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深淵海域 -魔導書ソウラマリスの伝説を追え-  作者: 山鳥はむ


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15/16

神々の末裔


 静かに力を蓄えていた人物が一人、先陣を切った。

「ん、ん、んんん……こゃこゃこゃんっ!!」

 ここまで機会を窺いながら、体内に魔力を溜め込んでいたハッカ部長である。

 全身が薄っすらと青緑色の光に包まれている。これは、とんでもない大技が放たれる予感だ。


「行くよ、バジさん。しっかりつかまっててね」

「うむ。ぶちかましてやれい、ハッカ!」

 すちゃっ……と顔の横にかけていた狐のお面を正面に合わせ、ハッカ部長がソウラマリスを睨み据える。ハッカの頭の上に乗った謎生物バジも、緊張した面持ち(だと思う)でソウラマリスを見据えている。

 ふわりと軽やかな足取りで、しかし水中とは思えない速さで走りだすハッカ。やや高い位置に浮いた魔導書ソウラマリスの真下へと潜り込むと、溜め込んだ魔力を一気に解放した。


薄荷流嵐ハッカストリーム!!』


 青緑色の光がハッカの足元で閃き、爆発的な推進力を得て跳び上がる。

 ソウラマリスが即座に迎撃として氷の槍を数本撃ち出すが、大きく渦巻きの軌跡を描いてこれら全てを回避したハッカは、そのまま肉薄すると掌底で魔導書の中心を捉え勢いのままに天井の岩盤へと叩きつける。

 何だ、あの動き!? 海中だぞ!? ハッカ部長、半端ないな!!

 ずずんっ……と重々しい衝撃音が洞窟内に響く。天井からはもやもやと砂塵が漂い、ゆっくりと岩の破片が落ちてくる。

 天井の岩盤を砕くほどの力で叩きつけたのだ。これならばソウラマリスも相当なダメージを受けたはず。


 砂塵の中から、バタバタと慌ただしく魔導書ソウラマリスが飛び出してきた。引き千切れたページが数枚、海中に散っていくのも気にせず必死の動きで逃げ出そうとしていた。……ハッカ部長はどうした?

「こゃ~ん……!! 腕が抜けな~い! ああっ! 魔導書に逃げられちゃう!?」

「こりゃっ! 慌てるでない、ハッカ! 冷静にならんか!」

 天井に思いきり突き刺さって抜け出せずにいた。パニックになるハッカ部長を、バジが頭の上で必死に落ち着かせようとしている。


 その間、目標をサーチライトで照らし続け、逃げようとするソウラマリスを追い込むように落下部メンバー『探索者』が動いた。

「……対魔導生物誘導魚雷、ファイア……!」

 左右の胸部魚雷発射口から三発ずつ、計六発の小型魚雷が発射される。誘導魚雷というだけあって、正確にソウラマリスを追尾して初弾がまず命中。

 水中にも関わらず真っ赤な爆炎が花を咲かせ、魔導書ソウラマリスのページ数枚を焼いた。続けて五つの魚雷が追いすがるが、ソウラマリスは自らのページをちょうど五枚切り離し、一枚一枚の魔導回路を活性させた状態で魚雷にぶつけてきた。

 魔力を帯びた紙を目標と誤認して、魚雷はソウラマリスから離れた場所で次々に爆発していく。ソウラマリスにページを自切させたとはいえ、まんまと直撃を防がれた形だ。この魔導書、嫌になるくらい知恵が回る。

 だが、『探索者』が稼いだ時間は、ハッカ部長の体勢を整えるのに十分な時間だった。


「ハッカ! わしを使え! すぐさま追撃じゃ!!」

「そ、そっか!? よしっ! 行けー、バジさん!!」

 相変わらず天井に突き刺さったままのハッカ部長だったが、再び青緑色の魔力光が全身に集まっていく。その力は先程と違って、足元ではなく頭に集中していた。

薄荷流嵐ハッカストリーム・弐式じゃ!! やれいっ!!」

薄荷流嵐ハッカストリーム!!』

 ハッカの頭上で青緑色の閃光が迸り、バジが切り離されて射出される。突撃の瞬間に謎生物のバジは、全身をぷっくりと膨らませてハリセンボンのように鋭い棘を生やした姿へと変身し、逃げるソウラマリスの背表紙へと強烈な体当たりをかました。


