ギャルJKと父
三題噺に挑戦した八回目の作品。
お題は「ギャル」「蕎麦」「秋葉原」。
本文は100文字以上、3000文字以内。
【タグ】現代日本、女性主人公、ホームドラマ、シリアス、ほのぼの
【ジャンル】その他文芸
私の名前は『しず香』。
父が大好きだったアイドルと大好きなアニメのヒロインの名前からつけたと、昔聞いた。
父は私に『そういう人』のようになってほしかったのかもしれない。
だけど私は。
どちらかというと真逆だ。
今の私はギャルJK。
とにかく盛れるメイクをしたいし、インスタ映えが大事。
シンプルよりも派手なものが大好き。
父とは好みは合わない。
父は秋葉原が大好きで、地下アイドルも大好きだ。
私は地下アイドルよりもモデルに憧れている。
髪の毛はもちろん黒じゃない。かと言って先生に怒られるのもメンドーだから、まぁ、ほどほどの明るさに抑えている。
「もっと明るい色の方がかわいいのに」
ぼそりと言えば、
「黒髪が一番しず香には似合う!」
とマジ草生えること言うし。
はぁとため息しか出ない。
これからも父と好みが合うことはないだろう。
そう思うとちょっと寂しい気もするけれど、無理して合わせてほしいとも、無理して合わせようとも思わない。
「今晩は、久しぶりにみんなで外食しないか?」
「あら、いいわね」
突然の父の提案に母はチョロく乗る。
メンドーと思いながらも車に乗り、父の運転でどこかに辿り着く。……蕎麦屋? しっぶ!
「麺類ならパスタがよかったな~」
という呟きはSNSの中で。
はぁ、空気読むって多少は大事。
歴史ある一軒家のような立派なお蕎麦屋さんに入っていく父と母に続き、
「いらっしゃいませ」
と着物を着た店員さんに出迎えられる。
そのまま座敷に通されて……って、予約席って書いてあるけど?
「お父さん、予約してくれていたの?」
歓喜は母の声。
「ああ、結婚記念日だからな」
にっこりと笑うのは父。……ちょっと、私が置いてけぼりだし、チョロいと思った母になんだか悪いような気持ちも湧いてきた。
『麺類ならパスタがよかったな~』と呟いたのは、SNSの中だけでよかった。
「あれ? メニューないんじゃない?」
「メニュー見たら、値段わかるじゃん。もう、みんなの分をたのんであるから」
私の疑問に父はニコニコ顔で答える。
……食べるものくらい、選ばせてくれても。
そう思ったのは私だけのようで。母も隣でニコニコしている。
まぁ、いいか。
しばらく経って運ばれてきたのは、天ぷらとお刺身とお蕎麦のセットが三つ。
豪華だなと思いながら海老の天ぷらを口に入れると……。
「おいしい」
なんだろう。サクサクでもなく柔らかいのに、こんなに天ぷらっておいしいんだ。
「だろう? でもな、ここは蕎麦が絶品なんだ」
ニヤリとして父はザル蕎麦を見る。促されるまま見ると、いつになく蕎麦がツヤツヤと輝いて見えた。
無意識で箸が伸びて、ワクワクしながら口に運ぶ。
なにこれ! ホントだ、めちゃくちゃおいしい!
私が目を丸くしていると、父が満足そうに笑っている。
隣の母も、幸せそうに笑っていて。
なんだ、今でも好みが合うものがあった。そんな風にも思えて。
「また、五年後。今度は結婚二十五周年を祝うときに、またみんなで来ようか」
「そうね」
父の言葉に、母がふふふと笑いながら相槌を打つ。
五年後、か。
私は大学生かな。それとも、もう働いているのかな。そんなことを想像して、ふと思う。
そのときには、髪の毛を黒のままにして。ちょっとはあのアニメのヒロインのような振舞いをしていてもいいかなと。