たけるくんとさおりちゃんのしりとり
お題『地の文禁止、会話文のみで成立する短編小説』。
本文は100文字以上、5000文字以内。
【タグ】現代日本、男性主人公、女性主人公、幼なじみ、ラブコメ、日常
【ジャンル】恋愛
「ねぇ、しりとりしようよ」
「なに、急に?」
「昔はよくしたじゃん」
「私たち、今日、中学生卒業して、もう高校生になるのよ」
「だからだよ。ね? 幼なじみのお願いくらい聞いてよ」
「わかった。じゃ、家に着くまでね」
「うん。ありがとう。じゃあね……『りんご』」
「ゴリラ」
「ラッパ」
「パイナップル」
「ルールじゃないのに、しりとりってなんかこういう展開にしちゃうよね」
「え? 今のは会話? それとも、私『ね』から?」
「『ね』から」
「えっと……『ねこ』」
「今度、デートしない?」
「えと……これもしりとり?」
「そう、『い』からだよ」
「いいえ」
「え、ひどくない?」
「ひどくない」
「さおりちゃん、『い』からだよ」
「たけるくん、しりとりっぽくないからだよ」
「さおりちゃん、『い』から」
「だから」
「だから」
「じゃ、もう、しりとりはおわり」
「さおりちゃんの負けね」
「どうして?」
「途中でやめたから」
「たけるくんが悪いんじゃん」
「俺が悪いの?」
「そうだよ」
「どうして?」
「途中からしりとりなのか、会話なのか……よくわからないこと言うから」
「わかった」
「なにが?」
「今度、俺とデートしてください」
「え?」
「さおりちゃんとの幼なじみも今日、卒業したいから」
「ば……ばか。変なこと言わないで」
「変なこと? 俺、真剣だけど」
「だからだよ」
「真剣なのが、変なの?」
「うん、そう」
「さおりちゃん、もう家が見えてきた。……返事聞かせて」
「わかった! たけるくん、もう一回しりとりしよ」
「え?」
「ほら、さっきの続きから」
「え? え~っと……なんだっけ?」
「確か、私、『い』からよね」
「あ、うん。そうだ。『今度、デートしない?』」
「いいですよ!」
「え、あ、マジ?」
「本当は、『ひどくない?』の『い』からだけど……ほら、たけるくん。しりとりだから、『よ』よ?」
「よろこんで!」
「デートは明後日ね」
「眠れないかも、その二日間」
「あ、たけるくんの負けだね」