 だがこの攻撃は読まれていたのか、防御用の青い魔法陣によって阻まれソウラマリスには届かなかった。一瞬強い光を放って魔法陣が弾け飛び、バジは突撃の軌道を大きく逸らされて洞窟の壁に激突する。

「きゅうぅぅ……」

「あぁっ!? バジさん!」

 岩壁に叩きつけられて気絶するバジに、お返しとばかりにソウラマリスから一本の氷の槍が撃ち出される。


 回避できない状況で狙い撃ちされたバジであったが、横手から飛び込んできた影によって拾われ、危ういところで氷の槍から逃れた。その後も追撃の氷の槍が二本、三本と撃ち出されるが、右に、左にと軽やかに避けていくバジを抱えた影。

「バジさん危機一髪だったぴょん!」

 バジの危機を救ったのは兎人のドコカノうさぎだった。ここへ来る途中は姿を見ていなかったので、今まさに合流したところなのだろう。

「わーっ! ウサギさ~ん! 今までどこ行っていたの~?」

「ハッカ部長~! やっと会えたぴょーん! 迷子になって寂しかったぴょーん!」


 さらにウサギに続けて、魔法陣の部屋へと繋がる隧道トンネルから、アフロのスイエン隊員が猛然と飛び込んできた。偶然にもソウラマリスの逃走経路を塞ぐ位置にいたことで、ソウラマリスはバタバタと方向転換して魔法陣の方へと戻ってくる。

「スイエン隊員! その魔導書は敵だ!」

「…………!?」

 発達した脚の筋肉で足ひれを巧みに動かし、まるで海獣の如き泳ぎでソウラマリスとの距離を詰めていくスイエン隊員。短い言葉であったが、状況は理解してくれたようだ。

「スイエン隊員! これ使って!!」

 シエラ隊員が長い棒状の物を投げ渡した。泳ぎながらそれを受け取るスイエン隊員。

 シエラ隊員が渡したのは一本のもりだった。潜水服のスイエン隊員が持つと、めちゃくちゃハマって見える。


 ぐんぐんと獲物を追うイルカのように泳ぐスイエン隊員。

 十秒ほどのドッグファイトの末にソウラマリスの横手に並んだスイエン隊員は、手に持ったもりを無造作にソウラマリスへと突き込む。


 ――ンゲェヴァアッ!?


 ソウラマリスからこれまでの呪詛や嘲笑とは明らかに異なる音が漏れる。スイエン隊員の放った銛は魔導書ソウラマリスの表紙を貫通し、岩壁へ縫い付けていた。銛の一本、恐れるものではないと高を括っていたか、この一撃は意外にもソウラマリスに刺さった。すかさずウッチー隊員が水中銃で矢を撃ち込み、もう片方の裏表紙も岩壁に縫い付ける。

「封印します! 『魂の檻』よ!!」

 岩壁に固定されて動けなくなっているソウラマリスを、リーゼ隊員が光の帯で縛り上げる。低級の幻想種はこれで封印していたが……。


 ばちんっ。光の帯が、切れたゴムのようにほつれる。

「うぅっ……。魔力が強すぎて、抑えられない……」

 元々、十二人の術士が亡霊となってまで封印していた相手だ。リーゼ隊員一人には荷が重すぎる。かと言って、封印術が得意な隊員は他にいない。

「こうなったら倒しきるしかないが……」

 倒すにしたって、過去それができなかったから封印するにとどまったのだ。この魔導書の生存能力は尋常ではない。動きを止めている隙に、これを確実に仕留められる一撃を叩き込む必要がある。


