大好きな彼女の結婚式で
二回目に三題噺に挑戦した作品。
お題は「磁石」、「粗大ごみ」、「台風」。
本文は100文字以上、3000文字以内。
【タグ】男性主人公、シリアス 、コメディー、ラブコメ、幼馴染、僕っ娘
【ジャンル】恋愛
磁石のようにくっついて、粗大ごみのように捨てられることもある。
恋愛は、まるで台風みたいだ。
──そう、彼女は言った。
彼女は、今日、嫁ぎに行く。望んだ結婚ではない。いわゆる、政略結婚だ。
俺たちは幼なじみで、いつの間にか恋に落ちた。いつの間にか──それが、こんなに悲しい結末になるなんて、思っていなかった。
もちろん、喜んで手離すわけじゃない。
一緒にいたい。
けれど、雲の上の良家から声がかかって、無下に断るようにも言えなかった。それは、彼女のご両親も同じ。
彼女のことも、彼女のご両親のことも考えたら、感情だけで引き止められない。
それで、彼女は言った。
「磁石のようにくっついて、粗大ごみのように捨てられることもある。恋愛は、まるで台風みたいだ」
女性らしくない言葉遣いに、彼女らしいと思った。
ヴァージンロードを、彼女は歩いて行く。
──きれいだ。
ありきたりな言葉しか言えない自分が嫌になるけれど、頭が真っ白になるくらい、本当に彼女はきれいで。
新郎が、彼女に手を差し出す。
それに、彼女も手を伸ばす。
──ああ、誓いの言葉が交わされるのか。
そう思ったのは、束の間。
目の前では、信じられない光景が広がった。
新郎と新婦が手を取ると、突然、ダンスが始まった。
それだけじゃない。
俺以外の人たちが立ち上がって、一緒に踊りだす。そして、流れ始める陽気な音楽と、ミュージカルのような歌。
満面の笑顔の集団は円になり、新郎新婦がヴァージンロードを踊りながら俺の方へと向かってくる。
わけがわからず、左右に首を動かしていると、いつの間にか、目の前には、新郎から離れた彼女が跪いていた。音楽は止まり、踊っていたみんなも止まっている。
「私と、結婚して下さい」
言葉に驚き、一歩下がった位置にいる新郎を見る。──しかし、彼は見守るように、しかも、朗らかな笑みを浮かべて首を縦にする。
「え……はい。喜んで」
わけがわからないまま返事をすると、音楽とダンスが再会した。そして、花びらが降ってくる。
「え……え……なに?」
混乱する俺に、彼女がにっこりと笑う。
「サプライズプロポーズ。君を台風の目に入れたくて」
「えええええ?」
「よく考えてみてよ。こんな僕に、良家からの縁談なんて……くるわけないじゃん。僕は君と結婚したいと思ったから、みんなに逆プロポーズの演出をお願いしたんだ。あ、新郎は父の上司の息子さん」
「初めまして」
新郎──の役の人は、人懐っこい笑顔であいさつする。
「初めまして。あの……なんと言ったらいいのか」
「いえ、こんなおめでたいことに協力できて、光栄ですよ。ああ、俺には、正式に婚約している人がきちんといるので、安心して下さいね」
そう言うと、フラワーシャワーの籠を持った女性とウインクする。色男だ。
「ほらほら、ぼんやり立っていないで! あなたたちが主役なんだから、一緒に踊って」
色男の婚約者が背中を押す。
差し出される、白をまとった美しい人の手。
この人は、決して女性らしい話し方をしないけれど、ぶっきらぼうなところもあるし、なんでも周囲を巻き込んでしまうこともあるけれど、全部を愛おしいと思える人。
一度、離してしまったその手を、今度は二度と離さないと誓いながら手を握る。
踊るリズムは陽気で、周囲を華やかにする。
ああ、これからの人生は、きっとこんな日々が続いていく。