちてきた穴を逆に登っていった。

「あっちだ、あっち! 穴があるぞ!」

 ほどなくしてヤタノ隊員の睨んだ通り、大きな横穴を発見することができた。落ちてきたときは暗くてわかりにくかったが、注意してみれば一目瞭然の大きい横穴だった。


「ほぉほぉ……かなり大きい穴だな。落ちてきたときに、気が付かなかったのが不思議なくらいだ。……ん? 皆、ちゃんとついて来ているか? まだ下の方に誰かいるようだが……」

 まだ一人、深い大穴から這い上がるのに苦労している隊員がいた。

「……えーと、あれはザフライ隊員だな」

「鎖で引き揚げましょうか?」

 ウッチー隊員がドレスの袖口からジャラジャラと鎖を取り出して言った。普段からそんなもの身に着けて行動しているのか……さすが猫耳アンドロイド、体力が人並み外れている。

「うーん、それも海流に流されてぶつかったり、危なくないか? ちょっと様子を見よう」

 海底に降りてくるのにもだいぶ疲れていた様子だった。せっかく降りたのに、すぐ上へと登ることになったのは彼にとって酷だったかもしれない。

「はぁはぁ……。あ、あ……、あ~…………」

「頑張れ! ザフライ隊員! もうちょっと……あー……!!」

 大きく飛び跳ねてこちらの横穴に向かおうとしているのだが、勢いが足りなかったのか、わずかに届かずにゆっくりと落下していくザフライ隊員。背中に背負った大きな荷物も岩に引っかかったりして邪魔をしているようだ。


「ふぅ……。まだやつは、この深海の歩み方に慣れていないようだ……」

 落ちていくザフライ隊員を眺めながら、ちょっと気取った台詞を言ってみる。

「……って、言ってる場合でもないな。おーい、ザフライ隊員! こっちだ、ここまで来い! こっちを足場にした方が上がりやすいぞ!」

 断崖にしがみついているザフライ隊員を、もう少し登ってきやすい岩場へと誘導する。そもそも水中なので泳げば足場は関係ないのだが、どうもザフライ隊員が背負っている荷物は重いらしく、浮力の働く水中でさえどんどん沈んでいく。泳いで上がってくるよりは、岩場を伝って来た方が楽なのだろう。

 それにしたって直角の断崖よりは、緩やかな傾斜の岩場を選んだほうがいい。


「はぁはぁ……。目の前が、岩の壁で、何がなにやら……」

 だいぶ時間をかけて、ザフライ隊員もようやく横穴へと登ってこられた。

「ザフライ隊員……ずっと気になっていたんだが、その背中の荷物はなんなんだ?」

 それがなければ早く上がって来られたと思うのだが、深海にまで持ってくる必要のある大事な物だったのだろうか。

「え……? これですか? これはですね……」

 背中の荷物を下ろして、近くの岩場に立てかける。水中だというのに、ずしんっ、と重々しい音を立てて地面に落ちた。

 ザフライ隊員がするすると荷物を包んでいた帯を解くと、中からは赤く仄かに光る魔導回路が特徴的な直方体の謎物体が出てくる。


「いや……ほんと、なんだこれ? めちゃくちゃ重そうだぞ?」

「見ての通り、武装用の大剣ですよ。ただの大剣じゃなくて、魔力を流すと特殊効果を発揮する魔導剣で――」

『置いてこいよ』

 隊員全員から総突っ込みを受けていた。

 ザフライ隊員は水中で大剣を振り回せるのだろうか。だとしても、水中を泳ぐのに重荷となるのは間違いなかった。



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