 火力で言ったらガイア隊員に広い場所で全力砲火してもらうのが一番だが、本気を出したガイア隊員が暴走して辺り一面の環境を破壊する恐れがあるため危なくて頼めない。

 他に頼めそうな隊員は――と視線をさまよわせていたとき、ゆっくりと前へ進んでくる一人の少女に目が向く。


「封印できないなら、消し去るまでです。そろそろフィナーレと行きましょう。私、次のお仕事が控えていますから」


 いつもの冒険アイドルの姿とは違う気配を漂わせたコハルちゃんがいた。

 飾りかと思われていた頭上の天使の輪が強く光り、背中には大きく左右に開いた翼がある。

 この神聖な気配と固有波動……。まさか、彼女は天使の血族なのか……?


「コハルちゃんの天使モード来た~!」

 ハッカ部長が洞窟の天井から黄色い声を上げる。あの人、まだ天井に挟まっていたのか……。

「覚醒天使コハルンに敵なしぴょん!」

「うむ。勝ったな……」

 ウサギとバジも揃って勝ち確定といった雰囲気だ。


 幻想種の中でも最上級の種族とうたわれる『天使』。

 大昔、まだ魔導の禁忌というものが曖昧だったころ、召喚した天使との融合を果たした術士がいたそうな。その者は絶大な力を有したが、同時に天使の本能に呑み込まれて善性の体現者、すなわち聖者となって生きることとなった。

 悪徳に染まればその力は失われることから、必然的に善き行動を取ることになる。ゆえに聖者なのである。

 天使の力は子孫にも受け継がれたが、代を重ねるごとにその血は薄れていった。今では天使の血族など根拠のない伝説と言われているが、稀にあるのだ、先祖返りというやつが。


 コハルちゃんが天使の血族だとするなら、魔導書ソウラマリスを滅ぼすことも――。


 ――ギゲヴェララァヴァギッ!!


 威嚇するような音を上げてコハルちゃんの接近を拒むソウラマリス。コハルちゃんの神聖な気配にてられて呪詛を吐くこともできなくなったのか、魔導書ソウラマリスが……怯えていた。

神敵誅滅しんてきちゅうめつ……」

 眩いほどの光がコハルちゃんの右腕に収束していく。薄暗かった水中洞窟が、真昼の太陽の下にあるかのような光景へと変わる。光を腕に宿したままコハルちゃんが魔導書ソウラマリスへと近づき姿勢を正すと、軽く腕を後ろに引いて拳をぐっと握りしめた。

挿絵(By みてみん)

偶像破壊アイドルデストラクション!!』

 軽く突き出したコハルちゃんの拳が魔導書ソウラマリスに触れた瞬間、光が拳の先端へと収束してソウラマリスへ吸い込まれていった。


 ぶるりと魔導書ソウラマリスが身を震わせる。

 その一瞬後、ソウラマリスは爆散した。

 無数のページが盛大に弾けて舞い散り、黒い灰となって次々と消滅していく。


「やったか……」

 あまりにも見事な一撃に、俺は我を忘れて呟いていた。

 気を抜いて視線を落とした俺は、ちょうど顔前を泳ぐ青い紙を目にした。

 舞い散る紙の群れの中を一枚だけ、異質な青い紙が明らかに方向性を持って泳いでいる。


 ――こいつは、魔導書の表紙?


