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深淵海域 -魔導書ソウラマリスの伝説を追え-  作者: 山鳥はむ


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2/16

深淵海域を調査せよ


 その日、冒険者ギルドに一風変わった依頼人が姿を現した。


 少年とも、少女のようにも見える中性的な外見で、荒くれものの集まる冒険者ギルドには似つかわしくない雰囲気の人物だ。

 背丈はやや低め、肩ほどまで伸びた鮮やかな緑の髪は毛先だけ枯れたように赤く染まっている。服装は不思議な紋様の縫い込まれた白いワンピースを着ていて、なにより特徴的なのは裸足で歩いているところか。そこだけ見ても十分に奇人と言える。

 何人かの冒険者が眉をひそめた表情でその人物に視線をやるが、慣れた様子でギルドのカウンターに真っ直ぐ歩いていく様子を見て、軽々しく絡むことはなかった。


 その人物はカウンターの椅子に腰かけると、「いつものやつを」と言葉少なに注文をする。冒険者ギルドのマスター兼、酒場のマスターでもある私は『いつものやつ』を小さなグラスに入れて差し出す。

 グラスの中身はただの水だ。他に何か注文は? などと無粋なことは言わない。彼が必要としているものは酒場の酒や料理ではないからだ。


「やあ、リーチャ。久しぶりだね。随分と長い間、姿を見なかったが……」

「ちょっと寝過ごしてね。……マスター、人を集めたい」

 私の挨拶に軽い返事で応えると、世間話をする間もなく本題に入る。今回はまた随分とせっかちなことだ。落ち着いて見せてはいるが、内心では走り出したくて仕方がないほどに興奮しているのだろう。

「また冒険かい?」

「ああ、今回はとびきり楽しい『探検』になりそうなんだ」

 抑えきれない、といった感じで頬を緩ませるリーチャ。やっぱり、かなり興奮しているようだ。そして彼が『探検』というからには……。


「探検……。そうか、なら『探検隊』の連中を集めればいいんだな? 条件は?」

「声をかけてすぐに集まれる隊員を、集められるだけ全員。各自、探索道具は持ち出しで。報酬は探検で得られたものを活躍に応じて分配。俺の取り分はなしでいいから」

「あきれたな……。その条件で人が集まるのはお前くらいなもんだよ。わかった、とりあえず連絡を回そう。それで集合場所は?」


「――深淵海域。最近、発見されたばかりの魔窟ダンジョンだって聞いた」

「おいおい……深淵海域に挑戦するのか? その様子だと何も下調べしてなさそうだが……」

 無謀とも思えるリーチャの挑戦に、私は思わず新人冒険者に注意するような口調で聞き返してしまう。だが、リーチャはそんな苦言も聞き流して、不敵に笑ってみせた。


「だから楽しいんじゃないか。まだ誰も、何も知らない未知の領域。そこへ足を踏み入れるのに余計な情報はいらない。既に暴かれた謎に興味はないんだ」

「お前ってやつは……。まあいいさ。いつものように適当なところで帰ってくるんだぞ」

 子供に言い含めるような口調でリーチャに忠告をしておく。こいつに付き合わされる隊員の身になって考えれば、少しくらいは自制しろと言っておきたい。

 もっとも、『リーチャ探検隊』の隊員は好き好んで隊長であるリーチャに付いていくのだ。余計なおせっかいかもしれない。


「おう! じゃあさ、頼んだ!」

 今日一番の晴れやかな笑顔で手を振ると、リーチャは席を立って冒険者ギルドを後にした。

 あいつのことだ。隊員がどれだけ集まるかとか、気にせず一人で先に集合場所へ向かうのだろう。

「やれやれ、これはまたしっかり隊員達に連絡つけてやらないといけないな」


 いい加減、リーチャにも何かしらの連絡手段を持ってほしいものだが、面倒なものは使わない主義だったりするのか、隊員の一人が無理やりリーチャに持たせた固有座標ビーコン以外に彼の動向を掴めないし、彼から連絡してくることもほとんどない。こうして冒険者ギルドに足を運んで、連絡の都合をつけるのがいつものやり方になっている。

「帰ってきたら、手数料の請求でもしないと割に合わないぞ……」


 リーチャ探検隊の隊員は普段、それぞればらばらに活動している。運悪く連絡が付かない遠方にいる場合もあるだろう。

 私は一人ぼやきながら、とりあえず手早く連絡がつきそうな隊員から声をかけてみることにした。


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