 辺りに散逸する紙の群れに紛れて青い表紙はスイスイと海中を泳ぎ、外へと繋がる隧道トンネルへと逃げ出す。


「ソウラマリスの本体だっ!! 外へ逃げたぞ!!」

 俺の声に即座に反応して隊員達がソウラマリスを追おうとするが、辺りに散らばった紙の群れが腕や足に貼りついて行動を阻害する。

「くそっ! コハルちゃん、行けるか!?」

 もう一度、コハルちゃんに止めを刺してもらうしかないと思って振り返ると、コハルちゃんは脱力したように座り込んでいた。

「す、すみません。もう、ちょっと限界で……寝落ちします……」

 がくり、とその場で倒れ込んでしまった。魔力・体力の限界だったようだ。


 まずい。まずい、まずい。

 魔導書ソウラマリスを逃がしてはいけない。

 あれが世に放たれれば、どれほどの混乱を招くか。

 俺達の探検の結果が災厄を世に解き放つことだなんて、それは俺の本意じゃない。


 既にソウラマリスは外へ向かうトンネルをだいぶ先へ行ってしまったが、ここから追いついて奴を倒すには、もう手段は一つしかない。

「ハッカ部長! 頼む!」

「わわっ!? なんですか、リーチャさん?」

 ようやく天井に挟まった腕を引き抜いて、降りてきたハッカ部長に詰め寄って俺はお願いをする。


「今から奴を追いかける! なんとか追いつくためにも、ハッカ部長のあの必殺技、ハッカトルネードで――」

薄荷流嵐ハッカストリームですね」

薄荷流嵐ハッカストリームで俺を運んでくれ!!」

 ハッカ部長の薄荷流嵐ハッカストリーム。あれならば先を行くソウラマリスにも追いつけるはずだ。

「後悔、しませんか? あとで文句はなしですよ?」

「しない!」

「じゃ……私の肩に乗ってください。肩車で行きます!」

「えっ……!? ええと、よし! わかった!」


 小さい女の子に肩車で担がれるのは抵抗があったが、ここはハッカ部長に身を任せるしかない。水中なので苦労はせずにハッカの肩に腿を乗せ、肩車の体勢は整った。

「では行きますよー。あ、下手に動くと洞窟の壁に頭をぶつけて死にますから、気を付けて」

「え――」

薄荷流嵐ハッカストリーム!!』


 視界が回り、耳元でごぅごぅと水の流れる音がする。

 一瞬で上も下もわからなくなり、俺はすぐに体を硬直するだけの人形と化した。

 ただ視界の端にトンネルが見えて、その曲がりくねった細い道を一切減速せずに進んでいるのがわかる。

 一度通り抜けた道とはいえ、よくこの速度でこれだけスムーズに進めるものだと感心する。

 と、思ったら天井? 床? から飛び出した岩が、額をかすめた。石頭の俺にはどうということはなかったが、並みの人間なら今ので死んでいたかもしれない。ちょっと油断して頭の位置を揺らしたのがまずかったようだ。


 俺の足を支えるハッカ部長の小さな手がぎゅっと、強く握りしめてくる。俺が頭をぶつけたのに気が付いたのかもしれない。彼女にとってもギリギリの危険なことをさせているのだ。それなのに余計な心配までさせて申し訳ない気分になった。

 とりあえず死んでないことを伝えるためにも、肩車でハッカ部長の頭に乗せていた手を軽く撫で撫でと動かす。

 がくん、と急に移動速度が落ちた。

 目の前を見ると、ちょうど狭いトンネルを抜けて、大洞窟に出たところだった。まだソウラマリスの姿は見えてこない。


「リーチャさん! ここからできるだけ遠くまで真っ直ぐに飛ばします! 私もそれで魔力の限界ですから……後は、頼みましたよ?」

 こちらを見上げて儚げに笑いながら、ハッカ部長は俺に後を託してくれた。俺は彼女の目を真っ直ぐ見つめ返して答えた。

「おう、任せてくれ! あとは俺が、決着をつけてくる……!」

 格好いい台詞で決めたが、ハッカ部長に肩車された状態である。まったく絵にならない状況だが仕方ない。

「ではご武運をお祈りします、こゃん」

「ああ、行って――」

薄荷流嵐ハッカストリーム・弐式!!』

 最後まで台詞を言う前に、盛大にハッカ部長によって撃ち出される俺。締まらないがこれも仕方ない。時間がないのだ。

 発射の反動でハッカ部長は大きく後方へ弾かれ、俺はその勢いで一気にソウラマリスとの距離を詰める。


 巨大洞窟をぐんぐんと進んでいく。

 かなりの速度が出ているはずだが、洞窟があまりに大きいためか風景の流れがゆっくりで、全然進んでいないのではないかと錯覚しそうになる。

 焦るな。今はまだ速度も落ちていない。俺が自分で泳ぐより、ハッカ部長の撃ち出してくれた勢いに乗った方が速い。


 やがて、大洞窟は徐々に傾斜を見せて上向きの縦穴に変わっていく。

 空の光が見える。

 その光を遮る黒い点も一つ、見えた。

 深海の大穴を上へ上へと登り、空の光に向かって羽ばたき逃走しようとするソウラマリスを俺は確かに捉えた。


 俺はすぐに周囲の確認を行う。

 今この時、この場所においてなら誰も俺のことは見ていない。そしてこの位置からソウラマリスを目標とした場合の角度も、周囲への被害を出さないで済む絶好の状況にあった。

 魔導書ソウラマリスは、ここで倒す。


 俺は『守護者の装束』に縫い込まれた魔導回路に手を乗せて意識を集中する。

『我はリーチャ……守護者リーチャ……』

 呼びかけに応じて、装束の魔導回路がドクドクと鳴動しながら濃緑色の光を放つ。それと同時に、俺の緑色をした髪がざわざわと揺れ、赤い光を帯びて輝き始める。

 今回は全力だ。全力を引き出す。


 全身の筋肉が膨れ上がり、骨が軋む。

 体が本来の守護者としての姿へと変貌していくのだ。

 巨大化していく肉体に合わせて、『守護者の装束』もまた大きくなっていた。

 この装束は着用する守護者の体格に合わせて自動的に大きさを変える。そして守護者の力が暴走しないように制御し、また最大限の能力を発揮させる。

 肉体の変貌は速やかに行われ、洞窟の天井に頭が届きそうなほどの体高になる。

 顔面に開いた十二の目が、いまだ海面へ向かって上昇中のソウラマリスを捉えた。


『守るべきもののために、我が敵を滅ぼす。その誓いを、ここで果たす』


 かつて神話の時代、人智を超えた存在同士が争い、俺もまた重要拠点の守護者ガーディアンとして戦った。

 だが、最終戦争において俺の守っていた拠点は戦場にならず、俺はただ一人、敵の来ないままに拠点を守護し続けた。

 最終戦争が終結し、各地の守護者はほぼ絶滅した。その主たる存在も。

 戦争に勝利したのが誰かとか、そんなことは意味をなさなくなっていた。戦っていた者たちは全て、滅びたのだ。

 俺は生き残った。他にも、戦いに参加せず息を潜めていた者達が生き残った。結果的に、生き残った者が勝利者だった。


 その後も俺は拠点を守り続けた。それが遺跡と称されるほどになるまで守り続けた。今も守り続けている。

 だけど、いつの頃からか自分に自由があることを知り、多くの小さき者達と関わるようになって、守りたいものも広がったのである。


 ――だから俺には理由がある。魔導書『孤独の海(ソウラマリス)』という災厄が、守るべきものに害を為す存在なら、滅ぼす理由は十分だ。


 顔の中心にぽっかりと開いた大きなうろ力場りきばを集める。

 この距離からでもソウラマリスを完全消滅させられる力場を。


 さようなら、ソウラマリス。

 孤独の海よ、青い空へと還るがいい。


 深い深い海の底から、真っ直ぐに力が解き放たれた。

 目には見えない力場の奔流。しかし、光さえも歪ませる力が通過すれば、そこに何かが通ったことは視える。

 力の通り道となった海水は全て蒸発し、海上一帯を覆う霧となる。

 海底の大穴に溜まっていた海水が一度に消失して、そこへ周囲の海水が流れ込むことで海は大いに荒れ狂った。


 一本の太い陽炎が、空に向かって立ち昇っていた。

 岩礁広場にいた多くの冒険者達が、その謎の現象を目撃していた。しかし、それが何なのか正しく理解できた者はいなかった。


 事実は一つだけ。

 力場に呑まれたソウラマリスは、跡形もなく綺麗に消し飛んだのだ。


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